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第139話 「HQとなまざらし」

 HQとハチマルが話をしている間になまざらしがゆっくりと後ろに下がっていく、


「逃げるがお」

「逃がすか! 」


 ハチマルの左右でサンレイとガルルンがバッと飛び上がる。


「なまさん!! 」


 HQが叫んで両手を振った。

 左右に白い光が飛んでいく、霊気の塊だ。


「がはっ! 」


 霊気が当たってガルルンが床に転がるがサンレイは当たる寸前でバチッと姿を消した。


「雷鳴踵落とし! 」


 バチッと姿を現わしたサンレイがなまざらしの頭に蹴りを入れた。


「ほげぇ~~、ほげげぇ~~ 」


 なまざらしが吹っ飛んで転がった。

 今まで余裕を浮かべていたHQの顔がさっと曇る。


「なまさん! 」


 心配そうに叫ぶHQをハチマルが見据えた。


「なまざらしが心配か? 朧車のように使い捨てにはせんのか? 」


 HQの顔から表情が消えた。


「事を成す為になまさんは必要ですからね」

「何をするつもりじゃ? なまざらしはバカじゃが人間に手懐けられる妖怪ではない、じゃがお主の事は信頼しきっておるように見える。お主らどういう関係じゃ? 」

「ははははっ、なまさんとは昔からの知り合いだ。私が修業を始めたころ……小学四年生の頃に知り合った友人だ。だから組んだ。妖怪でも信用できるからな」


 険しい顔のハチマルに笑ってこたえるとHQが倒れたなまざらしの元へと走って行く、その途中、床に叩き付けられて転がっていたガルルンがバッと起き上がる。


「殴られたら殴り返すがお! 10倍にして返すがお」


 雷光を纏って宙に浮んでいたサンレイが振り向く、


「ガルルンはクソ坊主を頼むぞ、おらはなまちゃんを捕まえるぞ」

「止めんか! 話の途中じゃ」


 一喝するとハチマルがHQたちの元へと歩いて行く、追うように英二と秀輝と美鈴も続いた。


「兄貴、そんな昔から妖怪と遭ってたのかよ、何の修業してたんだ。全部話せ!! 」


 吐き捨てる英二の左右にサンレイとガルルンがやってくる。


「なまちゃんもクソ坊主も捕まえて全部吐かせてやるぞ」

「クソ坊主は10発殴るがお、英二の兄ちゃんでも殴るがお」


 怒り冷めやらぬ様子のサンレイとガルルンの間で英二がHQを睨み付ける。


「兄貴、もうバカな事は止めてくれ、今ならガルちゃんが殴るだけで俺も許してやるからさ、なまざらしも助けて貰えるようにサンレイに言ってやるからさ」

「英二は相変わらず優しいですね、ですが私からはお人好しのバカに見えますよ」


 せせら笑いながらHQが法衣の懐に手を伸ばす。

 ハチマルが守るように英二の前に出る。


「仕掛けてくるか? 逃げるか? どちらも効かんぞ、お主らに後は無いのじゃ、念入りに結界を張っておるからの」

「結界ですか……参りましたね」


 弱り顔をするHQの裾をなまざらしが引っ張る。


「おいらはもう疲れたのだ。朧車もやられて散々なのだ」

「そうですね、ここらでお開きにしましょうか」


 HQが懐から小さな玉を数個取り出すと床に投げ付けた。


「方陣、屏風岩びょうぶいわ! 」


 同時に術を唱えると床から岩が幾つも生えてくる。


「煙玉がお」


 逸速く匂いでガルルンが気付く、小さな玉から煙が吹き出し瞬く間に視界が消えていく、


「なまさん、今のうちです。英二を捕まえますよ」


 HQの大声が聞こえてハチマルとサンレイとガルルンが身構える。


「サンレイ、英二を連れて下がるんじゃ、ガルルンは儂と一緒に奴らをやるぞ」

