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第26話

 サンレイが戻ってきて英二もすっかり元気になりまた楽しい生活が始まる。

 いや、妖怪火山犬のガルルンが来たことによって更に賑やかになった。


 サンレイは以前のように高校へと通い出す。

 術をかけ直して夏休みから2ヶ月間半ほど病気で長期欠席したことになっている。

 もちろん先生や生徒たちの記憶も戻っていた。


 5日が過ぎてガルルンも人間社会のことが少しわかってきた様子でそれなりに馴染んでいる。

 ハチマルと違って2人とも幼女と同じような精神年齢なので振り回されることも多くなったが学校では秀輝や小乃子たちが相手をしてくれ、家ではガルルンがサンレイの遊び相手になっているので英二の負担は以前と同じくらいだ。


 玄関の鍵を開けながら英二がサンレイに振り向いた。


「今日はバイトだからガルちゃんと遊んでろよ」


 サンレイが居るのでバイト先のコンビニには直接向かうのは止めて一旦家に帰るようになっていた。

 少し遅れるが引き継ぎなどは秀輝がやってくれるので安心である。


「わかったぞ、そん代わりお土産頼むぞ」


 ニパッと笑顔で催促するサンレイを見て英二が溜息をつく、


「まったく……アイスとシュークリームでも買ってきてやるよ」

「にへへへへっ、だから英二は好きなんだぞ、ガルルンとゲームでもして待ってるぞ」


 手伝いくらいしろよな……、また溜息をつきながら英二が玄関の戸を開けた。


「帰ったぞ」


 元気な声を出してサンレイが入っていく、


「英二お帰りがお~~ 」


 ガルルンがリビングから走ってくる。


「ガルちゃん、ただいま」


 優しく挨拶を返す英二の腕にガルルンが抱き付いた。


「今日はガルが風呂掃除したがお、ピカピカだから気持ちいいがう」


 英二の家が気に入ったのかガルルンは色々お手伝いをしてくれる。


「ガルちゃんは偉いなぁ~~ 」


 わざとサンレイに聞こえるように言った。

 サンレイがガルルンの頭をポンポン叩く、


「しっかり働けよ居候」


 英二がサンレイの手を払い除けてガルルンの頭を撫でる。


「サンレイも居候だからな、ガルちゃんは偉いなぁ~~ 」


 ムスッとしたサンレイが英二の腕を引っ張った。


「おらはもっと偉いぞ、だってだって守り神だからな、英二とこの家を守ってんだからな、そんで居候じゃないからな神様だぞ、ガルルンはペットだから食わして貰ってる分しっかり働くのは当たり前なんだぞ」

