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第44話 大晦日

 大晦日、英二は今日もバイトである。

 昨晩10時過ぎにバイトから帰ってきた英二はサンレイとガルルンと深夜まで遊んで今朝の9時半まで寝ていた。


「英二おはようがお」


 怠そうに起きてきた英二にガルルンが駆け寄る。


「今日もバイトがう? 休みなのに英二とは夜しか遊べないがお」


 ガルルンのしょぼくれ顔を見て英二の眠気が一気に引いた。


「おはよう、ごめんねガルちゃん、年末は普段より時給が120円も高いし今年は人手が足りないって秀輝の親戚の店長が困ってるからさ、こういう時に出てれば俺が用事ある時も融通を利かせてくれるしさ」


 ガルルンの頭を撫でながら英二が謝る。

 可愛いガルルンに服でも買ってやろう、そう考えると連日のバイトの疲れも吹っ飛んでいく、


「今日も英二居ないのか? 清ちゃんも宴会に行って居ないし退屈だぞ」


 ムシャムシャと菓子パンを食べながらサンレイがやってくる。


「父さんを『ちゃん』付けにするな、サンレイが今食ってるパンも父さんが働いて稼いだ金で買ってんだからな」


 叱る英二の腕をサンレイがポンポン叩く、


「清ちゃんは清ちゃんだぞ、赤ちゃんの時から知ってるからな、おらにとっては友達みたいなものだぞ」


 清とは英二の父親の高野清のことだ。

 2日前から父も休みでサンレイとガルルンの遊び相手になってくれて連日バイトの英二は大助かりだ。


 反対側の手をガルルンが引っ張る。


「ガルは父ちゃん好きがう、昨日はオセロゲームで遊んだがお、それと将棋を教えて貰ってるがお、母ちゃんは料理旨いし、ガルは英二の父ちゃんも母ちゃんも大好きがお」


 英二がくるっと振り返ってガルルンの頭を撫でる。


「ガルちゃんは可愛いなぁ~~ 」


 抱き締めたくなるのを我慢して続ける。


「ガルちゃんはお手伝いもするって父さんも褒めてたよ、ガルちゃんは俺の娘だって喜んでるよ」


 英二の背中によじ登るようにしてサンレイが大声を出す。


「なにぃ~、清の奴そんなこと言ってるんか、おらよりも優れたガルルンなんて居ない、おらの力を思い示さないとダメだぞ」


 肩に足を掛けようとするサンレイを押し上げて肩車をしながら英二が口を開く、


「父さんに変な事はするなよ、サンレイの事も褒めてるから、立派な神様だって喜んでるから、ガルちゃんもサンレイも娘だって俺なんかより大事にしてるだろ、小遣いも貰ってるだろ……俺の小遣いは無くなったけど、バイトしてるからいいけど……だから変な事はするな、2人とも大事に思ってくれてるよ、俺は放ったらかしだけどな」


