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第20話

 獣道を下って大型バンへと無事に辿り着いた。


 英二の背におぶさるサンレイの姿を見てサーシャとララミが車から降りて出迎える。


「サンレイ様、無事で何よりデス」

「サンレイ様、何処へ行っていらしたのですか? 長い間学校を休んでいましたので何処かでくたばったのかと心配していましたよ」


 ララミは丁寧だが相変わらす口が悪い。


「おう、ララミ、サーシャ、元気そうだな、おら田舎へ帰ってたんだぞ、そんで今日からまた戻ってきたから宜しくな」

「此方こそ宜しくデス」

「また学校で勉強せずに遊びまくるのですね、了解しました」


 英二の背におぶさったまま手を上げて挨拶するサンレイにサーシャとララミがペコッと一礼した。


「ララミ、サーシャ、105~109のメイロイドを回収してきてくれ、バラされているのは記録回路だけでいい」

「了解デス」


 宗哉に命じられてララミとサーシャが獣道を駆けていった。

 倒されたとはいえ最新の試作メイロイドだ。

 データーはもちろんだがボディも後で回収するつもりである。


 車の中で様子を伺っていた豆腐小娘が出てきた。


「サンレイ様…… 」

「おう、フー子元気だったか」


 おぶさるサンレイに英二が首を回して振り返る。


「フー子って豆腐小娘さんのこと」


 サンレイが英二の背から飛び降りた。


「そだぞ、豆腐何ちゃらなんて長い名前は面倒くさいから豆腐のフでフー子だぞ」

「オレっちのことも鼻垂れって呼んでたっすよ」


 迷惑そうに言う豆腐小僧を見てサンレイが楽しそうに口元を歪ませる。


「にへへへへっ、これからは豆腐小僧って呼んでやるぞ、フー子はフー子のままだからな、早く一人前になれよ、そしたら名前で呼んでやるぞ」


 豆腐小娘がサンレイの前に出てきた。


「サンレイ様、一人前になったらプリン小娘になってもいい? 」


 サンレイが首を傾げる。


「プリン? プリンってお菓子のプリンか? 」

「プリプリで甘くてクリーミーで美味しいプリンです」

「フー子はプリン好きなんか? 」

「大好きです。だから豆腐なんて止めてプリン小娘になりたいんです」


 声を大きくして言う豆腐小娘の正面でサンレイが腕を組む、


「そっかぁ~~、アイスも旨いけどプリンも旨いからなぁ~~ 」

「そうでしょ、それなのにお兄ちゃんはダメって言うんですよ」

「ダメに決まってるっす。豆腐一族は豆腐を作ってこそなんすよ」


 顔を顰める豆腐小僧に豆腐小娘がキッと怖い顔を向ける。


「そんなの古くさいわ、伝統も大事だけど革新も大事よ、サンレイ様お願いです。プリン小娘になれるようにサンレイ様からどうにか言ってください」

「いいぞ、プリン小娘になればいい、里にはおらが言ってやんぞ」


 豆腐小娘がパッと顔を明るくする。


「本当ですか!! 」

「ダメっすよサンレイ様」


 豆腐小僧が弱り切った顔で止める。


「ダメだよサンレイ、豆腐小僧が困ってるだろ」


 英二も慌てて追従した。


「やりたいならやらせればいいぞ、でも豆腐を極めてからだぞ、一人前の豆腐小娘になるのが条件だぞ、里の連中が認めるくらいの豆腐を作れるようになったらプリン作りを許すように言ってやんぞ、それまでは町に出てプリン食べるくらいにしとけ、週一くらいで町に出ることはおらが許可取ってやるぞ」


