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第5話 「ズバッと参上! Z ハチマル」

 翌日の朝、授業が始まる前に宗哉が改まって礼を言ってきた。


「昨日はありがとう、一応礼は言っておくよ。落書きばかりして勉強はできないのにこういう事はできるんだな、さすが神様ってところだな」


 一晩経って冷静になったのだろういつもの厭味な口調だ。

 実際にお祓いしてもらったのだ。

 からかいながらもサンレイが神様だとは認めている。


「勉強くらい出来んぞ、おらはパソコンの神だから賢いんだぞ、落書きばかりじゃないぞ、おらのパソコンはフロッピーディスクもついてるから記憶力も凄いんだぞ」


 サンレイがプクっと頬を膨らませて怒る。

 隣にいた英二が苦笑いしながら口を開く、


「フロッピーなんてとっくの昔に使われてないよ」

「なにっ? じゃあどこに記録してんだ磁気テープか? 」


 膨らました頬を萎めてサンレイが驚くような大声だ。


「磁気テープなんて化石レベルだよ、一般的にはまだHDDだけどそれさえもSSDに置き換わってきてるよ」


 宗哉がやれやれといった感じでバカにする。

 バカにされているのに怒りもせずにサンレイが不思議そうな顔をした。


「SSD? 」


 怪訝な表情のサンレイを宗哉が覗き込む、


「もしかしてSSDも知らないのか」

「SSDくらい知ってんぞ」

「本当か? じゃあSSDってどんな意味だ? 」

「SSDだろ知ってんぞ、SとSだから……すっ、スーパー凄いドライブ」


 サンレイは口を尖らせてこたえた後で宗哉からサッと視線を逸らして俯いた。

 口喧嘩で負けて拗ねる幼女のような可愛らしい表情だ。


「もう間違い以前の問題だ。日本語混じってるし」


 隣にいた英二が頭を抱える。

 近くで聞いていた小乃子がにやけ顔で口を開いた。


「スーパーって超だから、超凄いドライブって事になるな」

「そうだぞ、超凄いんだ。HDDより凄いからスーパー凄いドライブだぞ」


 小乃子という援軍を得てサンレイが胸を張った。


「違うからな、SSDってのはソリッドステートドライブだからな」


 弱り顔の英二が教える。


「くそっ、ちょっと惜しかったな」

「ぜんぜん違うから、ドライブしかあってないからな」

「いいだろそんな事知らなくても、メイロイドなんかよりおらの方がずっと賢いぞ、いくら記憶容量が大きくても言われた事しかできないだろ、そりゃ昔のコンピューターと比べると遥かに進歩してるけど、命令しかきけないなら基本的に変わってないのと一緒だ。人工知能って言ってるけど一から自分で考える事はまだできてないだろ、多くの選択肢から選ぶだけだぞ、おらは一から全て考える事ができるんだぞ、機械じゃなくて神様だからな」


 頬をプクっと膨らませてサンレイが開き直った。

 困った顔で溜息をつく英二の向かいで小乃子が楽しそうに口を開く、


「そうだなメイロイドは凄いと思うけどなんかちょっと違うもんな、サンレイは悪戯もするし飯も食うし、おまけにモノノケも祓えるもんな神様だからな凄いよな」


 サンレイがキッと小乃子を睨む、


「おまけってなんだ、一番凄いところだろが、神の力だぞ」

「大喰らいもバカな悪戯も神の力だったりして」

「うぅ~小乃子は本当に意地悪だな」


 流石のサンレイも口では小乃子に勝てない。

 様子を伺っていた宗哉が真面目な顔で話しを始めた。


「サンレイちゃんの言う通りだよ、今の人工知能は教えれば教えるだけ賢くなる。記録された選択肢が増えれば増えるだけ人間に近い動作や会話ができる。でも一から考える事はできない、人間なら体験した事の無い場面に遭遇してもそれまでの似たような経験はもちろん全く違う経験などから考えて自分で対応できる。1回で失敗しても方法を変えて何度も繰り返してどうにかしようとする。だが今の人工知能ではこうはいかない、全く違う事柄を組み合わせて考える事ができない、一から作り出す事ができないんだ」

