第14話
待ち合わせ場所に委員長とララミが待っていた。
「吃驚したわよ、話聞いて回ってたら今そこの通りに居るって教えてくれた人がいて慌てて行ったら本当にいたんだから」
「今御主人様とサーシャが見張っています」
興奮気味の委員長の隣でララミがニコッと微笑んだ。
「それで妹は何処にいるっす」
「サーシャとは電波で繋がっていますので直ぐにご案内いたします」
焦る豆腐小僧にララミがペコッと頭を下げる。
「へぇ通信してるのか知らなかった」
感心する英二を見てララミが嬉しそうに微笑む、
「私たちは御主人様を警護するメイロイドですので情報共有の為に常に通信しています」
「そんな事どうでもいいっす。早く妹の所へ案内するっす」
「そうだな、ララミ案内頼むよ」
「ハイ英二さん此方です」
焦る豆腐小僧を無視するかのようにこたえるとララミが歩き出す。
英二のことは主人の宗哉に次ぐ人物として登録されているのだ。
住宅街を100メートルほど歩いた所に宗哉たちがいた。
「委員長お疲れ様、ララミご苦労」
宗哉が爽やかスマイルだ。
「流石宗哉だね…… 」
話し掛ける英二を豆腐小僧が押し退ける。
「何処にいるっす」
「そう慌てるな、そこの角を曲がったら見えるよ」
少しムッとしながら宗哉が指差す。
角の先から声が聞こえてきた。
「ぎんな~ん、ぎんなん~、銀杏豆腐~~、美味しいですよ~~ 」
駆け出す豆腐小僧を慌てて追うとデニムのジャンパーを着た可愛い少女が小鳥の鳴き声のような透き通る声を出して通りを歩いていた。
少女の後ろには荷車を引いた男が2人続いている。
荷車には樽が二つ乗っていた。樽の中に銀杏豆腐が入っているらしい。
「あんな服知らないっすけど確かに妹っす」
飛び出そうとする豆腐小僧を英二が押さえる。
「待てよ、様子を見てからだ」
「豆腐小娘だけじゃなく男も2人居るぜ、あの荷車に妖怪豆腐が入ってんだな、男に騙されてるんだったら邪魔だぜ、妹1人になるまで様子見したほうがいい」
豆腐小僧が出て行かないように秀輝も腕を握る。
「 ……分かったっす。あの男たちはオレっちも気になるっす」
豆腐小僧から力が抜けたのを確認して英二と秀輝が手を離す。
暫く後をつけていたが昼になり荷車を引く男2人と豆腐小娘が別行動になった。
豆腐小娘は昼食を取りに行く様子だ。
男たちは山の方へと向かって行った。
「飯か、あたしたちも何か食おうよ」
店に入っていく豆腐小娘を見て呑気に言う小乃子を豆腐小僧がキッと睨む、
「飯どころじゃないっす。妹捕まえて話を聞くっすよ」
豆腐小僧の肩に秀輝が手を置く、
「小乃子の言う通り飯にしようぜ、腹減ってると怒りっぽくなる。そんなんじゃ冷静に話もできないぜ」
「そうだね、妹さんには気付かれてないみたいだし同じ店に入って御飯にしよう」
「賛成だ。何でも頼んでくれ僕が奢るよ」
英二の隣で宗哉も爽やかスマイルだ。
「やったぁ~飯だぁ~、デザートもいいよな」
「一寸は遠慮しなさいよ」
はしゃぐ小乃子を委員長が窘める。
「あははははっ、デザートでもサラダでも好きなだけ頼んでいいよ」
「そんな事より妹っす」
豆腐小僧がムッとしてみんなを見回す。
「そんな事もこんな事もない、妹が店に入ったんだから俺たちも入るんだ。そんで飯食った後で話を聞けばいいだろ」
秀輝が豆腐小僧の肩に置いた手をずらしてその二の腕を握る。
「今の豆腐小僧は初めから妹が悪いって思ってるだろ、そうじゃなかったらどうする? 妹さんは騙されていて悪くなかったらどうする? 怒ってたら話にならないよ、だから御飯食べて少し落ち着いてから話し合いをしようってことだよ」
隣で説得する英二を豆腐小僧が見上げる。
「 ……そうっすか、英二の言う事ももっともっす」