 サンレイの言うことも一理あるなと英二が豆腐小僧と豆腐小娘の様子を伺う。


「わかったわ、豆腐を極めてやるわよ、これならお兄ちゃんも文句ないでしょ」

「 ……わかったっす。里のみんなが納得する豆腐を作ればオレっちも文句ないっすよ」


 渋々といった様子で承諾する豆腐小僧の前で豆腐小娘が力強い声を出す。


「よしっ、やる気出てきたわ、町にプリンも食べに行けるし私も文句ないわ、サンレイ様ありがとうございます」

「それで秘伝書は何処にあるっすか」


 豆腐小娘が秀輝の背にいるガルルンを指差す。


「この山犬が持っていったわよ、山奥にある大きな木に人間どもを連れて行ってたから秘伝書もそこにあると思うわ」

「大きな木っすか、そこに山犬を操っていた敵がいるっすね」

「イチョウ様って操られてたの? 山犬を操るなんて大妖怪だよね」


 驚き顔の豆腐小娘を見てサンレイが口を開く、


「ガルルンを操るなんて簡単だぞ、食い物やるって言えば何でも言うこと聞くぞ」


 バカにするサンレイに英二が何とも言えない顔で口を開く、


「そんな……犬じゃないんだからさ、山犬っていうけど妖怪だろ」

「前にテレビで見たコーギーって犬よりバカだぞ」

「本当に友達か? 気絶させる時も容赦なかったし」

「家族と同じだぞ、言うだろペットは家族だって」


 ニパッと笑うサンレイを見て英二はそれ以上言うのを止めた。

 秀輝が背負っていたガルルンを車のシートに横たわらせる。


「取り敢えずガルルンちゃんを治して話を聞こうぜ」

「了解っす。サンレイ様なら里のみんなも大歓迎っすよ」

「里へ帰るのは10日ぶりね」


 呟くように言った豆腐小娘を豆腐小僧が見つめる。


「もう逃げないっすか? 」

「サンレイ様の許可があれば話は別よ、里の連中もプリンを認めるでしょ、それならイチョウなんかに従う必要も無いわよ」

「現金なヤツっす」


 呆れる豆腐小僧の前で豆腐小娘がカールの掛かった髪を手櫛で整える。


「どうしてもプリン小娘になりたかったのよ」

「フー子のそこが気に入ってんだ。良い悪い置いといて行動力は豆腐小僧より上だぞ」

「流石サンレイ様ね、石頭の里の連中とは違うわ」


 サンレイと豆腐小娘が顔を見合わせてニッと笑った。

 生意気なところと悪戯好きなところが似ていて気が合うのかもなと英二は思った。



 サーシャとララミがガルルンに倒された戦闘用メイロイドを運んできた。

 サーシャが2体でララミが1体だ。

 腹を破壊されたものと頭を潰されたものはデーターの入った記録装置だけ外してララミが持っている。


「ご苦労、後ろの車に積んでくれ」


 宗哉に命じられてララミとサーシャが後ろの大型バンに機能停止した戦闘用メイロイドを運び込む、


「みんな車に乗ってくれ、壊れたメイロイドの処理手続きもしないといけないし、何処かで夕食を食べてから豆腐小僧の隠れ里へ行こう」


 先に車に乗っていた秀輝が窓から顔を覗かせる。


「飯か、丁度腹減ってたところだぜ」


 サンレイが宗哉の腕を引っ張る。


「アイスクリームが食べたいぞ、美味しいアイスのある店にすんぞ」

「プリンもいい? プリンが乗ったパフェが食べたぁ~~い」


 豆腐小娘が甘え声を出して催促だ。


「パフェかぁ~、いいなぁ~、だったらおらはアイスの乗ったパフェがいいぞ」


 腕を引っ張りながらサンレイが宗哉を見上げる。


「了解した。パフェの種類の多いレストランにしよう」


 宗哉が笑いながらスマホを取り出すと近くの店を検索する。


「英二くんと秀輝もいいよね? 」

「いいぜ、サンレイちゃんが喜ぶなら俺は何でもいい」


 秀輝が速攻でこたえる。


「オレっちもパフェ食べてもいいっすか? 」

「もちろんだよ、好きなだけ食べていいよ、全部僕の奢りだからさ」


 期待顔の豆腐小僧に宗哉が爽やかスマイルだ。


「あんまり甘やかすなよ、今日はサンレイが起きた日だからいいけどさ」


 只1人英二だけが迷惑顔だ。


「んじゃ早く行くぞ」


 元気よく飛び乗るサンレイに続いて英二たちも車へ乗り込んだ。



 宗哉が予約した高そうなレストランで夕食をとる事になった。

