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第46話

 参道で並んでいる間に日付が変わり新年を迎える。


「あけおめだぞ」

「おめがおぉ~~ 」

「明けましておめでとう」


 サンレイとガルルンが元気に言うと小乃子と委員長と晴美も笑顔で返す。

 先を歩く秀輝がくるっと振り返る。


「サンレイちゃん、ガルちゃん、あけおめ」

「おう、あけおめ」

「おめでとうがお」


 サンレイとガルルンが手を上げて返した。


「んじゃ、屋台に行くぞ」

「まだ初詣終わってないからな」


 並んで歩くのに飽きたらしいサンレイを英二が叱りつけた。


「まぁまぁ、どの屋台に行くのか順番でも考えようよ」

「おお、流石委員長だぞ、んじゃ考えながら歩くぞ」

「ガルはたこ焼きが一番に食べたいがお」


 委員長の取り成しでサンレイとガルルンが夢中で話し始める。

 10分程歩いて賽銭箱の前に着いた。

 賽銭箱の上、本坪鈴から伸びる鈴緒をガルルンが掴む、


「ガルが鳴らすがお」


 ガラン、ガラン、ガラン、楽しそうにガルルンが鈴を鳴らした。

 賽銭箱の向こうに立つ拝殿をサンレイがビシッと指差す。


「お前にやる金はねぇ! 」

「何言ってんだ!! 」


 慌てて怒鳴った後で英二が続ける。


「謝れ! いくらサンレイより力が下でもこの神社の神様なんだからな」

「わかったぞ、ちゃんとすればいいんだろ」


 プクッと頬を膨らませてサンレイが手を差し出す。


「賽銭投げるからくれ、五円でいいぞ、おらより下の神なんだからな」


 渡そうとする英二を委員長が止めた。


「高野くんダメよ、お賽銭は自分の金を使わないとダメなのよ」

「ああ、そうだったな、サンレイ、自分で出せ財布持ってきてるだろ? 」

「仕方ないなぁ~ 」


 着物の懐に手を入れるサンレイをガルルンが押し退ける。


「ガルに任せるがお、神のデコピンに五円玉ぶつけてやるがお」


 ガルルンが犬の模様が付いた財布から五円玉を取り出した。

 財布は小遣いを貰っているのを知った小乃子がくれた可愛い財布だ。


 サンレイとガルルンは英二の母に毎月3000円ずつ小遣いを貰っているが殆ど使っていない、学校では英二はもちろん秀輝や宗哉が奢ってくれる。

 今日みたいに遊びに来ても宗哉や秀輝が出してくれるので自分の小遣いを使う必要がないのだ。


「ガルが銭形平次みたいにぶつけてやるがお」


 ガルルンは時代劇が大好きで色々知っている。

 サンレイがパーッと顔を明るくする。


「おおぅ、流石ガルルンだぞ、んじゃおらは五円玉より痛い五百円玉をぶつけてやるぞ、この時のために英二の母ちゃんに小遣い貰ってるんだぞ」


 サンレイが蛙の絵が付いた小銭入れから五百円玉を出して握り締めた。


「此処じゃ届かないがお、後ろの本殿に行って御神体に直接ぶつけてやるがお」

「そだな、小銭あるだけぶつけて御神体を破壊してやるぞ、母ちゃんに貰った小遣いが役に立つぞ」


 硬貨を握り締める2人の手を英二が掴む、


「止めろ! そんな事のために小遣いあげてるんじゃないからな、賽銭箱に入れるんだ。ガルちゃんもダメだからね、母さんにちゃんとお参りしたって言うんでしょ? 」


 英二が怖い顔で2人を睨み付ける。

 秀輝たちも弱り顔だ。


「母ちゃんに言うがお? ガルはちゃんとするがお、ガルはできる女がお」


 ガルルンが投げ付けようと上に構えた手を下ろす。


「わかったぞ、ちゃんとすればいいんだろ」


 プクッと膨れっ面でサンレイが十円玉を賽銭箱に放り込む、


「持ってけ賽銭泥棒!! 」

「この貸しは1000倍にして返して貰うがお」


 隣でガルルンも五円玉を放り込んだ。

 100円玉を投げると英二が手を合わせる。


『ごめんなさい、サンレイとガルルンは後で叱っておきますので許してください』


 心の中で英二が必死に謝った。


 サンレイとガルルンを挟んで向こうに並んでいた秀輝も賽銭を入れる。

