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第33話 「ステルスエッチ」

 3日ほど経ったある日、和泉高校に変な噂が流れ出した。

 校内でふしだらな事をしてる生徒がいるらしい、大声で喘ぐような嬌声を聞きつけて駆け付けても誰もいない、ステルスH事件として話題になっていた。


 4時間目が始まる直前、篠崎晴美と数人の男女が慌てて教室へと入ってきた。


「出た!! 出た!! 出たぞ」


 後ろのドアから入ってくるなり男子が興奮した様子で叫んだ。


「落ち着けよ倉井、何が出たんだ? 」


 比較的仲のいい倉井和彦の慌てぶりに秀輝が席から立ち上がる。


「ステルスHだ! 」

「マジかよ」


 詳しく話を聞こうとした時、授業開始のチャイムが鳴る。


「マジだ。俺たち5人全員が聞いたんだからな」


 倉井の後ろで晴美と他の3人が頷きながら口々に自分も聞いたと訴える。


「先生来たぞ」


 誰かの声で全員自分の席に戻っていった。

 右席のサンレイが英二の横腹を色鉛筆で突っついた。


「ステルスHってなんだ? 」

「つい最近流行りだした噂だよ、エッチな声が聞こえるんだけど見に行くと誰もいないってことで見えないからステルスHって呼んでるんだ」


 先生が来る前に手短に教える英二を見てサンレイがニヤリと厭らしい顔で笑う、


「学校でエッチな事してるんだぞ、みんなに見つからないかスリルが興奮に繋がるんだぞ」

「がふふっ、禁断の情事がお、場所を色々変えて学校中でエッチしてるがお」


 左に座るガルルンが首を伸ばして話に割り込んできた。


「2人とも凄くヤラしい顔になってるからな」


 顔を顰める英二を見てサンレイとガルルンが益々ニヤッと悪い笑みになる。


「にひひひひっ、おらも英二とならやってもいいぞ」

「ガルも英二と禁断の愛を重ねたいがお」

「変な事言わないの、授業始まってるんだからな」


 顔を顰めて怒りながらも内心は嬉しかった。


「でゅひひひっ、幼妻になってやんぞ」

「ガルが英二の子をポコポコ産んでやるがお」


 英二の心を見透かすようにサンレイとガルルンが続けて言った。


「サンレイは幼すぎるからな、ガルちゃんは犬みたいにポコポコ産んだら生活大変になっちゃうからな、先生に怒られるからもう止めろ」

「にへへっ、冗談だぞ」

「ガルも冗談がお、そんな事より弁当の絵を描くがう」


 これ以上続けると英二が本気で怒ると思ったのかサンレイとガルルンが机に向き直る。


 まったく……、英二が溜息をつく、エロいことを期待しないかというと嘘になる。

 完全に幼児体型のサンレイと比べてガルルンは肉感的で胸も膨れている。

 はっきり言ってエロいことをしたいと何度も思ったことはある。

 サンレイが居なければ手を出していたかも知れない、無邪気に接してくるサンレイについても時々エロいことをしたくなる。

 だが今の関係を崩したくはない、ハチマルのことも気に掛かる。

 だから英二は我慢している。

 エロい気持ちが爆発しないように時々2人をギュッと抱き締めてガス抜きして我慢だ。


 授業が始まった。

 サンレイとガルルンは相変わらずノートに落書きをして遊んでいる。


「声だけか…… 」


 サンレイの呟きが英二の耳に残った。



 昼休み、普段のように英二とガルルンの机を引っ付けてサンレイたちが弁当を広げる。

 小乃子が興味津々の顔を晴美に向けた。


「晴美、さっきの話し詳しく教えろ」

「さっきのって……ステルスHの? 」