「わかったぞ」


 サンレイが英二と秀輝の腕を取ってバチッと消えた。


「私も下がらせて貰うわね」


 美鈴が走ってサンレイを追う、ガルルンがハチマルの横に立った。


「エロ饅頭とクソ坊主、右の方へ走って行ったがお」

「無闇に動くでないぞ、HQの事じゃ何を企んでおるのかわからんでな」


 注意をするとハチマルが右手を回す。


「風防、風車! 」


 クルクルと風が回って煙を掻き消していった。



 なまざらしの全身から黒い靄のようなものが沸き立っている。


「厄介な結界ですがどうにかなりそうですよ」

「おいらとHQが組めば無敵なのだ」


 黒い靄のようなものがHQの持つ錫杖に吸い込まれていく、


「方陣、雫岩砕だがんさい! 」


 HQがトンッと錫杖を突いた。

 英二たちを連れて後ろに下がっていたサンレイが大きな声を出す。


「なん!! ハチマルの結界を破ったぞ」

「ハチマルの結界を? バカ兄貴がか? 」


 サンレイより更に大きな声で英二が訊いた。


「そだぞ、なまちゃんの妖力を使ったぞ、バカデカい妖力を使って結界に穴を開けたぞ」

「マジかよ……仁史さん」


 驚きに秀輝は言葉が続かない。

 サンレイたちが見つめる先でなまざらしが口から水を吐き出す。


水曇潜すいたんもぐりなのだ」


 大量の水がHQとなまざらしを包み込んでいく、まるで水柱だ。


「逃がさないがお」


 ガルルンがバッと飛び掛かる。その後ろでハチマルがくるっと手を回す。


「響風、螺旋解! 」


 ドリルのような風が水柱を割っていく、HQとなまざらしが見えた。

 そこへ炎を纏ったガルルンが突っ込んだ。


「焔切りがお! 」


 炎の手刀がHQとなまざらしを切った瞬間、2人がスッと掻き消えた。


「影ですよ、今日のところは引き分けという事で、英二はよく考えなさい」


 何処からかHQの声が聞こえて直ぐに辺りが静まり返った。


「逃がしたがお」


 悔しげに言いながらガルルンが床に降り立つ、


「仕方あるまい、儂らは彼奴の事は殆ど知らん、じゃが彼奴は儂らの事は調べておった様子じゃからな、後手後手に回って勝てる相手ではないのぅ」


 ガルルンの頭を撫でながらハチマルが辺りを見回す。


「岩を出したのはフェイントじゃな、英二を捕まえると言ったのもフェイントじゃ、結界術でも使うのかと躊躇しているうちになまざらしの妖気を溜めておったのじゃな」


 床から生える大きな岩を見つめてハチマルが険しい顔で独り言のように話す。


「本調子ではないとはいえ儂の結界を……なまざらしの妖力とHQの技か……二人合わさると厄介じゃな」


 後ろからサンレイがやってきてハチマルを見上げる。


「でも英二は無事だぞ、英二が無事だからおらたちの勝ちだぞ」

「ボロ車も廃車がお、こっちは美鈴が羽を切られただけがお」


 サンレイとガルルンを見てハチマルの顔が緩む、


「そうじゃな…… 」


 ハチマルが美鈴に向き直る。


「どれ見せてみい、儂の霊力で治してやろう」

「お願いしますハチマル先輩」


 美鈴の切られた羽にハチマルが手を当てる。


「ああ、凄い、霊力が……力が漲ってくるわ」


 白い光が美鈴を包み切れた羽が再生していく、同時に人間の姿に戻る。

 服も元通りだ。ハチマルが直してくれたのだろう、


「よかった……美鈴ちゃんごめんね」


 美鈴に言った後で英二がサンレイたちに頭を下げる。


「みんなごめん、全部バカ兄貴の所為だ。サンレイ、ハチマル、ガルちゃん、秀輝、美鈴ちゃん、本当にごめん、まさか兄貴が……全部俺たちが悪かったんだ。マジでごめんな」


