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第13話

 翌週の木曜日、学校が終わると一度家に帰って着替えなどの荷物を持ってバイト先のコンビニに集まる。


 少し前から旅行に行く計画を立てていたこともあり豆腐小僧を手伝うことに誰一人異存を唱える者はいなかった。

 それよりサンレイとハチマルが無事なのを知って小乃子や委員長はもとより責任を感じていた宗哉が大喜びで全面協力してくれた。


 コンビニの駐車場で英二と秀輝と小乃子と委員長が駄弁っている。

 車を手配してくれる宗哉はまだ居ない、豆腐小僧もまだだ。


「豆腐小僧かどんな妖怪なんだ? 」


 秀輝に奢って貰ったジュースを飲みながら久地木小乃子が訊いた。


「小学生の頃に妖怪図鑑で見たことあるよ、着物着た子供が編み笠被って皿に乗せた豆腐差し出してるの」


 委員長の芽次間菜子が唐揚げをつつきながらこたえる。

 もちろん秀輝に奢って貰ったものだ。


「図鑑の通りだぜ、傘被ってた。豆腐は持ってなかったけどな」


 アイスを食べながら言う秀輝を英二が嫌そうに見つめる。


「お前寒いのによく外でアイス食えるな」

「何言ってやがる。サンレイちゃんとハチマルちゃんが無事だったんだぜ、2人はアイス大好きなんだから雪降ってても外で食うだろ、俺も付き合えるように今から訓練してんだ。いつか一緒に食うんだからな」

