第137話
なまざらしの後ろに姿を現わすとサンレイが蹴りを入れて吹き飛ばす。
「閃光キィ~ック! 」
「ぶひぇぇ~~ 」
なまざらしが転がってくるのを見て英二が慌てて走り出す。
「スピードはサンレイの方が上だ。幾つも術が使えるサンレイと違ってなまざらしは大潮パンチと渦潮キックに防御の水柱しか使っていない、ハチマルが言ってたようになまざらしは術が苦手なんだ。だからアースなんて姑息な事をしたんだ。だったら残りの電線を切ればサンレイが有利になる」
サンレイとなまざらしの戦いに注意しながら反対側の電線を切ろうと移動した。
「こっちにも10本程あるな……全部切ってやる」
床に転がる電線を持ち上げた英二の後ろから声が聞こえた。
「困りますね、私がせっかく持ってきたアース線を切るのは止めてくれませんか」
バッと振り返った英二の前に狐面を被ったHQが立ってた。
「なっ…… 」
ばっと後ろに跳ぶと英二が腕を突き出す。
「爆突、4寸玉! 」
HQが掌を向ける。
「硬武爆手」
英二の放った爆発する気がHQの掌で爆発した。
「なっ、なんで……受け止めたのか」
驚く英二の向かいでHQがやれやれと言うように首を振る。
「受け止めた? わからないのですか? 」
「何を……何が言いたい! 」
ムッと言い返す英二の前でHQが呆れたような口調で続ける。
「爆発ですよ、硬武爆手は掌に集めた霊力を爆発させる技です。受け止めたのでは無くて貴方の放った爆発する気を私も爆発させて防いだんですよ」
「爆発……俺と同じように使えるのか………… 」
険しい顔の英二を見てHQが狐面の向こうで目を細めたのがわかった。
「英二くんほどじゃありませんよ、私は他にも色々な術が使えますから、霊気を爆発させるなど遊びみたいなものですね」
「遊びだと……ふざけるな! 」
怒鳴りながら英二が手刀を突き出す。
「爆刀、小刀! 」
HQが英二の手首を掴んで突き刺す寸前で止める。
「咄嗟に反撃する動きは良し、ですが霊力の使い方はまだまだですね」
「爆突、4寸玉! 」
英二が爆刀の霊力を爆突に変えて放つ、掴まれた手はHQの狐面の直ぐ前にある。この距離では避ける事など不可能だ。
「ほぅ、流石に良い霊力です」
英二の放った爆発する気がHQの狐面の口元に吸い込まれていく、
「俺の爆突を…… 」
驚く英二をHQが見据える。
「だからまだまだと言ったでしょ、一点集中型の爆発でしょうが私から見れば稚拙です。霊気の集中がまったく出来ていません、隙間だらけの霊気に私の霊気を絡めれば簡単に吸い取る事が出来ましたよ」
話すHQを隙だと見たのか英二が反対側の手を突き出す。
「爆刀、大刀! 」
英二の手から白い光が伸びていく、爆刀の中でも威力の強い太刀だ。
「まだわからないのですか? 貴方の力程度で私に敵うわけないでしょう」
英二の爆刀をHQが白く光る手で受け止めた。
「同じ技かよ…… 」
英二が腕に力を込めて押すがHQはびくともしない。
「バカにしないでください、この様なものは技のうちに入りませんよ、霊力を爆発させるだけ、霊力で霊気の剣を作るだけ、霊力をそのまま使っているだけに過ぎません」
「それがどうした! 俺はこれで戦ってきたんだ!! 」
英二が怒鳴った。
HQから見れば稚拙かも知れないが英二にとってはハチマルやガルルンやサンレイが教えてくれた大切な技なのだ。
自分ではなくサンレイたちが否定されたような気がして怒鳴ったのだ。
