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第41話

 ハマグリ女房が艶っぽい目で英二を見つめる。


「英二さんお願い、もう一度チャンスを頂戴、愛しているのよ英二さん、英二さんのためなら私はどんな事でもするわ、私と愛し合いましょうよ、ねぇ英二さん」

「いや……それは…… 」


 色っぽいハマグリ女房に英二はしどろもどろでこたえられない。


「騙されんな英二、人間に化けてるだけでデカい貝の化け物だぞ」


 悪い顔でにやつくサンレイをハマグリ女房が怖い目でキッと睨む、


「それがどうしたのよ、そっちのワンちゃんだって犬の化け物じゃない」

「がふふん、ガルは神狼の血を引く火山犬がお、先祖の誰かが人と交じってるがう、それで本当の姿も人と交じったような姿がお、でも犬分が多いから怖い姿がお、だから普段は今の姿をしてるがう、この姿も変身してるんじゃないがお、何段階かある姿の一つがお、だからこの姿も本当の姿と同じがう、お前のようにショック与えられただけで本性を現わす、ぽっと出のそこらの生物や器物が変化した妖怪と一緒にしてもらっては困るがお」


 得意気に鼻を鳴らすガルルンの後ろで最後まで座っていた秀輝が立ち上がった。


「そうだぜ、ガルちゃんは犬が混じってるから可愛いんだぜ、そこんところ間違うなよ」


 ガルルンが振り返って幼女が怒ったような顔を向ける。


「犬が混じってるんじゃないがお、人が混じってるがう、基本は犬の妖怪でそれに人が混じってるがお、だから人間みたいに賢いがう」

「へへへっ、悪い悪い、どっちにしろ可愛いって言いたかったんだぜ」

「可愛いがお? わふふふっ、秀輝はわかってるがお、許してやるがう」


 一瞬で機嫌を直すと前に向き直ったガルルンの頭をサンレイがポンポン叩く、


「ガルルンはバカ犬だぞ、でもお前みたいな軟体動物よりかは遙かにマシだぞ」

「ガルはバカじゃないがお、ペッタンコのサンレイに言われたくないがお」


 ガルルンがサンレイの手を鬱陶しそうに払い除けた。


「んだと、本当のおらはナイスバディだぞ、今はちょっと調子悪くてこんな姿になってるだけだぞ」


 突っ掛かっていくサンレイの頭を委員長がポンッと叩いた。


「ハイそこまで、喧嘩しないの、今はそんな事してる場合じゃないでしょ」

「そうだよ、二人とも可愛いから喧嘩しないでくれ」


 宥めるように言うと英二がハマグリ女房に向き直る。


「悪いけど料理勝負はもうしない、ハマグリさんは料理が得意なんだろ? だったら俺の事が本当に好きなら嫌いなものや好きなものくらいは調べるだろ、俺に聞けばグリーンピースがどうしても食べられないって直ぐにこたえたよ」

「お前本当に英二が好きなのか? 英二がグリーンピースが嫌いな事くらい秀輝やあたしだって知ってるからな、本当に好きな人に食べさせる手料理には嫌いなものなんて入れないよな」