 気を失っているガルルンは車の中でララミとサーシャが見ている。

 何かあればサンレイが電光石火で直ぐに駆け付けることができるので安心だ。


 英二と秀輝と宗哉とサンレイと豆腐小僧と豆腐小娘の6人でテーブルを囲む、


「デザートは後にしろって言ったのに…… 」


 トイレから帰ってきた英二が溜息をついた。

 向かいに座っているサンレイと豆腐小僧と小娘の前には大きなパフェが並んでいる。

 サンレイがイチゴやメロンにアイスが乗ったアイスパフェで豆腐小僧たちがプリンとフルーツの乗ったプリンパフェだ。


「心配すんな、デザートはアイスを食うぞ」

「2つも食べる気か? 」


 呆れ顔で訊く英二の向かいでサンレイがニパッと笑顔になった。


「今食べてるのがオードブルで次に食べるのがメインディッシュでデザートにアイスの単品を食べるんだぞ」

「3つか……こんな贅沢今日だけだからな」

「宗哉が時々奢ってくれるぞ、さっき約束したからな」


 どうやらトイレに行っている間にお強請りしたらしい。


「甘やかすなって言っただろ宗哉」

「月に2~3回ならいいだろ? サンレイちゃんに対する僕の気持ちさ」


 爽やかスマイルでこたえる宗哉の隣で秀輝が早く座れと椅子をポンッと叩く、


「まあいいんじゃねぇの、宗哉が奢る分で英二のバイト代浮くだろ、それでサンレイちゃんの服でも買えるぜ、そんな事より早く食えよ、冷めるぜ」

「宗哉がいいならいいけど…… 」


 今一納得していない顔をしながら座ると英二がカツカレーを食べ始める。

 向かいでサンレイが凄い勢いでパフェを食べ終えるとメニューを広げる。


「次はどれにしようかな~~、フー子はどれにする? 」

「私もいいの? 」

「いいぞ、3つでも4つでも、宗哉は太っ腹だからな、豆腐小僧も頼め」

「オレっちもいいっすか? 物凄く美味しいっすけどこのレストラン高いっすよ」

「心配無いぞ、遠慮なく頼むんだぞ」


 まるで自分が奢るような言い方をするサンレイを見て英二がカレーを食べていたスプーンを止める。


「まったく、宗哉も秀輝も甘いんだから……まあ、パフェとかアイスのことはいいか」


 コップの水をゴクゴク飲んでから英二が続ける。


「それよりサンレイに聞きたいんだけど、何時起きたんだ? 俺や秀輝がガルルンにやられそうな時にタイミングよく助けてくれたけど」


 英二の隣でグラタンとパスタを食べていた秀輝もスプーンを止めた。


「俺も聞きたかった。四国から和歌山までどうやって来たんだ? 電光石火ってヤツか? でも瞬間移動は短距離しかできないんだろ」

「よしっ、決めたぞ、次は抹茶と小豆の入ったアイスパフェにすんぞ」


 サンレイがメニューを閉じると店員を呼んで注文する。


「じゃあ私はふわとろプリンとコーヒーゼリーの生クリームパフェお願いします」

「オレっちも同じヤツ頼むっす」


 豆腐小娘も一緒に頼むとついでとばかりに豆腐小僧も注文した。

 店員が注文を受けて去ると同時に英二が口を開く、


「アイス好きなのはわかってるけど生クリームとか甘いのばかりよく食べられるな」

「甘いのは別腹だぞ」

「別腹って甘いのしか食べてないからな、それより此処までどうやって来たんだ? 」

「一寸待て、口の中が甘くてべちゃべちゃだぞ」


 コップの水を一口飲んで口の中でグチュグチュしてからサンレイがこたえる。


「英二の居場所は直ぐに分かるからな、だってだって、おらと英二は愛の力で結ばれてるからな」

「なん!? 英二とサンレイ様はそんな関係だったっすか」

「やっぱりね、そんな気がしてたわ」


 驚く豆腐小僧の隣で豆腐小娘が意味ありげにニヤついている。


「ちょっ、違うから、サンレイとは何もしてないからな、依り代ってだけだからな」

「そだぞ、今はまだ何もしてないぞ、少しずつ愛を育んでるんだぞ」

「ちょっ、いいから、そんなのはいいからどうやって来たのかを聞いてるんだ」


 英二が慌てて話を変えようとする。


「雷に乗って来たんだぞ、雲から雲へ雷を走らせたら四国からここまでなんかあっと言う間だぞ、んでここに落ちたら毛むくじゃらが吹っ飛んでいったぞ、まさかガルルンだとは思わなかったからな、でも英二が吹っ飛ばなくてよかったぞ」