 後ろに並んでいた宗哉や委員長に晴美に小乃子までが心の中で2人の無礼を謝ったのは言うまでもない。


「んじゃ屋台行くぞ」

「ガルおなかペコペコがお」


 無事に初詣を済ませて神社をぐるっと囲むように並んでいる屋台へと向かった。



 真っ先にたこ焼きの屋台に向かう、どの店のものが美味しいのか鼻の良いガルルンが教えてくれた。


「あの店が良い匂いがお、出汁をケチってない美味しいたこ焼きがお」

「んじゃ先ずはたこ焼きだぞ」


 宗哉の手を取ってサンレイとガルルンが屋台に向かう、


「委員長たちも遠慮なく食べてくれよ」


 爽やかに微笑む宗哉に小乃子たちも付いて行く、花より団子状態だ。


「おお、結構旨いぞ、流石ガルルンだぞ」

「がふふん、屋台の味は結構詳しいがお、夏祭りとかでよく食い逃げしてたがお」


 パクパク食べるサンレイの横でガルルンが得意気に鼻を鳴らした。


「食い逃げを自慢するな」

「ガルちゃんが屋台に詳しいわけがわかったぜ」


 弱り顔の英二の隣でたこ焼きの皿を持ちながら秀輝も苦笑いだ。

 サンレイたちの後ろで食べていた委員長が呟くように言う、


「でも本当に美味しいわね」

「うん、夏に屋台で食べたのより美味しいよ」

「寒いからな、余計に旨く感じるんだな」


 並んで食べていた晴美と小乃子も笑顔だ。


「んじゃ次は肉系のものを食うぞ、ソーセージかイカ焼きか」

「唐揚げとか牛肉串に刺してるのも売ってたがお」

「おおぅ、それにするぞ、宗哉行くぞ、その後で外ればかりのクジを引くぞ」


 サンレイとガルルンが遠慮なく宗哉におねだりする。

 2人のついでといった感じで小乃子や委員長に晴美も奢って貰って屋台の味を楽しんでいた。


「外ればかりってわかってるクジを引いて面白いのかな…… 」


 はっきり言って普段よりぼったくりの屋台で散財するのは勿体無いと思っているので2人を止めようとするが宗哉があれこれ奢ろうと誘うので英二は弱り顔だ。

 秀輝が英二の肩をポンッと叩く、


「宗哉も嬉しそうだしいいんじゃね、俺も奢ろうと思って多めに持ってきたんだがな、此処で使わない分は四国で使うよ、ゴールデンウィークが楽しみだぜ」


 四国へ行くことは車の中で話してある。もちろん全員賛成だ。



 神社の横を通っている道路のガードレールを椅子代わりに英二と秀輝と宗哉が並んで座る。

 着物が汚れないように英二の膝の上にサンレイが座って秀輝の上にはガルルンが座って仲良く焼きそばを食べている。


「ちっちゃい肉とキャベツがちょっと入ってるだけの焼きそばが何でこんなに旨いんだろな? ソースが違うんかな? 」


 口の周りを油やソースで汚しながらサンレイが美味しそうに焼きそばを啜っている。


「ラードを使って炒めてるから肉少なくても肉の味がするがお、あとは外で食うと何でも旨くなるがお」


 啜るのが苦手なのかガルルンは箸に麺をクルクル絡ませてからパクついていた。


「よく食べるな……何個目だ」


 汚れたら直ぐに拭こうとハンカチを握り締めながら英二が訊いた。


「たこ焼きだろ、回転焼きだろ、牛串にトウモロコシにたこ焼き2個目だろ、そんで焼きそばだぞ」


 指を折って数えるサンレイにガルルンが付け足す。


「じゃがバターとウインナーが抜けてるがお、腹八分目がお」

「あれだけ食って八分目かよ」


 サンレイより大きなガルルンが膝から落ちないように抱きかかえながら秀輝がうんざりした顔だ。

 英二と秀輝はサンレイたちと一緒に結構食べたが既に満腹でじゃがバターとたこ焼き2個目と焼きそばは食べていない。

 サンレイが食べ終わった焼きそばのパック皿を英二に渡す。


「あとは清ちゃんと母ちゃんに何かお土産買っていくぞ、頼んだぞ宗哉」

「土産までねだるつもりか」


 サンレイの口元を拭きながら英二が怒鳴る。


「あははははっ、構わないよ、誘ったのは僕だからね、サンレイちゃんとガルちゃんが喜んでくれるなら何でもするよ、委員長たちもみんなの分のお土産も買おう、それなら英二くんもいいだろ? 」


