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第24話 「千年イチョウ」

 化けイチョウを助けようとサンレイが両手を当てる。


「なん!? 離れろ! 電光石火」


 サンレイが英二と秀輝と宗哉を連れてフッと消えた。


「危ないっす」


 豆腐小僧が豆腐小娘を庇うように押し退けてその場に伏せる。

 ガルルンがバッと跳んだ。


「がおがおパ~ンチ! 」


 イチョウに殴りかかったガルルンが弾き飛ばされて地面に転がる。


「ガルルン大丈夫か」


 電光石火で少し離れた所へ現われた英二が叫んだ。


「大丈夫がお、このくらい平気がう」


 すくっと立ち上がるガルルンを見て英二がほっと胸を撫で下ろす。


「ララミ、サーシャ、こっちへ来い」


 宗哉の命令でララミとサーシャが走ってくる。


「豆腐小僧もこっちへ来い」


 サンレイに呼ばれて豆腐小僧と小娘が慌てて走り出す。

 化けイチョウの巨木がざわざわと揺れる。


「グッグガガァアァ~、貴様らよくもやってくれたな」


 叫びと共に細い枝が生えてくる。

 英二が傍にいるサンレイの腕を握り締めた。


「なんで……邪気は払ったんだよな」

「首を切られた武士の悪霊だぞ、イチョウに乗り移ったヤツの他にまだ居たんだぞ、それが力を与えてんだ」

「武士の悪霊なんかやっつけられるよな? 」

「当たり前だぞ、なんたっておらは神様だぞ」

「あのイチョウは悪くないよね、助けてやってよ」

「当たり前だぞ、英二に言われなくとも助けてやんぞ、悪霊を引き離すのに少し痛めつけるけどな」


 握り締める英二の手をサンレイが解く、


「無茶しちゃダメだからな、サンレイに何かあったら……俺にできることは何でもするから言ってくれ」

「離れて見てろ、バカガエルと違って英二や秀輝の手に負える相手じゃないぞ」


 サンレイは笑顔で言うとガルルンと豆腐小僧に向き直る。


「豆腐小僧、英二たちを頼んだぞ、ガルルンはおらに手を貸せ」

「わかったっす。英二たちはオレっちに任せるっすよ」

「がふふん、化けイチョウなんかガル1人でも倒せるがう、ガルはできる女がお」


 張り詰めた表情の豆腐小僧の傍でガルルンが鼻を鳴らした。

 化けイチョウが巨木を震わせる。


「誰一人帰さん、貴様ら全員儂の養分にしてやるわ」


 大きな枝はサンレイが全て切り落としてつんつるてんになっていた巨木に細い枝が何本も生えて少し寂しいが立派な木に戻っている。



 化けイチョウを前にサンレイとガルルンが横に並ぶ、


「がふふん、サンレイはさっき戦ったから今度はガルに任せるがお、サンレイだけに良い格好させないがう」

「そだな、任せるぞ、悪霊引っぺがすのに力使うからな、ガルルンが弱らせてくれれば楽になんぞ、でもまた操られんなよ、あいつ結構強いぞ」

「がふふん、英二が見てるがお、ガルの格好良いところを見せるがう」

「何張り切ってんだ? 最後に悪霊退治して格好良いところ見せるのはおらだぞ」


 得意気に鼻を鳴らすとガルルンが化けイチョウに向かって行く、その背をニヤッと意地悪顔でサンレイが見送る。

 後ろで見ていた秀輝が楽しそうに口を開く、


「おっ、ガルちゃんが先に仕掛けるみたいだぜ」

「何で一人で戦わせるんだよ」


 隣で英二が心配顔だ。

 化けイチョウの直ぐ前まで行くとガルルンが構える。


「降参するなら今のうちがう、今なら怪我しなくて済むがお」


 鋭い爪を見せ付けるように構えるガルルンに化けイチョウが細い枝を伸ばしてくる。


「ほれカブト虫だよ、好きだろう」


 ギロッと見た後でガルルンが枝を叩き折った。


「そんな手に乗るか! 冬にカブト虫なんかいないがお、カブト虫は夏の味覚がお」


 化けイチョウがまた枝を伸ばしてくる。


「ほぅら、カブト虫の幼虫だよ、冬籠もりでぷくぷくに太って美味しいよ」


 ジロッと見たガルルンの顔が緩んでいく、


「わふぅ~~ん、幼虫がお~~ 」


 尻尾をぱたぱたと振りながらガルルンが今にも飛び付きそうだ。


「わあぁっ、乗りまくってるから、サンレイ止めてくれ」


 後ろで見ていた英二が慌てて大声だ。


「仕方ないなぁ~ 」


 サンレイがガルルンの尻尾を掴んで止める。

 英二の隣で秀輝が呟く、


「マジでカブト虫を食うんだな」

「うん、冗談じゃなかったんだね」


 残念そうな英二にガルルンがバッと振り返る。


「世の中には我慢できるものとできないものがあるがう、カブト虫の美味しさは我慢できないがお」

「そこは我慢しようよ、ガルちゃんはできる女なんでしょ」

「カブト虫の前ではだらしない女になるがお、頭で分かっていても味覚は正直がお、クワガタ虫には負けない、でもカブト虫には……ああん、美味しすぎるビクンビクンって感じがう」