「風邪引いても知らないぞ、あの2人に合わせてたら体持たないからな」


 呆れる英二の隣で秀輝がニッと笑う、


「でも2人が無事で本当に良かったぜ、寝てるだけならいつか絶対会えるからな」

「うん、本当に良かった。サンレイが無事って分かったら毎日安心して寝れるようになったし勉強も集中できるようになった。豆腐小僧が教えてくれた御陰だよ」

「そうだな豆腐小娘ってのも見てみたいしな」


 はしゃぐ2人の前に意地悪顔の小乃子が立つ、


「本当だな、でもこれで英二のいじけた顔見れなくなると思うと一寸残念だ」

「何言ってんの、高野くんを見つめるあんたの心配そうな顔をこれ以上見なくて済んで私は一安心よ」


 後ろから委員長が戯けて言うと小乃子が慌てて振り返る。


「なっ!! あたしは別に心配なんかしてないからな」


 ニヤつきながら秀輝が口を開く、


「毎日俺に英二のことを聞いてきてただろ、どうにか元気つけろって煩かったぜ」

「そうそう、どうしたらいいって泣きついてきたじゃない」


 前後から言われて小乃子がクルクル振り返りながら大慌てだ。


「なっ、何言ってんだよ、あたしは別に……英二がどうなろうと知ったことじゃないけどサンレイとハチマルが心配だっただけだ。だから………… 」


 英二が見ているのに気付いて小乃子が照れるように言葉を濁す。


「小乃子ありがとうな」

「なん!? 勘違いすんなよ」


 ペシッ、いい音が響いた。

 英二の頭を小乃子が平手で叩いたのだ。


「ちっ違うからな……そんなんじゃないからな、変な勘違いしたらぶっ飛ばすからな、あたしはサンレイとハチマルが心配だっただけだからな」

「叩いてから言うな……でも本当にありがとう」


 痛そうに頭を摩る英二の向かいで小乃子の頬が真っ赤に染まっていく、


「とっ友達だからな、心配すんのは当たり前だろ」

「そうよね、サンレイちゃんもハチマルも私たちもみんな友達だからね」


 委員長の言葉にその場の全員が笑顔になった。



 コンビニの駐車場に大型のバンタイプの車が入ってきた。


「宗哉だな、外車のバンかよ、同じ10人乗りでも一回りデカいぜ」


 駐車スペースに綺麗に止まったバンから宗哉が出てきた。

 腕の良い運転手を連れてきてくれたようである。


「みんなお待たせ、宿の手配とか色々準備してたら遅くなってね」


 爽やかスマイルで挨拶する宗哉に英二も手を上げてこたえる。


「別に遅くないよ、豆腐小僧もまだ来てないし」

「宿の手配か……全部宗哉に任せっきりだからな」


 他人事のように呟く秀輝の隣で委員長が着替えなどの荷物の入った鞄をポンと叩く、


「でもこれで安心して探せるね、豆腐小娘ちゃんだっけ? 」

「妖怪豆腐女だ。豆腐の角で殴ってくるんだ。それとも腐ってるから腐女子みたいだったらどうする? 」


 小乃子が豆腐を持つ格好をして殴る振りをする。

 それを見て英二が迷惑そうな顔だ。


「豆腐女じゃない、豆腐小娘とか豆腐小町って呼べ、からかってたら妖怪豆腐食わされるぞ、全身カビだらけになって寝込んでも知らないからな」

「でも可愛い豆腐小娘ちゃんがあ~んって食べさせてくれたら妖怪豆腐食っちゃうな俺」


 秀輝も戯ける。

 小乃子と秀輝は初めから旅行気分だ。

 サンレイとハチマルが無事だと分かったこともあるが今回豆腐小娘が見つからなくとも引き続き探すと宗哉が言ってくれた。

 佐伯重工御曹司が約束したのだ。

 大都会ならともかく地方の小さな町である。

 しかも相手は妖怪だ。手掛かりくらいは掴めるだろうと楽観している。


「本当に食わせるっすよ」


 いつの間に来たのか豆腐小僧が後ろに立っていた。

 初めて会った時のように丸坊主にTシャツ1枚で半ズボン姿だ。


「おう来たな、冗談だって」


 秀輝が手を上げて挨拶だ。


「この子が妖怪なの? 」

「只のガキじゃん」


 委員長と小乃子は疑い顔だ。


「いや何となく分かるよ、人間じゃないって気配はある」


 宗哉が顔を顰める。

 メイロイドにモノノケを応用しようと何度か低級霊と接触したことのある宗哉には雰囲気で分かるのだろう。


 豆腐小僧が小乃子を指差す。


「ガキってなんすか! 女じゃなかったら豆腐食わせてるっす」

「食わなきゃいいだけだ。豆腐食わなきゃ何にもできないんだろ」


 バカにする小乃子の向かいで豆腐小僧がバッと編み笠を被った。

 傘から白い煙が出てきて小僧の体を覆う、煙が消えると着物姿の豆腐小僧が居た。


「もう怒ったっす。本当に食わせるっすよ、豆腐一族は決して弱い妖怪じゃないっすよ、オレっちたち豆腐小僧が豆腐を差し出すと食べたくなくても術に嵌まって食べてしまうっす。人間も動物も他の妖怪も気が付いたら豆腐を食べて体中にカビが生えて動けなくなるっす。体の内部から破壊していくっす」