「雑魚妖怪をいくら倒しても自慢など出来ませんよ英二、私が霊力の使い方を見せてあげましょう」
HQが英二の腕を離してバッと後ろに跳んだ。
「器物繰り(きぶつくり)! 」
右手をサッと振ると床にあった電線が蛇のように動いて英二に絡み付く、
「うわぁっ! こんなもの……くそっ!! 」
「どうです? 霊力を物に送って操る技です」
電線にグルグル巻になって倒れる英二をHQが見下ろした。
なまざらしと戦っていたサンレイが叫ぶ、
「英二ぃ~~ 」
「渦潮キックなのだ」
余所見をしたサンレイがなまざらしに蹴られて吹っ飛んでいった。
「さっ、サンレイ…… 」
グルグル巻にされて転がる英二にHQが手を伸ばす。
「丁度いいですね、私が捕らえてやりましょう」
「俺はどうなってもいい、サンレイを……みんなは助けてやってくれ」
悲愴な顔で頼む英二を見て狐面の奥でHQがフッと口元を歪めた。
「相変わらず優しいな英二…… 」
ハッとして顔を上げた英二の目にHQの後ろで動く影が見えた。
「させないがお」
爪に炎を灯したガルルンが後ろからHQに斬り掛かる。
「おおっと」
まるで見えていたかのようにHQが避けた。
ガルルンが体を捻って足を伸ばす。
「がるがるキィ~ック! 」
「足癖の悪いワンちゃんですね」
ガルルンのキックをHQが手で掴んで止めた。
有り得ない、中型トラック程もある水胆で強化された朧車を6メートル程ぶっ飛ばす蹴りだ。
人間のHQに止められるものではないはずだ。
「咆哮火! 」
HQに足を掴まれた体勢からガルルンが口から炎を吹き出す。
「おおっと……危ないワンちゃんだ」
床に叩き付けるようにガルルンを放りながらHQが後ろへ大きくジャンプした。
「ガルちゃん大丈夫か」
グルグル巻にされた英二が首だけを動かして転がるガルルンを見つめる。
「大丈夫がお、直ぐに切ってやるがお」
くるっと起き上がるとガルルンは爪を伸ばして英二を縛る電線を切っていく、
「ありがとうガルちゃん」
礼を言いながら英二はサンレイを目で探す。
「ガルルン助かったぞ」
なまざらしと戦いながらサンレイが手を振るのを見て英二は一安心だ。
「ガルが来たからもう安心がお」
ガルルンが英二を庇うように前に立った。
英二とガルルンの向かいでHQが後ろを向いた。
「朧車は…… 」
呟くHQの目にバラバラになって転がる朧車が映った。
「がひひひっ、ボロ車なんてガルの敵じゃないがお」
悪い顔で笑うガルルンを見てHQがフッと微笑む、
「それなりに強い妖怪ですがワンちゃんの相手には役不足でしたか」
スッと前に向き直ったHQの目前にガルルンのパンチが迫る。
「がうがうパァ~ンチ! 」
「うおぅ!! 」
庇うように咄嗟に出した両腕にガルルンのパンチが当たってHQが吹っ飛んで転がる。
「やった。当たった」
英二が思わず声に出す。
自分の攻撃は一切当たらなかったので倒れるHQを見て正直嬉しい。
「流石ガルちゃんだぜ」
秀輝と美鈴もやってきた。
「朧車を倒すなんて凄いな」
驚く英二に美鈴が教える。
「私も秀輝先輩も何もしてないわよ、ガルルン先輩一人でボコボコだよ」
秀輝が英二の肩を掴む、
「クソ坊主は俺たちに任せて英二はサンレイちゃんの援護に行ってくれ」
「HQなら私も戦うわよ、ガルルン先輩ならHQにも勝てるかも知れないからね」
「秀輝、美鈴ちゃん、ありがとう」
嬉しそうに笑う英二の向こうでガルルンがHQに突っ込んでいく、
「クソ坊主はガル一人で充分がお」
大声で言いながらHQを殴り倒す。