 肩に乗ったサンレイが英二の頭をポンポン叩いた。


「にゅへへへへっ、わかってんぞ、清ちゃんに変な事なんてするわけないぞ、おらは神様だからな、アイスも買ってくれるしな」

「アイス目的か…… 」


 呆れる英二の手をガルルンが引っ張る。


「ガルはいっぱい手伝うがお、父ちゃんも母ちゃんも楽させてやるがお」

「ガルちゃん…… 」


 英二が感動するように上を向く、肩車をしていたサンレイが落ちそうになって必死にしがみついた。


「痛ててて…… 」

「落ちたら危ないだろ! 」


 首を締め付けられて苦しむ英二をサンレイが怒鳴りつけた。

 サンレイに引っ張られた頭をガバッと前に出すと英二も怒鳴る。


「殺す気か! さっさと降りろ」


 サンレイの腰に手を伸ばして抱きかかえるようにして肩から降ろす。

 以前の英二なら立ったまま降ろすなど不可能だっただろう、秀輝と一緒に体を鍛えているのは伊達じゃない、その鍛練が霊力の制御にも効果が出ている。

 英二の霊気を爆発させる能力は更に進歩していた。



 遅い朝食をとる英二の左右でサンレイとガルルンが世話をする。


「英二、あ~んだぞ、おらが食べさせてやるぞ」


 サンレイがミニトマトを摘まんで英二の口元に持っていく、


「自分が嫌いだから俺に食わせてトマトを無くそうって思ってるだろ」


 冷蔵庫から態々持ってきたサンレイの企みなどお見通しだ。


「ちっ、違うぞ、おらは英二の健康を考えてるんだぞ」

「そのミニトマトは今晩サラダに使うヤツだ。母さんに食べないとダメって言われる前に俺に食わして無くそうって魂胆だろが」


 じろっと睨む英二の前でサンレイの目が泳ぐ、


「ちっ、違うぞ、トマトが英二に食われたいって言ってんだ。おら神様だから分かるんだぞ、トマトの声が聞こえんだぞ」


 溜息をつくと英二がサンレイの持っているミニトマトをぱくっと食べる。


「バイトで晩飯食わないからな俺の分のミニトマトは食っとくよ」


 サンレイの顔がパーッと明るくなる。


「遠慮無しで食え、おらの分のトマトは英二が食ったって母ちゃんに言っとくぞ」


 全く……、呆れながら英二が小皿に漬け物をとる。

 白菜の漬け物に一味を掛ける英二の手元をガルルンがじっと見つめる。


「辛いのいっぱい掛けるがお…… 」


 厭そうに顔を顰めるガルルンを見て英二が笑う、


「俺は辛いの好きだからな、これだけで御飯のおかずになるよ」

「ガルは赤いのは好きだけど辛いのは苦手がお」


 英二を挟んで反対側に座るサンレイが一味がたっぷり掛かった漬け物を摘まんで口に放り込む、


「ガルルンはお子様だからな、おらなんて激辛カレーも食えるぞ」


 自慢気に胸を張るサンレイをガルルンだけでなく英二も厭そうに見つめる。


「混ぜる前の一味山盛りのヤツよく食えるな、唐辛子の塊は俺でも無理だぞ」

「にへへへへっ、神様だからな、甘いのも辛いのも平気だぞ、酸いも甘いも噛み分けるってヤツだぞ」

「酸いも甘いもって意味が違うからな、甘いのや辛いのいくらでも食えるって意味じゃないからな、酸っぱいのや甘いのの判断が直ぐに出来るって事で経験豊富の喩えだからな」


 説明する英二の前でサンレイがペッタンコの胸を自慢気に張る。


「そだぞ、アイスと辛子の経験豊富だからな、お子様のガルルンとは違うんだぞ」