「そうだよね、本当に好きなら何が食べたいとか嫌いなものは何とか聞くよね」


 小乃子だけでなくおとなしい晴美までもが懐疑的だ。

 英二の前に宗哉が立つ、サンレイとガルルンの後ろだ。


「僕たちの勝ちだ。約束通り情報ってヤツを教えて貰うよ」

「情報? 何のことかしら? 負ければ私を自由にしてもいいって話しだったじゃない、だから自由にしていいわよ英二さん、たっぷり可愛がってね、何でもしてあげるわよ」


 とぼけるハマグリ女房にサンレイが切れる。


「んだと、お前なんかに英二を好きにさせないぞ、英二はおらのものなんだぞ」

「ボコらないとわからないがお、ガルが痛めつけてやるがう」


 ガルルンが爪に青い炎を灯して威嚇する。


「冗談は止してくれ! 英二くんが妖怪に襲われる訳を知っているんだろ? それを教えるって約束だよ」


 普段冷静な宗哉が大声を出した。

 好意を寄せている英二が危険にさらされるのには訳があるというのだ。

 その情報を知るために宗哉が本気で怒っていた。


「宗哉…… 」


 後ろで見ていた英二や秀輝が思わず引くくらいだ。

 晴美がビクッとして宗哉の背を見つめている。委員長と小乃子も驚き顔だ。


 戦闘態勢を取っていたサンレイとガルルンも思わず振り返る。


「落ち着くんだぞ宗哉、こんなやつ相手に怒んな」

「そうがお、ガルとサンレイに任せるがう」

「ありがとうサンレイちゃん、ガルちゃん、怒鳴って済まなかった。ハマグリさんにも怒鳴った事は謝るよ、英二くんが心配だからつい怒ってしまった」


 ハマグリ女房に頭を下げると宗哉がマジ顔で話し出す。


「サンレイちゃんとガルちゃんの強さはハマグリさんも知っているよね、力では敵わないから得意の料理勝負に持ち込んだ。僕たちにとって不利な条件を呑んで料理勝負を受けたのはハマグリさんが情報を持っていると言ったからだ。そうでなければこんな勝負は受けていない、力尽くで戦えば済むからね、勝負は僕たちの勝ちだ。約束通り情報を渡してくれないか? でないとサンレイちゃんやガルちゃんと戦う事になるよ」