 控えめでおとなしい晴美に注目が集まる。


「そだぞ、おらも聞きたいぞ」

「ガルも聞きたいがお、どんなHしてたがお? 」

「えっ、どんなって見てないから…… 」


 厭らしい顔で訊くサンレイとガルルンに見つめられて晴美の頬が赤く染まっていく、


「食べ終わってからにしなさい、食べながらする話しじゃないでしょ」


 有無を言わさぬ委員長の一言でサンレイとガルルンも黙って弁当を食べ始める。

 英二が怒っても利かないが委員長なら一発で利くのがサンレイとガルルンだ。


「わかった。わかった。菜子は時々本気で怒るよな、じゃあ食い終わったら教えてくれ」


 委員長の扱いに慣れているのか幼馴染みの小乃子には効果が薄い。


 英二の向かいで秀輝が慌てて弁当を食べ始める。


「あいつらが嘘つくとは思えないぜ、噂、本当だったんだな」

「そうだな、倉井と八坂はともかく、篠崎さんや河合さんは嘘言う人じゃないからな」


 普段通りに弁当を食べ始める英二の向かいで秀輝がバクバク食べるとお茶で流し込んで続ける。


「学校でヤルなんてどんな奴だろうな、しかも女の声がデカいってどんだけテクニシャンなんだよ」

「凄ぇやらしい顔になってるぞ秀輝、でもこんなに噂になってるのに止めないってどんな神経してるんだろうな、1回なら我慢できなくなって隠れてやったと思えるけどさ」

「度胸あるぜ、悪いことして晒し者になるくらいなら俺も我慢できるけど学校でHして見つかって晒し者にされたらって考えるだけでゾッとするぜ」

「そうだよな、男はともかく女は学校辞めちゃうよな」


 凄い勢いで弁当を食べ終わった秀輝がペットボトルのお茶を飲み干す。


「倉井に話聞きに行こうぜ」

「んん? ああ……俺はゆっくり食べてるから後で教えてくれよ」

「了解した」


 野次馬根性丸出しの顔をして秀輝が倉井の席へと向かって行った。



 弁当を食べ終わった英二が席を立つとサンレイの隣りにいった。


「今日で奢るの最後だな、今日はみんなシュークリームにしてくれ、サンレイにはモナカアイスとガルちゃんにはチーカマも付けるからさ、月末でちょっと苦しいんだ」


 サンレイが弁当を食べる箸を止める。


「アイスの他にシュークリームも付けるんだな、んじゃそれでいいぞ」

「ガルにもチーカマだけじゃなくてシュークリーム貰えるがお? 」

「うん、シュークリームもあげるよ」


 期待するように見つめるガルルンを見て英二が笑いながら言った。


「わふふ~~ん、やったがお、英二太っ腹がう」


 両手を上げて喜ぶガルルンの隣で小乃子がニヤッと英二を見上げる。


「あたしらにはおまけ無しか? 」

「なに言ってんだよ、まったく……バイト代入ったらハンバーガーでも奢るよ、だから今日はシュークリームだけで勘弁してくれ」


 渋々といった様子の英二を見て委員長が割り込む、


「そこまでして貰ったら悪いわよ」


 小乃子が委員長の前に腕を伸ばした。


「菜子は黙ってろ、あたしら除け者にしたお詫びなんだからな」


 立っている英二の直ぐ前で座って振り返っているサンレイが口を尖らせる。


「そだぞ、除け者にしたバツなんだぞ」


 英二がサンレイの頬を摘まんで引っ張った。


「いや、サンレイは除け者にしてないだろ、だいたいサンレイが危ないから2人を帰せって言ったんでしょ」

「でゅひひひひっ、止めろよ、ほっぺが伸びるだろ」


 身を捩らせて喜ぶサンレイを見て呆れながら英二が手を離す。


「ハンバーガーくらい奢ってやるよ、その代わり俺にもステルスHの話し聞かせてくれよ、戻ってくるまで話し始めるなよ」