「そうだろうな、処理速度が速くなって検索スピードが上がっただけだぞ、所詮登録されたものを検索して幾つか組み合わせて実行するだけだからな、登録されていないものや突拍子もない組み合わせなどはできないんだぞ」


 真面目顔で話す宗哉にサンレイが同意するように頷いた。

 サンレイを見つめて宗哉が目を輝かせて続ける。


「サンレイちゃんは凄いよ、人間と同じ様に考えられる。サンレイちゃんみたいに考える事ができる人工知能ができれば人間社会に革命が起こるよ」

「ちょっと待てよ、パソコンから出てきたけどサンレイは人工知能じゃないからな、神様だよ機械じゃない、知能だけじゃなく心を持っているんだからな勘違いするなよ」


 英二が慌てて口を挟む、宗哉の目がサンレイを欲しがっている目つきだとわかったから慌てたのである。


「そうだね、メイロイドと比べて悪かったね、そうだ昨日のお礼に夏休みに行くプールだけど海じゃダメかな、僕の別荘が和歌山の白浜にあるんだ。綺麗な所だよ、サンレイちゃんと英二くんはもちろん、秀輝や委員長や久地木さんもみんなで遊びに行こうよ、3日くらい泊まりでさ、バスを用意するから交通費はもちろん食事も何もお金は全部僕が持つから心配無いよ、もちろんアイスクリームは手に入る全種類揃えるよ、それとシェフ手作りのアイスクリームもね、どうだいサンレイちゃん」

「おお、さすが御曹司だな、それでいいぞ、小乃子もいいよな」


 爽やかな笑顔で言う宗哉にサンレイが手を上げて喜ぶ。


「専用の豪華バスに別荘で3泊4日か凄いな、海綺麗なんだよな、新しい水着買わなくっちゃな、白浜だったらパンダも見に行こうよ」


 小乃子はすっかり行く気満々である。


「パンダってあの白黒クマだな、白浜に住んでるのか? 見に行っていいよな宗哉」

「もちろんだよ、イルカのショーもやってるし、サンレイちゃんや久地木さんが行きたい所全部連れて行ってあげるよ」


 ワクワク期待顔のサンレイに宗哉が微笑みながら快諾する。


「やったぁ~、委員長に言っていつ行けるか時間合わせするぞ」

「天気予報見て決めようよ、せっかく行ったのに雨降ったらやだからな」


 サンレイと小乃子がはしゃぎながら委員長の所へと向かった。

 笑顔で2人を見ていた宗哉が振り返って英二を見つめる。


「英二くんはメイロイドに興味あったよね、和歌山にうちのメイロイド工場があるんだよ、よかったら見学しないかい? サンレイちゃんと一緒にさ」

「えっうん、メイロイドは興味あるけど…… 」


 宗哉の申し出に英二が口篭もる。

 何か企んでいるように感じた。


「場合によっては気に入ったメイロイドを1人プレゼントするよ」

「えっ! メイロイドを俺に? 」


 思わぬ申し出に英二の声が裏返る。


「うん、正式に量産されたヤツを1人、いや2人でも3人でもいいよ、英二くんの気に入ったヤツがなければ特注で作ってあげるよ、その代わりに協力して欲しいんだ」

「協力? サンレイの事か…… 」


 顔を顰める英二を見て宗哉が笑顔で続ける。


「さすが英二くんだ話しが早い、その通りサンレイちゃんの事だよ、サンレイちゃんを調べさせてほしいんだ。もちろん変な事はしないよ、英二くんが同席でもいい」

「そんな事俺が決められないよ、サンレイに直接頼むんだね」

「僕が頼むより英二くんが頼んでくれた方が旨くいくだろ、サンレイちゃんは英二くんのことが好きなんだから、人工知能の発展にサンレイちゃんが使えるかもしれない、これは人間のためになることだよ、全世界のためになることだ。旨くいけば英二くんを佐伯重工の幹部に迎えることを約束するよ」