「ガルちゃんはペットじゃないからな、それに神様って言ってもハチマルは手伝いしてただろ料理も旨かったし…… 」


 プクッと頬を膨らませてサンレイが口を開く、


「おらも手伝いしてるぞ、英二の面倒見てんだぞ」

「いや…… 」


 逆だと言おうとして言葉を飲み込んだ。

 拗ねられたら面倒だと考えた。

 リビングから母の声が聞こえてくる。


「ガルちゃんおやつあるわよ、サンレイちゃんもいらっしゃい」


 色々手伝いをしてくれるガルルンは母から特に受けがいい。


「わふふ~~ん、おやつがぉ~~ 」


 ミニスカートから尻尾をパタパタ振り出してガルルンがリビングへと駆けていく。


「英二鞄頼むぞ」


 階段の下に鞄を放り出すとサンレイもリビングへと走り出す。


「おやつ~、おやつ~、今日のおやつは何だろな♪~~ 」

「おやつの前に着替えろよ、制服汚すなよ、まったく…… 」


 サンレイの鞄を持って英二が2階の自分の部屋へと上がっていく、


「ハチマルただいま」


 言った後でクスッと笑った。

 2人がいなくなってから机の上に立ててある写真に向かって挨拶するのが癖になっていた。

 ハチマルも眠っているだけとわかって以前のような寂しい声かけではない、嬉しくて自然と笑みになる。


「おっと、バイト、バイト」


 手早く着替えるとリビングに顔を出す。


「母さん今日バイトだから晩飯いいからね」


 ガルルンがおやつのプリンを食べる手を止めた。


「なんだ今日も仕事がう? 一緒にゲームしようと思ってたがお」


 つまらなそうに言うガルルンの頭を英二が撫でる。


「ゲームは帰ってからな、お土産にシュークリームとチーカマ買ってきてやるからね」


 ガルルンはチーズ蒲鉾が大好きなのがわかっていつも買って帰る事にしている。


「わふふ~~ん、チーカマがう、チーカマ食えるなら我慢して待ってるがお」


 瞬時に機嫌を直したガルルンを見て英二がリビングを出て行く、サンレイはプリンを食べるのに夢中で振り返りもしない。

 タタタッとガルルンが玄関までやって来て見送ってくれた。


「英二ぃ~、気を付けてな、車とか注意するがお」

「うん、じゃあ行ってくるよ」


 一心不乱にプリンを食べていたサンレイがバッと顔を上げた。


「おらは最中アイスだぞ、そんでシュークリームも忘れんなよ」

「まったく…… 」


 顔も見せずに大声を出すサンレイに英二は呆れて言葉も出ない。



 バイトを終えた英二が夜の10時過ぎに帰ってくる。


「お帰りがう、お風呂追い炊きしたから入るといいがお」

「ただいまガルちゃん、じゃあ風呂入るかな」


 ミニスカートからはみ出す尻尾をブルンブルン振りながら玄関で出迎えてくれるガルルンを見ると忙しいコンビニバイトの疲れなど吹っ飛んでしまう。


「おう英二、帰ったんか」


 廊下の突き当たりにある台所からサンレイがひょいっと顔を見せた。

 また何か食ってたのか……、英二は溜息をつくとコンビニの袋をガルルンに差し出す。


「はい、ガルちゃんお土産」

「チーカマがう、生クリームとカスタードの入ったシュークリームもあるがお」


 袋の中を見た後でガルルンが嬉しそうに顔を上げる。


「英二ありがとがう、お仕事お疲れ様がお」

「うんうん、ガルちゃんは良い子だねぇ~~ 」


 思わず抱き締めたくなる気持ちをぐっと抑えてガルルンの頭を撫でた。

 冷蔵庫に入っていた竹輪を両手に1本ずつ持って食べながらサンレイが歩いてくる。


「おらの最中アイスとシュークリーム忘れてないだろな」


 こいつは……、一瞬ムカッとしたが直ぐに諦めたように口を開く、


「忘れてないよ、アイス溶けないように冷蔵庫に入れとけよ」

「にひひひひっ、心配無いぞ、だってだって今食べるからな」


 サンレイはニターッと笑うとガルルンの持つ袋から最中アイスを取り出した。


「シュークリームとチーカマは後で食うから冷蔵庫に入れとけよ」

「チーカマはガルのがお、サンレイはアイスがう」


 ガルルンがチーズ蒲鉾を隠すように胸元に入れる。


「じゃあこうしよう、この竹輪1個とチーカマ1個を交換だぞ」


 サンレイが食べていた方の手と反対側に持っていた竹輪をガルルンに差し出した。


「竹輪と? 交換がう? 」


 ガルルンが子犬のように首を傾げて暫く考える。


「そだぞ、この竹輪美味しいぞ、おらが今まで食べた竹輪の中で1番だぞ」

「そんなに美味しいがお? なら1本だけなら交換してもいいがう」


 アホの子だ……、英二が何とも言えない表情で口を開く、


「ダメだからな、ガルちゃん騙されるな、竹輪は冷蔵庫に入ってるから食べたかったら自分で取ってきて食べたらいいからな」


 ガルルンがハッと顔を上げる。


「ほんとがう、もうちょっとで騙されるとこがお」

「にははははっ、惜しかったぞ、んじゃゲームで勝負だぞ、勝った方がチーカマ食えるんだ。負けるのが怖いなら受けなくてもいいけどな」


 サンレイが笑いながらガルルンの肩をポンポン叩いた。


「がふふん、ガルが負けるわけないがお、ゲームはサンレイといい勝負してるがお」


 鼻を鳴らすガルルンを見てサンレイがニヤッと笑う、


「そんじゃあ勝負受けるんだな」

「受けて立つがお、チーカマは全部ガルが貰うがお」


 手を伸ばした英二が割って入る。


「ちょっと待て、勝負するのはいいサンレイは何を出すんだ? 」

「何言ってんだ? おらが何か出さすわけないぞ、勝負して勝ったものがチーカマ貰えるんだぞ、チーカマを懸けた勝負なんだからな」


 とぼけ顔で言うサンレイの隣でガルルンもうんうん頷く、


「そうがう、チーカマを懸けた真剣勝負がお」


 英二が哀れむような視線をガルルンに向ける。


「勝負関係無しにチーカマはガルちゃんのものだよね、それを懸けて勝負して勝った方がチーカマ食べるだけじゃガルちゃんが損するだけだろ、サンレイは負けても何も失わないけどガルちゃんはチーカマ無くなるんだよ」