「ぐはっ! 」
呻きを上げてHQが倒れる。
「咆哮火! 」
ガルルンが口から炎を吹く、
「おおっと、流石にそれは死にますよ」
HQが倒れた状態から高く飛び上がって炎を避けた。
「お前本当に人間がお? 人の霊気と妖気が混じってるがう」
英二たちの前に飛んでくるとガルルンが炎を灯した両手を構える。
「人間ですよ、でも只の人じゃない、人を超越した人間です。ハイクオリティー、HQさんと呼んでください」
狐面の向こうでHQがニヤリと笑ったのが英二たちにもわかった。
「ハゲクオリティー? ハゲの品質にしては少し毛が生えただらしない頭してるがお」
首を傾げるガルルンをHQが怒鳴りつける。
「誰がハゲの品質か! ハゲじゃなくてハイだ。ハイクオリティーだ」
今までの静かな物言いとは違う声質に英二が顔を顰める。
「この声…… 」
HQがスッと動いた。
「方陣、天岩戸」
「危ないがお! 」
ガルルンが英二と秀輝を両脇に抱えて大きくジャンプして下がる。それを見て美鈴も羽を広げてバッと飛んだ。
先程まで英二たちがいた床に大きな岩が突き出ている。
「あれは? 」
「結界がお、宗哉の別荘に行ったときにサンレイとハチマルが閉じ込められたヤツがお」
「マジかよ、助かったぜガルちゃん」
英二と秀輝を抱えるガルルンの横に美鈴が降りてくる。
「でもよくわかったわね」
ガルルンが抱えていた英二と秀輝を離しながら続ける。
「霊気と匂いでわかったがお、一度見た技は匂いでわかるがお」
大きな岩の上にHQが立つ、
「やはり厄介ですね、朧車程度では勝てないはずです」
大きな岩が床に沈んでいく、術を解いたのだろう、数歩歩いて英二たち前に出るとHQが懐へ右手を入れた。
「ワンちゃんには眠ってもらいましょうか」
HQが煤けた法衣の懐からヘラクレスオオカブトムシを取り出す。
「賢いワンちゃんには御褒美をあげましょう」
ヘラクレスオオカブトをガルルンの足下に放り投げた。
「ヘラクレスがお! オオカブトがお! 」
足下を歩くヘラクレスオオカブトを見てガルルンのテンションがMAXだ。
「一度食べてみたかったがお」
カブト虫に手を伸ばすガルルンを見て英二だけでなく秀輝も大声で止める。
「ガルちゃんダメだ! 」
「ガルちゃん罠だぜ!! 」
キリッとした顔でガルルンが振り返る。
「わかってるがお、ガルに小細工は通用しないがお……でもわくわくと食欲は誰にも止められないがお」
「なに? カブト虫がどうかしたの? 」
ガルルンがカブト虫好きなのを知らない美鈴がきょとんと見つめる先でガルルンがヘラクレスオオカブトに齧り付いた。
「きゃあぁぁ~~、カブト虫食べてるわよ」
指差して振り向く美鈴を見て英二が何とも言えない顔で口を開く、
「ガルちゃんはカブト虫とか食べるんだよ、冗談じゃなくてマジで食うからね」
「夏の味覚とか言って好物らしいぜ、初めて会った時もカブト虫食べ放題ツアーとか言って旅してたらしい」
隣で秀輝も残念な娘を見る目付きになっていた。
「マジで……あははは……野生動物だね」
力無く笑う美鈴の見ている前でガルルンがカブト虫を食べ終わった。
「ヘラクレス、大味がお、デカいだけがう、やっぱりカブトは国産がお、国産高級霜降りカブトが美味しいがお」
齧り付いてからあっと言う間だ。
英二や秀輝が止める暇も無かった。
「何で食べた? ダメだって言っただろガルちゃん……霜降りのカブト虫なんて聞いた事ないからな」
「ガルちゃん大丈夫かよ」