「止めてくれ!! そんなの俺は興味がない、サンレイを騙すような事はしたくないんだ」


 英二が声を荒げた。

 教室の後ろで委員長や小乃子と話していたサンレイも何事かと見ている。


「どうしたんだ英二? 宗哉が何かしたのか? 」


 当番で黒板を掃除していた秀輝がやってきた。


「なんでもないんだ。英二くんと夏休みに海に行く話しをしてただけさ」

「うん、別になんでもない、秀輝も行くだろ? 」


 さらっと話題を変える宗哉にソワソワしながら英二も追従する。


「海? プールじゃないのか? 」

「僕の別荘に行く事にしたんだよ、詳しい話はサンレイちゃんたちの日程が決まったらするよ、じゃあ英二くんさっきのこと考えておいてくれよな」


 秀輝にこたえると宗哉は口元に笑みを湛えて自分の席に戻って行った。


「さっきの事って何だ? 」

「メイロイドの工場に見学に来ないかって誘われただけだよ」

「へえ面白そうだな行くのなら俺も誘ってくれよ、海かぁ~、昼休み話そうぜ、おっと先生来る前に黒板掃除終わらせないとな」


 チャイムの音が鳴って秀輝が慌てて黒板掃除に戻る。

 その日の昼休みは大いに盛り上がった。

 宗哉の別荘に行く事は全員賛成だ。

 話し合って8月始めに行く事に決まった。



 帰り道、コンビニの前で秀輝と別れる。


「この感覚は…… 」


 秀輝に奢って貰ったアイスの入った袋を持ってサンレイが走り出す。


「サンレイどうしたんだよ? 」


 慌てて追いかけた英二が玄関に入ると大好きなアイスも放り出してサンレイがダンボール箱をガサゴソと開けていた。


「やっぱし、ハチマルだぞ、姉さんだぞ」

「姉さんって――あっそのパソコン…… 」


 ニカッと歯を見せて笑うサンレイの前で英二の動きが止まった。

 ダンボール箱の中に古いパソコンらしき物が入っていた。


 ニコニコ顔のサンレイと呆然と立ち尽くす英二の所へ母親がやってくる。


「おかえりなさい、あらあらサンレイちゃん嬉しそうね、それね、田舎のお祖父さんが蔵で見つけたんですって、英二がこの前古いパソコン持って帰ったからこれもいると思って送ってくれたんですって、お祖父さんにお礼の電話しなさいよ」