 宗哉はいつもの冷静さを取り戻している。


「あんな約束するんじゃなかったわ……絶対に勝てると思っていたのに…… 」


 ハマグリ女房が大きな溜息をつく、


「教えてくれるんだね、じゃあ座って話そうか」

「初めから素直に話せばいいんだぞ」

「ちゃんと話せばボコらないがお」


 宗哉だけでなくサンレイやガルルンも気を抜いた。

 一瞬の隙を付いてハマグリ女房が英二に飛び掛かる。


「ぐぅぅ…… 」


 唸る英二の首にハマグリ女房の腕が絡みつく、握って絞めているのではない腕がヘビのように巻き付いていた。

 普通の人間では有り得ない、まるで骨のないゴムのような腕だ。


「手荒な事しなくて済むと思ったのに…… 」

「英二くん!! 」

「お前何やってんだ! 直ぐに英二を離せ、でないとぶっ殺すぞ」


 宗哉が叫び、サンレイが怒鳴る。

 飛び掛かろうとしたガルルンを委員長が必死に押さえる。


「いいんちゅ、離すがお、クソハマグリをぶん殴ってやるがう」

「ダメよ、英二くんが人質に取られてるでしょ」


 一番後ろにいた秀輝がそっとハマグリ女房の背後に向かう、


「秀輝とか言ったわね、見えてるわよ、変な事したら英二さんの首をへし折るわよ」

「なんだ…… 」


 後ろから英二を助けようとした秀輝がその場に固まった。

 ハマグリ女房の髪の間から白い管のようなものが出てきて秀輝を見ていた。


「それが正体だぞ、貝の妖怪だぞ、軟体生物だからな骨が無いから自由に曲がるんだぞ」

「お吸い物に入ってたハマグリと同じがお、デカいハマグリの化け物がう」


 どうにか英二を助けようと構えながらサンレイとガルルンが言った。


「キモい……キモすぎるよ…… 」


 思わず小乃子が呟く、


「なんですって! 」


 ハマグリ女房の着物の股から貝の足が伸びて小乃子にぶち当たる。


「あうぅ」


 小乃子が仰け反るようにして後ろに倒れた。


「こっ…… 」


 小乃子と叫びたいが喉を絞められた英二は声が出せない。

 次の瞬間、ボンッという大きな音と共にハマグリ女房が吹っ飛んだ。


「がっ、がはっ、ぐうぅ……小乃子、大丈夫か小乃子」


 喉が痛いのも忘れて英二が小乃子に駆け寄った。

 爆発能力を使ってハマグリ女房を引き離したのだ。

 ハマグリ女房が腕を放さなければ自分も首を絞められて死んでいたかも知れないが小乃子が殴られたのを見て我を忘れて咄嗟に爆発させていた。


「英二よかった」


 小乃子も痛いのを忘れて英二に抱き付く、


「くそっ、英二さんがあんな力を………… 」


 驚きを顔に浮かべて上半身を起こしたハマグリ女房をサンレイとガルルンが囲んだ。


「にひひひひっ、形勢逆転だぞ」

「英二だけじゃなく小乃子にも酷い事をしたがお、二人が許してもガルが許さないがう」


 ハマグリ女房を挟んでニタリと悪い顔をするサンレイの向かいでマジ顔のガルルンがギラッと目を光らせた。


「待てよ! 」


 小乃子を脇にやると英二がやって来る。


「英二さん助けて、二人が乱暴しようとするから仕方なくやったのよ、英二さんを傷付けるつもりなんてないわ、演技よ、だからお願いよ」


 サンレイとガルルンの間から顔を出すとハマグリ女房がこれでもかという可愛い笑みを見せた。


「俺の事はどうでもいい、演技だって? じゃあ何で小乃子を殴った! 」


 英二が怒鳴った。

 いつもの冗談交じりではない本気の怒りだ。


「俺も戦うよ、小乃子を殴ったこいつは許せない」

「英二、あたしは大丈夫だからな」


 本気で怒ってくれた英二を見て小乃子が嬉しそうに声を掛けた。


「英二くん、違うのよ…… 」


 狼狽えるハマグリ女房を見てサンレイが不気味に笑いながら口を開く、


「何が違うんだ? とっとと正体を見せろよ」


 サンレイの手からバチバチと雷光が伸びてハマグリ女房を包み込む、


「フギャァ~~ 」


 奇妙な叫びを上げるとハマグリ女房の身体が変化していく、白いブヨッとした体に突き出した2本の入出水管、筋肉質の大きな足、まさに巨大な二枚貝と言った風体だ。


「本当に貝なのね、キモいわね」

「うん……さすがにあんなに大きかったら一寸怖い」


 委員長と晴美が顔を顰める。

 そこへ小乃子が元気にやって来る。


「美女の正体見たり、キモい化け貝ってか」

「またぶん殴られるわよ」

「へへん、やれるものならやってみろ、英二がマジで怒ってるんだよ、あんなやつ爆発で一コロだよ」


 厭味を言う委員長にも動じない、自分のために英二が怒ってくれたのが余程嬉しかったのだろう。

 正体を現わしたハマグリ女房が後ずさる。


「くそっ、こんなはずじゃ……勝負に勝って英二をあの人の所へ連れて行く計画が……」


 ガルルンがハマグリ女房の退路を断つ、


「逃がさないがお、ガルは鼻がいいがう、スピードも負けないがお、何処に逃げても追って必ず仕留めるがお」

「ここからはおらのターンだぞ、電気でこんがりバーべーキューにしてやんぞ」

「約束も守らずに小乃子に酷い事をしたお前は俺も許さないからな」


 体からバチバチと青い雷光を走らせたサンレイの隣で英二も怒ったマジ顔だ。

 後ろから宗哉が英二の腕を引っ張った。


「二人とも待ってくれ、英二くんも怒りを静めてくれ、ハマグリにはまだ聞きたい事がある。あの人って何のことだ? お前の言っていた情報と関係あるんだな」


 大きな貝の姿に戻ったハマグリ女房が2本の入出水管を宗哉に向けた。


「フフフフッ、聞いていたの? 冷静ね、私とした事が思わず話してしまったわ、あの人は私の愛する人よ、英二さんではなく本当に私が愛する人……その人に英二さんをプレゼントしようと思っていたのよ、英二さんの持っている巨大な霊力を欲しがっているから、その為に近くにいた妖怪どもを嗾けたんだけどバカばかりでダメね」

「嗾けた? それじゃあ、ふんばり入道や旧鼠に英二くんの事を教えたのお前か? 」


 顔を顰める宗哉にハマグリ女房が首を傾げるように2本の入出水管を曲げる。


「ふんばり入道? そんなの知らないわよ、旧鼠に教えたのは私だけどね、英二さんを食らって霊力を手に入れた旧鼠をあの人の元へ連れて行き、旧鼠から霊力を奪えばいいって思ってたのにバカ鼠が失敗するから……やっぱり他人を当てにしてはダメね」


 サンレイが今まで見せた事のないような険しい顔になった。


「英二の霊力が大きくなって近くにいる妖怪が察知して集まってくるのはわかってたぞ、ふんばり入道もあはんも旧鼠もそうしてやってきたと思ってたぞ、でも旧鼠はお前が呼んだんだな、英二の事を狙ってるヤツがいるってことだな」

「英二を狙ってるがお? 殺して霊力を奪うつもりがう、そんなことはガルが許さないがお、英二はガルとサンレイが守るがう」


 マジ顔で牙を剥くガルルンに普段の可愛さは無い。


「サンレイちゃん、ガルちゃん、待ってくれ、まだ聞かなきゃいけない事がある」


 今にも戦いを始めそうな二人を宗哉が止めた。


「あの人って誰なんだ? お前や旧鼠よりも強い妖怪なのは想像できる。そんなのが英二くんを狙っているなら大変だ。教えてくれればサンレイちゃんとガルちゃんに手は出させない、ハマグリさんをこのまま無事に帰すと約束するよ」

