表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/139

第57話

 2日後、英二が起きて顔を洗いに廊下を歩くとリビングからサンレイの元気な声が聞こえてきた。


「英二、おっはぁ~~ 」

「サンレイ帰ってたのか…… 」


 よかった。無事に帰ってきた。

 ほっと安堵する英二の腕にサンレイがしがみつく、


「なぁなぁ、おらが居なくて寂しかっただろ? 眠れなくて枕を涙で濡らしただろ」

「寂しいのは寂しかったけど枕を涙で濡らすほどじゃないからな」


 じゃれつくサンレイを英二が鬱陶しそうに引き離そうとするが離れない。

 洗い物を手伝っていたガルルンが台所からやってくる。


「英二、おはようがお、トースト食べるがお? それとも御飯がう? 」


 笑顔のガルルンに釣られるように英二も笑顔でこたえる。


「ガルちゃんおはよう、トーストとコーヒー頼むよ」

「わかったがお、愛妻朝食を作るがう、パンとコーヒーに愛情たっぷり入れるがお」


 サンレイがじろっと英二を睨み付けた。


「愛妻……どゆことだ? 何でガルルンが英二の嫁になってんだ」

「あははっ、違うから、お嫁さんごっこみたいなものだろ、サンレイだってふざけてよくやってるだろ」


 笑い飛ばす英二の向かいでガルルンが得意気に鼻を鳴らす。


「がふふん、サンレイの居ない間にガルとの愛を深めたがお、英二の身も心もガルのものになったがう、婚姻届も受理されたがお、ガルは正妻がお」


 サンレイが大きく口を開けて大袈裟に驚く、


「マジか!! おらの居ない2日間にいったい何が……おらを捨てて犬臭いガルルンを選ぶなんて……ガルルンのおっぱいに惑わされたんだぞ、そんで子作りして引き返せなくなったんだぞ、英二の浮気者……鬼畜の所業だぞ」


 英二が顔の前でブンブンと手を振った。


「いやいやいや、なってないから、サンレイの居ないところでそんな事したら俺の命が危ないから、ガルちゃんとは妖怪テレビ見たりゲームして遊んでただけだから」


 ガルルンが英二の手を握る。


「そうがお、ゲームがう、昨日のゲームで負けたら何でも言うこと聞くって約束がお、だからガルは英二のお嫁さんになったがお」


 腕にしがみついていたサンレイがくるっと英二の正面に回る。


「なにぃ~~いぃ! そんな約束を……何でもしてくれる約束……おらとはそんな約束絶対にしない癖に、そんで浮気したんだぞ、極刑に値するぞ」


 怖い顔でじろっと睨むサンレイの前で英二が青い顔でふるふると首を振る。


「ちっ、違うから、サンレイと何でもするなんて約束したら大変なことになるからな」


 青い顔のまま英二がサンレイの後ろに居るガルルンに視線を移す。


「ガルちゃんも違うよね……お嫁さんの約束はダメって言ったよね、その代わりにカラオケボックスで遊ぶって約束したよね、小乃子たちの分も俺が奢るって事で決まったでしょ? だからお嫁さんじゃないよね」


 必死で説明する英二の向かいでガルルンが子犬のように首を傾げる。


「がふ? そうがお、カラオケ行くってなったがう、小乃子と晴美といいんちゅ誘ってみんなで歌うがお」


 サンレイが振り返るとバカにするようにガルルンを見る。


「んだ、ガルルンの早とちりだぞ、だいたい毛深い女なんて英二が好きなわけないぞ、英二はツルツルの美肌美人が好きだぞ」


 ガルルンが大きな口を開けて驚きの表情になる。


「がわわ~~ん、英二は毛深いの厭がおか? ガルは嫌いがお? ガルはいっぱい毛が生えてるがお……もう全部剃るしか………… 」


 悲しそうなガルルンの向かいでサンレイがニヤッと意地悪顔で笑う、


「全身脱毛だぞ、頭の先から尻尾まで全部脱毛してツルツルになったら英二が好きになってくれるぞ」

「マジがお? 毛を抜いてツルツルになるがお、ガルは英二のためなら全身ハゲ犬になってもいいがお」


 泣き出しそうな顔で見上げるガルルンを見つめながら英二が後ろからサンレイの頬を両手で摘まんで引っ張る。


「なりませんから、帰ってきた途端ガルちゃんをからかって」

「でぃひゅひゅひゅひゅ、止めろよ、ほっぺ伸びるぞ」


 逆効果だ。サンレイは反省するどころか喜んでいる。

 ガルルンが子犬のように首を傾げながら英二を見つめる。


「ガルは全身脱毛しなくていいがお? 」


 後ろからサンレイの頬を引っ張りながら英二がこたえる。


「ガルちゃんは犬なんだから毛深くて当り前だろ、サンレイの嘘だからね、俺は今のままのガルちゃんが好きだよ、可愛くて優しくて手伝いも沢山してくれるガルちゃんがいいんだからね、サンレイに騙されたらダメだよ」


