表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/139

第3話

 教室に戻ると小岩井先生が駆け寄ってきた。


「ごめんなさい先生、これは…… 」

「よかった。サンレイちゃん無事だったのね、迷子になったのかと心配したわよ」


 言い訳をしようとした英二を押し退けて小岩井先生がサンレイに抱き付く、


「おらが迷子になるわけないぞ、見学してたんだぞ」

「謝れ! 偉そうに言う前に先生とみんなに謝れ」


 反省の一切無いサンレイを叱りつける。


「先生大丈夫だぞ、おらが来たから安心だぞ、みんなもよろしくな」


 抱き付く先生から離れるとみんなに手を振った。


 サンレイに注目して生徒たちがざわつく、何人かは転入生が来るのを知っていたがそのざわつき方とは違う、制服を着ているがサンレイはどう贔屓目に見ても小学校4年生くらいにしか見えない、驚いた皆が騒ぐのも当然だ。


「みんな静かに~、サンレイちゃんは転入生ですよ、今から自己紹介をして貰うので静かにしてね、高野くんも席に戻りなさい」


 小岩井先生に言われて英二が渋々席に戻る。

 教室が静まり返った。

 目の前の幼女が何を言うのか全員が注目している。


「おらはサンレイだぞ、パソコンの神様ビクトリー・サンレイだぞ、サンレイってよんでくれ、そんで英二の家に住んでるんだ。好きなものはアイスクリームで嫌いなのは鉛だ。特技は電撃だぞ、電気使うのは得意だぞ、そんで今日から学校へ通うことにしたからみんなよろしくな」