「狙って落ちたんじゃないのか? 」

「遙か空の上から狙えるわけないぞ、英二の気は感じたからそこへ落ちただけだぞ」

「俺に落ちてたら死んでるからな」

「そこまで考えてなかったぞ、でも結果オーライだぞ」


 青い顔の英二にサンレイがVサインをしてニッコリと笑った。

 横で聞いていた秀輝が苦笑いしながら話しに加わる。


「雷か、そりゃ速いわけだぜ」

「流石サンレイちゃんだね、電気なら四国から和歌山なんて一瞬で来れるよ」


 一つ間違えれば英二に雷が落ちていたのだ。

 褒めた宗哉も笑顔が引き攣っている。


「そだぞ、一瞬だぞ、本当は三百年高野豆腐の妖力貰った後直ぐに起きてたぞ」


 満面の笑みで言うサンレイを見て英二だけでなく秀輝と宗哉もその場で固まる。


「じゃあ何で直ぐに出てこなかったんだよ、待ってたんだよ、心配したんだよ」


 英二がガバッと身を乗り出す。


「にへへへへっ、どうにか大人の姿で出てこようとしたんだけど旨くいかなかったぞ、そんで遅れたんだぞ」

「大人の姿って……そんなのどうでもいいからね、サンレイはそのままの方が可愛いからね……でもよかった。サンレイが無事で………… 」


 マジ顔で言う英二の前でサンレイが拗ねるように頬をプクッと膨らませた。


「だってだって、ナイスバディになって英二を悩殺したかったんだぞ、おらの本当の姿を見れば英二は一コロだぞ」

「どんな姿でもサンレイはサンレイだから…… 」


 目に溜まった涙を拭って座り直す英二を見てサンレイがニッと笑う、


「おらを起こしに来た日から英二たちの声は聞こえてたぞ、秀輝の武勇伝はまだまだだけどな、英二たちが豆腐小僧のために色々してるのはわかったぞ」


 秀輝がスポーツ刈りの頭を掻く、


「まだまだか……確かにな、化けガエルくらい素手でも倒せるくらいにはなりたいよな、でも英二は頑張ってるんだぜ、走りと腕立てなんか3倍近く出来るようになってる。今じゃ体育でクラスの上位グループに入れるぜ」