「フフフッ、言うと思って? 約束通り、英二さんが妖怪に襲われる訳は話したわよ、これ以上話す義理はないわね、私が愛する人を売るような事するわけないじゃない」


 上から目線でバカにしたように笑うハマグリ女房を前後から挟んでガルルンとサンレイがギロッと目を光らせる。


「いい度胸がお、ボコボコにして聞き出すがう」

「さっさと言わないとほんとに殺すぞ」

「まっ、待って、わかったわよ、話せばいいんでしょ」


 怯える素振りをしながらハマグリ女房が背中に背負う貝殻から玉を二つ取り出した。


「あの人は大妖怪よ、ちんちくりんの神様もワンちゃんも敵いはしないわ」


 ハマグリ女房が二つの玉を床に転がす。

 次の瞬間、爆音と閃光が英二たちの目と耳を塞いだ。


「うわっ!! 」

「んだ!? 」

「きゃ~~ 」


 直ぐ傍にいた宗哉とサンレイが驚き声を上げ、後ろで晴美が悲鳴を上げた。

 英二や秀輝に小乃子や委員長も呻きや悲鳴を上げている。

 閃光は一瞬だが辺りには煙が充満していた。


「うふふふふっ、覚えてなさい、この借りは返すからね」


 ハマグリ女房の声に続けてララミとサーシャの声が聞こえる。


「御主人様、閃光弾と催涙弾に煙幕です」

「逃がしませんデス」


 ララミが宗哉の元に駆け付け、サーシャがハマグリ女房を追いかける。


「フフッ、ロボットの事は調査済みよ」


 ハマグリ女房の余裕に笑う声が聞こえて直ぐに煙が薄くなっていく、


「ゴホッ、ぐぅうぅ……喉が痛い、目がしょぼしょぼするぜ」

「うぇっ、目はともかく、喉が気持悪い、あたしいっぱい吸い込んだみたいだ」


 後ろにいた秀輝と小乃子と委員長と晴美は話すだけの余裕がある。

 前にいた英二と宗哉は咳き込むだけで暫く言葉が出せなかった。


 3分ほどして宗哉が英二たちに振り返る。


「みんな大丈夫か、直ぐにうがいと目を洗ったほうがいい、軽い催涙ガスだ。この程度なら医者に行かなくても大丈夫だ」

「喉がヒリヒリするけど俺は大丈夫だ。秀輝たちも大丈夫みたいだよ」


 直ぐ後ろにいた英二がこたえる。

 秀輝たちはララミの案内で目と口を洗いにキッチンへと行っていた。

 サンレイとガルルンの様子を見ようと前に向き直った宗哉の目に床に倒れるサーシャが映る。


「サーシャ! 」


 宗哉が駆け寄る。ハマグリ女房の姿は何処にも無い。


「くそっ逃げられたぞ」


 サンレイが目を擦りながら当たりを探るように見ている。


「がふっ、ごふっ、酷いがお、凄い匂いで鼻がバカになってるがお」


 ガルルンが鼻水を垂らしながら苦しそうに咳き込む、嗅覚の優れているガルルンにとって軽い催涙ガスでも効果絶大だ。暫く鼻は使い物にならないだろう。


「ガルルン、ハマグリを追いかけるんだぞ」

「ごふっ、がふっ、無理がお、匂いがわからないがう」

「何やってんだ。役に立たないバカ犬だぞ」


 咳き込みながら泣き出しそうなガルルンの頭をサンレイがぽこっと叩いた。


「止めろよサンレイ、大丈夫かガルルン? 」


 英二がガルルンを庇うように間に入る。

 自分よりも更に苦しそうなガルルンが気になってうがいや目を洗う前に駆け付けた。


「ガルちゃん、目を洗いに行こう、うがいもしなきゃ、酷いなら宗哉に頼んで医者に診て貰おうな」


 ガルルンを抱きかかえるようにキッチンへと連れて行く、


「サンレイは大丈夫なのか? うがいしなくてもいいのか? 」

「おらは大丈夫だぞ、ブンブンバリアーで催涙ガスは弾いたからな、閃光で目が一寸しょぼしょぼするだけだぞ」


 途中で振り返った英二にサンレイがニヘッと余裕の笑みだ。


「一人だけ助かったのか? 俺はともかく直ぐ近くにいたガルちゃんや宗哉はバリアーに入れられただろ? 」

「宗哉はともかく、ガルルンはハマグリが邪魔だったぞ、閃光で目がやられたし、おら一人で精一杯だぞ、でもおら一人が生き残ってればみんなの仇を討ってやんぞ」