 並んで右に座る宗哉が英二の顔を覗き込んだ。


「いや、流石にお土産までは…… 」


 弱り顔の英二の左で秀輝が他人事のように口を開く、


「今日の分は宗哉からのお年玉って事でいいんじゃね」

「そうだよ、僕も楽しんでるんだからさ、みんなで初詣なんて初めてだからね」

「宗哉がいいなら……いいけどさ」


 2人に押し切られるように英二が頷いた。

 ガルルンが食べ終わった焼きそばのパックを畳む、


「お土産は回転焼きと人形焼きがいいがお、レンジでチンして食べられるがお」


 秀輝が抱きかかえるガルルンの口元を英二がハンカチで拭く、


「こんな贅沢は今日だけだからな」


 諦め顔で英二が言った。



 歩道を挟んで向かいの小さな空き地に折り畳み椅子を置いて小乃子たちが座ってた。

 折り畳み椅子はララミが持っていたものだ。大型のバンに積んでいたものを持ってきた。

 サンレイたちが着物姿なのを見て汚れないようにと持ってきたのだが急だったので3つしかなく、サンレイとガルルンは英二と秀輝の膝に座ったのだ。


 委員長が着物の帯を撫でる。


「ちょっと食べ過ぎちゃったわね」

「私たち3人で分けながら食べてるけどちょこちょこ摘まむから知らないうちに食べ過ぎちゃうよね」


 晴美が楽しそうに言う横で帯がキツいのか小乃子が着物を整えながら口を開く、


「サンレイとガルちゃんに釣られて食っちゃうからな」


 晴美が笑いながら振り向いた。


「うん、2人とも美味しそうに食べるもんね」

「あの2人、小さいのによく食べるから…… 」


 委員長が呆れ顔で向こうにいるサンレイとガルルンを見つめる。

 釣られるように小乃子と晴美もサンレイたちを見る。


「毎日宗哉が持ってくる弁当も食べてるしな」

「宗哉くんのお弁当は美味しいから我慢できなくて食べちゃうよね」


 委員長が前屈みになって声を潜める。


「一食いくら掛かってるのかしら? 高級レストランや料亭のお弁当って感じよね」

「アレは旨いよな、サンレイの御陰で毎日御馳走だ」


 小乃子も声を潜めて返す。

 普通に話しても宗哉たちには聞こえない距離だが女同士の内緒話と言うことだ。


「でもこんなに楽しい初詣は初めてだよ」


 宗哉に貰ったキーホルダーを晴美が大事そうに握り締めた。

 サンレイと一緒にクジを引いて外れで貰ったキーホルダーだ。

 誰かいらないかと持て余す宗哉にサンレイとガルルンが晴美にあげろと言ってくれて貰ったものだ。

 何の変哲もない犬を象ったステンレス製のプレートが付いた安物のキーホルダーだが宗哉に貰ったので嬉しいのだ。



 休んでいた英二たちに何やら騒ぎが聞こえてきた。


「喧嘩か? 」


 訝しむ英二の膝からサンレイがポンッと飛び降りる。


「妖気を感じるぞ」

「匂うがお、妖怪が居るがう、どこかで嗅いだことのある匂いがお」


 ガルルンも秀輝の膝から飛び降りた。

 右に座る宗哉がサッと振り向く、


「妖怪? 英二くんを狙ってきてるのか? 」

「正月早々かよ」


 立ち上がると秀輝がお尻の汚れを叩いて落とす。

 サンレイとガルルンが振り返ってニヤリと笑う、


「どんな妖怪だろうと英二に手出しはさせないぞ」

「がふふん、ガルとサンレイがいるがお、そこらの妖怪なんて敵じゃないがう」

「行くぞガルルン」

「先手必勝がお」


 サンレイとガルルンがダダッと走り出す。


「ちょっ、慌てるな! まだ敵と決まったわけじゃないだろ」


 英二たちも急いで後を追う。

 歩道を挟んで向かいの空き地で休んでいた小乃子たちに付いていたメイロイドのララミとサーシャが反応する。


「サンレイ様! 」

「御主人様を追い掛けます」


 サッと走り出すサーシャと違いララミは小乃子たちに告げてから駆けだした。


「何かあったようね」

「あたしたちも行くぞ」


 委員長と小乃子に無言で頷くと晴美たちが駆け出す。

 まだ人混みも多く、着物も着ているので走ると言っても早足程度だ。

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