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第6話

 次の日、和泉高校へハチマルが転入してきた。


 制服姿のハチマルは普通の女子高校生となんら変わりはない、美人でおまけに爆乳のハチマルに男子たちが大はしゃぎだ。

 突然の事だがサンレイのときと同じように先生たちはさも当たり前のように転入生としてハチマルを扱う、何かの力を使って騙しているのだろう。

 小乃子や委員長はサンレイと同じ神様と聞いてすぐに仲良しになった。

 ハチマルの席は委員長の後ろ、つまり秀輝の左隣だ。運動場が見える窓際の列の一番後ろである。


 昼休みハチマルが小乃子たちと親しげに話していると宗哉が近付いてきた。

 もちろん後ろにはメイロイドのサーシャとララミが付き添っている。


「英二くん、僕たちのことも紹介してくれるかな」


 宗哉がいつもの爽やかスマイルだ。


「うんいいよ、じゃあ宗哉から自己紹介頼むよ」


 英二が快諾する隣で秀輝が警戒するように睨んでいる。

 お人好しの英二と違い秀輝は宗哉の事をあまりよく思っていない。


 宗哉がハチマルに自己紹介をする。

 ハチマルはメイロイドのサーシャとララミに興味を持った様子である。


「なんじゃこ奴らは? モノノケか? いや違うの、こ奴らからは魂も妖気も感じん、生がないんじゃ」

「当然だぞ、サーシャもララミもロボットだ。凄いんだぞ」


 宗哉の代わりにサンレイが得意気に話を始める。


「日本技術の結晶だぞ、日本スゲーってヤツだぞ、確かクー、クー、クレイジージャパンってヤツだぞ」

「クールジャパンだ!! クレイジーだと色々危なくなるだろが! 」


 注意する英二に構わずサンレイが続ける。


「そだぞ、クルクルジャパンだぞ、そんで2人とも宗哉とおらの命令をきくんだぞ」

「ロボット? 機械じゃな、道理で何も感じんわけじゃ、しかしよく出来とるのう、姿は人間にそっくりじゃ」


 ハチマルがサーシャの真ん前でピタッと止まった。


「特にここら辺がようできとるわい」


 ハチマルがサーシャの大きな胸をむんずと掴む、


「なっ、何するデスか! 」


 サーシャが吃驚した表情を作って叫ぶ、こういう動作も登録されている反応である。

 構わずハチマルがサーシャの胸を揉みまくる。


「なっなん、止めてくださいデス あっああぁん 」


 サーシャが頬を赤く染め悩ましげな声を出す。


「おうおう、作り物のくせに柔らかいのう、何で出来とるんじゃ」


 言うが早いかサーシャの制服の胸元を両手でバッと広げた。

 薄い水色のブラジャーに包まれたサーシャの巨乳が露わになり近くにいた男子たちはガン見の注目だ。


「ハチマル、ダメだよ」

「英二止めんな、女同士のスキンシップだぞ」


 慌てて止めに入ろうとした英二の腕をサンレイが引っ張って邪魔をする。


「そうじゃスキンシップじゃ、ロボットの胸に興奮するとは変態じゃな」


 ハチマルがニヤッと笑って見回すと男子たちは視線を逸らせて素知らぬフリだ。


「何するデスか! ご主人様にしか見せた事ないデスのに」


 サーシャが両腕で胸を隠して恥かしそうに睨む。


「凄いの、本物の女の子じゃ、こっちはどうなっとるんじゃ」


 サーシャの両手が使えないことを逆手にとってハチマルがスカートを捲った。

 バッと大きく捲れるスカートの中に水色の縞々が見えた。


「おお水色の縞々じゃ、ロボットのくせにパンツまで穿いとるんじゃな」

「きゃーっ、何するデス、止めてくださいデス 」


 楽しげな声を出すハチマルの前でサーシャがその場にしゃがみ込んだ。

 金髪巨乳美女の恥ずかしがる姿に男子たちが生唾を飲む、男の理想の姿そのものがメイロイドである。

 見ている男子が興奮しないわけがない。


「サンレイ様のお姉様とはいえそれ以上は許せないです」


 幼顔で少女タイプのララミがサーシャを庇うように前に立つ、


「ほほう、こっちはロリタイプじゃな、胸はペッタンコじゃ」


 ハチマルが獲物を狙う目でニヤッと笑う、次の瞬間ララミのスカートをバッと捲った。

 構えていたララミが防げないくらいの素早さである。


「なんじゃ、ネコパンツじゃ」


 ララミの大きく捲れたスカートの中に可愛らしいトラネコが見えた。

 表に小さなネコの顔とお尻に大きなネコの顔がプリントされたネコパンツだ。


「いやぁ~なにするです、ご主人様以外に見られたです~ 」


 悲鳴を上げてララミがその場にぺたんと座り込む。

 意地悪な笑みをしながらハチマルが口を開く、


「こっちが青じゃったから、儂はてっきりピンクの縞々じゃと思っとったんじゃが」

「何するデスか! 私だけじゃなくララミにまで許せないデスから」

「そうです、ご主人様以外に沢山に見られたです」

「こうなったら実力で排除するデスから」


 胸元を直したサーシャとスカートに付いた汚れを払ったララミが立ち上がった。

 その顔に怒りの表情を作ってハチマルの前で両腕を構える。


「2人とも止めるんだ。そんな事で喧嘩を許可した覚えはないよ」


 それまで見ていた宗哉が2人を止める。

 優しい口調だが有無を言わせぬ命令だ。


「ご主人様、申し訳ありませんデス」

「でも悔しいです、私たちはご主人様だけのものです」


 サッと頭を下げるサーシャの隣でララミが少し不服そうだ。

 2人とも人工知能に登録されている行動パターンが違うのだろう、サーシャが完全な服従でララミが意見をするように作られていた。


「サーシャもララミも2人の気持ちは分かっているよ、ハチマルさんはまだこの世界の事を何も知らないんだから大目に見てやってくれ、ハチマルさんもこれ以上は止めてくれるかな、これ以上するなら僕も2人を止めないよ」