「バイトの給料日は確か来週だよな、ハンバーガー楽しみにしてるからな」

「おらハンバーガーだけじゃなくてシュークリームもだぞ」


 教室を出て行く英二の背に小乃子とサンレイが楽しそうに声をかけた。

 わかったというように後ろ向きに手を振ると英二がコンビニへと向かって駆け出す。


「予定外の出費だな、サンレイとガルルンの分は秀輝に任せよう」


 金が足りないから全員シュークリームにしたのではない、色々注文されると時間が掛かるから一つに纏めたのだ。

 早く帰って晴美から噂話を聞くためである。



 慌てて戻ってくると丁度サンレイたちが弁当を食べ終わっていた。

 英二から受け取ったコンビニ袋をサンレイがゴソゴソ開ける。


「おぅ、今日は抹茶モナカアイスだぞ、んでガルルンのチーカマだろ、みんなのシュークリームだろ……長シューもあんぞ」

「長シューって何だ? 」

「なんだ知らないのか小乃子? シュークリームの長いヤツだぞ」


 不思議そうに訊く小乃子にサンレイが自慢気にこたえた。


「サンレイちゃん、長いのはエクレアって言うのよ、まん丸より食べやすいから私はエクレアのほうが好きだわ」

「エクレアかぁ~、おら長シューって呼んでたぞ、んじゃ委員長はエクレアだぞ」


 エクレアを委員長に渡すサンレイの隣で小乃子がひょいっと袋を覗く、


「あたしは普通のヤツくれ、カスタードと生クリーム入ってるヤツな」


 反対側からガルルンが袋を覗く、


「またエクレアあるがう? ガルはチョコ乗ってるエクレアがいいがお、丸いのは噛んだら後ろからクリームが出てくるがう」

「ガルルンはシュークリーム食べるの下手だからな、いつも横とか後ろからカスタード漏らしてんぞ、お漏らしシュークリームだぞ」

「あははっ、ガルちゃんらしいね、でも私もシュークリーム食べるの下手だよ、だからエクレア頂戴」

「んじゃ晴美とガルルンはエクレアだぞ、丁度3つあったぞ」


 ガルルンと委員長と晴美にエクレアを渡すと普通のシュークリームを自分の前に置いて残りを小乃子に渡した。


「んじゃゴチになるぞ英二」


 サンレイがモナカアイスに齧り付く、小乃子たちもご馳走様と笑いながらシュークリームを食べ始めた。


「今日で最後だからな、味わって食ってくれよ」


 英二は椅子を持ってくるとサンレイの後ろに座った。

 ガルルンがチーカマを机の中へと仕舞う、


「チーカマは後で食べるがお」

「そだぞ、後で仲良く食べるぞ、5つ入ってるからおらが3つでガルルンが2つだぞ」

「どんだけ食うつもりだ! チーカマはガルちゃんのだろ、1つ貰うならともかく何でサンレイの方が多いんだ」


 叱りつけると英二はアイスを食べるサンレイの頬を摘まんで引っ張る。


「でゅひひひひっ、止めろよ、アイス食えないだろ」

「アイスは絶対にあげないくせにガルルンのチーカマはいつも盗ろうとするよね」

「でゅひひひっ、おらパソコンの神様だからな、アイス食って冷やさないとダメなんだぞ、だからアイスは分けられないんだぞ、本当は分けてあげたいんだけどな」

「冷やすだけなら氷でもいいよね、じゃあ次から氷だけにしてもいいよな」

「でゅひひひひっ、ダメだぞ、アイスじゃなきゃダメになってんだぞ」

「アイスじゃないとどうなるんだ? 」

「でゅひひひひっ、離せよ、アイス食えないだろ、アイスじゃないと暴走して電気漏れまくるぞ、周りじゅうビリビリだぞ、アイスの甘い砂糖がおらの脳を活性化してるんだぞ、だからアイスじゃないとダメなんだぞ」