 秀輝がサッとプリンを差し出す。


「そう怒るなよ、妖怪なんて初めて見たからびっくりしてんだよ」

「秀輝がそう言うなら許してやるっす」


 豆腐小僧がプリンを受け取って嬉しそうな顔だ。


「変身した。本当に妖怪なんだ」

「変身っていっても肌の色と服が替わっただけだけどな」


 吃驚する委員長の隣で小乃子は相変わらず意地悪顔だ。


「上手く化けてたっす。誰にも気付かれてないっすよ、正直言って化けるのは得意じゃないっすけど今の人間に紛れるには化けるしかないっすからね」

「今のって……昭和の初めくらいの姿だったけどな」


 自慢気な豆腐小僧を見て小乃子もこれ以上からかうのは止めた。

 豆腐小僧が持っているプリンを委員長が見つめる。


「プリン好きなんだ……豆腐小僧のくせに」

「ちっ違うっす。豆腐が一番っすよ、プリンはこの前食べて旨かったっすから……二番っす。一番は絶対に豆腐っすよ、何事も経験っす」


 豆腐小僧が慌ててプリンを懐に隠した。


「悪い妖怪じゃなさそうね、私は芽次間菜子よろしくね」

「あたしは久地木小乃子だ。妹捜し手伝うよ」

「僕は佐伯宗哉、この3日で見つからなくても引き続き探してあげるから安心してくれ」


 害のない妖怪だと判断したのか3人が自己紹介した。

 英二が改まって豆腐小僧を見つめる。


「みんなサンレイの友達だよ、だから豆腐小僧とも友達だ」

「そうだ。サンレイちゃんを頼ってくるなら人も妖怪も関係ない、俺たちは力を貸すぜ」


 秀輝がスポーツ刈りの頭を掻きながら照れるように言った。


「サンレイ様の……オレっち豆腐小僧っす。人間世界のことは人間に聞くのが一番す。よろしく頼むっす」


 豆腐小僧がペコッと頭を下げた。

 英二がその場の全員を見回す。


「じゃあ行こうか、宗哉頼りにしてるよ」

「任せてよ英二くん、さあみんな車に乗ってくれ」


 宗哉の大型バンに全員乗り込んだ。


「なっなんすか!! 」


 車の中にいたメイロイドのサーシャとララミを見て豆腐小僧がビクッと驚く、


「付喪神? 違うっすね、妖気を感じないっす。なんすかこれ? 」

「メイロイドって言ってロボットだよ、機械で動くんだ」


 爽やかスマイルで教える宗哉の前で豆腐小僧が驚き顔だ。


「からくり人形っすか、お茶運ぶヤツは知ってるっすけどこれほど精巧なヤツは初めてっす。遠目から見たら人間と間違えるっすよ、進歩してるっすね」

「家事や介護など人間を補助するように作られているからね」

「凄いっすね~~ 」


 驚く豆腐小僧を乗せて車が発進する。

 大型の10人乗りバンの1番後ろが委員長と小乃子で次が秀輝とサーシャ、その前に英二と豆腐小僧、1番前が宗哉とララミだ。

 運転手の隣の助手席は空いている。


 宗哉が振り返る。


「取り敢えず高野山まで行くからそこから道案内頼んだよ」

「分かったっす。御山まで行けば後は知ってる道ばかりっす」


 4時間ほど走って高野山につくとそこから豆腐小僧の道案内で麓の小さな町へと着いた。

 夕方4時に出て夜の8時過ぎだ。


「今日は宿に泊まって明日からだな」


 車から降りると秀輝が背伸びをする。


「乗り心地は最高だったけどやっぱり4時間はきついわね」

「バスや電車なら時間掛かるしもっときついよ、宗哉に感謝だよ」


 隣で委員長と英二も気持ちよさそうに伸びをしている。


「あ~腹減った。今日は何処泊まるんだ? 飯もあるよな? 」


 小乃子はケロッとしている。


「海鮮料理自慢の民宿に予約取ってるよ」


 長時間車に乗るのは慣れているのか宗哉も普段と変わりない。


「みんなよく平気っすね、オレっちもうダメっす。折角食べたプリンも全部出たっす」


 豆腐小僧は初めて乗る車に1時間ほどは元気にはしゃいでいたが直ぐに酔って途中車を止めて二度吐いてヨロヨロだ。


「大丈夫か? 」

「酔い止めの妖怪豆腐とかないのかよ」


 心配顔の英二の隣で小乃子が意地悪顔だ。


「そんな便利なものはないっす。車ができるなんてオレっちたち想定してないっす。昔の籠にも酔う人はいたっすけど気付け薬程度でどうにかなったっす」

「初めて乗ったんだから仕方ないよな、今晩はゆっくり休もうぜ」


 青い顔の豆腐小僧を見て秀輝が同情的だ。


「そうさせて貰うっす。じゃあ明日の朝また来るっす」

「帰るのか? 一緒に泊まればいいじゃん、宿まで車に乗って直ぐだよ」


 疲れた様子で回れ右する豆腐小僧に小乃子が優しく声をかけた。


「もう車はいいっす。それにオレっちも無断で出てきたっす。町へ出たのバレたら怒られるっす」

「そっか、んじゃ明日は一緒に昼飯食おうぜ」

「分かったっす。楽しみにしてるっす。小乃子って言ったっすね、優しいんすね」

「バカ、別にそんなんじゃねーよ」

「それじゃあ明日の朝ここで…… 」


 町外れで待ち合わせの約束をした豆腐小僧が照れる小乃子に手を振って歩いて去って行く、英二たちは車に乗って宗哉が予約した大きな民宿へ行き少し遅い夕食を取って明日に備えてゆっくりと休んだ。



 翌朝、待ち合わせの町外れへと行くと浮かぬ顔をした豆腐小僧が待っていた。


「どうしたんだ? 何かあったのか? 」


 英二が心配そうに訊くと豆腐小僧が言い辛そうに口を開いた。


「手遅れになるかも知れないっす」

「手遅れ? 妹に何かあったのか」


 小乃子が身を乗り出す。意地悪だが根は優しいのだ。


「昨日の帰り山に続く道をふらふらと歩いてる人がいたっす。おかしいと思って声をかけると意識が無かったっす。慌てて止めて気付け豆腐を食べさせたら意識を取り戻したっす。誰かに操られてたんす。家まで送りながら話を聞くと夕食に豆腐を食べてから覚えてないって言ったっす」