 いつもの呑気顔で言うと母親はキッチンへと消えた。

 母親の説明で全て分かったらしい、英二がサンレイに視線を移す。


「このパソコンってサンレイのお姉さん? 」

「そだぞ、ハチマルって言っておらの姉さんだぞ、道路工事の奴らに祟ったあと一緒にパソコンの中で眠ったんだぞ」

「サンレイのお姉さんか……とりあえず俺の部屋に運ぼう、サンレイはアイスを冷蔵庫に入れてこい溶けちゃうぞ」

「おおぅ、秀輝に奢って貰ったアイス忘れてたぞ、英二に買って貰った分と合わせてアイスパーティーするんだぞ」

「1日で食べる気か!! 買い置きのは明日にしろ」

「宵越しのアイスは持たねぇ、全部食うんだぞ」


 呆れて何か言おうとした英二を置いてサンレイがキッチンに走る。

 直ぐに戻ってくると段ボール箱から古いパソコンを取り出した。


「それより早くハチマル起こすぞ」


 ダンボール箱から英二が本体を出して運ぶ。

 サンレイは満面の笑顔でテレビと繋ぐ装置とキーボードを持って英二に続いた。


「お姉さんはどんな人なの? サンレイと同じように出て来れるんだよね、姿はサンレイと同じくらいなの? それよりも大人の女の人なの? 」


 自分の部屋で制服を着替えながら英二が聞いた。

 後ろでサンレイも着替えながらこたえる。


「もちろん人の姿で出てこれるぞ、おらより年上で、そんで偉そうなんだ。8ビットだぞ、おらより性能低いくせにえばるんだ。まあ姉さんだから仕方ないけどな」

「あっ着物だ」

「ハチマルが吃驚しないようにいつもの姿にしたんだぞ、いきなり今の服を着た姿見せて驚かしたらダメだからな」


 着替え終わって振り向くとサンレイが初めて会ったときの水色の着物を着ていた。


「やっぱり似合ってるね、綺麗な黒髪とあってて可愛いよサンレイ」

「えへへ、褒めたって何もでないぞ、なあなあ英二、早く姉さん起こすんだぞ」


 照れまくったサンレイが英二の腕をバンバン叩く、


「ディスプレイ無いけどサンレイの98のが使えるのかな? 」

「ディスプレイなくてもいけるぞ、ほらこの機械でテレビと繋げられるぞ、RCAコンポジットケーブルの端子が付いてたら大丈夫だぞ」


 サンレイが四角い機械を持って見せる。

 テレビとパソコンを繋ぐ変換機だ。

 黄と赤と白のコードで繋ぐタイプのものである。


「テレビにコンポジット無いならおらのディスプレイ使ってもいいぞ、でもおらのだからな貸してやるだけだぞ」

「コンポジットって……そんな古いの使ってるのか? 」


 驚く英二を見てサンレイがムッとして口を開く、


「おら30年近く前のパソコンだからな古くて当たり前だぞ、コンポジットが嫌なら周波数が合えばアナログRGBでも使えるぞ、15ピンケーブルもあるぞ」


 サンレイがPC88や98時代のピンが2列並んだ古い規格のRGBケーブルを自慢気に見せる。


「アナログRGB? D―SUB15ピン端子の事だな、まだ使ってる人いるけどピンが2列のやつ初めて見たよ」

「2列? なに言ってんだ? 」

「今は3列のRGB端子しか無いよ、デジタルになって殆ど使ってる人いないけどね」

「マジか……3列って知らないぞ、RGBもダメなんか……じゃあ今はゲームとかパソコンとかどうやって繋げてるんだ? 」


 サンレイの自慢気な表情が不安気に変わる。


「今はHDMI端子だよ、映像と音声が1つで済むんだ」

「HDMI? 」


 不思議そうに見上げるサンレイを見て英二がニヤッと意地悪に口元を歪ませる。


「パソコンの神様のくせに知らないのか? 」


 ムッと怒ったサンレイが口を尖らせる。


「知ってんぞ、HDMIだろ、HとDとMだから……だから……エッチでディープでマニアックな端子だぞ、エロいのを繋げて見るエロ専用端子だぞ、やっぱしエロは強いな、とうとうエロ専用に繋ぐ規格までできたんだな」