「ガルちゃんなんか変な本でも読んでるのか? 」

「クワガタよりカブトのほうが好きなんだな、ガルちゃん毛むくじゃらでも可愛いからいいけどヘンタイはちょっとな」


 困惑顔の英二の隣でじとーっと見つめる秀輝に気付く、


「秀輝っていったがう、何見てるがお? さてはガルに惚れたがう、できる女のガルに惚れるのも仕方ないがお」

「できる女でもカブト虫食う女はちょっとな…… 」


 嫌そうに言う秀輝を見てガルルンがムッとする。


「人間だってカニやエビは食うがう、それと同じがお、カニが海の味ならカブトは森の味がお、カブトの頭に詰まってるカブ味噌が美味しいがお」

「カニ味噌みたいに言うな!! 」

「森の味っていうより土の味しかしないだろ」


 怒鳴る秀輝の隣で英二が弱り切った顔だ。

 化けイチョウがざわざわと枝を揺らす。


「ほれカブト虫の幼虫だ。いくらでもあるぞ」


 ガルルンの足下にカブト虫の幼虫を沢山投げ落とした。


「わふぅ~~ん、カブト虫食べ放題がお」


 尻尾を掴むサンレイを振り切ってガルルンがその場にしゃがんだ。


「止めとけよ、絶対罠に決まってるぜ」

「ダメだよガルちゃん、サンレイ止めてくれ」


 大声で止める秀輝と英二に構わずガルルンが落ちているカブト虫の幼虫をむしゃむしゃ食べ始めた。


「何やってんだ…… 」


 呆れ顔のサンレイが止めさせようとガルルンの肩に手を掛けた。


「ぐっぐわぁ~ 」


 ガルルンが呻いてお腹を押さえる。


「臭いがお、カブト虫の幼虫じゃなくてギンナンの実がう、がぉ~体が痺れるがお~ 」


 苦しそうに言うとその場に倒れて手足をブルブル痙攣させ始めた。


「ガルちゃん」

「そこから動くな! 」


 慌てて駆け付けようとした英二と秀輝にサンレイが大声だ。


「まったく敵を弱らせることもできんのか本当にバカ犬だぞ」


 サンレイがガルルンの背に手を当てる。


「操られると厄介だから暫く眠ってもらうぞ」


 青い雷光がガルルンの体を包み込む、


「がっ、がふぅ………… 」


 苦しそうに呻くとガルルンがガクッと頭を落として動かなくなった。

 気絶したガルルンを背負うとサンレイの姿がフッと消える。


「頼んだぞ豆腐小僧」


 英二の足下にガルルンを置くとサンレイはまたフッと消えた。


「よかった。気絶してるだけだ」

「薬効豆腐を食わせるっす」


 英二が抱えるガルルンに豆腐小僧が妖怪豆腐を食べさせる。

 気絶していても口元へ近付ければ解けて体内に吸収されていく薬効豆腐だ。


 得意の電光石火を使って化けイチョウの上にサンレイが現われた。


「ガルルンはバカだけど大事な友達だぞ、苦しめた仇は取らせてもらうぞ」


 空中で大きく上げた足を振り落とす。


「雷鳴踵落とし! 」


 青く光る足が化けイチョウの細い枝を折りながら地面に降りていく、


「ギヒィ、グヒィハァ~~ 」


 化けイチョウが苦しげに呻いた。


「神の力か……神には敵わん………… 」


 化けイチョウがざわざわと枝を揺らす。


「だがこれならどうだ! 」


 化けイチョウがギンナンの実を飛ばす。


「ゲヒヒヒヒッ、奴らを先に片付けてやる。食らえ! 」


 サンレイが手強いと知って英二たちを襲った。


「なん!? 電光石火! 」


 サンレイが瞬間移動して英二たちの前に出る。


「ブンブンバリアー 」


 サンレイの体から出た雷光が英二たちを包み込む、電気でできたバリアーだ。

 雷光に触れたギンナンの実が爆発して、刃物のようなイチョウの葉は一瞬で灰となって落ちた。