 サンレイがペコッと頭を下げた。

 どこから手に入れたのか分からないが和泉高校のブレザーの制服を着ている。

 小学校低学年のようなサンレイに合う服のサイズは売っていないのか肩幅など少し大きく袖も掌が半分隠れるくらい長く余っていた。

 スカートは踝の上10センチくらいまであり普通の女子高生と比べるとかなり長く見える。

 小さい子がお姉さんの服を無理して着た様な少しダブついた姿だ。


『 可愛い~っ、よろしくねサンレイちゃん、ちっこいなーっ 』


 あちらこちらから声援が飛ぶ、男子はもちろん女子も幼女のようなサンレイに好意的だ。


「なんで!? おかしいだろ、なんで…… 」


 教室を見回して英二が頭を抱える。

 斜め右後ろの席の小乃子が紙を丸めた物を英二に投げつけた。


「知り合いか? 一緒に住んでるってどういう事だ? 」


 英二の2つ後ろ、つまり一番後ろの席で秀輝も首を伸ばして見つめている。


「後で説明するから、簡単に説明できないから…… 」

「あのちびっ子は親戚か何かか? 神様とか言ってたけど不思議ちゃんか? 」

「可愛い神様だな、次の休み時間楽しみにしてるぜ」


 興味津々な小乃子と秀輝に苦笑いを見せると英二は机に突っ伏した。


 何企んでるんだ……、

 出来ることならこの場から逃げ出したいと思った。


 一番後ろの席、秀輝の2つ右隣で佐伯宗哉さえきしゅうやが立ち上がる。


 佐伯宗哉は英二や秀輝とは中学のころからの友人だ。

 短い髪を綺麗にセットした眼力があるというか目つきの鋭いイケメンである。

 親が各種ロボットを作っている佐伯重工の経営者だ。

 御曹司らしく私立の金持ち学校へ行けばいいのだがどういうわけか和泉高校へと入ってきた。

 仲がいい英二と一緒にいたくて和泉高校に入ったという噂もある。


「先生その子何者なんですか? 小さすぎて高校生には見えませんよ、どういう事か説明してください」

「それがね先生も知らないの、今朝校長先生がサンレイちゃん連れてきてよろしく頼むって言われたの」


 小岩井先生が少し困った顔でこたえる。


「そんな理由も分からない怪しげな幼女を勝手に入れていいんですか」

「なに言ってんだ宗哉、お前だってメイロイドを連れてるだろうが」


 立っている宗哉を秀輝が睨みつけた。

 宗哉の左右の席にはメイロイドが座っていた。


 メイロイドとは人工知能を搭載したロボットのことである。

 メイロイドという言葉はロボット(アンドロイド)とメイドと掛け合わせて作られた造語だ。


 宗哉の父親が経営する佐伯重工が開発したもので試作機の2体が人工知能の学習という名目で和泉高校への入学が認められたのだ。

 宗哉の右に座っているのがMR―BL4Gサーシャで左がMR―RE7Aララミだ。

 サーシャがカールのかかった金髪で鼻筋の通った巨乳美女の大人体型でララミがショートの赤髪で幼い顔付きの少女体型である。

 2人ともただのメイドではなく身辺警護もできる腕力強化タイプで佐伯重工御曹司である宗哉のボディガードも兼用している。


 人工知能といっても人間のように一から考えて動くものではなく予め登録してある多数の事柄から瞬時に回答を見つけて動くといったタイプのものだ。

 そのため登録されていない事には対応できないが教える事によって対応可能にはできる。

 簡単に説明すると一から自分で考える事はできないが登録されている事は人間並みにそこそこできるということだ。

 現状は試作機段階だが近いうちに人間と同じように家事や育児や介護ができる人工知能搭載ロボットとして発売する予定である。



 宗哉の左隣、秀輝からだと右隣の席でララミが口を開く、


「秀輝さんやめるです。ご主人様に対する無礼は友達でも許さないです」

「そうデス、ご主人様への無礼は許しませんデスから」


 宗哉の右隣、秀輝から見て宗哉を挟んだ向こう側でサーシャが外国人のような変なイントネーションで秀輝を睨みつけた。


「別に悪口言ったんじゃないぜ、自分だって金の力でララミとサーシャを学校へ入れたくせにサンレイちゃんを怪しいなんて言うからさ、言える立場じゃないって言ったんだぜ」


 睨み付ける2人のメイロイドに構わずに秀輝がとぼけ顔でこたえた。

 金持ちの宗哉へのやっかみもあるだろうが秀輝は完全にサンレイの味方である。


「これだからバカは困る。ララミとサーシャはこれからの生活を変えるメイロイドだ。介護でも農作業でも何でもできる。日本だけじゃなくて世界中で役立つようになる。そのための知識を習得させるために学校へ入れて人間社会で勉強しているんだ。自分を神様などという訳の分からん幼女と一緒にするな」


 宗哉が秀輝だけでなくサンレイもバカにした。

 サンレイが宗哉を指差す。


「言葉使いには気をつけろよ、おらは神なんだからな、無礼なヤツは電撃で丸焼きだぞ」

「電撃? 雷でも出すのか? バカもいい加減にしとけよ」


 鼻で笑う宗哉の前でサンレイが指差していた手をゆっくりと上げた。


「電撃、閃光竜火せんこうりゅうび! 」


 サンレイが叫ぶと指からバチバチと音を立てて青い光が天井へと走った。

 スパークを上げる雷光だ。


 ボンッ! 

