第35話 「あはん」
翌日、事件が起きた。
2時間目の授業中に気分が悪くなった2年の女子が保健室へと向かう途中、階段から落ちて怪我をしたのだ。
女子は足を捻挫しただけだが念のために病院へと行きそのまま帰宅した。
保健室へ送ろうと一緒に居た友人の話では1階へと行く階段の踊場で『アッハァ~ン』という声が聞こえて吃驚して後ろを振り返ったら悲鳴が聞こえて正面に向き直ると女子が階段の下で倒れていたという。
話を聞いた英二たちは3時間目の休みに早速その踊場に行ってみた。
踊場の壁を調べていたサンレイとガルルンが同時に振り向く、
「ダメだぞ、何の気配もないぞ」
「匂いも無いがう」
英二と秀輝が顔を見合わせる。
「ここもか……2人がダメならどうしようもないぜ」
「後は宗哉たちだな」
そこへ宗哉と委員長がやってくる。
2人は一緒に居た2年の女子に話を聞きに行っていたのだ。
「どうだった? 」
「ダメだよ英二くん、収穫無しだ。『アハン』と声が聞こえただけで影さえ見ていない」
「そっちもダメみたいね、あんた何してるの? 」
委員長が階段にいた小乃子を見つめる。
「何かないか探してんだよ、あたしだって役に立つんだからな」
階段を上り下りして何かないかと探していた小乃子が急にしゃがんだ。
「これ何かの毛じゃないか? セーターとか服の毛じゃないよ、あたし猫飼ってるから何となく分かるんだ。動物の毛だと思う」
7ミリほどの灰色の毛の塊を摘まみ上げて立ち上がる。
ガルルンが鼻をヒクヒクさせて駆け寄る。
「鼠がお、鼠の匂いがう」
「鼠か、手掛かりじゃないのか? 鼠の妖怪とか」
英二がサンレイを見つめる。
「なん……何の妖気も感じないぞ、只の鼠の毛だぞ」
「鼠の匂いなんてそこら中にあるがお、学食の近くなんかドブネズミの住処がお」
「只の鼠の毛かよ、汚いなぁ~ 」
小乃子は毛を捨てると手を洗ってくると行って走って行った。
「おらもトイレ行ってくるぞ、ガルルンも来い」
言うが早いかサンレイがガルルンを連れて姿を消した。
瞬間移動の電光石火だ。
1階の女子トイレに小乃子が入っていく、普段使っているトイレである。
「時間ギリギリだから誰も居ないな、さっさと手を洗って戻るか」
ハンカチを咥えると丹念に手を洗い始めた。
「あっ、ああん、あっはぁ~~ん」
トイレの奥から声が聞こえたきた。
ハンカチを咥えたまま小乃子が身を固くする。
「あん、あはぁん、あっはぁ~~ん」
また聞こえた。
小乃子は水を止めてハンカチで手を拭いた。
驚くほど冷静なのが自身で分かる。
サンレイたちと何度も悪霊や妖怪を見ているからだろう、それに相手は今まで声を出すだけで危害は何も加えてこないのを知っていた。
「あん…… 」
再度聞こえた瞬間、小乃子がバッと振り返る。
「なめんなよ、あたしだって役に立つんだからな」
相手の正体を確かめようとした。
英二は爆発する能力、秀輝は腕力、宗哉は知能とメイロイド、委員長も頭が良くみんなのまとめ役だ。
自分一人が何も役に立っていない、そう思っていた。
「あっはぁ~~ん」
トイレ奥の壁から黒い煙のようなものがぬっと出ていた。
大きい、体は人間の大人と同じくらいだが広げた鳥のような両手が左右の壁に付くくらいに大きかった。
「ひぃ!! 」
息を吸い込むような悲鳴を上げる小乃子の両足が何かに掴まれた。
咄嗟に足下を見ると床から生えた灰色の手が足を掴んでいた。
「いやぁ~~ 」
叫んだ小乃子に黒い煙のようなものが覆い被さってくる。
「なに!? 」
目の前が暗くなる。
見えているのは足下だけだ。
明かりを求めて自然と下を見た。
次の瞬間、足が床にめり込んだ。
泥の中に入ってくように沈んでいく、灰色の腕が引っ張っていた。
「いやぁあぁ………… 」
沈むまいともがく小乃子の体が止まる。
誰かが両脇に腕を入れて持ち上げてくれていた。
人の腕じゃない、毛の生えた大きな腕だ。
「小乃子! 」
