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第132話

 改装中で関係者以外立ち入り禁止のアトラクションの建物の中に英二と美鈴がいた。

 薄暗いホールのような所で英二が美鈴の腕を引っ張る。


「ちょっ、美鈴ちゃん、ここはヤバいよ」


 空を飛んできて中に入るまでわからなかったが現場を見れば一目で改装中だとわかった。

 遠くで人の声が聞こえてくる。

 新しいアトラクションを作っているのだろう、向こう側で作業している様子だ。


「ここでいいのよ、ここなら誰にも邪魔されずに英二先輩とラブラブ出来るでしょ」


 美鈴が艶のある眼で英二を見つめる。

 口元に笑みを浮かべ艶めかしいが目の奥が怖い、人の目ではなく獲物を見定めるような昆虫の眼だ。


「ねぇ英二先輩、私を好きにしていいわよ

「ちょっ、ちょちょ、ダメだから……俺はその気は無いから…… 」


 焦る英二の首に美鈴が腕を回す。


「英二先輩可愛いぃ~~、怯えなくても大丈夫よ、お尻には何もしないわ、英二先輩の前では女だから……だから私が英二先輩に入れたりしないわ、英二先輩は私のお尻に入れてもいいわよ、おっぱいも好きにしていいわ」


 近付けてくる美鈴の顔を英二が手で押さえる。


「ちょっ……でも……美鈴ちゃんのクラスの男たちはお尻にしたって…… 」


 焦る英二の耳元で美鈴が愉しそうに笑う、


「うふふふっ、あれは違うわ、あれは操るためにしただけよ、弱い毒を注入して幻覚を見せて操るの、彼奴らは只の遊び、命令を利く奴隷にしただけよ」

「お尻から毒を入れて操るのか…… 」


 彼奴ら全員マジで美鈴ちゃんにやられたのか……、美鈴と戦ったときにフラフラと出てきた1年の男子たちを思い出して英二がブルッと震えた。

 英二の震えが伝わったのか美鈴が正面に回る。


「でも英二先輩は違うわ、先輩の事は本気なの、本気で愛してるのよ、愛する人の嫌がる事はしないわ」


 訴えるように見つめる美鈴から英二がスッと視線を逸らす。


「 ……ごめん、俺はその気は無いから……美鈴ちゃんは美人だから俺なんかよりも良い男が見つかるよ」


 美鈴が英二の両手を握り締める。


「英二先輩より良い男なんていないわ、私が妖怪だって知って、男だって知ってもこんなに優しくしてくれる。サンレイちゃんたちに負けて殺されていても仕方のない私を助けてくれた。英二先輩は私にとって命の恩人なの、ヒーローなのよ」


 視線を戻すと英二が美鈴を見つめた。


「優しいとかは美鈴ちゃんが友達だからだよ、助けたのは美鈴ちゃんが悪い妖怪じゃ無いって思ったからで……本当に悪いのはHQって坊主と妖怪なまざらしだし…… 」


 どうにか傷付けないように諦めさせようと言葉を選ぶ英二に美鈴がガバッと抱き付いた。


「いや! そんな話し聞きたくない」


 正面から美鈴が顔を近付けてくる。


「英二先輩…… 」


 美鈴の唇が英二の口に触れた。


「ダメだよ」


 両肩を持って美鈴を引き離す。

 美鈴の顔からスーッと感情が消えた。


「ハチマル先輩に遠慮しているの? それともガルルン先輩? 英二先輩はおっぱい星人だしサンレイちゃんは流石に恋愛対象外よね」

「違うから、ハチマルは神様だぞ、俺なんか相手になるかよ、ガルちゃんは可愛いけど変な事したらハチマルやサンレイが怖いし……って言うか、変な事したら学校の男子も女子も全員敵に回すからな、サンレイとガルちゃんは妹みたいなものだからな」