「ガルのチーカマがなくなるがお? ガルのチーカマを懸けて勝負するがう、それで負けたらガルのチーカマは減ってサンレイは何も出さないから…… 」


 頭を左右に傾けながら一生懸命に考えていたガルルンがハッとして顔を上げた。


「賭事になってないがう、サンレイ何も出してないがお、ガルのチーカマがいつの間にか賞品になってるがう、勝っても負けてもサンレイは損しないがお」


 やっと気が付いたのかマジでアホの子だ……、弱り顔から一転して英二がサンレイを睨み付けた。


「ガルちゃんのチーカマ取ったらもうアイス買ってこないからな」

「にへへへへっ、冗談だぞ、おらは最中アイス食べるからガルルンはチーカマだぞ、そんでシュークリームは後で食べんぞ」


 笑って誤魔化すとサンレイはリビングへ逃げていった。

 英二が溜息をつくとガルルンの頭を撫でる。


「ガルちゃん、何でも信じちゃダメだよ、特にサンレイは悪戯ばかりするからね」

「わかったがう、でも英二は信じてるがお」

「ガルちゃん…… 」


 ニパッと笑顔を見せるガルルンを見て抱き締めたくなる気持ちを抑えるのに必死だ。


 ガルルンは子犬と少女が混じったような姿をしている。

 背はサンレイより少し高いくらいで胸は少し大きい、頭に犬耳とお尻に尻尾が生えている。

 人間と同じような耳も付いている。つまり耳が4つある。

 頭の犬耳は超低周波や超高周波を聞き分けることができイルカやコウモリのように吠え声の反射を使って高性能なレーダーとして使うことができる。

 山犬なので全身に毛が生えているが正体を知っている英二や秀輝や小乃子たち以外には普通の少女にしか見えない、サンレイのように人間に変身しているのではなくて人間の姿に見えるように幻視の術を使っているのだ。


 異性というよりも愛玩動物的な可愛らしさを持ちまさにバカ犬といった感じのガルルンは思わず抱き締めたくなるが英二はぐっと我慢している。

 サンレイや小乃子に見られたら何を言われるかわからないだけでなく現状の関係が壊れるのが嫌なのだ。


「早くお風呂入るがう、上がったら一緒にゲームするがお」

「ガルちゃんゲーム旨くなったからな、今日は負けるかもな」

「がふふん、英二が学校行ってる間に特訓してるがお、今日は負けないがう」

「じゃあ勝負しますか」

「勝負がう、勝ったらチーカマ一つあげるがお」


 階段を上がっていく英二を見上げてガルルンが楽しそうに笑った。



 風呂から上がると約束通りにサンレイとガルルンとゲームをして遊ぶ、今日は宿題も無いので気が楽だ。

 普段はバイトのある日は寝る時間を1時間ほど削って宿題をしている。


「あ~、負けたがお、でももうちょっとで勝てるがお」

「おらに勝とうなど10年早いぞ、このゲームはハチマル以外に負けたこと無いからな、秀輝にも勝ってんだぞ」


 悔しげなガルルンを見てサンレイが偉そうに胸を張った。

 ガルルンも負けじと不敵に鼻を鳴らす。


「がふふん、直ぐに追い抜いてやるがお、偉そうにできるのも今のうちがう」

「にひひひひっ、んじゃ明日は何か懸けてやんぞ」

「がふふふっ、その勝負受けたがお、昼間特訓してサンレイに勝ってやるがお」


 険悪な感じで笑い合う2人の間に英二が割って入る。


「まあまあ、2人とも強いよ、俺なんか全然だ。反射神経が追い付かないよ、流石神様と大妖怪ってところだな」


 サンレイが嬉しそうに右から英二に抱き付く、


「にへへへへっ、おらが強いのは当たり前だぞ、だってだって、このゲームいっぱいやったからな、初めは英二にも負けてたからな、でも1週間くらいで勝つようになったぞ」

「そういやサンレイはこのゲームばっかりやってたな、でもガルちゃんも惜しかったよな、あと数日練習したらサンレイにも勝てそうだよ」


 ガルルンが鼻を鳴らしながら左から英二に抱き付く、


「がふふん、英二とサンレイが学校行ってる間にゲームしてるがお、母ちゃんの手伝いもしてるがう、ガルはできる女がお」

「ガルちゃんは偉いなぁ~~、母さんも褒めてたよ、ガルちゃんは小さいのに色々手伝ってくれるって…… 」


 言いながらサンレイを見るとプクッと頬を膨らませていた。


「おらは学校で勉強が忙しいからな、だから手伝いできないんだぞ」


 英二が顔の前でブンブンと手を振る。


「いや、いや、いや、勉強してないから、学校でも落書きして図鑑読んでるだけだから、小乃子たちと遊んで弁当食って帰るだけだから」


 サンレイがニターッと不気味な笑みをする。


「んじゃ、おらも手伝ってやんぞ、今日から英二家の電気は全部おらが発電してやんぞ、家に繋がる電線切っておらに繋げば直ぐだぞ、エアコンも炊飯器もテレビも全部おらが制御してやんぞ」