 不服そうな表情を作っていたララミがパッと笑みに変わる。

 サーシャも嬉しそうに微笑んでいた。


「サーシャ、ララミごめんね、宗哉もごめんよ、ハチマルも悪気は無いんだ。少し悪戯しただけだと思うから許してくれよ、喧嘩なんかするつもりは無いからさ」


 英二が宗哉とサーシャとララミに頭を下げた。

 隣にいたサンレイが英二の腕をとる。


「なあなあ英二、戦わなくともおらの勝ちだぞ、だってだって、ララミはネコだろおらはイヌだからな、ほら、おらの勝ちだぞ」


 言いながらサンレイが自分のスカートを大きく捲る。

 捲ったスカートの中には可愛い幼児用パンツにイヌのプリントが付いていた。


「先週お母様に買ってもらったんだぞ、ウサギのも一緒に買って貰ったんだぞ」

「わああ! 人前でそんな事しちゃダメーっ」


 スカートを捲ったまま自慢気なサンレイを英二が必死で止める。

 サンレイが不服そうにプクっと頬を膨らます。


「んだ、ちょっとサービスしただけだぞ」

「そんなサービスしなくていいからね」


 怒る英二の向かいでハチマルが不敵に笑う、


「まだまだじゃの、ネコパンやイヌパンに縞々などそんなものはまだまだ子供じゃ」


 トンッとハチマルが机の上に飛び乗った。


「できる女はスパッツじゃ、見せパンじゃぞ、パンツじゃないから恥かしくないのじゃ、ちなみに昨日お母様に買ってもらったのじゃ」


 ハチマルが自慢気にスカートを捲ってスパッツを見せた。

 男の子のような性格を見て英二の母が買ってきてくれたものである。

 サンレイの目が大きく見開かれた。憧れるような目つきだ。

 周りで見ていた男子の顔が緩みきっている。

 ハチマルの腰周りとお尻のラインがスパッツではっきり分かる。

 引き締まった体に爆乳だ。全員いいものが見られたという表情だ。


「わあぁあぁ、いくらスパッツでも女の子がそんな事しちゃダメです」


 英二が慌ててハチマルの腕を引っ張って机から降ろす。


「しょうがないのう、英二がそう言うならこれまでじゃ」


 やんちゃなハチマルも英二の頼みはきくようである。

 目をキラキラさせたサンレイが英二の腕に抱き付いた。


「なあなあ英二、おらもスパッツが欲しいぞ、パンツが無くても大丈夫ってやるんだぞ」

「無いと困るからパンツは穿け! 」

「ヤダぞ!! パンツじゃないから多い日も大丈夫ってやりたいぞ、おらもスパッツ欲しいぞ、なあなあ英二ぃ~~、スパッツ欲しいぞ」

「多い日もって別のものになってるからな……仕方ないな買ってやるからもう人前でスカート捲ったらダメだよ」

「にっへっへっへ、だから英二は好きだぞ」


 腕に抱き付いて嬉しそうに笑うサンレイを見て英二の顔も自然と緩む。


「ハチマルこいつらロボットだけど凄いんだぞ、見た目だけじゃなくて中身も凄いんだぞ、パソコンの神様のおらも吃驚だ」


 英二の腕から離れるとサンレイがまたサーシャとララミを指差した。


「何が凄いんじゃ、こいつらただのエロ人形じゃろ、男の玩具じゃろ」

「人工知能が凄いんだぞ、魂も妖気も無いくせにいろいろ出来るんだ。そこらの付喪神以上に動き回れるぞ」

「そうじゃの、モノノケと比べればまだまだじゃがたいしたもんじゃ」

「そだぞ、特に記憶力が凄いんだぞ、おらたちのパソコンの何億倍もあるぞ」


 サンレイが自分の頭を指でトントン叩きながら話しを続ける。


「メイロイドが学校のプールだとしたらおらたちのパソコンの記憶容量はコップ1杯にもならないぞ」

「そんなに進んでおるのか、じゃが記憶力だけが頭の良さじゃないからのう、儂なんか円周率など一瞬じゃからの」


 驚いたハチマルだがすぐにいつもの表情に戻って自慢する。

 向かいで聞いていた英二が感心した様子で口を開く、