 深く下げた英二の頭を秀輝がペシッと叩く、


「お前が悪いんじゃないぜ、知ってたら怒るだろうが知らなかったんだ。英二が謝る事ないぜ」


 人間姿に戻った美鈴が服を整えながら続ける。


「そうよ、英二先輩は悪くないわよ、HQが全部悪いのよ、お兄さんと英二先輩は別でしょ、兄弟だからって英二先輩に責任なんてないわよ」

「でも…… 」


 頭を上げた英二の肩にハチマルが手を掛ける。


「秀輝や美鈴の言う通りじゃ、お主に罪は無い、弟として謝る気持ちはわかるがの、それよりも先の事を考えんとな」

「先の事? 」


 サンレイが英二の腕にしがみつく、


「HQがまた襲ってくるぞ、そん時は捕まえてボコボコにしてやるぞ、まぁ英二の兄さんだから殺すのは勘弁してやるけどな」


 反対側からガルルンもしがみついてくる。


「ガルもエロ饅頭とクソ坊主は半殺しがお、英二の兄ちゃんでも容赦しないがお、でも英二は好きがう、ガルが守ってやるがお」


 左右から抱き付く2人を見て英二が嬉しそうに頷いた。


「そうだな……うん、容赦しなくていい、俺も次は本気で戦う、バカな兄貴は俺の手で何とかしてやるよ」

「その意気じゃ」


 ハチマルが優しい顔で英二の頭を撫でてくれた。



 腕に縋り付くサンレイが英二を見上げる。


「取り敢えず戦いは終わりだぞ、んじゃ飯食ってからまた遊ぶぞ」


 反対側でガルルンが楽しそうに鼻を鳴らす。


「わふふ~~ん、ガルも遊ぶがお、ジェットコースター乗るがお」

「そうじゃな、せっかく来たんじゃから少し遊んで帰るとするかの」


 ハチマルが優しい顔で言うと秀輝が張り切り声を出す。


「俺が奢るぜ、ジェットコースターでもアイスでも何でも言ってくれ」


 英二からバッと離れるとサンレイが秀輝に抱き付いた。


「おおぅ、秀輝は太っ腹だぞ」


 サンレイが秀輝の体をよじ登ってその頬にキスをした。


「うぉ!! サンレイちゃん」

「デートだからなキスくらいするぞ、そんで疲れたからアイスが食いたいぞ」


 はにかむサンレイを秀輝が抱き締めた。


「アイスでもかき氷でも何でも言ってくれ、サンレイちゃんもハチマルちゃんもソフトクリーム食べ放題奢るぜ」

「ソフトクリーム目的かよ…… 」


 疲れ顔で呟く英二に美鈴が抱き付く、


「じゃあ、私は英二先輩にキスすればいいのね」


 秀輝の腕の中でサンレイがニヘッと悪い顔で笑う、


「今更キスもないぞ、さっき裸で抱き合ってたぞ、キスどころかケツも済んでるぞ」

「変な事言うな! 何もしてないからな」


 慌てて怒鳴る英二からガルルンがヨロヨロと離れていく、


「がわわ~~ん、英二が遠くへ行ってしまったがお、小乃子たちにも報告するがお」

「何もやってないからねガルちゃん、小乃子たちに変な事言わないでくれ」


 益々慌てる英二の耳元で美鈴が色っぽい声を出す。


「ああぁ~ん、英二先輩の意地悪ぅ~~、愛し合った仲じゃない」

「何もやってないでしょ、誤解されるような事言わないでくれ」


 必死で美鈴を引き離そうとする英二の肩を秀輝が掴んだ。


「おめでとう英二、結婚式には俺も呼んでくれよ」

「よかったのぅ英二、幸せになるんじゃぞ、作るのは間に合わんから帰りにスーパーでお赤飯買って帰るとするかの」


 秀輝と並んでハチマルがにやけ顔で英二をからかう、


「秀輝! ハチマルまで……勘弁してくれぇ~~ 」


 英二の叫びが薄暗いホールに響き渡った。




 深夜の山中、大きな岩の上でHQと妖怪なまざらしが酒を酌み交わしている。


「無謀か…… 」