「そうだぜ、俺もそう言いたかったんだ」
「秀輝は飯が食いたかっただけっす」
「がはははっ、バレたか、どっちでもいいや飯行くぞ」
豆腐小僧の腕を取って店に入る秀輝に続いて英二たちも食堂へと入っていった。
チェーン店ではなく個人がやっているレストランだ。
豆腐小娘は奥の席に座って美味しそうにパフェを食べている。
「御飯じゃなくてパフェ食べてるわよ」
入り口近くの机を囲みながら委員長がチラッと豆腐小娘を見た。
「でも旨そうだな、あたいも後で頼もう」
隣で小乃子がメニューを広げる。
2人の向かいに英二と豆腐小僧が座っている。
豆腐小娘には背を向けているので振り返らないと姿が見えない。
「パフェってなんすか? 」
「ダメだよ」
振り返ろうとした豆腐小僧を英二が止めた。
視線でバレないようにわざと後ろ向きになるように座らせたのだ。
通路を挟んで秀輝と宗哉とメイロイドの2人が同じように机を囲んでいる。
背を向けているのはメイロイドの2人で秀輝と宗哉は豆腐小娘を見ることのできる位置だ。
「おおぅ、やっぱ可愛いな」
ジャンパーを脱いだ豆腐小娘を見て秀輝の頬が緩みきっている。
「本当だね、色白美人だ」
メニューを見る振りをして宗哉が言った。
デニムのジャンパーを脱いだ豆腐小娘はプリクラ写真に映っていた白いワンピースを着ていた。
冬服にしては少し寒そうだが豆腐小僧とは反対に今風のお洒落な服装だ。
プリクラに映っていたストレートの髪型と違い、パーマを掛けているのか肩の上までの髪は少しカールが掛かっていてふわっとしている。
指には綺麗なネイルアートをしておとなしそうな娘が少し遊びを覚え始めた頃のような感じである。
「見とれてないでさっさと飯食おうぜ、豆腐女がパフェ食い終わっちまうよ」
隣のテーブルの秀輝を小乃子が一睨みしてから向かいの豆腐小僧にメニューを渡す。
「菜子はハヤシライスとサラダだ。英二はあたしと同じカツカレーでいいよな」
「うん、カレーなら直ぐに持ってきてくれるな、豆腐小僧は辛いのは食べられる? 」
メニューをガン見していた豆腐小僧が顔を上げる。
「カレーなら食べたことあるっす。プリンが乗ってるパフェもあるっすね…… 」
「あははっ、じゃあパフェにしろ、パフェも直ぐに持ってくるだろ」
笑いながら小乃子が秀輝たちに振り向く、
「お前らもカレーな」
「OKカツカレーな」
「僕はハヤシで頼むよ」
有無を言わせぬ小乃子に秀輝と宗哉が苦笑いだ。
「すいませ~~ん」
小乃子が全員の注文をとる。
一番に豆腐小僧のプリンパフェが運ばれてきて暫くしてカツカレーとハヤシライスがやってくる。
「甘くて美味しいっす。大きなプリンが最高っす」
妹のことを忘れたような満面の笑みをしながら豆腐小僧がパフェを食べ始める。
カツカレーを食べようとした小乃子の手が止った。
「豆腐女もう食べ終わるよ」
思わず英二が振り返る。
「プリンパフェもう1つくださいな」
小鳥のような声で豆腐小娘が注文した。
英二がほっと息をつく、
「カレー食べれないかと思ったよ」
「2つも……あいつ毎日プリンパフェを食べてたんじゃ……許せないっす」
英二の隣で豆腐小僧も振り返って恨めしげに見ていた。
「ダメだって、怒る目的も変わってるから」
英二が慌てて豆腐小僧を正面に向き直らせた。
豆腐小娘が2つ目のパフェを食べ終わる前に英二たちは食事を終えてレストランを出て行く、レストランの近くに宗哉が呼んだ大型パンが停まっている。
「ここで騒いで通報されたら厄介だからね、妹さん連れて何処か人のいない所へ場所を移そう」
「誘拐するみたいだな」
ニヤッと笑う小乃子を英二が厭そうに見る。