「秀輝の指導がいいからな、脳筋ゴリラだから効率的な鍛え方してくれるからな」


 英二の頭に秀輝が腕を回してぐりぐりする。


「誰がゴリラだ。お前が泣いて頼んだんだろ、教えてくれって」

「痛てて……冗談だ。冗談」


 秀輝が手を離すと英二が挟んで向こうにいる宗哉を見る。


「宗哉も色々力を貸してくれたんだよ、警棒とかメイロイドとか、宗哉がいなければ初めの日に化けガエルにやられてたよな」

「僕は当たり前のことをしただけだよ、メイロイドなんてデーターを取ることができて逆に役に立ってるよ」


 英二に褒められて嬉しそうな宗哉を秀輝が肘でつつく、


「俺も少し見直したぜ、作戦立てたのと手配したのは宗哉だからな、それに要人警護用に強化したメイロイドを、1人数億するヤツを5人も壊すなんて俺には無理だからな」

「さっき電話したら怒られたよ、無理言って借り出したからね」

「全部壊したもんな」

「いくら御曹司でも流石に怒られるよな」


 恥ずかしそうに言う宗哉を見て英二と秀輝が楽しそうに笑った。


「相変わらず仲良しで安心したぞ」

「友達だからな、サンレイちゃんとハチマルちゃんの悲しむ顔なんて見たくないからな」


 宗哉のことを嫌っていた秀輝が言うのを見てサンレイの目が優しくなる。


「秀輝も宗哉も前より心が良くなってんぞ、英二も優しいままだからおらもこうして人の姿で出てこれるんだ。またみんなと会えておら本当に嬉しいぞ」

「依り代ってヤツだよね、霊力も必要だけどそれ以上に心の相性が合わないと存在できないんだよね」

「そだぞ、英二は霊力も大きいしおらとの相性がピッタリだからな」


 秀輝が英二を押し退けてサンレイの前に出る。


「じゃあ心の相性が合えば俺にもサンレイちゃんやハチマルちゃんみたいな神様を持てるのか? 」

「そだな……秀輝は霊力はあまりないけど体力があるから相性さえ合えば1人くらいなら大丈夫だぞ」

「マジかよ」


 ぱあっと顔を明るくする秀輝の隣で宗哉がマジ顔で口を開く、


「僕はダメかな…… 」


 物欲しそうに見つめる宗哉にサンレイが溜息をついた。


「残念だが宗哉は無理だぞ、霊力も体力も不足だぞ、依り代になったら気力を吸われて動けなくなるぞ」

「そうか……運動して体力を付けたら持てるようになるのかな」


 落ち込んだ宗哉が縋るようにサンレイに訊いた。


「秀輝みたいになればな、でも依り代なんて無理してなるもんじゃないぞ、良いものだけじゃなくて悪いのも寄ってくるようになるからな、一度依り代になったら霊感体質になるから大変だぞ、憑いてたものが離れても悪霊やモノノケが寄ってくるようになるぞ、豆腐小僧が英二のとこに来たのも霊感体質になってるからだぞ」


 横から顔を出すようにして遮っている秀輝を英二が押し退ける。


「そうだったんだ。それで豆腐小僧は俺の所に来たんだね」

「そうっすね、英二だと直ぐに分かったっすよ、霊力を感じたっす。だから初めて会った時も声を掛けたっす」


 落ち込んでいた宗哉がパッと顔を上げる。


「少しでもチャンスがあるなら体を鍛えるよ、だって英二くんとサンレイちゃん見てたら凄く幸せそうだから」

「物好きだな、好きにすればいいぞ、何かできることあればおらが力貸してやるぞ」

「ありがとうサンレイちゃん」


 希望ができて宗哉の顔が明るくなる。

 話しが一段落したのを見計らうように秀輝が口を開く、


「サンレイちゃんの知り合いに俺の神様になってくれる可愛い子はいないのか? 大人の女でもハチマルちゃんみたいな歳でもいいぜ、大事にするからさ」

「目が凄いヤラしいぞ秀輝、知り合いは色々いるけどフリーなのはいないぞ、みんな山とか池とか神社を守ってるからな、おらだって守ってた山が壊されて仕方なく英二の蔵のパソコンで眠ってたんだからな」

「いないのか残念だ」


 じとーっとした目で言うサンレイの前で秀輝が心から残念そうだ。


「何か当てがあったら紹介してやるから気長に待ってろ」


 溜息交じりにサンレイが言った。


「それでハチマルはいつ起きるのかわからないのか? 」


 話題を変えるように英二が訊いた。


「まだまだ起きないぞ、おらより力を使ったからな」

「サンレイちゃんが起きたみたいに妖怪豆腐を使っても起きないのか? 」


 秀輝も心配顔だ。


「おらを起こしたのと同じ豆腐が3つくらいあれば起きるかもな」


 サンレイの言葉で英二と秀輝と宗哉が豆腐小僧に期待顔を向ける。


「無理っすよ、秘伝の三百年高野豆腐はあと5つしか無いっすよ、豆腐一族が三百年掛けて毎日妖力を注いで作るっす。途中で失敗することも多いっす。大きな力を込めた妖怪豆腐は簡単に作れるものじゃないっすよ、簡単に作れるなら秘伝じゃないっす」

「でも5つあればハチマルちゃんの眠る時間を短縮できるんだろ」


 弱り顔の豆腐小僧に秀輝が詰め寄る。


「三百年高野豆腐は里の宝っす。いくらハチマル様のためとはいえ簡単には使えないっすよ、オレっちも処分覚悟で無断で持ち出したっす」

「心配無いぞ、豆腐くれなんて言わないぞ、ハチマルはその内どうにかしてやんぞ」

「どうにかって起こせるのか? 」


 ケロッとした顔のサンレイを英二が見つめる。


「そうだな、幾つか心当たりがあんぞ、気長に待ってろ、用も無いのに急いで起こしたらそれこそハチマルに怒られるぞ、おらと違って色々煩いからな、消えたわけじゃないから心配すんな」

