第54話
1時間目が終わると直ぐにサンレイが小岩井先生の元へ駆け寄っていく、
「どうしたのサンレイちゃん? 今日は絵を描いてなかったわね」
「恭子ちゃん先生、ガルは描いたがお」
ガルルンが横から落書き帳を見せる。
「う~ん、これはシャチね、シャチとアザラシでしょ」
少し考えてからこたえる小岩井先生を見てガルルンが笑顔で喜ぶ、
「当たりがお、昨日テレビでやってたがう、シャチがアザラシ襲ってたがお」
「先生もテレビ見てたよ、ガルちゃん旨いから直ぐにわかったわよ」
ガルルンの絵を見ている間にサンレイは小岩井先生の周りをぐるっと回って何か調べている様子だ。
「本当に上手よ、今日の絵は80点ね、アザラシが血塗れで可愛そうだから20点減点ね、次はアザラシも可愛く描いてあげてね」
「80点がお、惜しかったがう、アザラシを襲ってる格好良いシャチを描きたかったがお、次は可愛いのを描くがお、頑張るがお」
ガルルンがニパッと可愛い笑みを見せた。
小岩井先生は一方的に褒めたりはしない、しっかり絵を見て点を付けてくれる。
真面目に採点してくれるのでサンレイもガルルンも懐いているのだ。
ぐるっと三度も回って調べていたサンレイを小岩井先生が抱き留めた。
「サンレイちゃんどうしたの? 絵が描けなかったのかな? 」
優しく声を掛ける小岩井先生をサンレイが見上げる。
「恭子ちゃん、悪い気が付いてるぞ、正月変なとこでも行ったか? 」
「小岩井先生って呼べ」
怒る英二を小乃子が押し退ける。
「それで先生に何が付いてるんだ? 」
「お前なぁ~ 」
声を荒げる英二の肩を秀輝がガシッと掴んで止める。
「そう怒るなよ、サンレイちゃんが感じたんだぜ、黙って聞いてろ」
「そうがお、恭子ちゃん先生はこれくらいで怒らないがお」
ガルルンは小岩井先生のことを恭子ちゃん先生と呼ぶ、先生と付けているだけマシだ。
「何かあったの? 」
委員長と晴美がやって来た。
少し離れて宗哉も聞いている。
「また妖怪? 」
晴美がガルルンの後ろで訊いた。
恐がりなのに首を突っ込むタイプだ。
「妖怪じゃないがお、恭子ちゃん先生に悪い気が付いてるだけがお」
「よかった」
晴美がほっと息をついた。
サンレイが小岩井先生の正面に回る。
「冬休みに何処か行っただろ、よくないものが憑いてるぞ」
心配顔のサンレイの向かいで小岩井先生が口を開く、
「変なとこねぇ……田舎の神社で初詣したわよ、それとスキーに行ったよ、始めて行ったから転んでばかりだったけどね」
おっとりして優しい小岩井先生はサンレイに『ちゃん』付けされても怒らないどころか喜んでいた。
「スキーか……ナンパとかされたか? 」
「よくわかったわね、スキー場でしつこく誘ってきた3人組が居たわ、先生は女友達4人で行ってたんだけどね」
小岩井先生が吃驚した顔でサンレイを見つめた。
ナンパと聞いて小乃子が色めき立つ、
「それでどうしたの? 一緒に遊んだの? 」
小岩井先生が笑いながら顔の前で手を振る。
「まっさかぁ~~、タイプじゃなかったから断ったわよ、私ともう1人の他は結婚してるしね、それなのにしつこくて困ったわよ、最後に京ちゃんが怒鳴ってナンパ男はどっかいったわよ、京ちゃんってのは先生の一つ先輩でレディースの幹部やってたんだよ」
「レディース……族かよ」
英二が思わず呟いた。
おっとりした小岩井先生が何処でどうレディースの幹部をしていた先輩と繋がったのか想像も出来ない、秀輝や小乃子たちも目を丸くしている。
「レディースって暴走族でしょ? 小岩井先生ってレディースに入ってたの? 」
恐る恐る訊く小乃子に小岩井先生が笑顔で振り向く、