 黒板の上にあった時計が火を吹いて落ちていく、宗哉だけでなく見ていた全員の目付きが変わる。

 吃驚しているものや恐怖に顔を強張らせるものなど様々だ。


「にっひっひっひっひ、出したぞ雷、次はお前を丸焼きにしてやる」

「ほっ、本当に神様か…… 」


 恐怖に顔を引きつらせる宗哉にサンレイが指を向けた。


「サンレイ!! 」


 英二が駆け寄ってきてサンレイの指を握った。


「ダメだからな、宗哉は俺の友達だからな」

「にへへっ、冗談だぞ、冗談に決まってんぞ、転入早々死人が出たら縁起が悪いからな」


 本気で怒る英二を見てサンレイがおべっか笑いだ。


「宗哉ごめんな、サンレイは俺の妹みたいなものなんだ。いろいろ事情があってうちで面倒みる事になってさ、サンレイの身元は俺が保証するからさ」


 英二が宗哉だけでなく他の級友にも聞こえるように大きな声で話した。

 これ以上騒ぎが広がる前に妹みたいなものとしてクラスで認識させようと考えた。


「英二くんの妹か……僕も悪かったよ、英二くんの知り合いなら何の文句もないです」


 宗哉が席に座りなおす。

 仲のいい英二には突っ掛るような事はしない。


 フンッと鼻を鳴らして秀輝もそっぽを向いて黙る。

 親友の英二の取り成しでは収めるしかない。


 英二が教室内を見回した。


「さっきのは手品だ。サンレイは手品が得意なんだ。時計には俺が仕掛けをしておいたんだ。そうだよなサンレイ、手品だよな」


 全員に聞こえるように大声で言うとサンレイを睨みつける。


「 ……そうだぞ、手品だぞ」


 ムッとしながらもサンレイが話しを合わせてくれた。

 何とか誤魔化せそうだと英二が安心顔になる。

 それを見てサンレイがニヘッと悪い笑みだ。


「んじゃ、もう1つ手品を見せてやるぞ、壊した時計を直す手品だぞ」

「なっ、何する気だ。止めろサンレイ…… 」


 止めようとする英二の隣でサンレイが壊れて床に落ちた時計に手を向けた。


浮霊憑依ふれいひょうい万物入魂ばんぶつにゅうこん! 」


 サンレイの叫びに呼応するように時計が白く光った。

 靄が掛かったような光だ。

 光が消え、次の瞬間、時計からぬめっとした手足が生えてきた。


 ヴボォ~、ヴボォ~、

 足の生えた時計がピョンピョン跳ねながら鳴き声を上げる。


「あっ、失敗だぞ」


 呟いたサンレイの肩を英二が掴んだ。


「失敗って――何するつもりだったんだ」

「そこらを浮遊してた霊を時計に入れて直そうとしたんだぞ、そんで、おとなしいウサギの霊かと思ったら騒がしいウシガエルの霊だったぞ、ウサギなら鳴かないし動かないようにすればバレなかったのにな、ピョンピョン跳ねるからカエルとウサギ間違ったんだぞ」