 ボソッと呟くHQの向かいでなまざらしが缶チューハイをグイッとあおる。


「ぷはぁ~~っ!! 久し振りに暴れたのだ。酒が旨いのだ」

「はははっ、なまさんボコられてたじゃないですか」


 HQの顔に笑みが浮んだのを見てなまざらしが楽しそうに続ける。


「2対1じゃ仕方無いのだ。サンレイもガルルンも強いのだ」

「あはははっ、神狼と山神では分が悪すぎますね」


 クイッと発泡酒を飲むHQをなまざらしが見つめる。


「ハチマルは流石なのだ。下手な話しできないのだ」

「そうですね、此方で対処できるうちは……ハチマルさんもサンレイさんも本来の力が出せない様子ですからね」


 思い詰めるような表情のHQをなまざらしが覗き込む、


「でもいいのか? おいらたち妖怪でも命懸けなのだ」

「私はこの世界が好きです。人も妖怪もみんな…… 」

「おいらも今がいいのだ。人間とも結構旨くやってるのだ。奴らが力を手に入れたらまた人との争いが始まるのだ。それだけは絶対に止めるのだ」


 なまざらしが新しい缶チューハイをプシュッと開けた。


「全部話して協力してもらうといいのに…… 」

「奴らの目が何処で光っているかわかりません、迂闊に話してはダメですよ」


 にこやかに言うHQの前でなまざらしが缶チューハイを一口飲んだ。


「わかってるのだ。清美ちゃん可愛いのだ」


 話すなと言うようにHQが人差し指を口に当てる。


「ダメですよ、そちらは白桜さんに任せましょう」


 分かったと言うように頷いてなまざらしが続ける。


「でも聞いたときは吃驚したのだ」

「なまさんだから話しました。力を貸してくれて感謝します」


 ペコッと頭を下げるHQの向かいでなまざらしが焼き魚をひょいっと摘まみ上げる。


「HQとは友達なのだ。人間の友達では2人目なのだ。おいらもう友達を失いたくないのだ。その為なら何でもするのだ。それに人間だけの問題じゃないのだ」


 HQが思い出したように話を始める。


「智世ちゃんでしたね……直ぐに6月です。お墓参りに行きましょう、私でよければ経を読みますよ」

「ありがとなのだ…… 」


 物思いに耽るようになまざらしが酒をあおる。


「礼を言うのは此方です。人も妖怪もない、心あるものは同じだと教えられました」

「なはははっ、そんな事言われるとこそばゆいのだ」


 嬉しそうに笑うとなまざらしがHQをじっと見つめる。


「桃太郎なのだ。HQが桃太郎でおいらたちがお供の動物なのだ」

「はははっ、旨い事言いますね、しかし、私は主役じゃなくて桃を拾ったお婆さんかも知れません」


 愉しげに笑うHQの前でなまざらしが首を傾げる。


「お婆さん? じゃあ誰が主役なのだ? 」


 なまざらしをじっと見つめてHQが続ける。


「誰でしょうね? 物語は始まったばかりですから誰にでもチャンスはありますよ」

「おおぅ、それじゃあ、おいらもチャンスがあるのか? 」


 大袈裟に喜ぶなまざらしの向かいでHQが優しい目で微笑む、


「もちろんですよ、なまさんは主役に近いですからね」

「おおぅ、おいらやる気出てきたのだ」


 なまざらしが喜びながら焼き魚に齧り付いた。


「無事に倒してお宝を手にできればいいのですが…… 」


 クイッと酒を飲み干すとHQが遠い目をして月を見上げた。

事情により今回の話で一時休止します。

時間が出来ましたら再開したいと思いますが現在は未定です。

今まで読んでいただきありがとうございました。

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