「変な事言うな、無理矢理連れ出すんじゃなくて豆腐小僧にちゃんと話してもらってから車に乗せるんだからな」
「出てきたわよ」
委員長の声で英二たちが振り返る。
満足そうな笑みをして豆腐小娘がレストランから出てきた。
「じゃあ宗哉頼んだよ」
「任せてよ英二くん」
宗哉とサーシャとララミが道の反対側へと向かう、豆腐小娘が逃げた時はメイロイドの2人が取り押さえる手筈だ。
「話しがダメなら無理矢理乗せるっす」
怖い顔をした豆腐小僧が歩いて行く、
「もし逃げたら取り押さえるのは俺に任せろ」
「凄いヤラしい顔になってるぞ」
にやけ顔の秀輝に英二が呆れ顔だ。
豆腐小僧が豆腐小娘と話しているのを挟むようにして両側から英二たちが見ている。
「兄さんには関係ないでしょ…… 」
「豆腐あってこその…… 」
話しの合間合間に怒鳴る声が聞こえてくる。
暫くして妹の豆腐小娘の手を引いて豆腐小僧が英二たちの元へとやって来た。
「取り敢えず話し合いするってことでOKみたいだな」
英二がほっと一息ついた。
豆腐小娘と英二たちを乗せて大型バンが近くの山へと走り出す。
「何で帰って来ないっす? 町へ出たのがバレたら大変っすよ」
「豆腐の村なんて帰らないわよ、山奥で豆腐作って暮らすなんて飽き飽きだわ、だいたい町へ出ちゃダメってのがおかしいのよ、人を騙して妖怪豆腐を食べさせるのが豆腐小僧でしょ、人に悪戯もしないで何が楽しくて豆腐作ってるのよ」
「昔とは違うっす。人間は変わってしまったっすよ、豆腐を作って静かに暮らすのが今の豆腐小僧っす。豆腐道を極めるのがオレっちたち豆腐小僧っす」
前から二列目の席に並んで座りながら豆腐小僧と小娘が言い争っている。
「豆腐小娘さんは豆腐が嫌いなの? 」
2人の後ろで宗哉と並んで座る英二が優しい声で訊いた。
「大っ嫌いよ、見るのも嫌だわ」
豆腐小娘が即答した。
「何言ってるっすか!! 」
「怒るなって」
怒鳴る豆腐小僧を秀輝が押さえつける。
秀輝とララミは1番前の席を後ろに回転させて豆腐小僧たちと向かい合わせになるように座っていた。ちなみにサーシャは助手席だ。
英二が後ろから2人の間にひょいっと顔を出す。
「何で豆腐が嫌いなんだ? これまでは何も言わずに村で暮らしてきたんだろ? 」
「町へ出て分かったのよ、今の人間の町で売ってる豆腐なんて偽物じゃない、安いのなんて90%が水のスカスカ豆腐じゃない、そんなのが美味しいわけないでしょ、只の白い塊よ、醤油かけても醤油の味しかしないわ、それなら醤油嘗めてればいいのよ」
「豆腐の妖怪が豆腐全否定してるぞ」
一番後ろで委員長と並んで座る小乃子がぽつりと呟いた。
「否定したくもなるわよ、町のスーパーで売ってる豆腐に味なんてないじゃない、醤油つけたら醤油味、ポン酢つけたらポン酢味、あんなの只の白い塊よ、人間たちも豆腐の事なんてどうでもいいって思ってるから味なんて気にしないんでしょ」
小乃子の隣で委員長が口を開く、
「確かに48円とかで売ってる豆腐は何の味もしないわね、でも安い豆腐って食感を楽しむものじゃないのかしら、それに高い豆腐は何もつけなくとも濃厚な味がするわよ、醤油を垂らしたら更に美味しくなってそれだけで立派な一品だと思うけど」
「そうっす。村で作る豆腐は濃厚で美味しいっす。伝統を守って豆腐を作り続けてきたからっす。豆腐小僧のオレっちたちが本物の豆腐を作り続けるっすよ」
援軍を得て豆腐小僧が畳み掛ける。
「いくら美味しくたってプリンには敵わないじゃない、村で作る本物の豆腐よりスーパーで売っている安いプリンの方が美味しいじゃない、だから私は豆腐小娘をやめてプリン小娘になるの」
「プリン……何を言ってるんすか? 」