険しい顔で叱る英二の横で秀輝が心配そうに見つめる。
「大丈夫がお、ちょっと味見しただけがお」
ニッコリ笑ってこたえるガルルンがぐらっと揺れて膝をついた。
「がう? フラフラするがお……ダメがう………… 」
「ガルちゃん! 」
慌てて駆け付けると英二がガルルンを抱き上げる。
「やっぱ罠かよ、てめぇ何しやがった! 」
「ガルルン先輩が……HQ許さないよ! 」
秀輝と美鈴が英二とガルルンを守るように前に出た。
HQが坊主頭を掻きながら話し始める。
「殺しちゃいませんよ、眠ってもらっただけです。山犬対策に調合した睡眠薬ですよ、しかし、こうも旨く行くとは思いませんでしたよ」
ガルルン対策でカブト虫を用意するなど英二たちの事は調べ尽くしている様子だ。
「眠っているだけか……良かった」
ガルルンが呼吸をしているのを確認して英二が胸を撫で下ろす。
ガルルンをお姫様抱っこして英二が立ち上がる。
「秀輝、俺たちだけでやるぞ」
「おぅ、やってやろうぜ」
霊力の籠もった鉄パイプを構えて秀輝がこたえた。
英二が美鈴にガルルンを差し出す。
「美鈴ちゃん、ガルちゃんを安全な場所に運んできてくれ」
「でも英二先輩たちだけじゃ…… 」
今まで見た事も無いような英二のマジ顔に美鈴が言葉を詰まらせる。
「わかったわ、ガルルン先輩を安全な場所に寝かせたら直ぐに戻ってくるから」
ガルルンを抱き締めて飛び上がろうとした美鈴にHQが襲い掛かる。
「木葉木菟! 」
どこから出したのか錫杖をサッと振ると小さな鳥のような霊気が飛び出し美鈴に向かって行く、
「きゃあぁぁ~~ 」
5メートル程飛び上がった美鈴が悲鳴を上げて落ちてきた。
「美鈴ちゃん羽が…… 」
英二が絶句した。
美鈴の蜂の羽が半分切られて無くなっていた。
「この野郎! 」
秀輝が鉄パイプを振り上げてHQに向かって行く、
「心意気は良し、だが借り物の霊刀では私を切る事など出来ませんよ」
HQが錫杖で秀輝の鉄パイプを受け止めた。
通常なら鉄パイプが当たった瞬間に霊気が爆発するはずだが何も起らない。
「くそっ、どうなってんだ」
怒鳴る秀輝の後ろで英二が腕を突き出す。
「秀輝どけ!! 爆突、1尺玉! 」
ありったけの霊気を放った。
大型トラックでも吹き飛ばす程の威力がある。
逃げようとした秀輝の腕をHQが掴むと盾にするように前に向けた。
「なっ……止めろ…… 」
大きな霊気が迫って秀輝が顔を引き攣らせる。
「秀輝ぃ~~ 」
英二が叫ぶ、自分の放った霊気だ。どれ程の威力かは一番わかっている。
直撃すれば秀輝は間違いなく死ぬだろう、
「風防、風車! 」
風がクルクルと回って英二が放った爆発する霊気が四散して消えていった。
「秀輝は返して貰うぞ」
声と共にHQの手から秀輝が離れて宙に浮く、そこへシュッとハチマルが現われて秀輝を抱いて英二の傍に降りてきた。
思い詰めた英二の顔に安心が広がっていく、
「ハチマル……ガルちゃんと美鈴ちゃんが………… 」
「わかっておる。美鈴は後で治してやろう、ガルは直ぐにでも起こしてやる」
頷いてこたえるハチマルの腕から降りると秀輝が照れ臭そうに笑った。
「助かったぜハチマルちゃん」
「真打登場じゃ、遅れて済まんの、本調子でないので結界を張るのに時間が掛かってしもうた。じゃが彼奴らはもう逃がさん」
ニッコリ笑うとハチマルが直ぐにHQを見据える。
「儂が来たからには覚悟せい」
「ハチマルさんですか……厄介ですね」
HQがちらっと妖怪なまざらしを見る。