「そうか……サンレイがそう言うなら少し待つよ」


 残念そうな英二の隣で秀輝も不服顔だが従うしかない。

 注文したパフェが運ばれてきてサンレイたちが食べるのに夢中になって話が終わる。



「んじゃ行くか」


 食べ終わったサンレイが立ち上がる。


「アイスクリームは食べないのか? 」

「全部終わった後でまた宗哉に奢って貰うぞ」

「また勝手なこと言って……口の周りベタベタだ」


 サンレイの口の周りに付いた生クリームを英二が紙ナプキンで拭いてやる。


「了解したよ、全部終わったらみんなでまた食べよう、豆腐小僧たちだけじゃなくてサンレイちゃんの友達のガルルンちゃんも一緒にさ」


 宗哉がいつもの爽やかスマイルだ。


「ガルルンなんてカブト虫でも食わせてたらいいんだぞ」

「カブトムシは食べ物じゃないからな、本当に友達か? 」

「友達未満ペット以上って感じだぞ」

「いくら山犬だからって友達をペット扱いするな」


 ニパッと笑いながら言うサンレイの頭を英二がポカッと叩いた。

 笑いながら秀輝が立ち上がる。


「それじゃ、ガルルンちゃんを治しに行きますか」

「そうっすね、丁度里のみんなが起きる時間っすよ」


 時刻は午後7時を少し回っている。

 英二たちはレストランを出て豆腐小僧の隠れ里のある山へと向かった。



 車で20分程走って豆腐小僧の隠れ里がある山へ着いた。


 人が入らない山奥かと思ったが車がギリギリ通れるくらいの細い道が山頂まで続いているそれ程大きくない山だ。

 舗装されていない土が剥き出しの道を山の中腹まで進み途中から徒歩に変わる。

 気を失っているガルルンは秀輝が背負っている。


「あの藪の中っす」


 道路から外れて獣道を7分ほど行った先にこんもりと盛り上がった大きな藪が見えた。


「あの中に村があるのか? 」


 英二が訝しむのも無理はない、大きいとはいえ周囲20メートルもない藪だ。

 村があるとはとても思えない。


「ちっとも変わってないな、ハチマルが張った結界そのままだぞ」

「結界って? 」


 英二だけでなく秀輝や宗哉も聞きたそうにサンレイを見ている。


「空間を歪めてるんだぞ、この山は本当は一回りデカいんだぞ、空間を歪めて山頂部分があの藪の中に入ってんだ。そんで山が小さく見えるんだぞ、普通の人間は入ることはできないから安心して暮らせるぞ」

「そうっす。山頂部分が丸ごと隠れ里になってるんすよ」

「マジかよ、凄ぇな」


 驚く秀輝を見てサンレイと豆腐小僧が自慢気だ。


「さぁ、入るっすよ」


 豆腐小僧の後に続いて英二たちが藪の中へと入っていった。


「凄ぇ…… 」

「凄いね、時代劇みたいだ」


 藪の中には江戸時代の農村といった様子の村があった。

 段々畑や田んぼが沢山ある。

 茅葺きの家もざっと見ただけで30ほどあった。


 険しい顔をして村人たちが集まってきたがサンレイの姿を見ると直ぐに顔から険が消えて笑顔になった。


「サンレイ様、ようこそおいでになりました。我ら豆腐一族歓迎しますぞ」

「おぅ、来たぞ、そんで頼みがあるんだ」


 長老が頭を下げるとサンレイが片手を上げて軽い挨拶だ。


「何でもおっしゃってください、サンレイ様のためなら一族力を惜しみませんぞ」


 立ち入り禁止である人間の英二たちを見ても咎めることもない、サンレイがいかに力を持っているのかがわかる。


「おらの友達が変な妖怪に操られて困ってるんだぞ、そんで豆腐小僧に頼んで三百年高野豆腐を貰ったぞ、御陰で助かったぞ」

「なっ三百年高野豆腐を…… 」


 絶句する長老を見て豆腐小僧が頭を下げる。


「黙って持ち出して申し訳ないっす。一刻を争う事だといわれて許可を取る時間も惜しかったっすよ、オレっちどんな罰でも受ける覚悟っす」

「おらのために使ったんだぞ、許してやってくれ」


 サンレイが頭を下げると長老が大慌てて止める。


「おやめ下さいサンレイ様、我らに頭を下げる必要などありません、三百年高野豆腐は確かに持ち出し禁止の秘伝豆腐、ですがサンレイ様が使ったのなら仕方ありません、もちろん豆腐小僧を咎めたり致しません」