「初めは人間たちが作る豆腐に興味あって町へ出たの、でもスーパーで売っている豆腐を見て幻滅したわ、美味しい豆腐がある筈だとコンビニやスーパーを探し歩いたの、でも無かった……私たちが作る豆腐より美味しいものは無かったのよ、それどころか味も香りもしない白い塊ばかり、そんなものを豆腐だと思って食べている人間に呆れたわ、そんな時よ、プリンやゼリーに出会ったのは……豆腐と同じようにプルプルなのに甘くて美味しい、こんなものを作れる人間たちを見直したわ、そして思ったのこれからはプリンの時代よ、豆腐なんて古くさいものを止めて村でもプリンを作るべきだわ」
うっとりとした表情で言う豆腐小娘の前で豆腐小僧が険しい顔だ。
「確かにプリンは美味しかったっす。でもオレっちたちは豆腐小僧っす。昔人間たちが作り出した豆腐の旨さに感銘を受けて豆腐を作るようになって妖怪豆腐を生み出したっす。そして豆腐を使う妖怪として今の地位を築いたっすよ」
「兄さんは考えが古いのよ、同じプルプルなのに甘くて美味しい、プリンは卵とミルクが愛し合ってできた愛の味なのよ、プリンなら今の人間にも通用するわ、豆腐一族はプリン一族へと進化するべきよ、妖怪プリンを作って人間たちに食べさせるのよ、昔のように人間に悪戯して楽しく暮らすのよ」
「プリン一族って……妖怪プリン小僧は一寸嫌だな」
後ろから顔を出していた英二を豆腐小娘がキッと睨む、
「豆腐の味も分からない部外者は黙ってて、あなたに豆腐の苦労が分かってんの? これは豆腐とプリンの問題なの」
苦笑いをしながら英二が首を引っ込めた。
「プリンより美味しい豆腐を作ろうって発想はないのか? 」
後ろから小乃子が楽しそうに言う、それを聞いて豆腐小僧がバッと顔を上げた。
「そうっすよ、豆腐にも色々あるっす。ごま豆腐にたまご豆腐、スイーツなら杏仁豆腐もあるっす」
「全部大豆使ってないなんちゃって豆腐じゃない、そんな豆腐モドキがよくて何でプリンがダメなのよ、豆腐の型にプリン入れてプリン豆腐って言い切ればいいじゃない」
「たまご豆腐はプリンから牛乳と砂糖を抜いてだし汁を入れて蒸したものっす。だからたまご豆腐で我慢するっす」
「何がたまご豆腐よ、茶碗蒸しから具を無くしただけの貧相な食べ物じゃない」
向かいに座る秀輝がうんうん頷く、
「たまご豆腐については豆腐小娘ちゃんの言い分ももっともだな」
「どっちの味方っすか? 」
豆腐小僧がキッと睨むと秀輝がとぼけ顔で口を開く、
「頭から否定するんじゃなくてプリンでも別にいいんじゃないかと思っただけだ。豆腐と一緒にプリンも作ればいいんじゃないのか? プリン小娘ちゃんってのも可愛いと思う」
「秀輝止めろ」
美人の豆腐小娘に気に入られようと軽口を叩く秀輝に英二が険しい顔だ。
豆腐小娘が秀輝を見てニッコリ笑う、
「あんた話が分かるわね、そうよね、プリンの方が美味しくて可愛いわよね、女の子はプリンで男は豆腐にすればいいのよ」
怒った豆腐小僧が豆腐小娘に掴み掛かる。
「何言ってんすか、ダメに決まってるっす。豆腐一族は豆腐以外作らないっす。第一プリンの材料はどうするんす? 牛乳や卵を自分たちで作るなんて無理っすよ、大豆を育てるのとはわけが違うんすよ」
「狭い車内で殴り合いはダメだぜ」
秀輝とララミが豆腐小僧を引き離す。
豆腐小僧が手を出さないように2人を向かい合わせに座らせたのだ。
「買えばいいじゃない、町に出ればいくらでも売ってるわよ」
「そこらに売っている物で妖力を込めたものが作れるわけないっす。豆腐が一番っす。何で分からないんすか…… 」
豆腐小僧が悲しそうに座り直した。
「豆腐には無限の可能性があるっす。オレっちもプリンを食べて美味しいって思ったっす。だからこそプリンに負けない豆腐を作るっすよ、何処にも負けない豆腐を作るっす。それがオレっちたち豆腐小僧の仕事っす」