「違うからな、HDMIってのは高精細度マルチメディアインターフェースの略だからな」


 自信満々でこたえるサンレイに英二が声を荒げる。

 からかうつもりが逆にあしらわられている。サンレイの方が一つ上手だ。

 拗ねたように頬を膨らませてサンレイが続ける。


「だってだって、おらパソコンの神様だけど30年くらい前の事しか知らないからな」

「まったく……そうだ! DVI端子なら古いモニターならまだ付いてるのあるよ」

「DVI端子? DV……ドメスティック・バイオレンスだな、ああぁ~英二がおらにモニターケーブルを使って暴力を………… 」

「そんな事するか!! 違うからな! DVIってのはデジタル・ビジュアル・インターフェースのことだからな」


 怒鳴る英二を見てサンレイがニヤッと愉しげだ。


「にへへへへっ、冗談だぞ、んじゃコンポジット使ってテレビに繋げるぞ、姉さんは暴れん坊だからテレビ壊れるかも知れないけどな」

「テレビはダメ!! 壊されてたまるか、まだ買って1年経ってないんだからな、サンレイのディスプレイを使ってくれ」

「そだな、壊れたらおらも見れなくなるからな」


 慌てる英二を見てサンレイがとぼけ口調だ。


「んじゃ、おらのディスプレイ使って起こすぞ、用意してくれ英二」

「でもサンレイのディスプレイ壊れてるよね、壊れてても大丈夫なのか? 」

「壊れててもいい、電気的に動くかどうかは問題じゃないぞ、おらたちは機械じゃないからな神だからな、ただこの世界への出入口としてテレビみたいなのが必要なだけだぞ」


 英二が運んできたディスプレイをポンポン叩きながらサンレイが説明した。


「へぇ、そうなんだ。じゃあ壊れても新しいのとか買う必要無いんだね、じゃあ繋げるか、電源コードにモニタ出力とキーボードだね」


 英二がテキパキとパソコンを繋げていく、

 NECのPC―8801mkⅡSRというパソコンである。

 サンレイのPC―9801VMよりも古いものだ。

 CPUにμPD780C―1と言う物を使っている。

 Z80A相当のZ80シリーズだ。


 全部繋げ終えると英二がサンレイを見つめた。


「これでいい? 間違ってるところとかあったら言ってくれ」


 サンレイがパソコンをぐるっと一回りする。


「いいぞ、でもスイッチ入れたらディスプレイから離れろよ、真ん前じゃダメだぞ、ハチマルの事だから飛んで出てくるぞ」

「わかった。スイッチ入れて離れればいいんだな」


 英二がパソコンのスイッチを入れて直ぐにディスプレイから離れる。


 低いモーター音を立ててパソコンが動き出す。

 音は電源に付いている冷却ファンの音である。

 PC―9801VMのような『ピポ! 』という音は鳴らない、壊れているはずのCRTディスプレイにNEC PC―8801mkⅡSRと表示された後すぐに画面がフッと消えた。


 次の瞬間、テレビから何か飛び出すように出てきた。

 赤茶の髪をした可愛い女の子だ。

 サンレイが偉そうで我侭と言った通り出てきていきなり変な格好で決めポーズだ。


「ズバッと参上! ズバッと解決じゃ、ゼット・ハチマル参上じゃぞ」


 ハスキーな声と共にハチマルがパソコンの前に立つ、

 ハチマルはベリーショートな赤茶髪に少し吊り上がった悪戯っぽい目つきをしたやんちゃそうな娘だ。

 サンレイと違い高校生らしい体型で身長は155センチほどある。

 薄紅色の着物を着ているハチマルの胸に目が行く、着物の上からでも分かるくらいに大きい、巨乳を通り越した爆乳だ。


「大人だ……巨乳だ………… 」


 英二が思わず呟く、美人で爆乳のハチマルを見て嬉しさに頬が緩んでいる。

 ハチマルがすぐにサンレイに気が付いた。


「なんじゃ、誰も驚かんと思ったらお主が先に起きておったんじゃなサンレイ」

「そだぞ、一月半ほど前に英二にピポッと起こされたんだぞ」


 ガッカリした様子のハチマルにサンレイが得意気だ。

 如何にもやんちゃそうなハチマルの隣に立つとサンレイがおしとやかに見える。


「こんにちは、でいいのかな? 高野英二です。サンレイにはお世話になっています」


 こいつに起こされたとサンレイに指差されて英二が頭を下げた。

 お世話をしているのは英二の方だが社交辞令というものである。


「サンレイがおるのなら儂の説明は不要じゃな、じゃから簡単にするぞ、儂は元は山の神で今はパソコンの神じゃ、長い間この中で眠っておってパソコンと混じってしまったようじゃ、神とは言っても儂らはまだまだ下級でモノノケのようなものじゃからな」