 必死に言い訳する英二を見て美鈴がクスッと笑う、


「じゃあ、久地木小乃子先輩かな? 英二先輩好きなんでしょ? 」

「なななっ、そっ、そんなんじゃないから、ちっ、違うから、小乃子とは只の幼馴染みってだけだからな、違うからな」


 動揺して声が震える英二に美鈴がまた抱き付く、


「違うのなら私を抱いて! 」


 飛び付くように抱き付かれてよろけた英二が美鈴と一緒に倒れ込む、


「英二先輩好きなの! おっぱいでも何でもしてあげるから…… 」


 喘ぐように言うと美鈴が英二に抱き付いた。


「ちょっ、ちょちょ……ダメだから………… 」


 慌てて上半身を起こそうとする英二を美鈴が押さえ込む、


「ダメよ、もう我慢できないわ英二先輩」


 奪うように美鈴がキスをする。


「 んん…… 」


 英二の体から力が抜けていく、美鈴のキスが気持ち良いだけじゃない、手足に力を入れたくとも実際に動かないのだ。

 唇を離すと美鈴が妖艶に微笑んだ。


「うふふっ、英二先輩は寝ているだけでいいわよ、私が全部してあげるから……一緒に気持ち良くなりましょう」


 金縛りにでも掛かったように体が動かない英二に跨がるように上半身を起こすと美鈴が続ける。


「唾液からも毒が出せるのよ、針と違って弱い毒だけど人間を暫く動けなくするくらいは出来るのよ」

「なっ……なんで…… 」


 大きく目を見開いて英二はそれだけ言うのが精一杯だ。

 倒れた英二のシャツを美鈴が捲り上げる。


「英二先輩が欲しいからよ、私を抱けば好きになるわ、いえ、好きにしてみせる。自信あるんだから……だから少しだけ我慢して頂戴、直ぐに気持ち良くなるから」


 鍛え始めてそれなりに筋肉の付いた英二の胸板に美鈴が愛おしそうに頬を擦り付ける。


「ダメ……止めろ………… 」


 必死に抵抗しようとするが手足は動かない、その時、英二の両手がぼうっと白く光り始める。


「ダメだ…… 」


 無意識に霊気が溜まっていくのを英二が押さえ込む、抵抗する心が攻撃と同調して霊気が溜まったのだろう、


「英二先輩…… 」


 英二の両手から白い光が消えていくのを見て美鈴が続ける。


「嬉しい! 爆発能力を使えば逃げ出せるかも知れないのに私が怪我をするといけないから止めたんでしょ? 英二先輩はやっぱり優しいわ」


 美鈴がシャツのボタンを外していく、


「止めてくれ……俺はそっちの趣味はないから………… 」


 必死に訴えかける英二の上で美鈴がバッとシャツを脱いだ。


「確かに男よ、チンコも付いているわ、でも心は女よ、おっぱいも本物よ、今まで女として生きてきたのよ」


 美鈴の結構大きなおっぱいが英二の上でぷるんと揺れた。

 動かせない英二の両手を持っておっぱいにあてがう、柔らかで温かい、美鈴の生乳の感触が両手からダイレクトに伝わってくる。


「英二先輩にあげるわ、おっぱいもお尻も……口ででも何でもしてあげるわ、だから愛し合いましょう」

「ダメだから………… 」


 おっぱいの気持ち良さに気を取られたのか英二の声が先程までより小さい。

 美鈴が満足げにクスッと笑う、


「女なんかに負けないわ、女よりも気持ち良くしてあげるわよ、だから英二先輩……私を抱いて」


 美鈴が抱き付く、生乳が英二の顔を包み込んだ。

 温かで柔らかくて良い匂いがする。気持ち良すぎて何も考えられなくなる。

 美鈴が英二の股間に手を伸ばす。


「先輩固くなってる。私で感じてくれたのね嬉しい」


 ギュッと掴みながら美鈴が英二の耳元に口を近付ける。


「英二先輩、初めは口で気持ち良くしてあげるわね」

「ああぁ…… 」


 英二が喘ぐような声を出す。

 気持ち良くて抵抗する気などとっくに無くなっていた。


「うふふ……たっぷり愛し合いましょう」


 美鈴が英二のベルトに手を掛けた。