「まっさかぁ~~、先生トロいから入りたくても入れないよ、京ちゃんはお向かいさんで凄い不良で先生憧れてたの、先生もレディースに入りたかったんだけど京ちゃんがお前はダメだって、親泣かせるなって、それで先生諦めたのよ」
残念そうに言う小岩井先生を見て秀輝や小乃子たちが苦笑いだ。
入るつもりだったのか……、英二が何とも言えない顔で小岩井先生を見つめた。
英二の肩にもたれ掛かるようにして聞いていた小乃子が口を開く、
「京ちゃんに感謝だな、不良なのにな」
「怖いけど本当は優しい人って居るじゃない、それじゃないの」
委員長が言うと小岩井先生がパチンと手を叩いた。
「そうなのよ、京ちゃんは優しくて頭良いのに不良なのよ、先生の憧れなのよ、だから京ちゃんに誘われて行ったスキー楽しかったですよ」
笑顔の小岩井先生の向かいでサンレイが呟く、
「ナンパだぞ、そのナンパした男が変なの付けてたんだぞ」
「振って良かったがお、悪い気を纏ってるバカ男と深い関係になったら恭子ちゃん先生にも悪い気が深く入って大変がお」
教室前のドア近く、男子の机の上に勝手に座って足をブラブラさせながらガルルンが言った。
ガルルンは可愛いので机の上に座られた男子も怒りもしない。
「小岩井先生美人だからモテるのは当り前だな、それでどうするんだ? 」
小乃子が小岩井先生を見つめる。
英二たちにも注目されて小岩井先生が慌てて口を開く、
「ナンパされたけど本当に何にもなかったわよ、京ちゃんもチャラい男はダメだって言ってるし………… 」
「放課後だぞ、恭子ちゃん今日の放課後に迎えに行くから職員室で待ってるんだぞ、15分で済むからな、ちょっとだけ仕事抜けるんだぞ」
マジ顔のサンレイを見て小岩井先生が頷いた。
「何かよくわからないけどわかったわ、放課後待ってればいいのね、生徒が相談あるなら先生は何時でも大丈夫よ」
「んじゃ、放課後だぞ」
笑顔のサンレイに見送られて小岩井先生が教室を出て行った。
放課後、小岩井先生の除霊をするために英二たちが集まる。
教室に居残っているのはサンレイとガルルンと英二に秀輝と宗哉、委員長と小乃子と晴美の8人とメイロイドのサーシャとララミの合計10人だ。
「恭子ちゃん連れてきたぞ」
英二と一緒にサンレイが教室に入ってくる。
「あらあら、芽次間さんに久地木さんに篠崎さんまで伊藤くんは高野くんと仲良しだからわかるけど佐伯くんまで残ってるの? 」
残っているメンバーを見回して小岩井先生が少し驚いた様子だ。
サンレイとガルルンと英二の3人ほどしか残っていないと思っていたのにまさか御曹司の宗哉までいるとは想定外だ。
除霊はサンレイの遊びだと思っていたので宗哉までいるのに驚いたのだ。
「小岩井先生、僕も英二くんとは仲良しですよ」
爽やかにアピールする宗哉の手をガルルンが掴む、
「そうがお、宗哉は友達がお、英二の親友がう」
ガルルンは反対の手でチーカマを美味しそうに食べている。
学校横のコンビニで宗哉に買って貰ったものだ。
「そだぞ、宗哉はおらの親友だからな、当然、英二の親友だぞ」
小岩井先生を呼びに行く前に除霊の気を溜めると言ってアイスを奢って貰ったのでサンレイも宗哉を持ち上げる。
「へぇ~、そんなに仲が好かったんだ。先生知らなかったよ、覚えておくね」
大袈裟に驚く小岩井先生の向かいで宗哉が手櫛で髪を整える。
「英二くんとサンレイちゃんとガルちゃんと僕は親友だからね、何かあった時は忙しくても協力してますよ、何たって親友だからね」
英二と親友と言われたのが余程嬉しいらしく満面の笑みだ。
「んじゃ早速始めるぞ、今日は英二バイトだし宗哉も忙しいからな」
サンレイが近くにあった椅子を持ってきて小岩井先生を座らせる。
「前に宗哉の悪霊を祓ったのと同じだぞ、だから声を出すなよ、そんで邪魔するなよ、わかったな小乃子、英二」
