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第25話 「火山犬のガルルン」

 行く所が無いというガルルンを連れて家に帰った。

 サンレイが起きたことは小乃子と委員長には電話で伝えてある。


 翌日、小乃子と委員長が家にやって来た。

 秀輝は当然のようにいる。

 宗哉はサーシャの腕の修理と戦闘用メイロイド5人を壊した件で忙しく今日は来ていない。


「サンレイ! 」

「サンレイちゃん」


 小乃子と委員長がサンレイを抱き抱えるようにして喜んで離さない。

 その様子を見る英二と秀輝も笑顔だ。


「ガルのことも話してやるがお」


 胡座をかく英二の膝にガルルンがポンッと座った。


「そうだね、この子はガルルンっていってサンレイの友達なんだ」


 ガルルンの頭を撫でながら経緯を話し始める。

 小乃子と委員長はサンレイを挟むように抱きながら聞いている。


「よろしくがお、ガルは神狼の直系の大妖怪、火山犬のガルルンがお、ガルはできる女がお、ガルが来たからには泥船に乗った気で安心していいがう」


 説明が終わるとガルルンがペコッと頭を下げた。


「泥船って沈んじゃうぞ」


 害は無いと判断したのか小乃子が楽しそうだ。


「大層に言ってるが只のバカ犬だぞ」


 英二の膝に座るガルルンを見てサンレイが顔を顰める。


「何処に座ってんだバカ犬、そこはおらの席だぞ、ガルルンは新聞でも引いて座ってろ」


 怒鳴るサンレイを見てガルルンがニヤッと企むように笑った。


「何言ってるがお、今まではどうか知らないがうけど、これからは英二の膝はガルの席がお、一緒に住むことにしたがおからな」

「へっ!? 一緒に住むって? ガルちゃんが? 」


 英二の頭の中で疑問符がクルクル回る。


「そうがう、今日からここに住むがう」


 ガルルンが潤んだ目でじっと見つめる。


「ダメがうか? ガルは行く所無いがう、英二に断られたらまた独りぼっちがう」

「ガルちゃん…… 」


 同情的な英二にサンレイが飛び付こうとするが小乃子と委員長が離してくれない。


「離せよ小乃子、委員長もだぞ」

「ダメよ、もうずっとサンレイちゃん抱っこしてるからね」

「そうだぜ、あたしらに何も言わずに勝手に消えた罰だ。今日は一日離さないからな」


 2人とも頬を擦り付けるように抱き付いて離す気配がない。


「騙されんな英二、ガルルンは1人でも平気だぞ、一匹狼とか言ってたくらいだぞ」


 2人の間でサンレイが必死に言った。


「そういや、カブト虫食べ放題全国グルメツアーの途中とか言ってたよな」

「いいぞ秀輝、そだぞ、秀輝の言う通りだぞ、ガルルンはカブト虫食べんだぞ、ツアーの続きするんだぞ」


 からかうように言った秀輝をキッと睨んだ後でガルルンが英二を見上げる。


「カブト虫より英二を選ぶがお、だから一緒に居ていいがう? 」

「ガルちゃん…… 」


 弱り顔の英二を見てもう一息だとガルルンが押した。


「英二に見捨てられたらまた野宿とドブ池の風呂と拾い食いの生活に戻るがお」

「ガルちゃん……いいよ、一緒に暮らそう、ガルちゃん可愛いから父さんたちも喜ぶよ」


 ガルルンがパッと顔を明るくする。


「ほんとがう? ここに居ていいがお」

「うん、バイトしてるからガルちゃんやサンレイの服や靴くらいは俺が買ってやれるし、御飯は一人増えてもどうにかなるし、秀輝や宗哉や小乃子や委員長も協力してくれるだろうからね」