「それなら砂糖水凍らせたのでいいだろ」


 英二がサンレイの頬から手を離す。


「アイスクリームのまったりとした成分が必要なんだぞ、時々かき氷みたいなのでもいいぞ、冷たくて美味しいからな」

「まったく……ガルちゃん騙してチーカマ盗ったら怒るからな」


 呆れ返って叱る気も無くなった。


「本当に仲いいね、親戚って言うより兄妹って感じだよ」


 サンレイの正体を知らない晴美が楽しそうに笑った。


「にひひひひっ、兄妹より夫婦だぞ、おら良い嫁になるぞ」

「がふふん、英二の嫁になるのはガルがお」


 鼻を鳴らすガルルンは口の周りがカスタードと生クリームでべちゃべちゃだ。


「ガルちゃん、口拭いて」


 英二がテッシュを出すとガルルンが拭いてくれと言うようにクイッと顎を突き出した。


「本当にシュークリーム食べるの下手だな」


 弱り顔でガルルンの口元を拭いてやる英二を見てサンレイがおらもと言うように口を突き出す。


「まったく…… 」


 英二がサンレイの口を拭いて席に戻る。


「んじゃ、おらとガルルンと小乃子はライバルだぞ」

「なっ、なに言ってんだ。あたしはそんなんじゃないからな」


 慌てて否定する小乃子を見てサンレイがニヤッと悪い笑みをする。


「本当にいいんか? おらが貰うぞ」

「べっ、別に……あたしには…… 」


 狼狽える小乃子を見て委員長が割って入る。


「その辺でいいでしょ? それより今は晴美に話しを聞くのが先でしょ」


 シュークリームを食べ終わると晴美が話を始めた。


「3時間目の実験が終わって私たち道具を片付ける手伝いしてたの…… 」


 おとなしい晴美は話す前から真っ赤になっている。




 2~3時間目が理科の実験で西校舎3階の理科室を使っていた。

 晴美たちは実験道具の後始末で英二たちより遅れて理科室を出たのは休み時間も半分終わった頃だった。

 先生に挨拶して理科室を出ようとしたとき隣の理科準備室からゴトッと何かを倒すような音が聞こえてきた。


「何か倒れたかな? 」


 次の授業の準備をしていた先生が振り返った。

 準備室と理科室は繋がっている。先程道具を仕舞ったばかりだ。

 自分たちの仕舞い方が悪かったのかと晴美たちも足を止めた。


「あっはぁ~~ん」


 みんなが見つめる前で艶めかしい女の声が聞こえてきた。

 先生が晴美たちに振り返る。


「他に誰かいるのか? 」

「いっ、いえ、僕たちだけです」


 こたえる倉井の声が震えていた。


 自分たち5人の他には誰もいなかったのだ。

 休み時間が無くなると愚痴を言いながら片付けていたのである。

 準備室への出入り口は廊下側にある大きなドアと理科室へと繋がっている小さいドアだけだ。

 廊下側のドアには鍵が掛かっていて入ってくることはできない。


「あんっ、ああん、あっ、あっはぁ~~ん」


 先程よりも大きな声が聞こえてきた。艶めかしい女の声だ。

 怪訝な顔をしながら先生が準備室のドアの前に行く、


「誰かいるのか? そこで何をやっているんだね、危ないから出てきなさい」


 倉井たちも互いの顔を見て頷くと先生の後ろに立った。


「フフフフフッ、あんっ、ああぁん、あっはぁあぁ~~ん」


 嘲笑う声に続いて艶めかしい嬌声が聞こえた。


「君たち何をやっているんだ!! 学校だぞ!! 」


 先生が怒鳴りながらドアを開けて入っていく、

 倉井と晴美もドアから中を覗いた。


「何処にいるんだ。出てきなさい」


 先生が怒りながら部屋を見渡す。

 準備室は普通の教室の半分くらいの大きさがあるが棚が並んでいて狭く感じる。


「誰も出ないようにそこで見張っててくれ」


 倉井に言い置くと先生が部屋の奥へと入っていった。


「誰もいないね」


 自分から話し掛けることの少ない晴美が倉井に話し掛けた。


「うん、でもこの匂い…… 」


 倉井が顔を顰める。

 薬品臭い準備室に甘い匂いが漂っていた。


「香水じゃないよね、化粧の匂いかな…… 」


 言いながら晴美は真っ赤だ。

 とぼけているが情事を終えた後の匂いはこんな感じかなと想像している。


「誰かがいるのは確かだな」


 倉井は普段の顔だ。

 Hな事をしていたのは想像できるが今はエロいことより好奇心と怖さが先に立っている。


「でも誰もいなかったよね」

「ああ……ステルスHだ…… 」


 噂話を思い出して倉井が呟いた。


「 ………… 」


 全員思い出したのかマジ顔で互いの顔を見回す。

 そこへ先生が戻ってくる。


「誰もいなかったか? 誰も出て行かなかったか? 」


 少し焦りを顔に浮かべる先生に向かって倉井がふるふると首を振った。


「誰も出てません、俺たちここで見張ってましたから」


 先生に対しては僕と言う倉井が怖さからか普段友達同士で話す俺という呼び名に戻っていた。

 先生が首を傾げる。


「おかしいな、みんなも聞いたよな? 廊下のドアも閉まっていた。窓は棚が置いてあって開けても入ったり出来ないようになっている」

「ステルスHって噂、先生も知ってますよね? 」

「その噂なら聞いてるよ、バカバカしいとは思ったんだが実際あうと混乱するな…… 」


 先生が否定するように顔を振って続ける。


「バカバカしい、噂話だよ、あれを見てごらん」


 先生が天井に伝う配管を指差す。


「換気ダクトだ。理科室や調理実習室、昔はタバコを吸う先生が多かったから職員室にも大きな配管が通っている。それが声を反響させて伝えるんだ。誰もいなかったのはその所為だよ、他の部屋の声が聞こえてきたんだ。誰かが他の部屋でいかがわしいことをしているというのは否定しないがね」