「フー子危ないっす」


 少し離れた所にいた豆腐小娘に豆腐小僧が覆い被さるようにしてその場に倒れる。


「ぐはぁ~~ 」

「お兄ちゃん!! 」


 豆腐小僧の背に刃物と化したイチョウの葉が何枚も突き刺さる。


「豆腐小僧! 」

「助けに行くぜ」


 英二と秀輝が駆けていく、


「止めろ英二」


 大声を出すサンレイの目の前で刃物と化したイチョウの葉が英二と秀輝に襲いかかる。


「くぅぅ…… 」

「がっくそっ、英二大丈夫か…… 」


 倒れた2人の手足から血が流れるのを見てサンレイの顔から表情が消える。


「英二……秀輝………… 」


 呆然と呟くサンレイの顔がみるみる怒りに染まっていった。


「お前! お前ぇえぇ~~ 」


 バチバチと雷光をあげてサンレイの体がフッと消える。


「ぶっ殺してやんぞ!! 」


 化けイチョウの上に現われたサンレイが大声だ。


「雷ドーン! 雷鳴踵落とし! 」


 ゴゴゴーン、耳をつんざく音と眩しい光が空から落ちてきた。

 落雷だ。

 化けイチョウに直撃するとその後からサンレイの雷光を帯びた踵落としがぶち当たる。


「ギガギャアァ~~ 」


 化けイチョウの絶叫が山にこだまする。

 新たに生えた細い枝は全て落ち巨木の上半分が折れて倒れていた。

 サンレイがバッと振り返って大声を出す。


「英二は無事か! 秀輝は死んでないだろうな」

「大丈夫だよサンレイ、少し切っただけだから」

「酷いなサンレイちゃん、俺も大丈夫だぜ」


 上半身を起こす2人を見てサンレイの顔に安堵が浮かぶ、


「英二くん……ララミ、サーシャ、英二くんと秀輝の治療を早く」


 宗哉と共にララミとサーシャが駆け付ける。

 少し離れた所で豆腐小僧と豆腐小娘が立ち上がった。


「お兄ちゃん大丈夫」

「オレっちは平気っす。これくらい何ともないっすよ、それより英二と秀輝に薬を塗るっすよ、この薬を早く塗ってやるっす」

「わかった」


 豆腐小僧が懐から出した薬を受け取ると豆腐小娘が駆けてきた。


「これを使って、秘伝の塗り薬よ、切り傷なんて直ぐに治るわ」

「ありがとう、ララミは秀輝を頼む、僕は英二くんを…… 」


 ララミと宗哉が秀輝と英二の手足に薬を塗っていく、


「痛ててっ、凄く染みるぜ」

「くぅ、本当だね、焼けるように熱いよ」


 豆腐小僧がやって来た。


「我慢するっす。それが効くっすよ、血を止めて雑菌を殺してるっす」

「豆腐小僧も無事だなよかったぞ」


 サンレイも駆けてきた。


「化けイチョウはやったのか? 」

「まだだぞ、でも妖気は全部消してやったからもう何もできないぞ、半分折れたしな」


 心配顔で聞く英二にサンレイが怒り顔でこたえる。

 英二が助けてやれと言っていなければ問答無用で灰にしていただろう。


「サンレイ様、何か出てきますデス」


 サーシャが化けイチョウを指差した。

 上半分が折れた化けイチョウから黒い煙のようなものがゆらゆらと幾つも出てくる。


「あれは…… 」

「悪霊だぞ、首を切られた落ち武者だぞ」


 黒い煙のようなものが人の姿に変わっていく、手足があり2本足で立っているので人間とわかるがその頭が無かった。

 真っ黒い姿をした首の無い人間に見える。


「あいつらがイチョウの木に取り憑いていたのか」

「そだぞ、手柄を立てようと欲を出して武士になり落ち延びた所を欲に目がくらんだ村人に殺された霊だぞ、欲と恨みと妬みに固まった悪霊だぞ」

「おぉおぉ……うぉおぉ…… 」