 ハチマルが自己紹介を終えた。

 NECのPC―8801mkⅡSRはZ80A相当のCPUを使っている。

 ハチマルという名前と同じ80が付いているZ80シリーズを気に入って眠りについたのだ。

 ゼットというのはサンレイと同じで後から付けてゼット・ハチマルと名乗っているとのことだ。


「さすがお姉さんだな、分かりやすい説明だよ」


 簡単だが的確な説明をするハチマルに英二が感心する。

 サンレイがプクっと頬を膨らまして英二を睨む、


「んだと、おらだってちゃんと説明しただろ英二が聞いてなかったんだぞ」

「聞いてたけど呪うとか祟るとかだけで後はパソコンの神様としか説明してないだろ」


 弱り顔で話す英二を見てハチマルが愉しげに口元を緩める。


「ふふふっ、仲良くやっておるようじゃの、依り代としての相性はいいらしいの」

「そだぞ、相性は抜群だぞ、英二は優しいからな」

「そうか、お主がそこまで言うなら間違いなかろう、今日からやっかいになるぞ英二」


 ハチマルに正面からじっと見つめられて英二の顔がみるみる赤くなっていく、


「こっちこそよろしく」


 サンレイで慣れたのか諦めたのか、一言も文句を言わない、それどころか美人で爆乳のハチマルと一緒に暮らせると思うと嬉しくて仕方が無い。

 英二がデレデレしているのにサンレイが気がついた。


「うぅ~っ、ずるいぞハチマル、なんでお前だけその姿で出てこれんだ」

「お主と違って儂は術に長けておるからのぅ、これくらい雑作もないのじゃ」


 ハチマルが見せつけるようにその場でクルッと一回転した。

 自分のペッタンコの胸を摩りながらサンレイが拗ねるように口を尖らせる。


「おらも巨乳のセクシーがいいぞ、チビじゃなくて大人の姿になりたいぞ、どうにかしろハチマル、ずるいぞハチマル」

「無理じゃ、お主は落ち着きが無いからの、姿を保つには精神の安定が必要じゃ、お主はまだまだ子供ということじゃ」


 ハチマルが姉の貫禄を見せつけるような余裕の笑みだ。

 サンレイが英二に向き直る。


「うぅ~、おらも英二を悩殺したいぞ、本当はおらも巨乳でセクシーなんだぞ」


 ペッタンコの胸を押し付けるようにすがり付いて英二の顔を見上げた。

 ちびっ子じゃなく、ナイスバディのいい女って言ってたのは本当だったのか……、拗ねた顔で抱きつくサンレイを見て英二がなんともいえない残念そうな顔になる。


「わかったから、サンレイはセクシーだから、胸を擦りつけるな」

「だってだって、英二がハチマルに見惚れるから…… 」

「見惚れるくらいに綺麗だから仕方ないだろ、初めて会ったんだし、サンレイに初めて会った時も綺麗で見惚れてたから…… 」


 サンレイの顔がパッと明るくなる。


「綺麗? おらも綺麗か、本当か英二」

「うん綺麗だよ、ハチマルは美人でサンレイは可愛いんだよ」


 機嫌を直したサンレイを更におだてる。


「にへへへへっ、そうか綺麗か、可愛いか、おだてても何もでないぞ、なあなあ英二、おらとハチマルと英二と3人ずっと一緒だぞ」


 すっかり機嫌が良くなったサンレイを見て英二は一安心だ。


「そうじゃな、これから3人一緒じゃ、英二、悪いが水をもらえんか、長い間眠っておったから潤いが足らん」

「分かったすぐに持ってくるよ、そうだアイスクリームがあるから一緒に持ってくるよ」

「おおアイスもあるのか、起きた早々ついとるのう」


 どうやらハチマルもアイスクリームが好物らしい、部屋を出て行く英二をニコニコ顔で見送った。

 英二が出て行ってしばらくしてサンレイがニヤッと企むような笑みを湛える。


「そだ、ハチマルも学校に通え、弁当も学食もおやつも美味しいぞ、朝学校まで歩いてたらみんながお菓子くれるぞ、そんで早弁するんだぞ」

「学校じゃと楽しそうじゃの、食い放題なんじゃな、なら行くしかないのう」

「そだ食い放題の遊び放題なんだぞ、友達もいっぱいできるぞ、ハチマルにも小乃子や委員長を紹介するぞ、みんな優しくて……小乃子は意地悪だけど、とにかく楽しいんだぞ」


 サンレイとハチマルの楽しげな会話が続く、

 高校を遊びの場だと思っているサンレイの話にハチマルが目を輝かせた。

 体は大人だが中身はサンレイとあまり変わりがないようである。

 階段を駆け上ってくる足音に続いて英二が部屋に入ってきた。


「ハイお水、アイスクリーム好きなの選んでよ、今日はハチマルのお祝いだから選ばしてやってくれよ、サンレイはそのあとだ。余分に1つあるから雪見大福は2人で1つずつ分けたらいいよ」