 理科の教師らしい説明をすると早く戻りなさいと倉井たちを追い払った。



「それで慌てて戻ってきたのよ」


 話を終えると晴美は息をついてペットボトルのお茶を一口飲んだ。


「お化けの仕業だぜ、昔校内Hして見つかって自殺した女子の幽霊が彷徨ってるんだぜ」


 いつの間に来たのか秀輝が後ろから英二の肩を掴んで言った。


「倉井とバカ話してたんだろ、そんな話聞いたこともないわ」


 英二が鬱陶しそうに秀輝の手を払った。


「もうちょっと旨い話作れよな」


 バカにする小乃子の斜め左前に座っている委員長がマジ顔で口を開く、


「でも有り得るんじゃない? 自殺した女子の幽霊は作り話だとして他に何か、悪霊や妖怪の仕業なら有り得るんじゃない? 」


 その場の全員がサンレイに注目する。


「有り得るぜ、俺もそれが言いたかったんだぜ」

「秀輝はバカ話しただけだろ」


 パッと顔を明るくした秀輝を一睨みすると小乃子が向き直る。


「それでどうなんだ? やっぱ妖怪か? 」


 小乃子が期待顔でサンレイを見つめる。

 話を聞いていた英二の頭の中に『声だけか』と呟いたサンレイの姿が蘇る。


「なに言ってんだ? 妖怪? 悪霊? そんなものこれぽっちも感じないぞ」


 ケロッとした顔で言うサンレイを見て秀輝と小乃子のテンションが駄々下がりだ。


「なんだ妖怪じゃないのかよ、今度こそ一緒に見れると思ったのに…… 」

「次は俺も役に立とうと思ってたのにな」

「なに残念がってるのよ、悪さする妖怪なんていないほうがいいでしょ」


 怒りながら委員長も少し残念そうである。


「そんなにしょっちゅう妖怪が湧いてたら大変だぞ」


 呆れ声を出すサンレイの後ろで英二がガルルンを見つめる。


「ガルちゃんは何も感じないのか? 妖気以外に匂いとかさ、ふんばり入道の時も少し臭いって言ってただろ、その時みたいに変わった匂いとかしないかな」


 サンレイがバッと振り返る。


「んだ! おらを信用してないのか? 妖気なんて何も感じないぞ、ウンチ妖怪の時は少し感じたけど今回は全く感じないぞ」


 英二が慌てて口を開く、


「サンレイを信用してないわけじゃないよ、妖気を感じるのはガルちゃんより優れてるんだろ? それはわかってるからさ、ガルちゃんは鼻がいいだろ、だから悪霊とか妖怪だけじゃなくて悪戯してる犯人を捜せないかなって思ってさ」

「そうだな、警察犬みたいに犯人探して貰おうぜ」


 英二の後ろで秀輝が言うと今度はガルルンに視線が集まる。


「ガルが警察犬? 麻薬を持ってるヤツを見つけるがお? 」


 子犬のように首を傾げるガルルンを見て英二が弱り顔で話しを続ける。


「麻薬の話なんてしてないでしょ? ステルスHの犯人を捜すって話しだよ」

「ステルスH? どうやって探すがお? 」


 アホの子だ……、その場の全員が何とも言えない顔でガルルンを見つめる。


「ガルちゃん鼻がいいから匂いで犯人探せないかなって聞いてるのよ」


 委員長が幼子に話すように優しく訊いた。

 ガルルンが顔を顰める。


「Hな匂いなんて無理がう、Hな匂いだしてる男子も女子もいっぱいいるがお、普段は意識して匂わないようにしてるがう、集中したらそれこそ臭くて頭痛くなるがお」

「やっぱダメか…… 」

「そうだよな、女はあの日とか色々あるからな」


 秀輝と小乃子は諦めた様子だ。


「悪霊や妖怪の仕業じゃないってわかっただけでいいじゃない」

「そうだよ、委員長の言う通りだ。ふんばり入道みたいなのは御免だよ」


 ふんばり入道のウンチ攻撃を思い出して英二が苦笑いだ。


「ガルルンは鼻はいいけど頭が腐ってるから無理だぞ、折角の鼻も山の中で食い物見つけるくらいしか使い道がないぞ」


 サンレイ1人だけ楽しそうである。

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