「いいぜ、ガルルンは面白そうだからな」


 小乃子が一番に賛成してくれた。


「そうね、子犬って感じがして何か放っておけないわよね」

「俺は元から賛成だぜ、ガルちゃん強いし役に立つだろうしな、俺もバイトしてるから時々奢ってやるぜ」


 委員長と秀輝も異議はない様子だ。

 小乃子と委員長に挟まれたサンレイがみんなを見回す。


「騙されんな、何か企んでると思ったら初めから英二の家に住むつもりだったんだぞ」

「がふふん、そんな事知らないがお、ガルは企んだりしないがお、優しい英二と一緒に居たいって思っただけがう」


 とぼけるように鼻を鳴らすガルルンを見てサンレイが口を尖らせる。


「英二は本当に甘々だぞ、バカ犬を何処で飼うんだ? 玄関に小屋でも作るのか? おらとハチマルの部屋はダメだからな」

「友達だろバカ犬とか言うな」


 サンレイを睨んだ後でガルルンに向き直る。


「ガルちゃんは兄貴の部屋を使えばいいよ、滅多に帰ってこないからさ、テレビもベッドも自由に使っていいよ」

「テレビもあるがお? やったがお~~ 」


 両手を挙げて喜ぶガルルンを見て英二が嬉しそうに頷いた。


「まったく……仕方ないな、ちゃんとお手伝いするんだぞ」

「いや、サンレイも手伝いなんかしてないだろ」


 偉そうに言うサンレイを見て英二が苦笑いだ。

 話しに区切りが付いた所で秀輝が口を開く、


「サンレイちゃんの全快祝いパーティーしないとな」

「宗哉に頼もうよ、盛大にやってくれるぜ」


 小乃子がニヤッと笑う、宗哉に奢って貰うつもりだ。


「おぅ、そのアイデア乗ったぜ、宗哉なら間違いないぜ」

「2人とも甘やかすなよ、俺が大変なんだからな…… 」


 弱り顔の英二も暫く考えて賛成する。


「ガルちゃんの歓迎会を兼ねてってのはどうかな? 」

「おういいな、派手にやろうぜ、宗哉ならアイスクリームも食べ放題だぜ」


 秀輝の言葉にサンレイが反応する。


「おおぅ、聞いたかガルルン、アイスと肉と魚と全部食べ放題だぞ」

「肉と魚は何処から出てきたんだ。全くサンレイは…… 」


 呆れる英二の膝の上でガルルンが涎を垂らす。


「がるる……考えただけで涎が出るがお、カブト虫があれば完璧がう」


 サンレイがニパッと笑いながら口を開く、


「んじゃカブト虫も宗哉に頼むぞ」

「いいからね、カブト虫食べてるの見たら食欲無くなるからな、食い物と一緒に並べるものじゃないからな、ガルちゃんは肉があればいいでしょ」


 弱り切った英二を見てその場の全員が声を出して大笑いだ。

 サンレイやガルルンと夜まで遊んで秀輝と小乃子と委員長が帰っていった。



 サンレイが帰ってきて両親も大喜びだ。

 ガルルンのことも気持ちよく迎えてくれた。


 ガルルンが風呂に入って部屋に英二とサンレイの二人っきりになる。

 ベッドに並んで座ってテレビを見ていた英二が振り向く、


「田舎からPC98持ってこなくっちゃね」

「98は置いといていいぞ」

「パソコンが無くてもいいのか? 消えたりしたら厭だよ」


 不安に顔を歪ませる英二の背中をサンレイがバンバン叩く、


「にははははっ、心配すんな、消えたりしないぞ、向こうに置いとけば姉さんたちが力を入れてくれるぞ、少々力を使っても消えたりしないように頼んできたからな」

「姉さんってハチマルのこと? でも姉さんたちって言ってたよな」

「ハチマルはまだ寝てるぞ、他の姉さんに頼んできたんだぞ」


 首を傾げる英二にサンレイが含み笑いをしながらこたえた。


「他の姉さんってハチマルの他にも居るのか? 」

「そだぞ、田舎の蔵の中のパソコンで寝たのがおらとハチマルだぞ、その他に社に姉さんと妹が居るぞ、言っただろ道路工事した奴らを祟って社を作って貰ったんだが元の祠は4つあったのに社は1つだろ、4人だと居心地悪くておらとハチマルがパソコンの中で寝ることにしたんだぞ、だから社には姉さんと妹が居るんだぞ」

「4姉妹だったのか…… 」


 驚いて言葉を詰まらせる英二を見てサンレイが楽しそうに話を始める。


「そだぞ、おらが困ったら力を貸してくれるように姉さんに頼んだんだぞ、PC98に入ってるV30はおらの御神体だからな、向こうにパソコン置いとけばそれに姉さんが力を入れてくれる手筈になってんだ。姉さんと妹は山神だぞ、山の霊気を集めておらに力をくれるんだぞ」

「力をくれるって前より強くなったって事か? 」

「ちょっと違うぞ、能力はあまり変わらないぞ、持久力が増えたんだぞ、宗哉の工場で戦った時みたいなことがあっても安心だぞ」

「本当か? 消えたりしないんだね」


 英二が体ごとサンレイに向き直る。


「そだぞ、あの程度じゃ消えなくなったぞ」

「よかった……本当に良かった」


 英二がギュッとサンレイを抱き締めた。


「起きた後色々してたからそんで来るのが遅れたんだぞ」


 英二の胸元でサンレイが頬を赤く染める。


「大人の姿で、ナイスバディで出てこようとして遅れたんじゃなかったのか? 」

「そだぞ、姉さんたちの力借りて本当の姿で、ナイスバディで出てこようとしたんだけど旨く行かなかったぞ、元の姿に変身できる様にはなったけど霊力を多く使うくせに30分も持たないんだぞ、そんで霊力の無駄だから止めたんだぞ、ハチマルと違って術は苦手だぞ、攻撃する術は得意なんだけどな」


