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第52話

 少し離れた大きな神木の枝にハマグリ女房が立っている。


「やっぱりダメだったわね、初物程度では無理だとわかっていたけど……水胆を試すのには丁度よかったか、あの人に報告をして次を探すとしましょう」


 愉しそうに微笑むとハマグリ女房がスッと姿を消した。

 どんな術を使っているのかサンレイは元より鼻も耳も良いガルルンにも感知できていない。



 苦しげに息をつく初物小僧にサンレイが手を当てる。


「このままじゃ死ぬからな、おらが少しだけ霊力をやるぞ」


 バチッと雷光をあげてサンレイの手が光ると同時に初物小僧の顔に赤みが差していく、


「俺を殺さんのか? 」


 強張った顔で訊く初物小僧を見つめてサンレイがニッと笑った。


「勝負着いたぞ、お前は別に人を殺してないからな、少し気を吸っただけだからな、だから許してやるぞ」

「ガルが仕留める前に自滅したがお、戦えなくなった者を殺すほど卑怯じゃないがお」


 挟んで向こうに立つガルルンが言った、


「すっ、すまん……俺様の負けだ」


 初物小僧が両手を着いて謝った。

 サンレイが初物小僧の頭をポンポン叩く、


「もういいぞ、頭上げろよ、それより聞きたいことがあるぞ」

「何でも聞いてくれ、俺が知ってることなら何でも話す」


 圧倒的な力の差を知って初物小僧がしおらしい。


「水胆とか言ったな? 誰に貰ったんだ。妖力を高める薬じゃないぞ、妖力を前借りしたんだぞ、一つ目の持ってる妖力を絞り出しただけだぞ」


 サンレイを見上げていた初物小僧が顔を顰める。


「妖力の前借り……そんな事は聞いてないぞ、俺を騙したのか…… 」


 狼狽える初物小僧をちらっと見て英二が口を開く、


「妖力の前借り、だから皺くちゃの老人みたいになったのか」


 振り向いたサンレイが頷く、


「そだぞ、今の一つ目には妖力一欠片も残ってないぞ」

「元のように回復するまで100年は掛かるがお、100年分の妖力を15分くらいで使ったのと同じがお」


 向かいにいるガルルンが付け足すように話してくれた。

 宗哉が感心したようにサンレイとガルルンを見回す。


「逆に言えば一つ目小僧の100年分の妖力でもガルちゃんに敵わなかったって事だよね、やはり強いね、ガルちゃんもサンレイちゃんも」

「当り前だぜ、なんたってサンレイちゃんは神様だからな」


 秀輝の神様という言葉に初物小僧がビクッと体を震わせる。


「神様……この小さいのが? 本当か? 」


 驚く初物小僧に秀輝が自慢気に続ける。


「マジだぜ、山の神様だったんだが今はパソコンの神様だぜ」


 初物小僧が改めてサンレイを見つめる。


「通りで強いわけだ。山神だとわかっていたら戦いなど挑まん、許してくれ」


 再度頭を下げようとする初物小僧の脇にサンレイがしゃがんだ。


「頭なんて下げんなよ、気付かなくて当然だぞ、今のおらは力をセーブしてるからな、それに御神体を持ってきてないからな、四国じゃ離れすぎて一つ目程度ではおらの正体見破るのは無理だぞ」