「本当なのか凄いな、じゃあやって見せてくれよ円周率」

「そうじゃの、ここらで儂の優秀さを見せ付けてやるとするか、では計算してやろう」


 ハチマルがおでこに右手の人差し指をあてて考える。


「ピコ~ン、答え一発、円周率の計算終了、答えは約3じゃ」


 すぐに大きな声を出すと爆乳をブルンと揺らして自慢気に胸を張った。


「さすがハチマルだぞ、一瞬だぞ、どうだ参ったか」


 隣でサンレイも得意気に大声だ。


「アホ姉妹か!! そんな事考えなくとも出るわ」


 英二が2人以上に大声で怒鳴る。


「ゆとり教育ね」


 委員長が呆れながらも納得したように呟いた。

 ハチマルが英二と委員長に振り返る。


「ええい、計算力など新しい物が優れているのが当たり前じゃ、儂らはそれ以外の付加価値で頑張るんじゃ」

「付加価値って? なに? 」


 委員長が疑いの目で聞いた。


「どれだけ凄かろうと飯は食えんからな、儂なんか毎日丼飯じゃぞ」

「そうだぞ、おらなんかトマトと人参が嫌いなんだぞ」


 自信ありげに胸を張ってこたえるハチマルの隣でサンレイも自慢気だ。


「飯食うとかメイロイドと比べるところが基本的に違うからな、偉そうに言ってるけどサンレイのは自慢じゃないからな」


 英二が弱り切った顔だ。

 サンレイとハチマルの前に意地悪顔の小乃子が立つ、


「性能だけで言ったらスマホの方がサンレイやハチマルより上じゃないのか」


 小乃子がポケットからスマートホンを取り出した。

 ハチマルが怪訝な表情でスマホを覗き込む、


「なんじゃ、そんな小さいのに儂が負けるはずないじゃろが」

「まてハチマルそいつは凄いんだぞ、ちっこいくせしておらたちの頃のスーパーコンピューターより凄いんだぞ」


 バカにするハチマルの腕をサンレイが掴んで止める。


「何が凄いかと言うとこれでお店のクーポンを貰うとハンバーガーが割引になるんだぞ」

「マジか!? ハンバーガーが割引に……安くなるのじゃな、凄いのう儂らの時代じゃ考えられん事じゃ、儂の負けじゃ降参じゃ」


 小乃子の持つスマホをハチマルが驚き顔で見つめた。


「割引だけじゃないよ、こうしていろいろ美味しい食べ物を調べる事が出来るんだ」


 悪戯っぽい顔をして小乃子がスマホを操作する。


「おおこれは便利じゃ、この世のあらゆる食い物が分かるんじゃな」


 スマホに写し出された食べ物の情報を見つめてハチマルが感心の声をあげた。

 委員長が英二に振り返る。


「この2人は食べ物基準なのね、本当は食いしん坊の神様なんじゃないの」


 ハチマルって俺たちと同じくらいの姿だけど中身はサンレイと一緒だ……、英二は苦笑いで誤魔化すしかなかった。

 バカにされたと思ったハチマルが委員長と英二を睨む、


「食い物だけじゃと失礼なことを言うな、儂らは立派な神様じゃぞ」

「だってさっきから食べ物の話だけじゃない、アイス大好きだし」


 からかう委員長にサンレイがムッとしながら口をはさむ、


「食べ物だけじゃないぞ、このスマホの事だっていろいろ知ってんぞ」

「へぇ、ほんとか? じゃあスマホについて何か言ってみろ」


 怒ったサンレイを見て小乃子もからかう。


「スマホについてか……そうだな…… 」


 サンレイが困り顔で考え込む、それを見て小乃子が勝ち誇るようにニヤッと笑う。


「やっぱ知らないんだろ」

「そんな事無いぞ、スマホだろ……そうだ! 」


 何か思いついたのかサンレイがニタりと企むように笑った。


「中高生男子のスマホは99パーセントがエロエロだぞ、この前も秀輝のスマホを少し触ったらエロエロだったぞ、昔エロ本、今スマホだぞ」

「そうなのか秀輝? じゃあ、エロに特化したスマホを出せば大ヒットじゃな」


 ハチマルがニヤりと秀輝に振り返る。