「トマトも食べれない子がガルちゃんを子供扱いするな」


 叱る英二の横でサンレイがバンッとテーブルを叩く、


「んだと! 英二もグリーンピース残すぞ、子供も大人も関係ないぞ、食えないものは食えないんだぞ」

「 ……だな、サンレイの言う通りだ。苦手なものは苦手だ」


 誤魔化すように言うと英二は御飯を掻っ込んだ。



 遅い朝食の後でサンレイとガルルンとゲームをして遊んだ。


「もう昼か……着替えるかな」


 バイトに行くので寝間着のジャージを着替えようと立ち上がる英二にサンレイが抱き付いた。


「もっと遊ぶぞ、バイトなんかサボるといいぞ」

「そうがお、何処か遊びに行くがう、ずっと家の中がお」


 反対側からガルルンも抱き付いて離れない。

 弱り顔の英二がボサボサ頭を掻き毟る。


「帰ってきたら初詣に連れて行ってやるからさ、宗哉に頼んでるから近くの神社じゃなくて向こうのデカい神社に行くからな、屋台が出てて楽しいぞ、だから離してくれ」

「初詣がお? 宗哉が連れて行ってくれるがお? この前言ってたヤツがお」


 子犬のように首を傾げながらガルルンが英二を離す。


「うん、秀輝や小乃子に委員長と篠崎さんも一緒だ。みんなで年越しして遊ぶんだ」

「やったぁ~~、みんなで遊ぶがお、屋台でたこ焼き食べるがう」


 ガルルンは離れたがサンレイが抱き付いたままだ。


「サンレイも離してくれ、帰ってきたら遊んでやるからさ」


 離そうと手を掛けるとサンレイが余計にしがみつく、


「それはそれ、これはこれだぞ、単純なガルルンと違っておらは騙されないぞ、今日は英二と一日中遊ぶんだぞ」


 その時、呼び鈴が鳴ってガルルンがバッと顔を上げた。


「小乃子がお、小乃子が来たがお」


 英二に抱き付いていたサンレイがサッと離れる。


「小乃子だけか? 委員長と晴美はまだか? 」

「小乃子だけがお、小乃子一人がう」


 サンレイとガルルンが玄関へと駆けていく、


「早めに来てくれたのか……助かったぜ」


 二人の後から英二も玄関へと向かった。



 サンレイが元気よく玄関のドアを開ける。


「小乃子よく来たな、遠慮なく上がるんだぞ」

「いらっしゃいがお、一緒にゲームするがう」


 満面の笑みで迎えるガルルンの頭を撫でながら小乃子が口を開く、


「ちょっと早いと思ったんだが英二がバイトに行く前に来た方がいいと思ってさ、英二が居ないのに勝手に上がるのも何だしさ…… 」


 居候のサンレイとガルルンだけでは遊び辛いと小乃子なりに気を使ったのだろう。


「いや、助かったよ、バイト行くって言ったら離してくれなくなったからな、小乃子が来たからさっき離してくれたんだぜ」

「あははははっ、学校より休みの方が大変そうだな」


 弱り顔の英二を見て小乃子が大笑いだ。


「うん、学校だと朝昼は秀輝や小乃子に相手を頼めるからな」


 力無く言うと英二が手招く、


「上がってくれ、俺はもうバイト行くから後は頼んだぞ、ゲームでもテレビでも漫画でも好きに使って遊んでくれ」

「お邪魔しま~す」


 小乃子が靴を脱いで上がるとリビングにいた母が顔を出す。


「小乃子ちゃんいらっしゃい、菜子さんたちも来るんでしょ? 遠慮なく遊んでいってね、あっ、あとでシュークリームとプリン持っていくわね、張り切って作ったから結構いい出来よ」