 首もないのに悪霊が恨めしげな呻きを上げる。

 サンレイがバチバチと雷光をあげる腕を構えた。


「倒せるのか? 消えたりしないよなサンレイ」


 不安顔の英二にサンレイがニッコリと笑う、


「心配無いぞ、あいつらはイチョウの霊力を使って強くなってただけだぞ、もうイチョウの力は無いからな、只の悪霊だぞ、そんなものおらの力なら直ぐだぞ」


 笑顔から一転、怒り顔のサンレイがニヤッと口元を歪ませる。


「英二と秀輝を傷付けたんだ。謝っても許さないぞ、成仏なんてさせないぞ、この世から消してやんぞ」


 悪霊たちにバッと飛び掛かる。


「ぐぉおぉ……、うぉおぉ…… 」


 雷光をあげるサンレイの腕が悪霊を切り裂いていく、苦しげに呻きを上げると次々と消えていった。


「これで終わりだぞ」


 最後の1匹を切り裂くとサンレイが振り返る。


「あれだけ騒いだのに呆気ないもんだぜ」


 豆腐小僧の薬が効いたのか秀輝が立ち上がる。


「さっきまでの戦いで力は削いでやったからな、残りかすを叩き切っただけだぞ」

「これで終わったんだね」


 英二の傷も治っている。

 上半分の折れたイチョウの木が淡く光を放つ、


「ありがとう英二さん」


 サンレイと英二だけでなく秀輝やガルルンたちにも声が聞こえた。


「もう少しで神になれると思っていた。だが村人たちは神社を捨てた。私は人を憎んだ。無残に殺された武士たちに同情もしました。その結果がこれです。数百年生きていても所詮は只の木です。化けイチョウという妖怪が精一杯だったのでしょう」


 イチョウの前にサンレイが立つ、


「そんなことないぞ、神だって欲はあるんだ。お前は神になれるぞ」

「ありがとう……人を憎む心を突かれたのです。神になる資格などありません、ここで静かに山を見守りましょう」

「その心が神なんだぞ、山を見守るってのは山神の仕事だからな」

「 ……ありがとう、その言葉だけで私はやり直せます。ありがとう………… 」


 そう言うとイチョウは静かになった。


「死んだのか? 」

「大丈夫だぞ、眠っただけだぞ」


 心配顔で聞く英二にサンレイが寂しそうにこたえた。

 半分になったイチョウの木から小さな芽が出てくる。


「芽が出てる。まだ生きてるんだね」

「千年近く生きてんだ。そう簡単に死なないぞ、また千年生きて霊力を溜めるといい」

「今度こそ神様になれるといいね」

「こいついい神様になるぞ、そん時は友達になってやんぞ」

「そうだね千年静かに眠れるといいね」


 サンレイと英二だけでなく秀輝たちその場の全員が大きなイチョウの木を見上げた。

 豆腐小僧がサンレイに向き直る。


「騒動は終わったっすね、後は秘伝書を戻せばオレっちも帰れるっすよ、人間たちはここらに埋まってるとして秘伝書はどこっすかね? 」

「心配無いぞ、おらが探してやんぞ、どうせここらに埋まってるぞ」


 サンレイが両手を地面についた。


索電さくでん! 」


 青い光が地面を走って行く、暫く目を閉じていたサンレイがパッと目を開いた。


「あそこに埋まってるぞ」


 駆けていくと豆腐小僧が地面を掘って何やら取り出した。


「あったっす。秘伝書あったっすよ、これで里に帰れるっす」


 喜ぶ豆腐小僧を見ながら秀輝が呟く、


「やっぱ凄いぜ、探すこともできるんだな」

「電探ってヤツだぞ、おら電気使いだからな、人間の使うレーダーと違って電気そのものが手足みたいなものだからな米粒みたいなのでも探せるぞ、土の中でも水の中でも電気が通るとこならな」