「勝手に殺すな! まったくサンレイは…… 」


 怒る気力も無くした英二が咳き込むガルルンを連れてキッチンへと向かった。



 喉や目を洗った英二たちがテーブルに集まった。


 サーシャは機能停止されているだけで物理的な破壊などは無い、逆に言えばメイロイドの事をよく調べているという事だ。

 ララミが何やら宗哉に報告する。


「何処で手に入れたのかはわからないけど人間が作った催涙弾と煙幕と閃光弾を使ったみたいだよ、人間の事をよく知っているらしいね」


 要人警護のメイロイドであるララミとサーシャには各種薬物や爆発物などのデーターも備えてある。

 ハマグリ女房が使用した催涙ガスを分析したのだ。


 渋い顔をしたサンレイが口を開く、


「人間の作った武器だぞ、鉄砲とかならどうでもなるけどガスとかは無理だぞ、電光石火で逃げるかバリアーで防ぐしかないぞ、妖術ならおらやガルルンの力で防ぐくらい簡単にできるけどな、さっきの催涙だってあれが妖術ならガルルンにも効かないぞ」

「鉄砲どころか大砲で撃たれてもガルは平気がお、毒でもぽんぽん痛くなるくらいで済むがお、でもガスみたいなきつい匂いはダメがう、どんなガスでも死ぬ事は無いがお、でも鼻が痺れて戦闘能力が落ちるがう」


 洗ったのだが鼻水をズルズル垂らしながらガルルンがまだ苦しそうだ。

 英二が何度もガルルンの鼻を拭いてやっている。

 宗哉がその場の全員を見回した。


「こっちの事は全部調べたみたいだね、催涙ガスはガルちゃんの鼻を効かなくするためだし、閃光弾を使ってサンレイちゃんの目を一瞬でも効かなくしてその隙に逃げたんだ」

「自信のある料理勝負でも負けたときのことも考えていたって訳ね、直接サンレイちゃんと戦うのも避けたし慎重な相手だわ、この前の鼠とは全く違う相手ね」


 宗哉と委員長の話に英二たちもマジ顔になる。


「狙いは英二だぜ」

「英二の霊力を自分の力にしようって狙ってるんだよね」


 秀輝と小乃子が英二を見つめる。


「俺の霊力ってそんなに凄いのかな? 爆発できるのは凄いと思うけどそれだけだよ、今のところ他は何もできないし、テレビとかに出てる霊能力者みたいな事は何もできないから実感が全くないけど…… 」

「テレビに出てるインチキ霊能者と一緒にするな、あいつらが爆発するような能力あるの見た事あるか? 実際に力を物理的に出せる英二は凄いんだぞ」

「神様の依り代に選ばれるくらいに凄いがお、英二は普通の人間じゃ無いがう」


 サンレイとガルルンに挟まれて座っている英二が悔やむように口を開いた。


「サンレイとガルちゃんが言うならそうなんだろうな……でもみんなを危険に巻き込むような力なんか俺はいらないよ」

「違うぞ、英二は悪くないぞ、おらが悪いんだぞ、おらがもっと気を付けてれば……全部おらの責任だぞ、ごめんな英二」


 マジ顔をしたサンレイが頭を下げた。


「なに言ってんだよ、サンレイに責任なんてないよ」

「だってだって、ハチマルが居ないんだぞ、だからおらがしっかりしないと、英二の霊力が上がるのわかってたぞ、だからおらが守ってやらないと……だから……だから…… 」

「サンレイ」


 英二がサンレイを抱き締めた。


「何で昔みたいに甘えないんだって思ってた。サンレイが復活してから少し変わったと思ってた。ガルちゃんが来たからお姉さんぶっているのかとも思ってた。そうじゃなかったんだね、俺の事を心配してたんだな……ごめんな、サンレイにばかり心配掛けさせて、俺がもっと頑張らないといけないのに、謝るのは俺の方だ。ごめんなサンレイ」

「おらがしっかりしないとダメなんだぞ、ハチマルが居たら直ぐに気付いてたはずだぞ、おらはまだまだだぞ、でも次からは気を付けるぞ、だから今日は御免だぞ、英二だけじゃないぞ、みんなに謝るぞ、ごめんなさい」