 照れるように話すサンレイを英二がまたギュッと抱き締める。


「ナイスバディじゃなくてもいいよ、サンレイは今のままが一番可愛いんだ。俺は今のままのサンレイが一番好きだよ」

「おらは嫌だぞ、だってだって、ナイスバディになっておっぱいブルンブルンさせて英二を誘惑するんだぞ、本当のおらはハチマルや委員長に負けないくらい良い女なんだぞ」

「ブルンブルンとかしなくていいからな、そんな事に力使わないでくれ、俺はサンレイやハチマルと一緒に居られるだけでいいんだからな」


 自分の言葉で何か思い付いたのか英二がハッとした顔になる。


「じゃあハチマルも姉さんと妹に力を貰えば目が覚めるんじゃないのか? 」


 サンレイを抱き締めながら英二が訊いた。


「おらが言っといたから今力を貰ってるぞ、でも暫くかかるぞ、ハチマルはおらより力を使ったからな、へたったバッテリーがスッカラカンになった状態だぞ、元に戻るには数回リフレッシュしないとダメだぞ、そんで少し遅れるぞ」

「遅くとも何でもいいよ、またハチマルに会えるなら」

「ハチマルはおらよりレベルが上の神様だからな、色々あんだぞ、気長に待ってれば参上とか言ってひょっこり出てくんぞ」

「よかった…… 」

「なあなあ英二ぃ~、またいっぱい遊ぶぞ、これからずっと一緒だぞ」

「うん、いっぱい遊ぼう、ずっと一緒だよサンレイ」


 幸せそうな顔をして2人がギュッと抱き締め合う。

 ドタドタと階段を上がってくる音がして部屋のドアがガラッと開く、


「がわわ~~ん、英二とサンレイがエッチな事してるがお」


 風呂上がりの湯気を立たせたガルルンを見て英二とサンレイがバッと離れる。


「ちっ違うから……違うからね、違うから…… 」


 焦りまくった英二は違うという言葉以外出てこない。


「そだぞ、何もしてないぞ、変な事言うなバカ犬! 」


 普段なら悪乗りするサンレイだが焦ったのか慌てて否定に回る。


「ほんとがう? 何か怪しいがお? 」


 ガルルンがじとーっとした目で2人を見つめる。


「サンレイとはそんな関係じゃないからな、エッチとかしてないからな」

「本当がう? それならガルにもチャンスはあるがお」

「チャンスって…… 」


 言葉を詰まらせる英二の隣でサンレイがキッと怖い目でガルルンを睨み付ける。


「やっぱり英二を狙ってんだな、英二はおらのだからなバカ犬」

「がふふん、そんな関係じゃないって英二が言ってるがお、ちんちくりんよりガルの方がいいに決まってるがう、ガルはできる女がお」


 バカにするように鼻を鳴らすガルルンにサンレイが掴み掛かる。


「何言ってんだ。犬臭い毛むくじゃらなんて好きになるわけないぞ、英二はおらの茹で玉子のようなつるつる肌が好きなんだぞ」


 負けじとガルルンも掴み掛かっていく、


「おっぱいもツルツルがお、ガルは結構大きいがお、ツルツルのおっぱいよりプルプルのおっぱいのほうがいいに決まってるがう」

「んだと! 本当のおらはナイスバディなのバカ犬も知ってるだろ、元に戻ったらガルルンなんて相手にもならないぞ」

「がふふん、負け犬の遠吠えがう、元に戻ってから言うがお、今のちんちくりんのサンレイなんてちっとも怖くないがう、はっきり言って相手にならないがお」

「んだと! やるんか! 表に出ろ、バカ犬なんかケツに棒刺してモップにしてやんぞ」

「面白がう、山では臭くて力が出せなかったがう、今なら本気が出せるがお、ちんちくりんのサンレイなんて敵じゃないがお、そのツルペタ胸を洗濯板に使ってやるがお」


 取っ組み合いになる二人を英二が慌てて止める。


「わあぁ~~、止めろ二人とも、喧嘩は無しだ。友達なんだろ仲良くしろ」


 取っ組み合いを止めて二人が英二に向き直る。


「だってだってガルルンがおらのことちんちくりんって言うから……英二もおっぱいデカいのがいいんだろ」

「ガルのことバカ犬って言ったがお、ガルはできる女がお……英二は毛むくじゃらは嫌がおか? 嫌なら全部剃るがお、ツルツルになるがう」


 サンレイもガルルンも幼女が拗ねて泣き出しそうな顔をしている。


「はぁ~~、まったく…… 」


 大きな溜息をつくと英二が二人を抱き寄せた。


「厭じゃないから、ガルちゃんもサンレイも今のままが好きだから、ナイスバディにならなくてもいいし毛も剃らなくてもいいから、今のままずっと一緒にいてくれればいいからね、秀輝も宗哉も小乃子も委員長もみんなそう思ってるからね」

「ほんとか? ずっと一緒に居てやるから毎日アイスだぞ」

「ガルも一緒がお、英二が遊んでくれたらずっと一緒に居てやるがお、それに英二の母ちゃん料理旨いからな」


 英二の頬にサンレイとガルルンが左右から顔をくっつける。


「うん、ずっと一緒だ。ずっと………… 」


 二人を抱きながら英二が幸せそうに微笑んだ。

 小さな神様との楽しい生活がまた始まる。


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