 心配顔の英二にサンレイが少しも悪いと思っていないケロッとした顔だ。


「そんな直し方があるか! よけい悪くなるだろうが、どうすんだよこれ」


 ヴボォ~、ヴボォ~、

 英二が指差す先で足の生えた時計が跳ね回っている。


「凄いな、これも手品か? 」

「どうやって動いてんだ? 本物のカエルの足みたいだぞ」


 秀輝と小乃子が前に歩いてきた。


「2人とも席に戻りなさい、授業中よ、高野くんも、その気持ちの悪い時計を仕舞って自分の席に着きなさい、手品はいいけど少しやりすぎよ」


 委員長の芽次間菜子が前に出てきて場を収めようとした。


「いてっ、痛い、こいつ噛みやがった――これ手品なんかじゃないぞ」


 跳ねる時計を捕まえようとして秀輝が叫んだ。


「マジか!? 何だこれ? どうなってんだ英二」


 小乃子が大きな声で聞く、それを見て全員が騒ぎ出した。

 焦った英二がサンレイの肩を掴んで体を揺する。


「ヤバい、サンレイどうにかしろ、あの時計を元に戻せ」

「今日はもう力使ったから疲れたぞ、だから明日元に戻すぞ」

「明日って、今すぐに戻せ、パニックになる前にどうにかしろ」

「仕方ないなぁ、んじゃ、英二の力を少し貰うぞ」

「俺の力? 」


 不思議そうに自分を指差す英二の手をサンレイが握り締めた。


「そだぞ、英二の先祖はおらがいた神社の神主だっただろ、凄い力持ってたんだぞ、そんで英二にも力があるんだ。その力を少しだけ使わせてもらうんだぞ」

「俺にそんな力が…… 」

「英二、届かんからしゃがめ、しゃがんでこっち向け」


 言われるままに英二がサンレイの正面でしゃがんだ。

 背の低いサンレイとしゃがんだ英二の顔の高さが同じになる。

 英二の頬を両手で挟むようにしてサンレイが顔を近付ける。


「んじゃ、力貰うぞ」


 サンレイが英二にキスをした。

 チュッという軽いキスだ。


「なっ、なにすんだ…… 」


 吃驚した英二が仰け反るようにして体を離す。


「何やってんだ英二!! ロリコンか!! 」


 傍で見ていた小乃子が怖い顔で英二を睨みつけた。

 秀輝も委員長も睨んでいる。


「違うからな、俺がしたんじゃなくてサンレイがしてきたんだからな」


 クラス全員の視線を感じて焦った英二が大声で言い訳だ。


「私の所為にするの……酷いっ、あんなに愛し合ったのに全部遊びだったのね」


 サンレイがよろよろと数歩後ろに下がってその場に崩れた。泣き真似だ。


「わあぁぁ~、止めろ、何もしてないからな……頼むからみんなに説明してくれ」


 怒ると逆効果だと思った英二が両手を合わせて拝むようにして頭を下げた。


「にへへへへっ、冗談だぞ、英二とは何もしてないぞ、さっきのキスは力貰ったんだ。吸い取ったって言ったほうが分かりやすいかな、口から取るのが一番早いんだぞ」


 笑いながら説明するサンレイを見て秀輝や委員長、他の生徒たちの顔からも険しさが消えていく、ただ1人、小乃子だけがまだ怒り顔だ。


「どっちにしろロリコンだ。嬉しそうな顔しやがって――私にはそんな顔…… 」

「何言ってんだ。俺がいつ嬉しそうな顔した。吃驚しただけだ」


 睨みながら言う小乃子に英二も怒り声だ。


「まあまあ、そう怒るなよ、でもいいなぁ、俺もサンレイちゃんとキスしたいぞ」


 秀輝が2人の間に入って止めろと手で制した。


「お前ら2人ともロリコンだ。エロゲーのやり過ぎで脳みそ腐ってんだ」


 2人を指して小乃子が怒鳴る。


「誰がロリコンだ。俺たちはヘンタイだ。ロリコンと一緒にするな、なぁ、英二」

「いや、ヘンタイも違うからな、俺が謝るからもう止めよう」


 胸を張って言う秀輝を見て英二は喧嘩する気も無くなった。


「それより、これどうするの? 」


 委員長がピョンピョン跳ねる足の生えた時計を指差す。

 英二が言い争いを止めてサンレイに振り向く、


「忘れてた。サンレイ早くどうにかしてくれ」

「任せろ、電撃、閃光竜火! 」


 サンレイが雷光を時計に飛ばす。

 時計は跳ね回って雷光を避けていく、5回も避けられてサンレイの顔が険しく変わる。


「優しく丸焼きにして除霊してやろうと思ったのにバカにするなら容赦しないからな」


 器用に雷光を避けて『ヴボォ~、ヴボォ~ 』と鳴く時計を見てサンレイがニヤッと悪い笑みをしながら手を天井に向けた。


「電撃、閃光爆雷せんこうばくらい! 」


 サンレイの手から青い稲光が伸びて、天井に沿うようにして四方に広がっていく。

 次の瞬間、教室全体が青い光に包まれた。


 ドオォオォ~~ン!! 