宗哉の除霊の時に騒いだ小乃子と手を出して感電した英二を名指しで注意した。
「あははっ、わかってるよ、あの時はまだ妖怪とか知らなかったからな」
「俺も了解だ。ガルちゃんもいるし前みたいなことはしないよ」
恥ずかしそうに言う2人を見てガルルンが胸を張る。
「がふふん、ガルが付いてるがお、何かあったら直ぐに助けてやるから安心するがお」
「んじゃ頼んだぞガルルン、悪霊くらいでガルルンの手を借りることなんて無いけどな」
サンレイが小岩井先生の正面に立つ、
「じゃあお祓いを始めるぞ、おらの手が光ったり黒い影が出てきても驚いて逃げたり声出したりしたらダメだぞ、約束だぞ恭子ちゃん」
サンレイが小岩井先生の前に出した手を光らせて見せた。
「さっ、サンレイちゃんの手が……お祓いって本当に出来るのね」
驚く小岩井先生を見てサンレイがニッと笑う、
「そだぞ、だからおらに任せるんだぞ、恭子ちゃんに憑いてる悪い気を離してやるからな」
「うん、サンレイちゃんに任せるわ」
信じた様子で頷く小岩井先生を見てサンレイも一安心だ。
「んじゃ始めるぞ」
小岩井先生の頭の上に手を置くとサンレイが口の中で呪文のようなものを呟いた。
サンレイの手から出た白い光が小岩井先生を包み込んでいく、
「 ひっ!? 」
悲鳴を上げそうになった晴美の口をガルルンが押さえる。
「大丈夫がお、黙って見てるがお」
耳打ちすると晴美がコクコクと頷いた。
小乃子たちは見慣れているので流石に声など出さない。
「出てくるぞ」
白い光に燻り出されるように真っ黒な煙のようなものが出てきた。
サンレイが反対の手で黒い煙を掴む、
「捕まえたぞ」
黒い煙がサンレイに巻き付いていく、
「往生際の悪いヤツだぞ」
サンレイがバチッと雷光を走らせた。
「ギュギュゥ~~ 」
奇妙な声を上げる黒い煙が薄くなる。
「何だアレは…… 」
英二が思わず呟いた。
蛇のような姿をしているが肉が付いていない、骨だけの蛇と言ったほうがいい、その骨だけの蛇の首根っこをサンレイが掴んでいる。
「喋るなって言ったぞ、もう捕まえたからいいけどな」
「ごめん、骨の蛇なんて思わなかったから」
サンレイに睨まれて英二が謝った。
「まったく……捕まえる前に逃げて英二たちに入ったらまた最初からになって面倒だから喋るなって言ってんだぞ、おらの霊気で術を使ってるから英二たちの姿はこいつには見えてないんだ。けど喋ると居場所がわかるから乗り移って逃げようとするんだ。だから捕まえるまでは喋るなって言ってんだぞ」
呆れ顔でサンレイが説明してくれた。
「でも変がお」
「変って? 何かあったのガルちゃん」
話に割り込むガルルンに英二が訊いた。
「そいつから変な気を感じるがお、悪霊の気とナンパ男の人間の気ともう1つ……たぶん妖怪がお、妖怪の気を感じるがお」
こたえるガルルンを見てサンレイが口を開く、
「おらも感じてたぞ、だから直ぐに始末しなかったぞ、ガルルンも感じるなら間違いないぞ、でも霊が妖怪と接触することなんていくらでもあるからな、霊を喰ってる妖怪もいるしな、情報聞き出そうにもこいつバカだから通じないぞ、骨だけで脳味噌無いんだぞ」
「脳味噌は関係ないがお、低級霊なんてそんなものがう、さっさと始末するがお」
「そだな、さっさと終わらせるか」
サンレイがバチッと雷光を走らせる。
「絞雷、閃光花火! 」
サンレイの手がバチバチと青い雷光をあげて骨だけの蛇を包み込む、暫くして蛇の頭がボタッと落ちた。
線香花火のように悪霊を消滅させるので技名を閃光花火としたサンレイの得意技の1つだ。
身を堅くして座っていた小岩井先生が震える声を出す。
「もっ、もう話してもいいの? 」