 薄暗いホールがパッと明るくなる。

 カメラのフラッシュを焚いたように一瞬だ。


「にゅひひひっ、見つけたぞ」


 サンレイの声に美鈴がバッと起き上がる。

 倒れている英二、その上に跨がるようにしている美鈴、二人を見下ろすようにサンレイが浮んでいた。


「ああぁ~~、英二のお尻がピンチだぞ」


 サンレイの大声に反応するように英二がバッと上半身を起こした。

 毒で動けなかったのが嘘のように動いたので本人もきょとんとしている。


 上半身を起こした英二の代わりに美鈴が倒れていく、


「なんで……霊力で私の毒を消したのね」


 驚いていたのは一瞬だ。

 美鈴は直ぐに起き上がると英二に抱き付いた。


 建物の前で下ろされた秀輝も入ってきて2人を見て思わず叫ぶ、


「なっ! お前ら何やってんだ! 」

「ちっ、ちが…… 」


 違うと言おうとした英二の口を美鈴がおっぱいで押さえる。


「うふふっ、もう遅いわよ、既成事実を作ったわよ、英二先輩とセックスしたんだからね」


 生おっぱいの気持ち良さに負けそうになりながら英二がブハッと顔を離す。


「違うから、何もしてないから、痺れて動けなかったけど何もしてないから」


 必死で訴える英二の脇にサンレイが降りてくる。

 ニヘッと悪い顔のサンレイが英二の頭をポンポン叩く、


「英二のお尻は守れなかったけど命は守ってやるぞ」

「何もされてないから! お尻も無事だから!! 」


 誤解されては大変だと英二が必死で叫ぶがサンレイは無視してこたえない。

 英二がさっと秀輝に向き直る。


「マジで何もされてないからな、頼むから証言してくれよ」

「上半身裸で抱き合いながら言っても説得力無いぜ」


 ニヤつく秀輝の前で美鈴を引き離すと英二が立ち上がる。


「マジで何もしてないからな、ズボンも穿いているだろ、美鈴ちゃんに押し倒されたけどマジで何もしてないからな」


 焦りまくる英二を見て秀輝がとぼけ顔で口を開く、


「15分くらいあったからな、やろうと思えば充分出来るぜ」


 悪い顔のままサンレイが続ける。


「心配すんな、お尻はやられちゃったけどDTは守ったっておらが証明してやるぞ」

「違うから、何もされてないから頼むから変な噂だけは流さないでくれよ」


 泣きながら頼む英二の横で美鈴が脱いだシャツを着直した。


「私はいいわよ、英二先輩に抱かれたって噂が流れても……公認カップルとして堂々と付き合えるわよ」

「勘弁してくれぇ~、マジで何もやってないからな」


 嬉しそうに微笑む美鈴の隣で英二が泣きながら無実だとサンレイと秀輝を見つめた。

 サンレイがニタリと不気味な笑みを湛えて口を開く、


「付き合うのは無理だぞ、オカマ蜂にはここで死んでもらうからな」


 全身からバチバチと雷光を走らせるサンレイを見て英二が美鈴の前に出る。


「ちょっ、待てよサンレイ、話し合えばわかるだろ、喧嘩するにしてもマジは無しだ。雷はダメだ。美鈴ちゃんも悪気があってやったんじゃないだろ、サンレイだって悪くないしさ、ちゃんと話し合えばわかるから」


 バイトと風呂トイレと寝るとき以外は殆ど一緒に居るのだ。サンレイの事は何でも分かる。目の前にいるサンレイが本気だとわかって英二も必死だ。


 庇うように前に立つ英二に後ろから美鈴が抱き付く、


「ああぁ~ん、英二先輩、超優しいぃ~~、やっぱり結ばれた後は違うわね、英二先輩は私の味方よ」


 後ろから頬を擦り寄せて甘える美鈴を見て秀輝が顔を引き攣らせる。


「もしかしてマジかよ…… 」


 絶句する秀輝に英二が慌てて話し出す。


「何もしてないからな、キスされて……美鈴ちゃんは口からも毒を出す事が出来て俺は動けなくなったんだ。それで上半身裸にされて抱き付かれただけだ。サンレイが来たからそれ以上は何もされてない、本当だからな」