ハチマルがスッとガルルンの脇に立つ、
「なまざらしを当てにしても無駄じゃぞ、サンレイとガルルン、2人相手では流石に持つまい」
ガルルンの額に当てたハチマルの手がぼうっと白く光るとガルルンが目を覚ました。
「がうぅ……うぅ……うがっ! 」
ガルルンがバッと上半身を起こす。
「ハチマルおはようがお」
「はい、おはようさん」
寝ぼけ顔のガルルンの頭をハチマルがポンッと叩いた。
「ガルちゃん良かったぜ」
安堵する秀輝の横で美鈴が頭を下げる。
「ガルルン先輩ごめんなさい、もう少しで先輩を危険な目に遭わすところだったわ」
「がる? ガルは……カブト虫食べて……それから眠くなったがお」
思い出すように首を傾げるガルルンの目に美鈴の切れた羽が映る。
「美鈴羽切れてるがお、やられたがお? 」
HQを警戒していた英二が振り返る。
「ガルちゃんは眠らされてたんだ。それで安全な場所に運ぼうとした美鈴ちゃんがHQにやられて…… 」
「ガルのために……ガルを守るために…………美鈴ごめんがお」
プルプル震えて謝るとガルルンが全身の毛をバッと逆立てた。
「お前がやったのか! 許さないがお!! 」
怒鳴ると共にガルルンの姿がボッと消えた。
「焼き殺してやるがお! 」
赤い炎を纏ったガルルンがボッとHQの正面に現われる。
「硬気、穿山甲! 」
HQの体を青黒い鱗が覆っていく、
「がうがうパァ~ンチ! 」
ガルルンの炎を纏ったパンチをHQが腕を盾にして受ける。
「くぅぅ…… 」
「火山咆哮! 」
どうにか防いだHQにガルルンが口から炎を吹き浴びせる。
「凄い、いつもの炎と全然違うぜ」
「火山咆哮は咆哮火の上位技じゃ、雑魚妖怪など妖気まで焼き尽くされて復活すらできんようになる炎使いガルルンの十八番じゃ」
驚く秀輝にハチマルが教えてくれた。
「私じゃ灰も残らないわよ、やっぱ凄いわ」
感心する美鈴をちらっと見てハチマルが続ける。
「じゃが彼奴には効かんようじゃな、やはり儂が相手するしかあるまい」
ハチマルがシュッと姿を消した。
ガルルンが口から吐く炎を止める。
「火山咆哮が……お前、お前…………何者がう? 」
ガルルンの直ぐ前で身を屈めて丸くなっていたHQが立ち上がる。
「法衣が焼けてしまいました。気に入っていたのですが残念です」
体に纏わり付く煤をパンパン払うHQを見て英二たちが顔を顰める。
HQの全身を青黒い鱗が覆っていた。法衣は燃えて無くなったが狐面は顔に付いたままだ。
「妖怪だったのか…… 」
呟く英二にHQがサッと振り向く、
「まだまだです。私は妖怪ではない、これは硬気術ですよ、霊気の鎧と言えばわかるかな、英二くんも修業を積めばこれくらい出来るようになる……なったはずですが残念です。今の貴方にその霊力は必要無いでしょう、私に譲りなさい、そうすれば全て丸く収まる。誰も傷付かなくて済みますよ」
「俺の霊力を譲る…… 」
悩むように顔を顰める英二の前でガルルンがHQに突っ込んでいく、
「寝言は寝て言うがお! 」
「大事な話の邪魔をするな!! 」
殴り掛かったガルルンの首根っこをHQが掴んで押さえ込んだ。
「がうぅ…… 」
苦しげに呻くガルルンを見て英二がHQに腕を向ける。
「そんなもの無駄です。山犬の首が胴から千切れてもいいなら爆発でも何でやりなさい」
「ガルちゃん……くそっ! ガルちゃんを放せ」
「いいですよ、英二がおとなしく私に付いてくるならね」
悔しげな英二を見てHQが狐面の奥でニヤリと笑った。