大声で呼びながらサンレイが現われた。
同時に黒い煙のようなものが壁に吸い込まれて消えていく、
「焔爪! 」
ガルルンが床から突き出た灰色の腕を青い炎を灯す爪で引っ掻いて引き離す。
「ぎぇえぇーーっ」
床下から叫びが聞こえて灰色の腕がスッと消えた。
サンレイがトイレ奥の壁をドンッと殴る。
「くそっ、逃げられたぞ」
「こっちも逃げたがお、クソ鼠がお」
「ガルルン!! 」
怖かったのか小乃子がガルルンに抱き付いた。
「もう心配無いがお、早く教室に戻るがう」
小乃子を支えるようにしてガルルンがトイレを出て行った。
「くそっ、おらがしっかりしないといけないのに……なぁハチマル…… 」
悔しげに呟くとサンレイが二人の後を追って歩き出す。
ガルルンにしがみつく小乃子を連れて教室に戻ると丁度4時間目のチャイムが鳴った。
青い顔をして席に着く小乃子にサンレイが振り返る。
「垣田の授業だぞ、寝てていいぞ小乃子、垣田に文句言わせないからな」
「うん、そうする」
頷くと小乃子が机に突っ伏した。
「何かあったのか? 」
「後で話すぞ」
心配顔で訊く英二にサンレイがマジ顔だ。
「妖怪が出たがお、2匹いたがう」
左席のガルルンがマジ顔で教えてくれた。
「妖怪って……何かされたのか小乃子! 」
英二が思わず大きな声を出す。
数学の垣田先生がドンッと黒板を叩いて睨む、
「もう授業始まっているんだがね、高野だったな、横で寝てるのは久地木か? 」
席順が乗っている名簿を見ながら垣田先生が怒鳴った。
サンレイがスッと立ち上がる。
「小乃子頭痛いんだぞ、だから寝かせてやってくれ、授業の邪魔しないからいいだろ、ダメって言うならおらにも考えがあるぞ」
「わっわかった。あまり酷いようなら保健室へ行きなさい」
垣田先生は震える声で言うと黒板に向かって授業を始めた。
これだけビビるって何をしたんだ? 険しい顔を向ける英二を見てサンレイがニッと笑うと席に着く、
「小乃子は無事だぞ、変な事は何もされてないから安心しろ、休みに話してやるから怒られないように授業受けるんだぞ」
小乃子が無事と聞いて英二がほっと息をついた。
昼休みになると直ぐに委員長が小乃子の傍にやって来る。
秀輝と宗哉も集まってきた。
「何があったの? 」
委員長が前に座るサンレイに訊いた。
垣田先生が厳しいので声を掛けなかったが親友である委員長は気が気でなかった様子だ。
「トイレで妖怪に襲われたんだぞ」
サンレイがトイレでの出来事を説明する。
その間も小乃子は机に突っ伏したままだ。
「変な鳥の妖怪と鼠の妖怪の2匹いたがお」
ガルルンが英二の机の上にポンッと座った。
サンレイがバッとマジ顔を向ける。
「変な鳥ってガルルン見えたんか? おらには黒い煙しか見えなかったぞ」
「がふふん、おら目もいいがお、黒い煙の中に居たヤツを見たがう」
机の上に座って得意気に鼻を鳴らすガルルンの手を英二が掴む、
「どんな奴だった? 」
「う~ん、言葉じゃわからないがう、絵に描いてやるがお」
ポンッと机から飛び降りるとノートと色鉛筆を持ってきた。
「ガルちゃん座って描いてくれ」
英二の席に座ってガルルンが絵を描き始める。
小乃子がバッと起き上がった。
「あたしにも見せてくれ」
「もう大丈夫なのか? 」
心配そうに訊く英二に小乃子がニッと笑みを見せた。
「心配したか? どれくらい心配した? 胸が張り裂けそうなくらい心配しただろ」
「まったく……したした。ハゲになりそうなくらい心配したよ」
いつもの意地悪顔を見て英二もとぼけ顔で返す。
「あたしを襲った妖怪ってどんな奴だ? ガルルン見せてくれ」
小乃子が椅子を引き摺って英二の机の横に座った。
二人のやりとりを見て秀輝が安心顔でニッと笑う、
「小乃子も大丈夫そうだな」
呟くと秀輝はそっと教室を出て行く、ガルルンの絵に夢中で秀輝が出て行ったことには誰も気が付かない。
ガルルンが絵を描き終えた。