 英二が正直に話した。これ以上誤解されては大変である。


「どうでもいいぞ、オカマ蜂はムカつくから仕留めるぞ」


 普段なら美鈴がイチャついても逆に応援するサンレイが今は本気で倒そうとしている。


「サンレイ何か変だよ、何かあったのか? 」


 顔を強張らせて訊く英二の肩に顎を乗せるようにして美鈴が笑う、


「そう簡単にいくかしら? 」


 英二が首を回して美鈴に注意する。


「美鈴ちゃんも嗾けたりしちゃダメだよ、今日は2人とも何か変だよ」

「ああ、俺もそう思うぜ、サンレイちゃんも美鈴ちゃんも何か好戦的になってるような気がするぜ」


 サンレイの後ろで秀輝も同意するように頷いた。


「にひひひっ、何もないぞ、ムカつくだけだぞ」


 サンレイがバチバチと雷光をあげる腕を威嚇するように見せる。

 後ろから英二に抱き付いたまま美鈴が蜂の羽をバッと広げた。


羽音眩暈はおんげんうん!! 」


 羽を激しく震わせる。三半規管を麻痺させる音波攻撃だ。


「ブンブンバリアー 」


 サンレイが電気の壁を出して音波攻撃を防ぐ、後ろにいた秀輝も無事だ。

 その隙を付くように英二を抱いたまま美鈴が飛び上がる。


「美鈴ちゃん! 」

「続きは向こうでしましょうね」


 叱るような英二に美鈴がこたえた。止めるつもりは無い様子だ。


「逃がさないぞ」


 バチッと雷光をあげてサンレイが美鈴の上に現われた。


「雷パァ~ンチ! 」


 続けて直ぐのパンチを美鈴は避けられない。


「あうぅ…… 」

「うわぁ~~ 」


 苦しげな美鈴と一緒に英二も落ちていく、


「大丈夫か? 」


 地面に転がる英二と美鈴に秀輝が駆け寄る。


「くぅぅ…… 」

「痛ててて…… 」


 5メートルほどしか浮いてなかったので2人とも無事だ。


「にひひひひっ、止めを刺してやるぞ」

「サンレイちゃん、ダメだぜ」


 バチッと降りてきたサンレイの手を掴んで秀輝が止めた。

 どんな時でもサンレイの味方をする秀輝の目にもやり過ぎだと映ったのだ。


「んだ? 秀輝もオカマ蜂の味方をするんか? 」

「サンレイちゃん…… 」


 くるっと振り返ったサンレイの目に狂気を感じて秀輝がブルッと震えた。

 背中を打ったのか痛そうに捩らせて英二が起き上がる。


「痛てて……何するんだサンレイ」


 文句を言う英二にサンレイが向き直る。


「オカマ蜂の味方はおらの敵だぞ、敵は殺すぞ」

「なっ!? 」


 サンレイの異常な目付きに英二が慌てて振り返る。


「美鈴ちゃん、逃げて…… 」


 英二が言葉を詰まらせる。

 目の前に立つ美鈴も異様な目をしていた。


「大丈夫よ英二先輩、サンレイを殺せば2人だけでラブラブ出来るわ」


 腕を伸ばす美鈴から英二が反射的に逃げ出す。


「雷パァ~ンチ! 」


 突っ込んできたサンレイから逃れるように美鈴が飛んだ。


「英二こっちだ」


 腰を屈めて2人の間から逃げ出した英二の腕を秀輝が引っ張った。

 英二と秀輝が資材の陰に逃げ込む後ろでサンレイと美鈴が戦い始める。


「閃光キィ~ック! 」

「羽音壁!! 」


 サンレイの雷光を帯びた蹴りを美鈴が音の壁で防いだ。


「にひひひっ、雑魚の癖におらのキックを防ぐとは生意気だぞ」

「ふふっ、そっちこそチビの癖に神様なんて生意気よ」


 サンレイが雷光を纏って宙に浮くと美鈴は羽を鳴らして空を飛ぶ、何度かぶつかる2人を見上げながら英二と秀輝が話を始める。


「2人とも無茶苦茶だぜ、どうなってんだ? 」


 険しい顔の秀輝の向かいで英二が首を振る。


「わからん、でも只の喧嘩じゃないな」

「ああ、何か操られてるって感じだな」


 大きく頷きながら英二がスマホを取り出す。


「ハチマルに電話するから秀輝は2人を見ててくれ」

「わかった。危なくなったらお前を抱えて逃げてやるぜ」


 資材の陰で英二がハチマルに電話を掛ける。


「ダメだ。繋がらない」


 3度掛けたがコール音すら鳴らなかった。


「アンテナは? 」

「全部立ってるよ、それでも繋がらない」


 不安気に訊く秀輝に英二が首を振ってこたえた。


「やっぱ何かあるんだぜ」

「ああ、どうにかして2人を止めないと」


 秀輝が英二の背をポンッと叩いた。


「外に行って電話を掛けてみるぜ、英二は2人を見ててくれ、ヤバいと思ったら爆発でも何でもさせて2人を止めろ、怪我くらいならハチマルちゃんでもサンレイちゃんでも治せるだろ、あのまま戦って美鈴ちゃんが死ぬのは嫌だぜ」