 ガルルンが両手を上げて喜ぶ、


「わふふ~~ん、英二が好きって言ったがお、相思相愛がう、次のゲームで勝ったらお嫁さんにして貰うがお」


 サンレイが頬を引っ張る英二の手を払い除けた。


「なにぃ~、んじゃおらと勝負だぞ、ゲームで勝った方が英二と結婚できるんだぞ」

「がふふん、受けて立つがお、ガルはできる女がお、ゲームもサンレイに負けないがお」

「にひひひひっ、パソコンの神であるおらにゲームで勝とうなんて千年早いぞ」


 勝ち誇るサンレイの向かいでガルルンが不敵に笑う、


「がふふふふっ、今までは肉球が邪魔でゲームパッドで負けてただけがお、でも昨日英二にアーケードスティックを買って貰ったがお、ガルの手でもしっかり扱えるがう、これで英二に勝ったがお、アケコンがあればサンレイなんかに負けないがお」


 昨日もバイトだったのでサンレイが居ない間にガルルンが寂しくないようにゲームコントローラーを買ってあげたのだ。

 ガルルンが小さなパッドで扱いずらそうにしているのを見て近い内に買ってやろうと考えていたのだが評判のいいものは高くてバイト代が出るまで待っていて年明けに買おうと思っていたが初物小僧の一件ですっかり忘れていた。


「アーケードスティック? アナ……スティック……エロアイテムか! ズルいぞ英二、おらにもエログッズを…… 」


 バッと振り返ったサンレイの頭を英二がペシッと叩く、


「誰がエロアイテムか! そんなもの買いません」

「だってだって、ガルルンばっかり」


 本気で叩かれたサンレイが頭を摩りながら英二を見上げる。


「ガルちゃんはパッドじゃゲームやり辛いから仕方ないだろ…… 」


 拗ねた顔で見上げるサンレイを見て英二が溜息をつく、


「わかったから、サンレイには新しいゲーム何か買ってやるからさ、それでいいだろ」

「やったぁ~~、今度の休みに買いに行くぞ、秀輝と宗哉にどれが面白いのか訊くぞ、色んなゲームを知ってるからな」


 大喜びするサンレイを見て英二の顔も綻んでいく、ゲームならバイトのある日もガルルンと2人でおとなしく遊んでくれるので安いものだと自分を納得させた。


「がふふん、新しいゲームで勝負がお」

「にゃひひひひっ、返り討ちにしてやるぞ」

「勝った方が英二を貰えるがお」

「真剣勝負だぞ、英二と結婚するのはおらだぞ」


 また睨み合う2人の間に英二が割って入る。


「ちょっ、何言ってる? 勝手に決めるな、結婚とか大事なことをゲームで決められて堪るか、そんな事よりハチマルは元気だったか? 」


 怒るように言いながら英二が話を逸らす。


「おぅ、元気だったぞ、今年中には復活できそうだぞ」


 英二がサンレイの肩をガシッと掴んだ。


「本当か? ハチマルにまた会えるんだな」

「そだぞ、だからもっと強くなれ、一つ目小僧クラスは簡単に倒せるくらいに強くなれ、そしたらハチマルが褒めてくれるぞ」

「うん、頑張るよ、ハチマルだけじゃなくてサンレイやガルちゃんにも褒めてもらいたいからな」


 嬉しそうな英二の背をガルルンがポンッと叩いた。


「霊気の使い方はガルが教えてやるがお、英二はパワーあるがう、だから何か必殺技的なものを考えるがお」

「うん、何でもするよ、どんな訓練にも耐える……耐えてみせるよ、ハチマルをがっかりさせたくないからな」


 嬉し涙が出そうでサンレイとガルルンに見られたくなくて照れるようにして英二が顔を洗いに行った。

 朝のニュースを見ながら朝食をとると着替えて登校だ。

 靴紐を結び直した英二が立ち上がる。


「行ってきます」


 体操服が入っているのでいつもより膨れた鞄をガルルンが嬉しそうに抱え持つ、


「行くがお、今日は体育があるから楽しみがお」

「体育か、ガルルンには負けないぞ、んじゃ、いってきまぁあぁ~~す」


 元気なサンレイを先頭に玄関を出て行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