 向かいに立っていたガルルンが楽しげに笑い出す。


「がふふふっ、仕方無いがお、今のサンレイは神様のオーラも出てないちんりくりんがお、そこらの妖怪と同じ妖気しか感じないがお」


 サンレイがバッと立ち上がる。


「んだと! 野良犬のガルルンに言われたくないぞ」

「がふふん、今のガルは野良犬じゃないがお、英二に飼われてるがう、忠犬がお」


 鼻を鳴らすガルルンにサンレイが食ってかかる。


「何が忠犬だ。無駄飯食いの居候駄犬だぞ、そのてん、おらは神様だからな、バカ犬とは格が違うからな」


 ガルルンが八重歯のような牙を見せて反論する。


「バカ犬じゃないがお、ガルも神狼の血を引く神様みたいなものがお」


 取っ組み合いの喧嘩でも始めそうな2人の間に英二が入る。


「いや、サンレイも居候だからな、ガルちゃんの悪口言うな、ガルちゃんは飼ったりしてないからね、2人とも娘みたいだって母さんたちも言ってるだろ、だから喧嘩するな」


 その後ろで委員長が小乃子や晴美と顔を見合わす。


「飼われてるって……ペットじゃないんだから」

「夫とか言ってたのに忠犬になってるぞ、夫とペット……まぁ似てるけどな」

「ガルちゃん可愛いから私も飼いたいよ」


 意地悪顔の小乃子の隣で晴美が物欲しそうに言った。

 止めに入った英二にサンレイが食い掛かる。


「おらは居候じゃないぞ、英二の守り神だぞ、バカ犬と一緒にすんな」

「ガルは居候がお、でもちゃんと手伝ってるがお……ガルは邪魔がお? 」


 ガルルンが悲しそうな目で英二を見つめる。


「ガルちゃん、そういうつもりで言ったんじゃないから、ガルちゃんは手伝ってくれるって母さんも父さんも褒めてるからさ、俺はサンレイに言ったんだよ、自分のこと棚に上げていつもガルちゃんを困らせてるからさ」


 いじらしいガルルンに英二が慌ててこたえるとそれを見ていたサンレイがプクッと頬を膨らませる。


「英二はいっつもガルルンを贔屓するぞ、ガルルンはちょっとおっぱいあるからな、ハチマルみたいにおっぱいあったら英二もおらに優しくしてくれるぞ、でも今のおらはペッタンコだからな、だから英二はおらが嫌いなんだぞ」

「いや、違うから……どうせ俺はおっぱい星人だけど今は胸は関係ないからな……どうしたら………… 」


 弱り切る英二と一緒にサンレイとガルルンの間にいた初物小僧が口を開く、


「喧嘩しないでください、全て俺が悪いんだ。山神様も山犬様も俺から見たら遙か上の存在だ。俺なんぞ簡単に消滅させることが出来たのにしなかった。この恩は忘れません」


 話すと初物小僧が平伏した。


「初物小僧…… 」


 本当はそれ程悪いヤツじゃないんだなと英二は思った。

 埒が明かないと思ったのか宗哉が話に割り込む、


「サンレイちゃんそれくらいにしとこうよ、それよりも話の途中だったんじゃないかい? 水胆って薬のことを聞くんじゃなかったのかな」

「そだぞ、水胆のことだぞ」


 思い出したようにサンレイが初物小僧を見つめる。


「こんな危ない薬を何処で手に入れたんだ? 下手したら死んでるぞ」


 初物小僧が顔を上げて話を始める。


「全てあの女が悪いんだ。神様がいることも何も言わなかった。水胆は水系の大妖怪が作った薬で妖力の塊だと聞いた。これを飲めば暫くの間妖力が高まって山犬だろうと他の大妖怪だろうと対等以上に戦えると言っていた。だから俺は……あの女に騙されたんだ」


