第62話
人面瘡から転生した女は宗哉の送迎用の車に乗って帰って行った。
戸籍も住む家も宗哉が用意してくれるので直ぐに人間社会に馴染むだろう。
帰り道、小乃子がニヤッと意地悪顔で口を開く、
「あの木に人面瘡付いてるって知ったら大騒ぎになるな、2日ほどは喋れるんだろ? 」
「固まって本当の木になるまでの2日は話せるぞ、霊感のある人間なら憑いてるってわかるぞ、んでも、10日くらいで同化するからな、そしたらおらでも分からなくなるぞ」
ニヤッと悪い顔で笑い返すサンレイの隣で英二が弱り切った顔で口を開く、
「凄い悪い顔してるぞ」
「にひひひひっ、今回はちょっと面白かったぞ」
楽しそうに笑うサンレイの横で英二がよろけてしゃがみ込む、
「英二!! どうした? 大丈夫か」
小乃子が慌てて英二の傍にしゃがんだ。
「ダメだ……体が動かない……力が抜けて………… 」
「おい、英二、どうした。しっかりしろよ」
小乃子に凭れるようにして英二が気を失った。
サンレイが小乃子に寄り掛かって気絶している英二の頭をポンポン叩く、
「霊力の使い過ぎだぞ、2日ほどは寝込むぞ、人間の体を作り替えるほどの力を使ったんだから当然だぞ」
英二を抱きかかえる小乃子が安心した様子で口を開く、
「よかった。疲れて気絶しただけなんだな……よかった英二」
優しい目で英二を見つめる小乃子を見てサンレイがニヤッと意地悪顔になる。
「本当はおら1人でも出来たぞ、英二の力をどの程度まで使えるか試してみたんだぞ、これで英二が死なない程度に力を吸い出す事が出来るぞ」
「死なない程度って……そんな事したらサンレイでも怒るからな」
キッと睨む小乃子の向かいでサンレイが続ける。
「心配すんな、英二を死なせたりしないぞ、その逆だぞ、英二の力が暴走しないためにどの程度まで大丈夫か試したんだぞ、いざという時に限度が分からなかったら困るからな」
嘯くサンレイの横にガルルンが立った。
「でも大したものがお、人間が出せる霊力じゃないがお、英二の霊力は人間を遙かに超えてるがお」
「人間を越えてるってそんなに凄いのかよ」
「今更驚かないわよ、サンレイちゃんやハチマルが認める程だからね」
驚く秀輝の隣で委員長が平静を装うように言った。
「まぁな、でも修業してないから危なっかしいんだぞ、だからおらやハチマルが傍にいないとダメなんだぞ」
ニパッと笑うサンレイを見て小乃子の顔からも怒りが消える。
「英二のためって事だな、それならあたしは何も言わないよ」
「んじゃ帰るぞ、おらは電光石火で英二を連れて帰るからな、2日は起きないからおらとガルルンも学校休むぞ、宗哉にも言っといてくれよ」
「わかった。宗哉には俺から言っとくよ、目が覚めても明後日のバイトは休んでいいぜ、1日くらいなら俺1人でどうにかするからな」
「悪いな秀輝、んじゃ頼んだぞ」
秀輝が任せろというように腕を曲げて力瘤を見せた。
ガルルンが気絶した英二を背負う、
「英二はガルが持ってるからバチッと電光石火でガルも運ぶがお」
「ガルルンも運ぶんかぁ~~、んじゃチーカマ3本だぞ」
面倒臭そうに言うサンレイにガルルンが指を2本立てた。
「チーカマ2本がお、学校から家までなら2本がお」
「わかったぞ、んじゃ帰るぞ」
サンレイが青い雷光を纏う、英二を背負ったガルルンが晴美に向き直る。
「晴美、また明日……じゃないがお、明日と次は休むがお、その次までバイバイがお」
「うふふっ、明明後日って言うんだよ、2日間バイバイだよ」
晴美が笑いながら手を振る横に並んで委員長と小乃子もバイバイと手を振った。
「んじゃ帰るぞ、委員長、小乃子、バイバイな、秀輝もな、バイト大変だけど任せたぞ」
「任せろ1日くらいどうにでもなるぜ、英二のタイムカード押しといてやるからバイト代は入るから安心して休めって言っといてくれ」
雷光を纏ったサンレイが英二を背負うガルルンの肩を掴む、
「電光石火! 」
バチッと青い雷光を残してサンレイとガルルンと英二が消えた。
サンレイ得意の瞬間移動、電光石火で英二の家に帰ったのだ。
気を失った英二をガルルンがベッドに寝かす。
「ゆっくり眠るといいがお、英二頑張ったがお」
英二の頬を優しく撫でるガルルンにサンレイがマジ顔を向ける。
「英二の霊力だけで体を作り替える事が出来るなんて吃驚だぞ、精々20%くらいの力が貰えればいいって思ってたぞ、こんな力が悪用されたら大変な事になるぞ」
「だからガルが居るがお、ガルとサンレイで英二を守るがお、英二は優しいがう、凄い力も良い事に使ってくれるがお、人間と妖怪が仲良く生きていけるような、良い事に使ってくれるがお、だからどんな事があってもガルが守ってやるがお」
優しい目で英二を見つめるガルルンの隣でサンレイが頷く、
「そだな、おらとガルルンが居ればどうにかなるな、今回の一件にはハマグリ女も関係ないみたいだったしな」
「ハマグリ女房が何かしてきてもガルが本気出してやっつけるがお」
「そだな、もう少しでハチマルも復活するぞ、そしたら水胆みたいなヤバい薬を使う大妖怪でも怖くないぞ」
英二の頬から手を離してガルルンがサンレイに向き直る。
「わふふ~~ん、ハチマルに早く会いたいがう、ハチマルが居ればガルも安心がお、それまで2人で英二を守るがお」
「おぅ、頼んだぞガルルン、頼りにしてるからな」
「任せるがお、ガルはできる女がお」
サンレイとガルルン、喧嘩ばかりしている2人が互いの顔を見て優しく微笑んだ。