「助かったぞ、そんでこいつらはおらが世話になってる人間だぞ、これから妖怪退治に行くから一緒に連れてきたぞ」

「そうでしたかサンレイ様のお連れ様なら人間だろうと歓迎しますよ、此処では何ですから私の家へどうぞ」


 長老に招かれて歩き出す。

 先を歩くサンレイが振り返ると旨くいったというようにニヤッと笑った。

 車の中で口裏を合わせていたのだ。


 長老の家に行くと経緯を説明する。

 豆腐小娘が秘伝書を持ち出したことはもちろん町に遊びに行っていたことも一切話さずに操られたガルルンを助ける為に手を貸して貰っていたと嘘をついた。


「そんでガルルンを治すために薬効豆腐が欲しいんだぞ」

「わかりました。妖怪山犬を操るほどの力なら普通の薬効豆腐では無理でしょう、秘伝の気付け豆腐を使いましょう」


 長老に命じられて村人が箱に入った豆腐を持ってきた。


「オレっちがやるっす」


 豆腐を受け取った豆腐小僧が寝かせてあるガルルンの口に豆腐を近付ける。

 ガルルンの口の中に豆腐が溶けるように流れていく、


「うっ、うぅ……うう、うん!? 」


 ガルルンが目を開ける。


「ここどこがお? 」


 寝惚けているような目で辺りを見回す。

 サンレイと目が合った。


「がわわぁ~~ん、サンレイちんちくりんになってるがお」


 ガバッと上半身を起こしたガルルンの頭をサンレイがペシッと叩く、


「誰がちんちくりんだ!! 小さくてもナイスバディのいい女だぞ」

「ちょっとサンレイ、病み上がりに何てことすんだよ」


 続けて叩こうとしたサンレイの手を英二が慌てて止めた。

 その手をガルルンが掴んで牙を見せる。


「お前何もんだ? 人間が何でいるがお……まさか、まさかガルが寝てる間にエッチな事を………… 」

「してないからな、サンレイもいるのにそんな事出来るわけないだろ」


 真っ赤な顔をして否定する英二をサンレイがニヘッと厭な顔で見る。


「赤ちゃんできてるかもな、人間たちにあんな事やこんな事をされたんだぞ」

「マジがぉーっ、ガルはもう穢れてしまったがう……責任を取って三食昼寝付きでガルを養うがお」

「してないからな! 全部サンレイの嘘だからな」

「三食昼寝付きで責任取れば何してもいいってか、毛むくじゃらだけど結構可愛いしな」


 怒鳴る英二の隣で秀輝が腕を組んで思案顔だ。


「にへへへへっ、怒るなよ英二」


 サンレイは怖い顔で睨む英二に笑って誤魔化すとガルルンに向き直る。


「安心しろ全部嘘だぞ、その様子じゃ治ったみたいだな、お前誰かに操られてたんだぞ」

「ガルが? 操られてたがう? 」


 子犬のような顔をして首を傾げる。

 ガルルンは自分のことをガルと言うらしい。


「がふふん、また騙そうと思っても無駄がお、簡単に操られるほどガルはバカじゃないがう、ちょっと昼寝してただけがお」


 疑うようにニヤッと口元を歪めるガルルンの正面でサンレイがマジ顔で口を開く、


「本当だぞ、ナイスバディの狼女になってイケメンを誑かしてたんだぞ」

「マジがぉ!! ナイスバディのいい女になってたがう? イケメンを集めてハーレム作ってたがお……言われてみれば……だんだん思い出したがう、ガルは超良い女狼になって人間どもを支配してたがう」