 悔しげな初物小僧の向かいでサンレイが顔を顰める。


「女? 誰に貰ったんだ? 」

「ハマグリ女房だ。お前たちのことも聞いた。霊力の高い人間を喰えば大妖怪になれると言ったのもハマグリ女房だ。それで俺は……すまん、許してくれ」


 また頭を下げる初物小僧の前でサンレイが顔に怒りを灯す。


「あの貝女か、まだ英二を狙ってんだな、軟体生物のくせにおらの英二に手を出すなんて千年早いぞ」


 怒るサンレイの横でガルルンが子犬のように首を傾げる。


「ハマグリが全部悪いがお? でもハマグリ何処にも居ないがお」

「ハマグリ女房が初物小僧を唆して悪さをさせたんだよ」


 弱り顔の英二が教えるとガルルンが怒り出す。


「ハマグリが悪かったがお、今度会ったら味噌汁にしてやるがお」


 話しを聞いていた秀輝も顔を顰める。


「ハマグリ女房か、やっぱあいつが裏で糸を引いてたんだな、この前逃がしたのが不味かったぜ」


 同意するように頷いてから宗哉が口を開く、


「旧鼠に続いて初物小僧も唆したんだね、でもあの程度の力じゃ仮に初物小僧が勝って英二くんを手に入れたとしてそこから奪うなんて不可能だと思うんだが」


 委員長が宗哉に向き直る。


「あの程度だから高野くんの霊力が欲しいんじゃない? 高野くんの霊力があれば大妖怪になれるんでしょ? 初物小僧からどうやって奪うかはわからないけどね」

「成る程な、そういう考えもあるか」


 思案顔の2人にサンレイが割り込む、


「ハマグリ女程度があんな薬作れないぞ、水胆みたいな薬作るには妖力だけじゃなくて術に長けてないとダメだぞ」


 委員長がわかったと言うように大きく頷く、


「そうね、水系の大妖怪が作ったって初物小僧も言ってるし、ハマグリ女房だけじゃなくて仲間が居るんじゃない? 」

「水系の大妖怪と知恵の回るハマグリ女房か……厄介だな」


 宗哉が英二を見つめた。


「心配無いぞ、ハマグリ女を捕まえればわかるぞ」

「ガルが付いてるがお、今度出てきたらガルが捕まえてやるがお」


 不安に顔を歪ませる英二を見てサンレイとガルルンが安心させるようにニッと笑った。



 それまで黙って話しを聞いていた小乃子がサンレイの後ろからヒョイッと顔を出して初物小僧を見る。


「それで初物小僧は何で英二を襲ったんだ? 大妖怪になって何がしたかったんだ? 」


 宗哉と秀輝が釣られるように初物小僧に向き直る。


「そうだね、僕も聞きたいな、旧鼠は大妖怪になって昔のように遠慮なく人間を喰いたいって言ってたね」

「そうだな、人間を支配したいって言ってたな旧鼠は」


 その場の全員が座り込んでいる初物小僧に注目だ。


「英二の力で大妖怪になって何がしたかったんだ? 怒らないから言ってみろ」


 サンレイに促されて初物小僧が話し始める。


「霊力のある人間を喰らって大妖怪になって女どもを見返してやりたかったんだ。俺のことをDTだとバカにした女どもを……イケメンのヤリチン妖怪になって復讐してやりたかったんだ。だから………… 」

「そんな事のために喰われて堪るか! 」


 ムカッと怒鳴る英二をサンレイが止める。


「まだ話の途中だぞ、怒るのは最後まで聞いてからにするんだぞ」


 ちらっとサンレイを見た後で初物小僧が続ける。


「そう、あれは俺がまだ一つ目小僧だった時のこと……200歳くらいの頃だ。好きになった女に初めて告白したんだ。それなのにあの狐女………… 」


 初物小僧の頭に妖狐たちにからかわれた光景が浮かび上がる。



 狐女A「うっそぉ~、マジィ~~ 」

 狐女B「妖怪でDTが許されるのは150歳までだよねぇ~ 」

 狐女A「きゃははははっ、キモ~イ」

 狐女B「DT臭いから近寄らないで頂戴」

 初物小僧、当時は一つ目小僧「うわぁあぁ~~ん、覚えてろよ~~ 」



 死ぬ気で告白したのに辺りに聞こえるくらいの大声でバカにされて泣きながら逃げ帰った日の事が昨日のように鮮明に蘇った。

 悔しげに唇を噛み締めていた初物小僧がゆっくりと口を開く、


「俺をバカにした妖狐たち、その後も俺を振った何十人の女たち、彼奴らに復讐するために俺はDTを極めた。300年貫いてきたのだ。そうして一つ目小僧から初物小僧へと生まれ変わったのだ」