「プリンに負けない豆腐って何なのよ」
「スイーツ豆腐っす」
「スイーツ豆腐? 」
「そうっす。10日程放置して酸っぱくなった豆腐に砂糖を入れればヨーグルトみたいになるっす。健康志向で売れるっすよ」
「豆腐ヨーグルト……それならプリンに対抗できるかも………… 」
「そうっすよ、作って見るっすよ」
互いの顔を見合わせる豆腐小僧と小娘の間に後ろから英二が顔を出す。
「そんなもの売れるか!! 腐ってるからな」
「そこは妖力でどうにかするっす」
「どうにかって? 」
「腐ってると分からないようにして人間に食べさせるっす。これが本当の豆が腐った豆腐っすよ」
「もう人間に関わらないって言ってただろが」
「人間どもに豆腐の恐ろしさを思い知らせてやるっすよ」
「美味しい本物の豆腐を食わせるんじゃないのかよ」
「オレっちたちは人間どもに悪さする妖怪っすよ、偶に助けることもあるっすけど」
英二がハッとして口を開いた。
「そうだった。サンレイの知り合いだから手伝ってたけど豆腐小僧は基本は人に悪戯する妖怪だった」
豆腐小僧が豆腐小娘に向き直る。
「プリンのことは置いといて本題に入るっす。秘伝書は何処っす? 持ち出したのがバレたら大変っすよ、町に出たのは大目に見るとして秘伝書だけは戻すっす」
「もう無いわよ、欲しいって言うからあげたわよ」
豆腐小僧の顔がみるみる青く変わっていく、
「なっ……あげたって……ウソっすよね」
「本当よ、プリンの秘伝書と交換するって約束したの、妖怪プリンを作って豆腐をまずくした人間を懲らしめてやるのよ」
豆腐小娘はケロッとした顔だ。
「誰がそんな事を……あの男たちっすね」
青い顔をした豆腐小僧が小娘の両肩をガシッと掴んだ。
「あの男たちは何もんなんす? 只の人間じゃないっす」
「兄さんには関係ないでしょ」
豆腐小娘が肩に掛かる手を迷惑そうに振り払った。
「宗哉様!! 」
運転手の叫びと共に車が止まる。
「どうした? 何か…… 」
ひょいっと顔を出した宗哉がフロントガラスを見て言葉を止めた。
「なん!? 」
英二たちも何事かと見ると男たちが車を囲っていた。
「荷車引いてた奴らっすね、気を付けるっす。こいつら只の人間じゃないっすよ」
英二がハッとして豆腐小僧を見つめる。
「只の人間じゃないって妖怪か何かか? 」
「そうっす。小さいけど妖気を感じるっす」
豆腐小娘が大型バンの引き戸をガシャッと開けてバッと外へと出る。
「迎えに来たのね、ご苦労様」
「ゲッゲッゲッ、遊んでないで早く豆腐を売りに行くぞ」
男がしゃがれ声を出す。
「何処へ行くっすか!! 」
慌てて飛び出す豆腐小僧を追って英二たちも車の外へと出る。
「邪魔をするな」
「ぐわっ 」
男の声と共に豆腐小僧が吹っ飛んだ。
「兄さん!! 」
心配そうに振り返る豆腐小娘の腕を男が掴む、その口から薄いピンク色の長いものがだらりと垂れている。
「ゲッゲッゲッ、お前は早く豆腐を売りに行け」
「乱暴は止めて、追い払うだけでいい」
険しい顔をした豆腐小娘が男の腕を払う、
「ゲッゲッゲッ、邪魔者は消す。我らの事を知られたからには生かして帰さん」
「兄さんを殺したら私も協力しないわよ」
「心配するな妖怪はそう簡単には消えん、人間はイチョウ様の贄になって貰う」
「約束でしょ、豆腐一族には何もしないって」
「ゲッゲッゲッ、お前は妖力を得てプリン小娘に生まれ変わるのだろう、我らも力を得る為にやっている。約束は守る」
「 ……わかったわ」
豆腐小娘が男たちの後ろへと下がった。
倒れた豆腐小僧に英二たちが駆け寄る。
「大丈夫か? 」
「こいつら化けガエルっすよ」
「カエルの妖怪か」