 英二がコップの水をハチマルに差し出したあとテーブルの上にアイスを並べた。

 チョコモナカとカップに入ったバニラと雪見大福の3つだ。

 アイス大好きなサンレイが来てからは冷蔵庫には常に買い置きしてあるのだ。


「おお凄いのう、儂が一番に選んでもいいのか、そうかどれにしようかのう」


 ハチマルはコップの水を飲む間もアイスから目を離さない、本当にアイス好きらしい。


「これが雪見大福だぞ、これは2個入ってるから1つずつだ。あとはチョコモナカと爽だぞ、チョコモナカも爽もどっちも美味いから迷うぞ」


 サンレイが得意気にアイスの説明をした。


「どっちも美味そうじゃの、う~ん、どうするかの……決めた。ここは定番のバニラじゃな、昔とどう違うか確かめるのじゃ」


 迷っていたハチマルがカップアイスの爽を選んだ。

 美味しそうにアイスを食べるハチマルを見てサンレイもニッコリ笑顔だ。


「なあなあ英二、ハチマル楽しそうだぞ、おらからも礼を言うぞ、英二と出会えてよかったぞ、これからもよろしくな英二」

「うん、俺もサンレイとハチマルと会えてよかったよ。これからもずっと一緒だよ」


 姉妹仲良くアイスを食べる向かいで英二の顔が綻んだ。



 アイスを食べ終わったハチマルがマジ顔で英二を見つめる。


「良い力を持っておるようじゃ、依り代としては合格じゃな」

「そだぞ、おらも直ぐにわかったぞ」


 依り代? 何のことか聞こうとした英二が話す前にハチマルが続ける。


「じゃが向かいの部屋から感じる大きな気は少し不安じゃの」


 英二が振り返ってドアを見つめる。


「向かいって兄貴の部屋か? サンレイも言ってたけど…… 」

「兄が居るのか? 今どこにおる。一度会わせろ、何のために力をつけておるのか確かめねばならん」

「兄ちゃんは今は居ないぞ、修業とか言って遊び回ってるんだぞ、そんで年に2回ほど帰ってくるんだぞ」


 英二がこたえる前にサンレイが話してくれた。


「そうか……居場所がわからんのなら仕方ないの、帰ってくるなら急くこともあるまい」

「そんなにバカ兄貴が気になるのか? サンレイも凄いって言ってたけど」


 ハチマルのマジ顔に英二が不安気に訊いた。


「うむ、大きな力を持っておる。良い方へ使えばいいが間違うと大変じゃ」

「大変って何か起きるのか? 俺の金盗むくらいのバカ兄貴だよ」


 不安顔の英二の頭をサンレイがポンッと叩いた。


「英二の兄ちゃんだから大丈夫だぞ」

「そうじゃな、儂らも居るしの」


 笑顔のサンレイと表情を崩すハチマルを見て安堵した英二が思い付くように口を開く、


「そうだ!! サンレイとハチマルは兄貴の隣の部屋を使うといいよ、物置にしてるけどそれ程荷物は置いてないから兄貴の部屋に移せば2人で使えるよ」

「えぇ~、おら英二と一緒がいいぞ、ハチマルも英二と一緒に寝たらいいんだぞ」

「ちょっ、それはいくら何でもダメだろ…… 」


 思わぬ展開に英二がハチマルを伺う、


「儂は構わんぞ、3人一緒に川の字になって寝るんじゃろ」

「はっハチマルと一緒に…… 」


 英二の頭にサンレイのように抱き付いてくるハチマルが浮かんだ。


「でもベッド小さいぞ、おらと英二でいっぱいだぞ」


 英二が邪心を払うように頭を振った。


「そうだよ、ベッドもシングルだし、サンレイと一緒に寝てても落ちそうになったり壁に頭ぶつけたりするんだからさ、2人は向かいの部屋を使ってくれ」

「そうじゃな、そのベッドに3人は無理じゃな、わかった向かいの部屋を使わせて貰うことにしよう、よいなサンレイ」

「えぇ~~、ハチマルだけで使えばいいぞ、おら英二と一緒に寝るからな」


 腕に縋り付くサンレイを英二が引き離す。


「ダメです。向かいの部屋には昔バカ兄貴と使ってた二段ベッドが置いてあるからそこで寝なさい」

「二段ベッド? ほんとか? やったぁ~~、おら上で寝るぞ、ハチマルは下だぞ」


 喜びながら部屋を出て行くサンレイの背に英二が声を掛ける。


「20型で小さいけど去年まで俺が使ってたテレビもあるからさ」

「単純なヤツじゃ、どれ儂も部屋を見に行くか、その後で御両親にも挨拶をせねばな」


 部屋を出て行くハチマルを見て英二が溜息をついた。

 一緒に寝るのをハチマルが断らなかったことは正直惜しいと思ったがサンレイもいるし変な事になって2人に嫌われることを考えると今はこれでいいと思った。

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