「止めてくれ、爆発でもしたら大変だ」


 慌てて止める英二を悪い笑みのままサンレイが見上げる。


「だっておらが手伝えることといったら電気しかないぞ、肉体労働はガルルンでおらは知的派だからな」

「わかった。わかったから電気は無しだ。サンレイは勉強が忙しいのはわかったから」


 何が知的派だと思いながらどうにかサンレイを宥めた。


「サンレイとガルルン相手じゃ格闘ゲームはどうやっても勝てないからレースゲームにしようよ、レースならまだいい勝負できるからね」


 話題を変えるとガルルンが飛び付いてきた。


「がふふふふっ、ガルは車のゲームも得意がお、これならサンレイにも負けないがう」

「んだと、ガルルンなんかぶっちぎりで勝ってやんぞ」


 怒るサンレイを余所にガルルンが立ち上がる。


「その前にトイレいってくるがう、ゲーム用意して待ってるがお」


 言うが早いか英二の部屋を出て行った。


「やっぱ、ガルちゃん可愛いよなぁ」


 英二が頬を緩める。

 ガルルンは言葉を話せる子犬といった感じでエロいと言うよりも愛玩動物的な可愛さに英二はめろめろである。


 サンレイが英二に抱き付く、


「おらの方が可愛いぞ、ガルルンなんて毛むくじゃらのバカ犬だぞ」

「ぬいぐるみみたいな毛むくじゃらだから可愛いんだろ」

「英二はおらよりガルルンのほうが好きなんだな」


 プクッと頬を膨らますサンレイを見て英二が慌てて口を開く、


「そんなんじゃないからな、ガルちゃんもサンレイも両方好きだからな、順番なんてないから両方大事だからな、サンレイが消えて物凄く悲しかったんだからな」


 英二がギュッとサンレイを抱き締めた。


「ほんとにおらを好きなんだな」


 サンレイが腕の中で英二を見上げる。


「うん好きだよ、サンレイのことは大好きだ」


 腕の中でサンレイがニタッと厭な笑みをした。


「にひひひひっ、んじゃ、浮気したらビリビリだからな」

「なっ何言ってんだよ、浮気とか、サンレイは俺の守り神だろ、恋人とかじゃないだろ」


 抱いていたサンレイを英二が慌てて離す。


「そっちこそなに言ってんだ。おらと英二はもう付き合ってんだぞ、愛し合う仲だぞ、守り神と言えば家族も同然だからな、付かず離れず。英二とおらは一進一退だぞ」

「一進一退じゃなくて一心同体だろ、サンレイは可愛いから俺も好きだけど付き合うとかじゃないよな、付かず離れずならくっつきもしないよな」


 慌てる英二の向かいで暫く考えてからサンレイが口を開く、


「 ……付いて離れずだぞ、引っ付いて二度と離れないんだぞ、だからもう英二とおらは恋人同士だぞ、小乃子は人間の恋人として許してやんぞ、でも他の神とか妖怪は別だぞ、浮気したらビリビリだからな」


 こいつやっぱり疫病神なんじゃ……、恐る恐る英二が質問する。


「ビリビリって? 俺に電気攻撃するつもりか? 」


 ニヤッと悪い笑みをしてサンレイが英二の手を取る。


「にひひひひっ、こうだぞ」


 サンレイの体がバチバチと雷光をあげた。


「わあぁ~、電気は止めろ! 」


 英二が手を離そうともがく、次の瞬間、


 ボンッ! 