「妖怪までいかないっす。何らかの方法で力を得た変化ってやつっすよ、妖怪になる前段階みたいなもんっす」
「半人前の妖怪ってことか」
秀輝が握り拳を反対側の手にぶつけてパチンと鳴らす。
「要するに豆腐小僧みたいな本物の妖怪より弱いってことだろ」
「そうっすけど気を付けるっすよ、妖術は使えなくともカエル特有の舌やジャンプ力は相当な威力があるっす」
「さっきのはカエルの舌か、サーシャのパンチより強力だよ」
宗哉が出した手を掴んで豆腐小僧が起き上がる。
「警護用に強化してあるメイロイドのパンチよりも強力なのか」
顔を顰める英二の前に豆腐小僧が立つ、
「でもそれだけっす。毒や妖術は使えないっす。人間でも倒せる相手っすよ」
「デカいカエルだろ、全部で8匹だ。俺でも戦えそうだ」
秀輝が何か武器は無いかと辺りを見回す。
宗哉が車の方へ駆けていくと直ぐに何かを持って戻ってきた。
同時に車が走り出して元来た道を引き返していく、
「車をやられたら逃げられないから少し引き返した所で待っていろと命じたんだ」
説明した後で持っていた荷を広げる。
「秀輝これを使え」
宗哉が25センチくらいの棒を差し出した。
「折り畳み警棒か、用意いいな」
ニヤッと笑いながら秀輝が警棒を伸ばす。
「妖怪相手だからね、スタンガンも用意してきた」
言いながら宗哉が小乃子と委員長にスタンガンを手渡す。
「このボタンを押せばいいからね」
受け取ったスタンガンを小乃子が握り締めた。
「うぉぅ、スゲぇ、バチバチって凄い痛そうだな」
「玩具じゃないのよ、こっち向けないの」
はしゃぐ小乃子を見て委員長が顔を顰めながらスタンガンのスイッチを入れる。
「へぇ、初めて使ったわ、花火みたいで綺麗ね」
バチバチと音を立てて流れる青い光を見て委員長の顔から険が消える。
「サンレイちゃんが電気で悪霊を倒してたから妖怪にも利くと思ってね、うちの警備でも採用している高電圧のものだから気を付けて扱ってくれ」
2人がスタンガンを受け取るのを見て英二が宗哉に手を伸ばす。
「小乃子と委員長は下がってろ、宗哉、俺にも警棒をくれ」
「英二くん……分かった僕も戦うよ」
英二に警棒を渡すと宗哉も隣りに立った。
「ふんっ邪魔するなよ、俺とララミとサーシャが打ち漏らした奴らを倒してくれ」
歯を見せながら笑うと秀輝が70センチ程に伸びた警棒を軽く上下に振った。
「邪魔なんかしないよ、俺だってこいつらくらい倒せるさ」
「そうだな、この日の為に鍛えてきたからな」
「鍛えたって? 」
見つめ合ってにやける2人を見て小乃子が訊いた。
「バイトが終わった後や休みに秀輝と2人で体を鍛えてたんだ」
「サンレイちゃんやハチマルちゃんが消えてから考えたんだ。俺たちに何ができたかって、何をしてやれたかってな」
「サンレイやハチマルのように悪霊を祓ったりはできない、でもせめて足手纏いにはならないようにしようって、そう思って2人で体を鍛えたんだ。もっとも俺は秀輝と違って少し筋肉ついただけだけどね」
自慢気に力瘤を見せる秀輝の隣で英二が照れるように笑った。
「そんなことしてたのか英二…… 」
「英二くん」
悲しみを顔に浮かべる小乃子と宗哉を見て英二と秀輝の目にも寂しさが浮かぶ、
「もう二度とあんな事は御免だからね」
「ああ、あの日のことは二度と忘れねぇ」
英二と秀輝が男たちに向き直る。
「ララミとサーシャは左右から頼む、宗哉は後ろで俺たちの援護だ」
「分かった。ララミ、サーシャ、行け」
宗哉がスタンガンを構える。
「了解デス」
「分かりました。お気をつけて御主人様」
サーシャとララミがバッと左右に走ったのを見て秀輝が英二に振り向く、
「行くぞ英二!! 」
「おう!! 」
2人が男たちへと向かって走り出す。