「いいわけなかろう、ガルルンは返して貰うぞ」
シュッと現われるとハチマルがHQに手刀を突き立てた。
「ぐわっ……ぐぐ……私の穿山甲を貫くとは…… 」
ガルルンを放すとHQがバッと飛び上がる。
「逃がさん! 」
ハチマルが蹴り上げる。
「うおぅ!! 」
HQの狐面をハチマルの爪先が掠めた。
「やはり強いですね」
後ろに跳んで距離をとるHQの左肩から血が流れていた。
「霊気に乱れが……只の突きではない、流石強い…… 」
HQの全身を覆う青黒い鱗が消えていく、ハチマルが術を破ったのだ。
「次は怪我で済まんぞ」
ハチマルが構える前でHQが錫杖をトンッと床に叩き付ける。
「裸では失礼ですね」
どういう技か燃えたはずの法衣が元に戻っていった。
ガルルンがハチマルの隣りに立つ、
「ガルも戦うがお」
「此奴は儂に任せてガルルンはサンレイと一緒になまざらしを頼む、お主と二人なら倒す事が出来よう」
HQを警戒しながらハチマルが言うとガルルンが頷いた。
「わかったがお、なまざらしボコボコにしてやるがお」
ボウッと炎を纏うガルルンを見てHQが構える。
「行かせませんよ」
「お主の相手は儂じゃ」
ハチマルが手を振った。
「風撃、スズメバチ! 」
空気の槍が飛んでいく、体を捻って避けるHQの狐面が風に煽られてバキッと割れた。
「しまった……サンレイさんとハチマルさんの攻撃でヒビでも入っていたのでしょう」
狐面が2つに割れて床に転がる。
HQの顔を見て英二が驚きその場に固まった。
「あれは……なんで…… 」
英二の大声がホールに響く、
「兄貴! 何で兄貴が!! 」
なまざらしと戦っていたサンレイが振り向く、
「英二…… 」
「バレたのかHQ」
向かいでなまざらしも戦う手を止めた。
後ろで見ていた秀輝も大声を出す。
「マジかよ! 仁史さんだぜ」
幼馴染みの秀輝には兄の高野仁史だと直ぐにわかった。
「仁史さんって? 英二先輩のお兄さん? HQが? 」
HQと秀輝と英二を見比べながら美鈴が訊いた。
「間違いないぜ、頭剃ってるけど英二の兄ちゃんだ。仁史さんだ。確か中学を卒業して直ぐ旅に出たんだよな」
「ああバカ兄貴だ。ハゲにしてるけどあの顔……憎たらしい顔を間違うかよ」
吐き捨てるように言うと美鈴に説明するように続ける。
「バカ兄貴は3つ年上なんだ。中学を出て直ぐに修業をすると言って家を出た。その後は年に2度程ふらっと帰ってくるだけで何処で何をしているのかは聞いても話さない、去年は一度も帰って来なかった。その前の年は1度だけ帰ってきて俺が貯めてた金を盗んで行きやがった。只のバカだと思ってたのに……バカでも兄貴だと………… 」
英二がバッと前に出る。
「それが何やってんだよ、秀輝が死ぬところだったんだぞ、美鈴ちゃんの羽を切ったり、ガルちゃんを眠らせたり殺そうとしたり……他にも妖怪を使って……何が目的だ! なんで俺を狙うんだ!! 」
感情剥き出して英二が怒鳴りつけた。
「大声を出すな、戦いの邪魔だ」
バッと後ろに跳んで距離を置くHQをハチマルが見据える。
「一時休戦じゃ、儂もお主に聞きたい事がある」
走る足を止めてガルルンが英二を見つめる。
「ガルは……英二が心配がお」
「英二は儂に任せておけ、それよりサンレイと2人でなまざらしを倒すのじゃ、彼奴がおっては儂も落ち着いて戦えん」
「わかったがお、なまざらしぶっ倒して直ぐに戻ってくるがお」
ハチマルに頷くとガルルンが炎を纏ってボッと消えた。