 バッと顔を上げて思い出したような顔をするガルルンの前でサンレイが意地悪顔でニタリと笑っている。

 秀輝が英二に耳打ちする。


「簡単に騙されてるぜ」

「バカ犬だ……犬なのに狼って言ってるし」


 溜息をついた後で英二がガルルンの前に立つ、


「違うからね、操られてたのは本当だけど化けガエルを使って人間を攫ってたんだよ」

「ガルが人間を攫って何したがう? 何のために攫ったがお? 」


 首を傾げるガルルンの前で英二が弱り顔だ。


「それを聞きたくて連れてきたんじゃないか、ガルルンは何か覚えていないのか? 」

「ガルが……山に行ってカブト虫食べてた事以外覚えてないがお」

「一寸待て、カブト虫食べるのか? 」

「食べるがお、美味しいがう」


 顔を顰める英二の前でガルルンの満面の笑みの口元から涎が垂れている。


「マジか…… 」


 驚く英二を見てサンレイがニヤッと笑いながら口を開く、


「山道の外灯の下や自販機の下で頭だけのカブト虫が居るだろ、あれは全部ガルルンたちが食ってんだぞ」

「マジかよ」


 英二の横で驚く秀輝をガルルンが見つめる。


「全部じゃないがう、他の動物やカラスと取り合って勝ったものが食える勝利の味がお、今度食べさせてやるがう」

「食べませんから」


 顔の前でブンブンと手を振る英二に向き直るとガルルンがニコッと笑う、


「美味しいがう、スイカと一緒に食うがお、生ハムメロンと同じようなものがう」

「一緒にするな、カブト虫は食べ物じゃないからね」

「何言ってるがう、カブト虫とスイカは夏の味覚がお」

「スイカはともかくカブト虫は味覚で夏が来たとか思わないからな」


 サンレイが英二の背中をポンポン叩く、


「話しが続かん、カブト虫はその辺でいいぞ、夏になったら英二に食わせてやれ、そんで何で悪さしてたんだ」

「食べないからな」


 サンレイを睨んだ後で英二がガルルンに向き直る。


「何で操られてたの? 誰に操られてたか覚えてないのか? 」


 優しい声で訊く英二の前でガルルンが思い出すように頭を傾げて話を始める。


「日本全国カブト虫食べ放題グルメツアーをしてたがう、それでここらの山でもカブト虫捕まえてたがお」

「他に美味しいものいっぱいあるでしょ、どんなグルメだ」

「黙って聞いてろ、そんでどうしたんだ」


 思わず突っ込む英二を一睨みしてサンレイが続きを促す。


「そう言えば臭かったがお、麓のカブト虫は全部食べたから山奥に行ったがお、そしたら物凄く臭かったがお、カブト虫食いすぎて下痢でもしたのかとお尻見たけどガルのウンチじゃなかったがお、ガルじゃない誰かがウンチしたのかと辺り見回してたら頭がクラクラして、そこから何も覚えてないがお、気が付いたらここに居てたがう、サンレイがちんちくりんになってたがお」

「誰がちんちくりんだ。安定させるためにこの姿になってんだ。本当はナイスバディのいい女だぞ」


 怒鳴るサンレイを今度は英二が押さえる。


「その匂いが怪しいね」


 後ろから抱かれるように英二に押さえられながらサンレイが口を開く、


「その臭い匂いに何らかの術が入ってんだ。山犬は鼻が利くからな、臭い匂いで頭を麻痺させてから操ったんだぞ」

「どうせなら美味しい匂いで麻痺させるがお、二重に損した気分がう」


 悔しそうに言うガルルンを見て英二が困ったように顔を歪ませる。


「操られてる時点で損得じゃないからね」


 抱える英二の腕からサンレイがポンッと飛び出す。


「取り敢えず、その臭い所まで案内しろ、そこにお前を操った妖怪が居るぞ」

「わかったがう、ガルも戦うがう、ガルを操ったことを後悔させてやるがお」


 ガルルンが牙を見せてギラッと目を光らせる。



 その日は豆腐の隠れ里に泊った。


「助けて…… 」


 深夜、英二がガバッと飛び起きる。

 また夢を見た。

 山道を歩いていて巨木の前で首の無い落ち武者に襲われる夢だ。


「どしたんだ? 」


 隣で寝ていたサンレイが目を擦りながら訊いた。


「夢を見たんだ」


 夢の内容を話すとサンレイが顔を顰める。


「英二は霊感体質になってんだって言っただろ、何度も同じ夢を見たんなら予知夢かも知れないぞ」

「予知夢って……夢みたいに落ち武者に襲われるって事か? 」

「襲われるかもな、でも心配無いぞ、だってだって、おらが付いてるからな」

「サンレイ……そうだな、サンレイが居てくれれば悪霊だろうが妖怪だろうが平気だな」

「そだぞ、だから安心して寝るんだぞ、明日は妖怪退治だからな」

「うん」


 抱き付いてくるサンレイの背に腕を回すと英二は目を閉じた。

 怖い夢のことなど忘れてぐっすりと眠ることができた。


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