「そうだな、わかった。連絡は頼む」


 了解というように英二の背を強く叩くと秀輝が隠れるようにして走って行った。



 薄暗いホールの中でサンレイと美鈴の戦いが続いている。


「どうにかしないと…… 」


 積んである資材の陰で見ながら英二が必死で考える。

 ハチマルも瞬間移動が出来る。連絡さえ付けば直ぐに来てくれるはずだ。だが2人の戦いを見るに待っている時間も無いように感じた。

 宙に浮んだ美鈴が蜂の羽を震わせる。


「羽音眩暈!! 」


 三半規管を麻痺させる美鈴の音波攻撃をサンレイが横に大きく跳んで避ける。


「これでも喰らえ! 」


 サンレイが着地した所を狙って美鈴が背中から生えた蜂の尻尾から毒液を飛ばす。


「なん!? 」


 サンレイの腕に毒が付いて白い湯気を上げる。


「うふふふっ、タンパク質を瞬時に溶かす毒よ、これで左手は使えないわね」


 美鈴は何種類かの毒を使える様子だ。


「んだ? こんなもん効かないぞ」


 サンレイが左手をブンブン振った。

 皮膚が赤く爛れているが平気らしい。


「チィッ! やはり殺さないとダメみたいね」


 吐き捨てるように言うと美鈴が突っ込んでいく、


「雷パァ~ンチ! 」


 サンレイが避けずに正面からバチバチと青い火花を散らすパンチを繰り出す。


「羽音壁!! 」


 美鈴は音波の壁でパンチを防ぐとそのままサンレイに抱き付いた。


「死んでもらうわよ」


 背中から生えている蜂の尻尾をサンレイの脇腹に押し当てる。


「サンレイ! 」


 積んである資材の陰に隠れていた英二が飛び出した。


「爆練、2寸玉! 」


 飛び出すと同時に爆発する気を連続で飛ばす。

 ピンポン玉くらいの小さな気だ。威嚇や牽制に使う爆発である。


「きゃあぁ~~ 」


 周りを囲むように爆発する気に驚いて美鈴が悲鳴を上げて飛び上がる。


「にゅひひひひっ、英二ぃ~~ 」


 サンレイがバチッと現われて英二に抱き付く、


「やっぱし、英二はおらの味方だぞ、愛するおらを守ってくれたぞ」


 嬉しそうに甘えるサンレイの頭を英二が撫でる。


「当り前だ。サンレイは俺の神様なんだからな」

「英二先輩…… 」


 声が聞こえて英二が見上げる。

 4メートル程浮んで美鈴がじっと見つめていた。


「先輩……どうしてなの? 私よりもチビがいいの? 」

「美鈴ちゃん違う…… 」


 言い訳しようとした英二に抱き付くサンレイが奇妙な笑いを上げる。


「にゅひひひっ、おらと英二は愛という強い絆で結ばれてるぞ、オカマ蜂の入る隙間なんて1ミクロンも開いてないぞ」


 美鈴がキッと怖い目を英二に向ける。


「酷い……酷いわ英二先輩、私とは遊びだったのね」

「違うから、遊びって美鈴ちゃんとは何もしてないだろ、だいたいサンレイの…… 」


 必死に言い訳をする英二の声をサンレイの大声が掻き消していく、


「にひひひっ、そだぞ、遊びだぞ、浮気にもなってないぞ、オカマ蜂なんかに英二が本気になるわけ無いぞ、おらは心が広いから少しの遊びくらい大目に見てやったぞ、英二の心も体もおらのものだぞ」

「酷いわ、こんなに愛しているのに……英二先輩…… 」


 美鈴の身体が変化していく、綺麗な顔が裂けて大きな複眼を付けた蜂の頭が現われ手足も裂けて外骨格を纏った細い虫の足になる。さらに胸の辺りの服が破けて腕がもう一対出てきた。