 物凄い音と共に教室全体が揺れて机や椅子もろとも生徒たちも転がっていく、爆発だ。


「なっ、何をしたんだ」


 英二が必死の形相でサンレイの両肩を掴んだ。


「時計を除霊したんだぞ、もう安心だぞ、吹っ飛んだからな」

「時計どころか、みんな吹っ飛んでるからな」

「だってだって、カエルの癖におらをバカにしたんだぞ」


 怒る英二の前でサンレイが拗ねるようにプクッと頬を膨らませる。

 サンレイの傍にいた英二と秀輝と小乃子と委員長は無事だ。

 それ以外の生徒と小岩井先生は倒れて気絶している。


「窓も割れてるし、先生もみんなも気絶してるし、どうすんだこれ? 」


 小乃子が辺りを見回して引き気味に聞いた。

 先程までの言い争いはもう忘れている。


「おらは悪くないからな、思った以上に英二の力が大きかったんだ。だから全部、英二が悪いんだぞ、英二の責任だからな」

「そうだな、英二がやれって言ったからな」


 言い訳するサンレイに秀輝が味方に付いた。


「お前、秀輝って言ったな、気に入ったぞ」


 サンレイが秀輝の背中をバンバン叩いた。


「おお、サンレイちゃんに気に入られた。俺はいつでもサンレイちゃんの味方だからな」

「だな、全部英二が悪い、嬉しそうにキスした罰だ」


 満面笑顔の秀輝と一緒に小乃子もサンレイの味方に付く、


「全部俺の所為かよ…… 」


 英二が恨めしげに呟く、口の立つ小乃子と喧嘩の強い秀輝が敵に回れば勝ち目は無い。

 様子を伺っていた委員長が英二の前に立った。


「サンレイちゃんが神様って言うのは本当なのね? 」

「 ……うん、本当だよ、田舎の山にいた神様なんだ」


 これ以上は隠し切れないと英二は観念した。


「これを見たら信じないわけにはいかないわね」

「委員長どうしよう、助けてくれ」


 英二が委員長に泣きついた。秀輝も小乃子も面白がっていて当てにならない。


「仕方ないわね、こうしましょう」


 周りを見回すと、委員長がなにやら思いついた様子だ。


「雷が落ちたって事にしましょう、雷が教室に直撃したの、これなら教室が無茶苦茶になった事も説明できるわ、今まであった事は全部雷の所為にするの、幸いみんな気絶してるだけだし、足の生えた時計は消えたし、サンレイちゃんが電気を出したのも全て雷の所為って事にするの、いいわね伊東、小乃子」

「雷か、なかなかいいアイデアだな」

「俺たちはともかく、委員長の話ならみんな信じるぜ」


 小乃子と秀輝が了解というようにこたえる。


「みんな頼んだよ、委員長ありがとう」


 英二がほっと安心顔だ。

 サンレイが英二の肩をポンポン叩く、


「いざとなったら全員口封じに呪い殺してやるから安心しろ」

「絶対にするなよ、お前本当は悪魔か何かじゃないのか」


 英二が弱り切った顔でサンレイを見つめた。


 暫くしてみんなが目を覚ました。

 呆然としている小岩井先生や他の生徒たちに委員長が説明する。

 作戦通りに全て雷の所為という事で今回は収まった。



 全員で教室を片付けるとサンレイの紹介からやり直しだ。


「それじゃ、サンレイちゃんの席は高野くんの隣がいいわね、芽次間さん悪いけど席替ってあげてもらえる? 」


 サンレイが自己紹介を終えると小岩井先生がいつもの呑気な声で言った。

 英二の右隣に座っていた委員長が席を譲って自分は教室の左端の後ろから2番目の空いていた席に座った。

 英二から見て斜め左後ろ秀輝から見て斜め左前の席だ。


「ごめんね委員長」

「うんいいよ、サンレイちゃん可愛いしね、あとで事情を聞かせてね高野くん」


 手を合わせて頭を下げる英二に菜子が優しく微笑む、急な席替えを少しも嫌がっていない、さすが委員長である。

 英二の右隣にサンレイがちょこんと座る。


「あたしは久地木小乃子ってんだ。小乃子でいいよ、英二とは昔からのダチだ。よろしくなサンレイ、お前ちっこいな歳いくつだ? 」


 サンレイの後ろの席で小乃子が興味津々で挨拶した。


「おうよろしくな小乃子、おらは千歳くらいだぞ、神としてはまだまだ若いんだぞ」

「わあぁ、冗談だよ冗談、サンレイはこれでも15歳なんだよ、俺や小乃子と同じだよ」


 振り向いて挨拶するサンレイの隣で英二が慌てて誤魔化す。


「ウソだなお前の嘘はすぐに分かるんだ。英二は嘘つけないタイプだぜ」

「 ……後で話すから他には内緒だよ小乃子」


 ニヤッと口元を歪ませる小乃子に英二が観念するように頭を下げた。

 長い付き合いだ。

 もともと嘘の下手な英二が隠し通せるわけはない、諦めたような顔つきの英二がサンレイに向き直る。


「来るなって言っただろ、だいたい転入なんてどうやってしたんだ」

「にっひっひっ、おらは神様だぞ、神通力を使えばこれくらいの事はどうとでもなる」


 質問を待っていたかのようにニヤりと意地悪い笑みを見せた。


「お前の学校はロボットもいるんだな、だったらおらも居ていいだろ、なあなあ英二、おらも一緒でいいよな」


 意地悪い笑みから一転、サンレイが甘え声を出す。


「サーシャとララミは特別だよ、メイロイドをより人間らしくするために勉強させてるんだ。サンレイも勉強した方がいいか……仕方ないな、俺の言う事ちゃんときくんだよ」

「了解だぞ、だから英二は好きなんだぞ」


 何をするか分からないサンレイを野放しにするより自分の目の届くところへ置いておいた方がいいと考えた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