「女の服着てたけど髭面だったがお、それで鳥の匂いがしたがお、たぶんカラスの妖怪がう、直ぐに逃げられて匂いも消えたけどカラスだと思うがお」
ガルルンの絵は下手くそだが何が描いてあるのかはわかる絵だ。
何が描いてあるのかさっぱりわからないサンレイよりは数段旨い。
「うわんだぞ」
絵をじっと見ていたサンレイが呟くように言った。
「うわんって声で脅かす妖怪でしょ? 」
「あんたよく知ってるな」
じとーっとした目で委員長を見る小乃子はいつもの調子に戻っている。
「妖怪図鑑に載ってたのよ、子供の頃に買って貰った妖怪図鑑、まだ持ってるの、サンレイちゃんの役に立つかもって最近読み返してたのよ」
「それでどんな妖怪なんだ? 」
割って入る英二の耳をサンレイが引っ張った。
「何でおらに聞かないんだ」
「いてっ、痛ててっ、わかったから、教えてくれサンレイ」
背が低いサンレイが体重を掛けるように下から耳を引っ張るので物凄く痛い。
「仕方ない教えてやるぞ」
手を離すとペッタンコの胸を張って偉そうに話し始めた。
「うわんって言うのは突然現われて『うわん』って大声で鳴いて驚かす妖怪だぞ」
全員が続きはまだかと注目する中、英二が口を開く、
「それで? どんな妖怪なんだ? 大声で驚かすのはステルスH事件で知ってるから」
「だから、うわんって言うのは突然現われて『うわん』って大声で鳴いて驚かす妖怪だぞ、脅かすだけだぞ」
「 ……もしかして説明ってそれだけか? 」
怪訝な顔で見つめる英二の向かいでサンレイが口を尖らせる。
「おら説明とか苦手だぞ」
「じゃあ何で聞かないんだって言って俺の耳を引っ張った」
怒る英二に委員長が手を伸ばす。
「まあまあ、サンレイちゃんの説明は間違ってないわよ、妖怪図鑑に載っていた話しによると妖怪うわんって言うのは古い屋敷に棲んでいて立ち入った人や通りがかった人に『うわん』って大声を出して驚かすのよ、脅かすだけで人を傷付けたりの悪さはしない、臆病なのか姿を見せないのよ、それで妖怪図鑑にも黒い靄みたいなのしか載ってなかったわ、妖怪の愉快犯ってところね」
「流石委員長だね、よくわかった……いてっ、痛てて…… 」
口を尖らせたサンレイが英二の耳をまた引っ張る。
「おらが言った通りだぞ」
「わかったから、サンレイも流石だから…… 」
「わかればいいぞ」
機嫌を直したサンレイが英二の耳から手を離す。
黙って話を聞いていた宗哉が口を開いた。
「姿を見せない妖怪ってことだね、サンレイちゃんにも見えなかったのをガルちゃんは見たってことだ。やっぱりガルちゃんは凄いね、もちろんサンレイちゃんも凄いよ」
英二と違ってサンレイへの配慮も忘れない。
「がふふん、ガルはできる女がお、耳も鼻も目もサンレイより優れてるがお」
得意気に鼻を鳴らすガルルンにサンレイが突っ掛かる。
「んだとバカ犬が、おらの方が優秀だぞ、ガルルンは山の中でカブト虫やバッタ食ってるから野生の勘が鋭いだけだぞ」
「わかったから、話が進まないから」
弱り顔の英二がサンレイを後ろから抱きかかえて止めた。
そこへドタドタと秀輝が教室へ入ってくる。
「正体がわかればどうにかなるんだろサンレイちゃん」
息せき切った秀輝がアイスを差し出しながら訊いた。
「おおぅ、バリチョコだぞ」
奪うようにアイスを受け取るサンレイを英二が睨み付けた。
「飯前だぞ、アイスは弁当食べてからでしょ、秀輝も買ってくるなよな……話し始めて10分経ってないぞ、全力で走ってきたのかよ」
英二の怒りが呆れに変わる。
息を整えた秀輝がニッと笑った。
「往復全力で走ってきたぜ、飯前にまだ話しするんだろ? だったらアイスいいだろ、ガルちゃんにもチーカマ買ってきたからな、二人が頑張ってくれたから妖怪の正体もわかったしな、小乃子も無事だったし、何か嬉しくなってさ」
「わふふ~~ん、チーカマがお、ガルは弁当の後に食べるがお」