「いいぞ、無事に終わったぞ、悪霊退治したからもう安心だぞ、肩凝り取れただろ? 」
サンレイに言われて小岩井先生が肩を回す。
「本当だ! 肩凝って頭も重たかったのにスッキリしてるよ」
「全部悪霊の所為がお、これで湿布貼らなくても済むがお」
笑顔のガルルンの前で小岩井先生の頬が赤くなっていく、肩が凝って匂わない湿布薬を貼っていたのだ。
近付いても人間ではわからないのだが鼻のいいガルルンにはモロバレして恥ずかしがったのである。
小岩井先生が立ち上がる。
「サンレイちゃんありがとう、前から不思議に思っていたけどサンレイちゃんとガルちゃんは本当に霊能力とか持っているんだね、本当にありがとう」
頭を下げて礼を言う小岩井先生を見てサンレイとガルルンが抱き付いた。
「恭子ちゃんはおらの大好きな先生だからな、恭子ちゃんのためなら何でもしてやるぞ」
「ガルも恭子ちゃん先生大好きがお、だからガルも何でもしてやるがお」
「ありがとう、先生もサンレイちゃんとガルちゃんは大好きよ」
2人を抱き締めると小岩井先生が教室を出て行った。
「んじゃ、おらたちも帰るぞ、どした? 」
英二たちが不安気に見ているのにサンレイが気付く、
「サンレイ、俺の霊力を使ってくれ、消えそうになる前に俺の力を吸ってくれ」
正面でしゃがむ英二の頭をサンレイがポンポン叩く、
「必要無いぞ、前とは違うぞ、今回はバッチリ用意して出てきたからな、祟り神と戦っても前みたいに消えないぞ、それどころかあの程度ならおら1人で倒せるからな」
胸を張るサンレイを見て英二だけでなく秀輝や小乃子たちも安心顔だ。
「よかった……それじゃあ帰ろうか」
しばらく見ていたがサンレイが消える様子がないのを確認すると英二が鞄を持った。
「一寸いいかい? 」
帰ろうとした英二を宗哉が止めた。
「どうした宗哉? 」
英二だけでなく何事かとその場の全員が宗哉に注目する。
「妖怪の気を感じるって言っただろ、また英二くんを狙って妖怪が近くに来てるって事は無いのかな? 」
「そうか、そういう事もあるぜ」
秀輝だけでなく宗哉を見ていた小乃子たちも視線をサンレイに向けた。
「心配無いぞ、霊も妖怪も似たような場所に居るからな、気を感じる事くらいよくあるぞ」
とぼけ顔で言うサンレイの隣でガルルンが鼻を鳴らす。
「がふふん、妖怪が何かしたならもっと強い妖気を感じるはずがお、ガルやサンレイなら恭子ちゃん先生を除霊する前に気付くがう、サンレイが悪霊を捕まえるまで気が付かなかったほどの小さい妖気がお、気にする程じゃないがお」
「そうなのか……2人がそう言うなら安心だな」
納得した様子の宗哉を見てサンレイがニッと笑う、
「宗哉は心配性だぞ、けどサンキューな、冷静な判断ができる宗哉が居てくれると助かるぞ、ハチマルが居ないからな、宗哉や委員長がいてくれて本当に助かるぞ」
頼られて嬉しそうな委員長の隣で小乃子が自身を指差す。
「あたしが抜けてるぞ」
ガルルンが小乃子の手を引っ張る。
「晴美ちゃんならわかるがう、けど小乃子は英二や秀輝と同じがお」
「あたしをおっぱい星人やゴリラと一緒にするな」
振り向いた小乃子を英二と秀輝が睨み付ける。
「お前なぁ~ 」
「ゴリラで悪かったな」
怒る2人から逃げるように小乃子が鞄を持った。
「おっと、もうこんな時間だ。早く帰ろうよ」
「んじゃ帰るぞ……英二はバイトだったぞ」
猫の絵がついた小さな鞄を持つとサンレイが英二を見上げた。
「時間無いから俺と秀輝はこのままバイトに行くからサンレイとガルちゃんは小乃子に送って貰え」
英二が小乃子に振り返る。
「バイト代入ったら何か奢るからさ、2人を家まで送ってくれ、頼むよ、2人だけで帰らせるのは不安で…… 」