 英二に抱かれながらサンレイがみんなに頭を下げる。

 悪戯して怒られても誤魔化して謝らないサンレイが本気で謝っていた。


「サンレイちゃん…… 」

「あやまんなよサンレイ…… 」


 秀輝と小乃子が悲しそうな目でサンレイを見つめる。

 隣に座っていた委員長が椅子ごとサンレイに向き直る。


「そうね、神様なんだからもっとしっかりしてもらわないとね、でもねサンレイちゃん、あなた1人の責任じゃないわよ、私たちは自分の意思でここに居るのよ、サンレイちゃんやガルちゃんと一緒に居たいのよ、だから自分を責めるのは止めて、サンレイちゃんもガルちゃんも凄い力を持っていて強いよね、だからと言って2人が何でも出来るものじゃない、みんなで協力したから今までやってこれたのよ、だから1人に責任なんて無いの、あるとしたらみんなに責任があるのよ、私たち仲間なんだからね」


 バッと席を立つとサンレイが委員長にギュッと抱き付いた。


「委員長……おら……おらぁ………… 」


 向かいに座っていた宗哉が優しく声を掛ける。


「そうだよサンレイちゃん、英二くんもだよ、英二くんはみんなを巻き込んだって言うけど、それは違うよ、僕は好きで協力しているんだ。巻き込まれたんじゃなくて自分から入っていったんだよ、だから誰の責任でもない僕自身の責任だ」


 宗哉の隣で秀輝がニッと笑う、


「だな、俺もだぜ、英二とは昔からバカやって来ただろ? その延長って事だ。だから何があっても自己責任だ。たとえ死んでも文句言わないぜ、だってサンレイちゃんやガルちゃんと会えたんだからな」


 委員長に抱き付くサンレイの頭を小乃子が撫でる。


「あたしも好きで首を突っ込んだんだ。誰かに言われたからじゃない、自分で決めた。だから謝るなんて止めてよね、言っとくけどあたしは秀輝と違って死ぬのは嫌だし死ぬ気も無いよ」


 小乃子の向こうに座る晴美が首を伸ばしてサンレイに微笑む、


「私はこの前からしか知らないけど、それでもサンレイちゃんに責任押し付けたりしないよ、妖怪は一寸怖いけど、でもサンレイちゃんが仲間に入れてくれてとっても嬉しいんだよ、だから1人で思い詰めちゃダメだよ、私は何もできないかも知れないけど相談してくれれば一緒に悩む事くらいできるからね」


 机に上半身を乗せるようにしてガルルンがサンレイに振り向いた。


「がふふん、ガルが味方になってるがお、英二もみんなも守ってやるがう、今のサンレイはちびっ子だから全ての力が使えないがお、だからできない事もいっぱいあるがう、だからガルがフォローしてやるがお、だから安心するがう」


 英二がみんなを見回して頭を下げた。


「みんなありがとう、これからも迷惑掛けるかも知れないけどよろしく頼むよ」


 席を立つとサンレイを抱き上げる。


「俺はもっともっと強くなる。俺を狙ってくる妖怪なんかには負けない、サンレイ1人が責任なんてない、俺とサンレイは一つだ。2人で1人だ。なんたって俺はサンレイの、神様の依り代なんだからな」

「英二……みんな…… 」


 抱き上げられたサンレイがみんなを見回す。


「みんな……おら……おら、ここに来て良かったぞ、みんなに会えて良かったぞ、どんな事があっても英二とみんなはおらが守るぞ、だって、だって、おらは神様だからな、だからこれからもよろしくだぞ」


 サンレイが嬉しそうにニパッと笑った。

 それを見て全員が笑顔で返す。


「じゃあ今日は終わりにしようか、テスト勉強もしないといけないしね」

「そうね、英二くんが狙われている件についてはテストが終わって休みになってから話し合いましょう、あれだけ慎重な相手なら昨日の今日で襲ってくる事はないでしょうから」


 宗哉と委員長の言葉で全員席を立つ、


「なぁなぁ英二ぃ~~、今日は頑張ったからアイス奢ってくれるよな」

「ガルも~、ガルもチーカマ食べたいがお」


 左右からサンレイとガルルンがおねだりだ。


「まったく、口を開けばアイス、アイスなんだからな」

「だってだって、おらパソコンの神だからな、アイスで冷やすんだぞ、そんでずっと英二と一緒に居るんだぞ」

「がふふん、ガルは忠犬がお、助けてもらった恩とチーカマの恩は忘れないがう、だから英二とずっと一緒がう」


 満面笑顔のサンレイと得意気に鼻を鳴らすガルルンと手を繋いで英二が笑いながら歩き出した。


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