「よかったな豆腐小僧、あとは埋まってる人たちを助けて終わりだね」


 英二の向かいで宗哉が爽やかスマイルで口を開く、


「後始末は僕に任せてくれ、攫われた人々の救出の手配はしてある」


 厄介ごとに巻き込まれないように警察やマスコミには宗哉が手を回してくれた。

 気を失っていたガルルンが目を覚ます。


「がう? ここは何処がお……カブト虫の幼虫が臭かったがお、腐ってたがう」

「違うからな、腐ってたんじゃなくて化けイチョウの罠だっただけだからね」


 弱り顔の英二をガルルンがじっと見つめる。


「ガルを罠に嵌めるなんて強敵がお、それで化けイチョウはどうしたがう? 」

「強敵って……ダメって言ったのに食べたでしょ、化けイチョウはもう片付いたよ」

「全部終わったがう? ガルの見せ場は無いがお? 格好良いところ英二に見せるがお」

「ガルちゃんの見せ場はカブト虫食べて転がり回ってただけだよ」

「がふふん、できる女のガルでもカブト虫の魅力には負けてしまうがお」


 呆れる英二の前でガルルンが何故か得意気に鼻を鳴らす。


「言っても無駄だぞ、バカ犬だからな」


 呆れ顔のサンレイがその場の全員を見回す。


「んじゃ帰るぞ」


 獣道を下って車が置いてある山道へと戻る。


「オレっちはここで……お前も頭を下げるっすよ」

「わかってるわよ、サンレイ様お世話になりました」


 豆腐小僧と豆腐小娘が改めて頭を下げた。


「また遊びに来るぞ」


 サンレイが手を上げて返すと豆腐小僧と小娘が頭を上げる。


「いつでも来てください歓迎するっすよ、英二と秀輝と宗哉もっすよ、それと小乃子さんと委員長にも宜しく言っといてくださいっす」

「わかったよ、豆腐小僧と豆腐小娘さんも元気でね」


 英二が笑顔で返す。

 大型バンに乗る英二たちを豆腐小僧が見送る。


「オレっちたちは豆腐あってこそだ。豆腐なくして存在しない、豆腐と添い遂げる夫婦みたいなものっす」

「兄さんは考えが古いのよ、豆腐なんかよりプリンの方がずっと美味しいじゃない」


 ゆっくりと走り出す車の後ろから豆腐小僧と小娘の言い合う声が聞こえてくる。


「喧嘩するほど仲が良いってヤツだぞ」

「そうだね、何だかんだ言って豆腐小娘さんって豆腐小僧のこと心配してたもんね」


 隣に座るサンレイを見て英二が楽しそうに笑った。


「豆腐小娘ちゃん、中々可愛かったよな」


 後ろで呟く秀輝にサンレイが振り返る。


「次に会う時はプリン小娘になってんぞ」

「プリン小娘か……豆腐全否定してたからな、けど兄妹喧嘩だと思ったら大変なことに巻き込まれたよな、正直サンレイちゃん居なかったら死んでたぜ」


 楽しそうに笑いながら英二も振り返る。


「あははっ、マジ死んでたな、でも豆腐小僧には感謝だよ、御陰でまたサンレイに会えたから…… 」

「そうだな、痛い目に遭ったことも全部許せるぜ」


 英二の隣でサンレイが厭な声を出して笑い出す。


「にひひひひっ、これでまた一緒にアイス食えるぞ」

「英二もバイト始めたからいっぱい奢って貰えるぜ」


 後ろから秀輝が悪い声で言うと英二が顔を顰める。


「1日1個だからな、後は服とか買うんだからな」

「おう楽しみだぞ、んじゃ帰るぞ、小乃子と委員長に早く会いたいぞ」


 秀輝の隣でガルルンがお腹を摩る。


「ガルお腹減ったがお、何か食べるがお」

「そうだね、何か食べて帰ろう、宗哉、何処か寄ってくれよ」

「了解した。僕が奢るよ、美味しいもの食べて帰ろう」


 一番後ろで宗哉が爽やかスマイルだ。


「やったがう、いっぱい食べるがお」


 喜ぶガルルンの前でサンレイが意地悪顔で口を開く、


「お前はカブト虫でも食ってればいいんだぞ」

「カブト虫は別腹がお、夏まで我慢がお」

「ガルちゃんは可愛いのにカブト虫食べるんだよな…… 」


 弱り顔の英二を見てガルルンがニッと可愛い笑みを見せる。


「英二も食べてみるがお、好き嫌いはダメがお」

「食べませんから、カブト虫は食べ物じゃないからね」


 困り切った顔の英二を見て車内が笑いに包まれる。

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