秀輝が差し出すチーカマをガルルンが嬉しそうに受け取った。
「そだぞ、チーカマは後で食べるぞ、でもアイスはいつ食っても旨いんだぞ」
サンレイは既にアイスに齧り付いている。
「まったく、チーカマはガルちゃんのものだからな……ありがとな秀輝」
サンレイを一睨みすると英二が呆れ顔のまま礼を言った。
「そうね、御飯食べながら気持悪い妖怪の話しは嫌ね、まだ時間あるから先に話を終えましょうよ」
委員長がみんなを見回す。
昼食の前に妖怪の話を続けることに誰も異論は無い様子だ。
「でもさ、うわんじゃなくて『あっはぁ~ん』って驚かすよな」
どうしてだというように小乃子がサンレイを見つめる。
「仲間なんだろ、うわんって言う妖怪にも色々いるんだぞ、コラ~って脅かすのもいてもいいしアッハァ~ンって脅かすのもいてもいいぞ」
「豆腐小僧にも色々いたしな、豆腐小娘は豆腐嫌いなのに豆腐妖怪だもんな」
呑気にアイスを食べながら言うサンレイの向かいで小乃子も納得した様子だ。
「さしずめ妖怪あはんってところね」
委員長が付けた名前に全員納得だ。
「でも色っぽい声出すんだろ、俺も会ってみたいぜ」
アイスを買いに出ていてガルルンの絵を見ていない秀輝が鼻の舌を伸ばして言った。
バリチョコを食べ終わったサンレイがニヤッと意地悪に笑う、
「色っぽい声出してるけどおっさんだぞ」
「おっさんって……ヘンタイか!! またヘンタイの妖怪か!! 」
ふんばり入道のことでも思い出したのか、秀輝が顔を引き攣らせて大声だ。
固まっている秀輝を英二が押し退ける。
「それでどうにかなるのか? 倒せるのか? 」
「任せろ、正体さえわかれば捕まえられるぞ、でもうわんは悪い奴じゃないから倒したりしないぞ、捕まえるだけだぞ」
「なに言ってんだよ、あたしを床に引きずり込もうとしたんだよ」
机をバンッと叩いて身を乗り出す小乃子の腕をガルルンがポンッと叩いた。
「もう1匹いるがお、鼠の妖怪がう、そいつが小乃子を引きずり込もうとしたがお」
「もう1匹……でもうわんもあたしを捕まえて…… 」
思い出したのか小乃子がハッとして続ける。
「床に引きずり込まれた時にうわんが覆い被さってきて私の脇に手を掛けて引っ張ってくれてたよ……あいつ……あいつあたしを助けてくれたんだ」
「そだぞ、おらもてっきり悪い奴だと思って攻撃しようとしたけどガルルンの絵を見てわかったぞ、うわんは悪い奴じゃないってハチマルに教えて貰ってたからな、悪戯して驚かすのも古くて崩れそうな家とか危ない場所を人間に教えてるって言ってたぞ」
話を聞いて英二が顔を顰める。
「ハチマルが……でもさっきの説明じゃ危ない場所を教えるなんて言ってなかったよね、サンレイって話しを思いっきし端折るよね」
「だってだって、おら苦手だからな、説明とかはハチマルの役だぞ」
拗ねるように見つめるサンレイの向かいで英二が諦めたように息をついた。
「わかったから、それで鼠の妖怪の正体はわからないのか? 」
「見ればわかるかも知れないけどおら見てないからな」
珍しく困り顔をするサンレイを見てガルルンが鼻を鳴らした。
「がっふふ~~ん、ガルは知ってるがお」
全員がバッとガルルンに注目した。
「本当ガルちゃん? 」
「どんな奴だ? あたしも灰色の腕は見たけど」
身を乗り出す委員長と小乃子を見てガルルンが胸を張る。
「ガルはできる女がお、匂いでわかったがう、昔嗅いだことのある匂いがお」
「勿体振らずに話せバカ犬」
サンレイがガルルンの頭をペシッと叩いた。
「旧鼠がお、あの匂いは確かに旧鼠の匂いがう」
「旧鼠か…… 」
暫く考えてからサンレイが続ける。
「旧鼠なら納得だぞ、あいつ壁に入ったりできるからな」
「旧鼠ってどんな妖怪なんだ? 」
英二が訊くとサンレイの代わりにガルルンが話を始めた。