「了解した。カラオケでも奢れよな」
拝むように頼む英二の向かいで承諾する小乃子をサンレイが押し退ける。
「おらが英二のバイトについてくぞ、んでバイト終わるまでアイス食べ放題するんだぞ」
「ダメだからな、小乃子と一緒に帰れ」
何を企んでいるのか一目でわかるような顔のサンレイを英二が怒鳴りつけた。
「ガルはおとなしく英二がバイト終わるの待ってるがお、忠犬がお」
「ついて来ちゃダメだからね、小乃子とおとなしく帰ってくれ」
可愛い顔でニカッと笑うガルルンを見て弱り顔の英二の肩を委員長が突いた。
「私も一緒に行っていい? サンレイちゃん、また妖怪テレビ見せてよ」
「みんなが行くなら私も行きたいな」
晴美が遠慮がちに言った。
「助かるよ、いいなサンレイ、ガルちゃんもみんなと一緒に帰るんだよ」
英二が安堵して言うとガルルンが両手を上げて喜ぶ、
「やったぁ~~、いいんちゅと小乃子と晴美ちゃんと一緒に妖怪テレビ見るがお」
「んじゃ女子会するぞ」
サンレイが英二に手を差し出す。
「なんだ? 」
「女子会のお菓子代だぞ、母ちゃんの分もだぞ」
なんで俺がと言う顔で英二が二千円をサンレイに渡す。
「1人300円くらいあればいいだろ、俺の部屋で遊ぶのはいいけど変な事はするなよ」
「わかってんぞ、英二の秘密のエロ本とかは触らないから安心だぞ」
「わあぁあぁぁ~~、勘弁してくれ」
悪い顔で笑うサンレイの口を英二が大慌てで塞いだ。
小乃子が英二の背をドンッと叩く、
「そんなに慌てるなよ、英二が隠してたエッチな本なら正月に見たぞ、委員長や晴美も知ってるから安心しろ」
「そうがお、英二が本当におっぱい星人って事はわかったがお、でも安心するがう、この事はガルとサンレイと小乃子といいんちゅと晴美ちゃんだけの秘密にしといてやるがお」
小悪魔のように微笑む小乃子とガルルンの向かいで英二の顔が引き攣っていく、
「みんなに……小乃子はともかく委員長や篠崎さんまで…… 」
英二がバッと振り向くが委員長と晴美は頬を赤くして何も言わない。
秀輝が英二の肩に腕を回す。
「サンレイちゃんが居るのに全部始末しないお前が悪いぜ、さぁバイト行くぞ」
「勘弁してくれぇ~~ 」
嘆く英二を連れて秀輝が教室を出て行く、2人を宗哉が追う、
「待ってくれ、門まで一緒に行くよ」
宗哉の後をメイロイドのララミとサーシャが続いた。
「帰りにスーパー寄ってケーキでも買うぞ、箱のアイスも買うぞ」
「ジュースも買うがお、残りでお菓子も買えるがお」
英二から貰った二千円をカエルの絵のついた財布にしまうサンレイを見てガルルンも嬉しそうな笑顔だ。
小乃子がニヤッと笑いながら鞄を持つと男のように肩にかけた。
「じゃあ女子会で男共の悪口でも言って楽しむとするか」
「高野くん本気で嘆いてたわね」
「うん、少しかわいそう…… 」
呟くように言う委員長の隣で晴美が苦笑いしながら頷いた。
「んじゃ帰るぞ」
楽しそうなサンレイを先頭に帰路についた。
小乃子たちとの楽しい女子会を終えて夕食を食べた後でサンレイとガルルンが英二の部屋で何やら話をしている。
先に風呂を出て炬燵に入ってアイスを食べていたサンレイが訊く、
「なぁなぁ、ガルルンはさっきの妖気どう思う? 」
「さっきって恭子ちゃん先生に憑いてた悪霊のことがお? 」
風呂から上がったばかりでタオルで頭をグシャグシャ拭きながらガルルンが聞き返す。
「そだぞ、大した妖気じゃなかったけど何か気になるぞ」
「小さすぎてサンレイが捕まえるまでガルにも分からなかったがお、匂いも殆どしなかったがう、でもそれが怪しいがお、妖怪と接触したり捕まってたならもっと大きいがお、冬休みの間に恭子ちゃん先生に憑いたとしては残留妖気が小さすぎるがお」