 サンレイが握った手が小さな音を上げて爆発した。


「うわっ!? 大丈夫かサンレイ」


 尻餅をつくサンレイを見て英二が慌てて声を掛けた。


「おおぅ、ボンッてなったぞ」


 サンレイがきょとんとして英二を見つめる。


「手が真っ赤だ。大丈夫か? ビリビリって電気じゃなくて爆発かよ」


 手が痛いのも忘れてサンレイを抱き起こす。


「ボンッてなったぞ…… 」


 驚きと困惑を浮かべてサンレイが英二を見つめる。


「なに驚いてるんだよ、サンレイがやったんだろ」

「違うぞ、おら電気流しただけだぞ、少しビリビリさせてやろうと思っただけだぞ」

「じゃあ、あの爆発は? 」

「英二の力だぞ」

「俺の力……あの爆発が? 」

「そだぞ、霊力が高まってるんだぞ、言っただろ英二には凄い霊力があるって、だからおらやハチマルは依り代に決めたんだぞ」


 英二の顔に驚きが広がっていく、


「俺の霊力が高まってる? でも何で? 」

「ハチマルが消えた時に霊力がぐんと大きくなったぞ、その後でおらが消えた。その前にも更に霊力が大きくなるのを感じたぞ、おら消えたから後のことまでわからないけど、たぶん、おらとハチマルが消えたのを切っ掛けにして英二の霊力の解放が始まったんだぞ」


 英二の顔が曇る。思い出したくもない記憶が蘇った。


「あの時か……何もできない自分が悔しくて、サンレイとハチマルが消えると思ったら体の中が熱くなって何かが爆発したような気がしたけど…… 」


 サンレイが英二を抱き締める。


「そだぞ、初めて会った時から英二には力があるって言ってただろ、おらもハチマルも変な力の解放にならないように気を付けてたんだけどな、でも怒りじゃなくて良かったぞ、英二のはおらとハチマルを思う優しさと悲しみだからな、静の力だぞ、良い力だぞ」

「静の力? 怒りだとどうなってたんだ? 」


 サンレイの胸に顔を埋めながら英二が訊いた。


「怒りは動の力だぞ、怒りの力は制御しにくいんだぞ、周りが見えなくなるからな、瞬発力は他の何よりも強いぞ、でも危険な力だぞ、身を滅ぼすってハチマルも言ってたぞ」

「そうなのか……そんな力が俺にあったなんて……でもどうして急に出てきたんだ? 」

「急じゃないぞ、あの日に解放されたけど使わないから静まってただけだぞ、そんでまたおらと接触したことによって英二の力の発現が始まったんだぞ、でも…… 」


 サンレイがマジ顔で英二を見つめる。


「でもこのままだと暴走するぞ」


 英二がバッとサンレイから離れた。


「暴走……どうなるんだ」

「ボンッてさっきみたいに爆発して木っ端微塵だぞ」


 英二が青い顔をしてガバッとサンレイの両肩を掴んだ。


「爆発して死ぬって事か……死にたくない、どうにかしてくれサンレイ、神様ならできるよな、頼むよ」

「痛いだろ、落ち着けよ」


 肩に掛かる英二の手を払うとサンレイが話を始める。


「英二の霊力が爆発する能力となって現われたんだぞ、霊力があれば色々できるけど得意不得意があるんだぞ、おらは攻撃系の術は得意だけど変身とか苦手だぞ、そんで電気を使うのが一番得意だから自然と電気使いになったんだぞ、ハチマルのように何でもできるヤツもいるけどな、それでも風を使うのが一番だからハチマルは風使いになったんだぞ、火山犬のガルルンは炎使いだぞ、だから知らずに使って爆発したって事は英二は爆発が得意って事だぞ」

「勝手に爆発するんじゃなくて俺には爆発させる能力があるって事か」


 両手を見つめる英二の向かいでサンレイが頷いた。


「そだぞ、英二は爆弾魔だぞ」

「人を犯罪者みたいに呼ぶな」


 厭そうに言い返す英二は少し落ち着いたのか顔に赤みが戻っている。


「でも爆発して死ぬなんて嫌だよ、助けてくれサンレイ」

「ハチマルが居れば直ぐ解決するんだけどな……おら苦手だしな…………心配すんな、力を制御すればいいんだぞ、おらが訓練してやるから安心しろ」


 悩むように話すサンレイを見ると安心どころか不安が広がる。


「訓練して制御できるようになれればいいけど…… 」

「大丈夫だぞ、おら教えるの下手だけどガルルンもいるしな、2人でどうにかしてやんぞ」

「ガルちゃんか…… 」


 当てにできそうにないな……、不安気な英二を見てサンレイがニパッと笑う、


「ある程度力が使いこなせるようになるまでは暴走しそうになったらおらが霊力を吸い取って止めてやるから安心だぞ」

「頼んだよサンレイ」


 頬をひくつかせながら英二が作り笑いをする。

 不安だがサンレイに任せるしかない。


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