「動物の妖怪ならガルが得意がお、旧鼠は数百年生きた鼠が妖怪になったがお、サンレイと同じくらいの大きさしてるがう、意地汚くて食べ物だけじゃなく皮でできた靴とか鞄とか食べられそうな物は何でも囓るがお、木や石でできた壁とか床に入ることができるがう、でも弱いがお、ガルやサンレイの敵じゃないがお」
「土の中や壁の中に相手を引き込んで動けなくして食べるんだぞ」
付け足すように言ったサンレイの隣で小乃子の顔が強張っていく、
「壁に引き込んで食べるって……それじゃあ、あたしも食べられるところだったのか?」
「そだぞ、おらとガルルンが3分遅れてたら小乃子食べられてたぞ」
「ひぃっ! 本当にありがとうな、ガルルンもな」
ブルッと震えると改めて礼を言った。
黙って話を聞いていた宗哉が口を開く、
「話を纏めると妖怪あはんは良い妖怪で旧鼠が悪い妖怪ってことだね」
「そだぞ、あはんは小乃子を助けようとしたんだぞ」
「僕の推理だけど旧鼠が人間を食おうとしているのを助ける為に妖怪あはんは『アハン』と言って危険を知らせてくれたんじゃないかな」
「そうか、あはんって言って吃驚させて襲おうとした旧鼠から守ってくれたのね」
相槌を打つ委員長にサンレイとガルルンが不思議そうな顔を向ける。
「どゆことだ? 分かり易く説明しろ」
「ガルもわからないがお、あはんと旧鼠が仲間じゃないがう? 」
「旧鼠が壁に引き込む前に妖怪あはんが『アハン』って言って驚かせばみんな逃げるでしょ、階段から落ちた女子以外は誰も怪我してないのはあはんが助けてくれたからよ、推測だけど落ちた女子は気分が悪くて保健室に行く途中だったから逃げ遅れて旧鼠に捕まりかけたんじゃないかしら、それをあはんが助けてくれたけど運悪く場所が階段だったから落ちたんじゃないかしら」
「あっそうか、やっぱりあはんはいいヤツだぞ」
「逃げるがお? ガルは捕まえてやるがお」
説明を聞いてサンレイは直ぐに理解した様子だがガルルンはまだ首を傾げている。
小乃子が納得するように頷く、
「たぶん菜子の推理があってると思うよ、あたしは妖怪の正体を確かめてやろうと思って逃げなかったんだよ、始めに『アハン』って言った時に逃げてれば旧鼠に捕まらなかったと思う」
「敵は旧鼠だけってことか、でも気配を消したり壁に潜ったりできるんだろどうやって戦うんだ? 」
英二がサンレイを見つめた。
サンレイやガルルンが負ける相手とは思えないが見つけるのも困難な相手だ。
「そだな、隠れてる場所さえわかったらおらが捕まえてやんぞ、捕まえた後は英二に任すぞ、壁の中に引き込む以外は岩も噛み砕くことくらいしか力は無いぞ、はっきり言ってふんばり入道と同じくらいに弱いぞ、英二の爆発で充分戦える相手だぞ」
「俺が戦うのか? 」
心配そうに顔を歪める英二の腕をガルルンがポンッと叩いた。
「心配無いがお、危なくなったらガルが助けてやるがう」
「んじゃ弁当食べるぞ、昼休み半分終わってるぞ」
不安気な英二を余所にサンレイたちが弁当を食べる準備を始める。
「俺が戦うのか…… 」
鞄から弁当箱を出しながら英二が嫌そうに呟いた。
後ろでサンレイたちが弁当を食べ始める。
「でもさ、あたしが危ないのがよくわかったな」
「階段で鼠の毛を拾っただろ、ほんの少しだけ妖気を感じたぞ、毛を捨ててトイレに行く小乃子に妖気がついていくのがわかったんだぞ、そんでガルルンを連れて行ったんだぞ」
弁当をパクパク食べながら話すサンレイの隣で小乃子の顔が引き攣っていく、
「なんで先に言ってくれない、襲われる前に言ってくれれば怖い目に遭わなかったのに」
「言えば小乃子を襲わなかっただろ、それじゃ妖怪の正体がわからなかったぞ」
「妖怪の正体を見るためにあたしを囮にしたんだな」
「そだぞ、でもちゃんと助けてやっただろ、今回は小乃子のお手柄だぞ、階段で鼠の毛を見つけなかったら正体わからなかったぞ」
「もう囮に使うのは止めてくれ、本当に怖かったんだからな」
珍しく小乃子が弱気だ。
悪霊や妖怪には慣れたとはいえ流石に今回は懲りた様子だ。