 話を聞いていた秀輝がビクッとして固まった。

 委員長と小乃子がじとーっと軽蔑した目で秀輝を見つめる。

 英二は手を合わせて無言で謝っていた。


「どうせ俺はエロエロだよ、勝手にスマホいじって……サンレイちゃんじゃなきゃ怒ってるぜ、まったく…… 」


 顔に焦りを浮かべながら秀輝が開き直った。

 小乃子が腹を抱えて笑い出す。


「あははははっ、秀輝じゃ仕方ないな、まあ男なんてみんな似たようなものだ。サンレイが食い物だけじゃないって事は認めてやるよ、エロエロだけどな」

「おらはセクシーだからなエロエロでも仕方ないぞ」


 サンレイが腰に手を当ててポーズをとる。

 それを見てその場の全員が大笑いだ。



 サンレイとハチマルが小乃子や委員長やメイロイドたちとまた談笑を始めた。

 女子トークに移っている。


 宗哉が英二の腕を引っ張ってその耳元に顔を近付けた。


「もう他に神様はいないのかな? もしいたら僕にも欲しいな」

「宗哉ごめん、もう居ないと思うよ、サンレイもハチマルも偶然田舎の蔵にあった古いパソコンの中で眠っていたんだ。蔵にはもうパソコンは無いみたいだから他にはいないよ」


 物欲しげに訊く宗哉を見て咄嗟に嘘をついた。

 他に神様がいるかどうかは英二も知らない、田舎の蔵の中にはまだ古いパソコンがあるかもしれない、それを知っていて嘘をついた。

 サンレイたちを人工知能へ応用できないかと宗哉が考えているのをなんとなく感づいたのだ。


「そうか仕方がないな、もし3人目がいたら次は僕だよ、それだけは約束してくれよ」

「そんなの約束できないよ、本人がダメって言ったら無理なんだし…… 」

「本人がダメって言えば仕方ない、僕も諦めるさ、でもチャンスは欲しいな」

「うん分かったよ、次があれば宗哉に知らせるよ」


 睨むように見つめる宗哉に英二が仕方なく約束する。

 宗哉は満足そうに頷くとサンレイたち女子トークの中へと入っていった。


「サンレイちゃん、ハチマルさん、夏に海へ行った時にたっぷりご馳走するよ」

「ほんとか? 宗哉は金持ちだから飯も凄いぞ、ハチマル聞いたかご馳走だぞ」


 サンレイが目を輝かせてハチマルに振り向く、


「もちろんだよ、海へ遊びに行くのはサンレイちゃんとハチマルさんの歓迎会だからね、それでサンレイちゃんやハチマルさんは嫌いな物や苦手な物はなんだい? 料理に使わないようにしないといけないからね、それに苦手な物置いてあると失礼だろ」


 いつもの爽やかなスマイルで宗哉が聞いた。

 満面の笑みでサンレイとハチマルが話しを始める。


「おらはトマトと人参が嫌いだぞ、そんでウインナーとカレーが好きだぞ、そんでアイスクリームは無いと生きていけないくらいに大好きだぞ」

「儂はほうれん草が嫌いじゃな、唐揚げと冷奴が好きじゃ、アイスはサンレイの言う通り儂も大好物じゃ、それと苦手なものは鉛じゃな、なぜか鉛だけは通り抜けたりできんのじゃ、少しなら構わんが鉛そのもので出来た壁などは通る事が出来ん、じゃから見るのも嫌じゃ」

「へえ鉛が苦手なのか、何でも通り抜けたり消えたり出来るのに鉛だけはダメなんだね、わかったよ鉛を使っている物は全部どけておくよ、ご馳走も任せておいてくれ、ララミ、2人の好きな物や食べたい物をもっと聞いておいてくれよ」


 爽やかスマイルの宗哉の目の奥がキラッと光った。


「ハイご主人様、サンレイ様とハチマルさんに食べたい物を聞いておくです」


 ララミがペコリと頭を下げる。

 記憶はメイロイドのもっとも得意とするところだ。

 また女子たちの間で談笑が始った。


 離れていく宗哉の口元がニヤりと曲がる。

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