 大きなスズメバチ、蜂の妖怪、妖蜂の美鈴だ。


「美鈴ちゃん、違うから話しを聞いてくれ」


 叫ぶ英二からサッと離れるとサンレイがジャンプする。


「おらと英二の邪魔をする妖怪はぶち殺すぞ」


 バチバチと雷光を纏ったサンレイがパンチを繰り出す。


「雷パァ~ンチ! 」

「そんなもの」


 美鈴がパンチを避けていく、先程までとスピードが違う、正体を現わした妖蜂の力だ。


「毒でも喰らえ! 」


 美鈴が蜂の尻尾から毒針を飛ばす。


「効かないぞ」


 サンレイがバチッと避ける。

 英二の足下に毒針が降ってきてコンクリの床に突き刺さった。


「やべぇ、こんなの刺さったら死ぬぞ、美鈴ちゃんもサンレイもマジだ」


 毒だけでも凄いのにコンクリートに深々と刺さっている毒針を見て英二がビビる。


「雷パァ~ンチ! 」


 殴り掛かるサンレイを美鈴が余裕に避ける。

 次の瞬間、サンレイがバチッと消えた。


「どっ、何処に…… 」

「雷鳴踵落とし! 」


 バチッと現われたサンレイが上から美鈴を蹴り落す。


「にひひひっ、パンチは囮だぞ」


 諸に喰らって悲鳴も上げずに落ちていく美鈴を見てサンレイが愉しそうに笑った。


「美鈴ちゃん! 」


 慌てて走り寄ると美鈴を受け止めてその場に倒れる。


「痛てて……大丈夫か美鈴ちゃん」


 美鈴の下で英二が声を掛ける。昔の英二なら間に合わなかったが体を鍛えた今の英二はどうにか間に合って美鈴が地面に叩き付けられなくて済んだ。

 ハッキリ言って正体を現わした大きなスズメバチといった姿の美鈴は怖い、だが頭の中には自分を好いてくれている人間姿の美鈴が浮ぶ、姿形関係なく美鈴の事は好きなのだ。

 もっとも恋愛という感情ではなく友人といった感情だ。だが少し下心も無いわけでは無い、男とわかっていても美鈴のおっぱいは気持ちいいのだ。


「英二先輩…… 」


 英二の上で美鈴がくるっと体を回す。


「嬉しい! やっぱり私が好きなんですね」


 正面から抱き付くが蜂そのものといった姿なので英二は少し引き気味だ。


「ちょっ、美鈴ちゃん……怪我は無いか? 」

「ああぁん、心配してくれるのね、英二先輩優しいぃ~~ 」

「美鈴ちゃん、ちょっと…… 」


 抱き締める美鈴をどうにか離そうとするが妖蜂姿の力は人間の何倍もあり英二の力では無理である。


「なにやってんだ英二? 」


 倒れている2人の脇にサンレイがやってくる。

 英二を抱きかかえながら美鈴が起き上がる。


「何って愛し合ってるのよ、英二先輩は私の事が好きなのよ」


 サンレイがバチッと大きな雷光を光らせた。


「何言ってんだ! 英二はおらが好きに決まってんぞ」


 怒鳴るサンレイを見て美鈴が声を出して笑う、


「あははっ、何言ってんの? 今身を挺して助けてくれたじゃない、英二先輩は私が好きなのよ、命懸けで助けてくれるほど私が好きって事よ」


 怒鳴りながらサンレイが英二の腕を引っ張る。


「何言ってんだ。さっきおらを助けてくれたぞ、英二はおらが好きに決まってんぞ、相思相愛だぞ」


 サンレイと美鈴の間で英二が弱り顔だ。


「ちょっ、2人とも……秀輝助けてくれ…… 」


 秀輝が駆けていった方を見るが誰も居ない。

 右からサンレイが英二の腕を引っ張った。


「英二! おらが好きだってオカマ蜂にハッキリ言ってやれ」

「英二先輩! 私の事が好きってチビに言ってやりなさい」


 左から美鈴が英二の右手に抱き付いた。


「ああ……もう、もう、どうにかしないと…… 」


 2人の間で必死に考えるがこの状況でアイデアなんて浮ばない。


「胸もないペッタンコより私の方が良いわよね英二先輩」

「蜂の癖に生意気言うな! 神であるおらの方が良いに決まってるぞ」


 幾度か言い合いをして2人同時に英二を睨む、


「どっちがいいの先輩! 」

「どっちか決めろ英二! 」


 英二の両腕がポンッと小さく爆発して驚いた2人が手を離す。


「こんな所で決められるか! 」


 英二が逃げ出した。急に言われてもサンレイと美鈴のどちらか片方を取るなど英二に出来るわけがない。


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