「お邪魔します。おばさん料理旨いから楽しみにしてますね」


 小乃子がペコッと頭を下げる。

 お世辞ではない英二の母が料理上手なのは小乃子だけでなく委員長も知っている事だ。


「そだ。委員長と晴美は来ないのか? 」


 母の話で思い出したのかサンレイが訊いた。


「後で来るよ、英二の部屋で遊ぶんだろ? だったら英二の顔見とこうと思ってあたしだけ先に来たんだ。菜子と晴美は昼飯食った後だ。1時頃に来るってさ」


 不安気に聞いていたガルルンが笑顔になる。


「よかったがお、みんなで一緒に妖怪テレビ見るがう」

「妖怪テレビ? 何だそれ? 」


 興味津々で訊く小乃子の手を引っ張ってガルルンが階段を上っていく、小乃子の後ろから階段を上るサンレイがくるっと振り返る。


「んじゃ英二はもういいぞ、バイトでも何処でも行っていいぞ」

「なんだよ、その手の平返しは」


 ムスッとする英二を見てサンレイがニヤッと悪い顔で笑う、


「英二はもう用済みだぞ、これから女子会するんだからな、みんなで英二の悪口を言い合うんだぞ」

「厭な女子会だな……俺だけじゃなくて秀輝の悪口も追加しといてくれ」


 冗談だと思うが叱っても無駄なので秀輝を巻き込むことにした。


「にゅひひひひっ、了解だぞ、英二と秀輝の悪口で盛り上がるぞ」


 サンレイと一緒に階段を上って自分の部屋に行くと着替えと財布を手に持つ、小乃子が来ているので風呂場の脱衣所で着替えてバイトに行くつもりだ。


「おっ、新しいゲームだな」


 先に部屋に入った小乃子がテレビの前に置いてあるゲーム機を見つけた。


「みんなで一緒にやるがお、双六のヤツなら晴美もいいんちゅもみんなで出来るがお」


 ガルルンが嬉しそうにゲームソフトの入っている箱を持ってくる。


「おう、いっぱいあるなぁ、前に来た時よりも倍以上に増えてるんじゃないか? 」


 ソフトをあれこれ選ぶように見ている小乃子に英二が照れるように話し出す。


「うん、あれからいっぱい買った。バイトしてるからな、サンレイもガルちゃんもゲーム好きだからな」


 着替えを小脇に抱えて英二が続ける。


「じゃあ頼んだぞ小乃子、俺の部屋にあるのは適当に触っていいからさ」


 出て行こうとした英二を見て小乃子が意地悪顔でニヤッと笑う、


「ん? いいのか? エロいもの探したりするぞ」

「残念でした。そういうのは処分したよ、格好つけるわけじゃないけどサンレイやハチマルにエロい男って思われたくないからな、思い切って全部処分した。だから探しても無駄だ。片付けるの面倒だしプラモとか壊れると困るから家捜しみたいな真似するなよ」


 堂々と話す英二を見て小乃子が惜しそうに口を開く、


「なんだつまんねぇの、エロいの見つけてからかってやろうと思ってたのに…… 」

「変な事しないでガルちゃんとゲームでもして遊んでろ」


 余裕に話す英二の後ろでサンレイがニタリと悪い顔で話し出す。


「おら知ってるぞ、英二の好きな巨乳のエロい本は押し入れの中だぞ、ハチマルに見つからないように殆ど処分したけどお気に入りで捨てられないのは隠したんだぞ、プラモの箱の中に大事に仕舞ってるぞ」

「わあぁぁ~~、何で知ってる!! 」


 焦った英二が大声を出しながら持っていた着替えを落とした。


「にゅひひひひっ、おらに隠し事なんて出来ないぞ、当然ハチマルも知ってるぞ」

「いや、違うから……あれはその……違うからな………… 」


 焦りまくる英二を見て小乃子が腹を抱えて笑い出す。


「あははははっ、英二はおっぱい星人だからな」

「おっぱい星人? 何がう? 英二はおっぱいが好きがう? ガルのおっぱいなら好きにしてもいいがおよ」


 不思議そうに見上げるガルルンを見て英二の顔が真っ赤に染まっていく、


「いや……おっぱいは好きだけど…………ガルちゃん、そんな事言ったらダメだよ」


 顔どころか全身真っ赤な英二を見て小乃子が笑い転げて苦しそうだ。


「あはっ、あははははっ、あははっ、苦しい、笑い殺す気か」

「勘弁してくれ…… 」


 弱り切って謝る英二を見て笑い転げていた小乃子が上半身を起こす。


「まぁ、男なんてそんなもんだ。気にすんな、あたしは全然平気だからな」


 何が平気なのかと思いながら英二が落とした着替えを拾う、


「じゃあ、任せたぞ、サンレイが変な事しないようにな」

「任せろ、菜子と晴美と一緒に面倒見ててやるよ」


 楽しそうにこたえる小乃子を見て英二が安心したように頷く、


「頼んだぞ、初詣行ったら屋台で何か奢るからさ」


 部屋を出て行く英二の背にサンレイが声を掛ける。


「アイス忘れるなよ」

「はいはい、アイスとチーカマ買ってくるから大人しく小乃子たちと留守番しててくれ」

「いってらっしゃいがお、初詣楽しみに待ってるがお」


 じゃあと手を振ると疲れた顔をした英二が部屋を出て行った。

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