 唇を噛み締め涙を浮かべる初物小僧を見て英二の怒りが冷めていく、


「狐女だけじゃなくてその後で何十人も振られたのか…… 」

「何十人にも振られてDTをからかわれたらおかしくなっても仕方ないぜ」


 DT同志気持ちがわかるのだろう秀輝も同情的だ。

 大きな一つ目を気持悪そうに見ていた委員長が呟く、


「流石に少し同情するわね」

「だからって高野くんを襲うのはダメだけどね」


 隣で晴美が何とも言えない表情だ。

 サンレイが小乃子を見上げる。


「小乃子の言った通りだぞ、マジでDTを拗らせてたぞ」

「DTをバカにされて100年も恨みを溜めてたがお」


 ガルルンにも見つめられて小乃子が誤魔化すように顎の下を指で掻く、


「あはは……冗談で言ったのにな…… 」


 苦笑いしながら呟くと小乃子が初物小僧に向き直る。


「まぁなんだ……DTをバカにする女なんてほっとけよ、無節操に遊びまくってるヤツよりお前の方がずっといいぜ」


 無責任に慰める小乃子を初物小僧がじっと見つめる。


「優しいんだな……小乃子とか言ったな、惚れた。俺と結婚してくれ」

「なっ!! 」


 小乃子がピキッと固まった。


「おおぅ、行き成りコクったぞ」

「まさかの告白タイムがお」


 ニヤッと楽しげなサンレイとガルルンの前で小乃子がブンブンと手を振った。


「違うから、告白タイムとか無いからな」


 ブンブンと振る小乃子の手を初物小僧が握り締める。


「俺の愛を受け取ってくれ、お前のためならどんな事でもするぞ」

「うわぁあぁ~~、何とかしてくれ」


 助けを求めるように振り返る小乃子の目に英二たちが映る。


「惚れっぽいのも振られる原因なんじゃないのか? 」


 英二が訊くと秀輝が頷く、


「だな、よりによって小乃子を選ぶなんてな」

「だよな、普通は委員長や篠崎さんを選ぶよな」


 英二と秀輝の間に宗哉が爽やかに微笑みながら割って入る。


「久地木さんは良い子だよ、スタイルもいいし気立てもいいし、初物小僧は人を見る目があるよ」

「お前らなぁ~~、ここぞとばかりに言いやがって、後で覚えとけよ」


 目を吊り上げて睨み付ける小乃子を見て秀輝と英二が慌てて口を開く、


「じょっ、冗談だぜ、なぁ英二」

「そっ、そうだよ、突然だったからな、その場を誤魔化すとか、そういう感じだ」


 焦りまくる2人の前で小乃子が声を荒げる。


「冗談で済むか! 取り敢えずこの状況をどうにかしろ」


 どうにかしろと初物小僧が握り締める手を2人の前で振った。

 委員長が楽しそうに口を開く、


「小乃子、付き合ってあげれば? 」

「菜子まで冗談言うな! 勝手なこと言ってないでどうにかしろ、やい英二! さっさと助けろ」

「あんたも俺を振るんだな……女なんて、女なんて………… 」


 悲しそうな顔をして初物小僧が小乃子の手を離した。


「いや、振るとかじゃなくて初対面でコクられても答えられるわけないだろ、だいたいお前は妖怪だろ、妖怪の彼女をつくれよ」


 弱り切った顔で話す小乃子に初物小僧がマジ顔を向けた。


「わかった付き合うのは諦める。その代わり俺のDTを貰ってくれ」

「行き成り何言ってんだ! 厭に決まってるだろ」


 怒鳴りつける小乃子の手を初物小僧がまた握り締める。


「先っちょ、先っちょだけだから…… 」


 小乃子に迫る初物小僧を見てサンレイとガルルンがニヤッと悪い顔で口を開く、


「そだぞ、ケチケチすんな、先っちょくらい受け入れてやれ」

「試食みたいなものがお、お試しセットがお」

「先っちょも全部も関係あるか!! 試食って何だ? お試しセットって何だ。人をサプリメントや化粧品みたいに扱うな! 」


 本気で怒る小乃子を見てサンレイとガルルンが慌てて口を開く、


「冗談だぞ冗談」

「ガルも冗談がお」


 溜息をつきながら英二が前に出る。


「まったく、ごめんな小乃子、サンレイとガルちゃんは後で叱っとくからさ」


 小乃子に謝ると初物小僧に向き直る。


「妖怪と人間が付き合ってもいいとは思うが小乃子のことは諦めてくれ、小乃子には既に恋人がいるんだ。だから初物小僧とは付き合えない」


 小乃子を助けるために英二が嘘をついた。


「本当か? 俺に嘘は通じないぞ、この目で見れば本当か嘘か直ぐにわかるのだからな」


 ギョロッと大きな目で見つめる初物小僧の前に小乃子が立つ、


「本当だ。あたしは英二と付き合ってるんだ。英二が彼氏だ。好きなのは英二だけだ。だからお前とは付き合えない、だから他を探してくれ」