タオルを英二の椅子に掛けるとガルルンも炬燵へと入る。
「やっぱそう思うか……ハマグリ女がまた何かしてんだぞ」
「ハマグリ女房がお、今度出てきたら捕まえて味噌汁にしてやるがお」
怒り声で言いながらガルルンがチーカマの袋を開ける。
「そだな、ハチマルに会いに行って来るかな」
当り前のようにサンレイが手を伸ばしてチーカマを1本取って食べ始める。
「ハチマル起こすがお? 」
向かいでチーカマを剥きながらガルルンが訊いた。
「出てくるのはまだ無理だぞ、何か用意してるからな、無理に出てきても前みたいに消えると困るぞ」
アイスとチーカマを交互に食べながらサンレイがこたえた。
ガルルンがチーカマに齧り付く、
「妖力がいっぱいあればいいがお、サンレイが出てきたように妖怪豆腐を使うといいがお、直ぐに出てこれなくても少しは早くなるがお」
「おおぅ、ガルルン良いこと言ったぞ、んじゃ豆腐小僧の所寄ってから四国へ行くぞ」
アイスとチーカマを食べ終わったサンレイがまた手を伸ばしてチーカマを2本取る。
「んじゃ行ってくるぞ、明日は学校休むって英二に言っといてくれ、それとハチマルを起こそうとしてるのは秘密だぞ」
「わかったがお、ついでにハチマルに英二の特訓の方法を訊いてくるがお、基本はガルが教えたけどこの先はハチマルに訊いたほうがいいがう、ガルだと爆発力を大きくする練習くらいしか教えてやれないがお」
「そだな、おらも教えるのは苦手だしな、ハチマルが起きてくれればいいんだけどダメなら訊いてくるぞ」
チーカマをポケットに仕舞うとサンレイがバチッと雷光を残して消えた。
「ガルもハチマルと話ししたいけど英二の守りがいるがお、ガルは出来る女がお、サンレイが居ない間はガルが護衛がお」
呟くとガルルンが炬燵に潜り込んだ。
夜の11時前に英二が帰ってくる。
「お帰りがお」
「ただいまガルちゃん」
玄関で出迎えるガルルンを見るとバイトの疲れも飛んでいく、
「今日はチーカマじゃなくてサラミ貰ってきたよ、店長がいっぱいあるから持っていけって秀輝の分もくれたから毎日2本食べても1週間は持つよ、それと…… 」
サラミが沢山入った紙袋を渡しながら居間や階段を見るがサンレイは出てこない。
「サンレイは? トイレかな? 」
「四国に行ってるがお、ハチマルに会いに行ったがう、明日は学校休むって言ってたがお」
抱えるように袋を受け取りながらガルルンが言った。
「祖父ちゃんの所か……ハチマルに何の用なんだ? もしかしてハチマルが復活するのか? 」
期待顔で訊く英二を見てガルルンが暫く考えてから口を開く、
「 ……ハチマルはまだ出てこれないがお、英二の力の鍛え方について相談するって言ってたがう、それで豆腐小僧の所に寄ってから四国に行くって言ってたがお、1日泊まって明後日帰ってくるから明日は学校休むがお」
サンレイに口止めされているのでガルルンが嘘をついた。
英二が納得した様子で頷く、
「俺の力の鍛え方か……今やってる訓練も殆どガルちゃんに教えて貰ってるようなものだからな、サンレイは当てに出来ないしハチマルに訊いたほうがいいか、でも何で豆腐小僧の所へ行くんだ? 回り道だぞ」
「ガルは知らないがお、豆腐に会いたくなったがお」
誤魔化すように言うとガルルンは貰った袋を覗き込む、
「わふふぅ~~ん、サラミいっぱいがお、サンレイに盗られないように部屋に隠すがお」
喜んで尻尾を振りながらガルルンが階段を駆け上がっていった。
「何か隠してるな……まぁいいか、アイスは冷蔵庫に入れとこう、おらの土産は無いのかって絶対訊いてくるからな」
アイスの入った袋を持って英二は台所へと向かった。
風呂に入った後でガルルンとゲームを少ししてからその日は眠った。