「なっ、なにを…… 」


 焦りまくった英二が言葉を飲み込んだ。

 この場を凌ぐために小乃子が嘘をついたのだと考えたのだ。


「 ……わかった。今回は諦めるとしよう」


 小乃子の心の中を見た初物小僧があっさりと引いた。

 横で見ていたガルルンが大声を上げる。


「がわわ~~ん、英二と小乃子は付き合ってたがお、知らなかったがう……ガルとは遊びだったがお」


 サンレイが泣き真似をしながらその場に崩れる。


「酷い……おらを騙したんだな……あれだけ愛し合ったのに……英二は鬼畜だぞ、こうなったら英二を殺しておらも死ぬぞ」


 ガルルンは本気で信じているがサンレイはふざけているのが表情でわかる。


「違うから…… 」


 ガルルンの手を引っ張って英二が離れていく、


「そうだったがお…… 」


 ガルルンに耳打ちする英二をちらっと見てからサンレイが初物小僧に話し掛ける。


「300年もDTを貫いてたんだろ、だったらそのまま生きろよ、いつかお前のことを本気で好きになってくれる女が現われるまでDTを貫くんだぞ」

「そうですね……俺のことを好きになってくれる女か………… 」


 力なくこたえる初物小僧の背をサンレイがバシッと叩く、


「そだぞ、お前はDTを貫け、全世界のDTの希望の星となるんだぞ」


 そこへガルルンがやって来る。

 英二に話しを聞いて誤解は解けた様子だ。


「あと700年DTを貫くがお、千年経てば神になれるがお」

「おおぅ、DT神だぞ、DTの神様の誕生だぞ」


 初物小僧がゴクリと唾を飲み込んだ。


「あと700年……千年DTを貫いて神に………… 」

「そだぞ、神になれなくとも千年DTの大妖怪になれるぞ」

「大妖怪DT小僧がお、千年溜めたDT毒は凄い威力になるがお、次戦ったらガルも負けるがお」


 サンレイとガルルンが無責任に煽てまくる。


「なります。DT神になってDTに希望を与えます」


 パッと顔を明るくしてやる気になった初物小僧を見て英二と秀輝がうんざりした顔を見合わせる。


「DTの神様だってよ」

「厭な神様だな」


 後ろで聞いていた宗哉や委員長たちも何とも言えない複雑な表情だ。

 英二たちに構わずサンレイが続ける。


「神様として祀って貰えるぞ、そんでDTたちを生暖かく見守るんだぞ」

「DT教がお、新興宗教がお」

「おおぅ、それなら信者がいるぞ」


 サンレイが英二と秀輝の背をバンバン叩く、


「こいつらもDTだからな、今からDT教の信者だぞ」

「凄いがお、早速2人も信者が入ったがお、DT教の未来は安泰がお」

「おお……ありがとうございます。なんだかやる気が出てきました」


 初物小僧が喜ぶ向かいで英二と秀輝が泣き出しそうだ。


「最後の最後で俺を巻き込まないでくれ」


 英二がDTだと弄られているのを横目に自分に被害が及ばないように突っ込まないようにしていた秀輝が嘆いた。



 サンレイが元気いっぱいで口を開く、


「んじゃ帰るぞ、もう悪さするなよDT小僧」

「はい、山奥の廃寺でひっそりと暮らします」


 初物小僧が神社の森の奥へと消えていくのを見送って英二たちも帰路についた。

 駐車場まで歩きながら宗哉が英二を見つめた。


「どうにか終わったね」

「ごめん、俺が巻き込んだみたいで…… 」

「何言ってんだ。俺たちは好きでここにいるんだぜ」


 謝る英二の背を秀輝がバンッと叩いた。


「そうだよ、みんなサンレイちゃんやガルちゃんと一緒に居たいんだよ」


 爽やかに微笑む宗哉の前を歩く委員長が大きく伸びをする。


「何か疲れたわね、一つ目は気持悪かったし、色々問題ある妖怪だったし」


 委員長の横をガルルンと歩く晴美がうんうんと頷く、


「うん、でもガルちゃんとサンレイちゃんが居たから怖かったけど怖くなかったよ」


 晴美と手を繋いでいたガルルンが振り返る。


「英二もDT拗らせないように気を付けるがお」


 小乃子と一番前を歩いていたサンレイがニヤッと笑う、


「大丈夫だぞ、おらが付いてるからな、妖怪も思春期の性の悩みもおらが解決してやるぞ」

「あははははっ、英二の悩みは大ダメージ受けたみたいだけどな」


 サンレイの横で小乃子が声を出して大笑いだ。


「まったく最悪の正月だ」


 後ろを歩く英二がうんざりした顔で呟いた。


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