「豆腐を食べた? それって妖怪豆腐じゃ…… 」


 思わす聞いた英二に頷いてから豆腐小僧が続ける。


「秘伝書に載ってる夢豆腐っす。眠らせて操る豆腐っす。妹の仕業に間違いないっす」

「妹さんって決まってないよ、秘伝書を見た人間かも知れないし」

「操られてた人に聞いたんす。少女から買ったって言ってたっすよ、容姿を聞いたっす。妹に間違いないっす」


 険しい顔で俯く豆腐小僧を秀輝が見下ろす。


「お前の妹がそれほど悪い事するとは思えないけどな」

「誰かに唆されてんだよ、悪い奴は何処にでもいるからな」


 小乃子も同情的だ。


「誰かに唆されたとか関係ないっす。そもそも秘伝書を持ち出した妹が悪いっす。里にバレたら妹は放逐されるっす」


 今まで黙って聞いていた委員長がぽつりと口を開く、


「操って何をしようとしたのかしら? 」

「そうだな、それが問題だね」


 宗哉もマジ顔だ。


「妹さんを捕まえれば分かるよ、豆腐を買った人の周辺を探そう」

「そうだな、犯人は現場に戻ってくるって言うからな」


 英二と秀輝の言葉にその場の全員が頷いた。



 豆腐小僧の案内で操られた人の住んでいる地区へとやって来た。


「妹の写真とかないのか? 探すにしてもお前だけしか顔知らないんじゃ手分けして探せないぜ」

「写真あるっす。小さいけど…… 」


 秀輝が訊くと豆腐小僧が懐から皿を取り出した。


「おおぅ、プリクラ貼ってるよ」


 小乃子が目敏く皿の裏に貼ってあるシールに気付いた。


「プリクラって言うんすか? 町で撮ってきたって言ってオレっちの大事な豆腐皿に貼っていったっす」


 プリクラには町で知り合ったのかセーラー服を着た女子高校生と並んでワンピース姿の可愛い少女が映っていた。

 写真に写る豆腐小娘は肩までのストレートな髪に細い頬をしたおとなしそうな感じである。


「おうっ! マジ可愛いぜ」


 秀輝が嬉しそうな大声だ。


「本当だ。色白でほっそりしていて美人だね」


 頬を緩める英二の向かいで小乃子が怖い目だ。


「へぇ~~、英二はこういうのが好きなんだぁ~、真面目そうな優等生がタイプなんだぁ~~ 」

「なんだよその棘のある言い方は」

「はいはい、豆腐女と違ってあたしはトゲトゲだよ、豆腐なんかグズグズにしてやるよ」

「何で絡んでくるんだよ」


 小乃子の気持ちを知らない英二が迷惑顔だ。

 委員長が小乃子の腕を引っ張る。


「トゲトゲは引き取るから妹さんの写真スマホでコピーしなさい」

「英二のヤツ………… 」


 委員長の後ろで小乃子が膨れっ面だ。


 プリクラ写真をスマホで撮って拡大する。

 画質は悪いが顔の判別はできる。

 これでどうにか探すことができそうだ。


「二手に分かれて探そう、僕と委員長とサーシャとララミ、英二くんと秀輝と小乃子さんと豆腐小僧だ。相手は女の子だからね、委員長か小乃子さんがいた方がいいだろ、サーシャとララミじゃ人間のように話すのはまだ無理だからね」


 宗哉が爽やか顔で班分けする。

 英二と一緒のグループに入りたいところだが別になって先に探し出していいところを見せたいという気持ちもある。


 スマホに映る豆腐小娘の写真を確認しながら秀輝がこたえる。


「了解だ。何かあれば直ぐに電話しろよ」

「こっちはララミとサーシャが居るから大丈夫だ。そっちは任せたぞ秀輝」

「任せろ、豆腐小僧も居るしな」


 豆腐小娘が気に入ったのか秀輝がやる気満々だ。

 英二と秀輝と小乃子と豆腐小僧のチームが地区の西側を宗哉と委員長とサーシャとララミが東側を探すことにして別れる。



 英二たちはスーパーを中心に聞き込みを始めた。

 国道に面した大きな道路にホームセンターやドラッグストアと並んで中くらいのスーパーが建っている。

 そのゲームコーナーにプリクラの機械があった。


「これで撮ったんだな、少し前の型だ。あたしも何回か撮ったことあるから写真の枠見て直ぐに分かったよ」

「これが写真の機械っすか? ハイカラっすね? 」


 興味津々な豆腐小僧の隣で小乃子が財布を出す。


「撮ってみるか? 」

「魂吸われたりしないっすか? 」

「人間は大丈夫だけど妖怪は知らん、撮ってみれば分かるな」

「止めとくっす。妹が変になった原因かも知れないっす。それに写真見つかったら町へ行ったことがバレるっす」

「そっかぁ~~、それじゃぁ…… 」


 小乃子がプリクラの前に立つと英二の腕を引っ張る。


「確かめるから一緒に映れ」

「別に撮らなくてもいいだろ」

「もう金入れたからな、英二は女と撮ったことないだろ? あたしが奢ってやるから有難く思え」

「プリクラなんて恥ずいの撮るかよ」

「あたしとじゃ嫌なんだな……豆腐女だったら喜んで撮るんだろ」


 嫌がる英二を小乃子がじとーっとした目で睨む、


「いへへへっ、これで撮ったのか確認する為だ英二、同じポーズして一緒に映れ」


 秀輝がニヤつきながら英二の背中を押した。


「分かったよ、プリクラなんて初めてだからどうするんだ? 」

「やっぱ初めてか……教えてやるからさ」


 小乃子が嬉しそうに機械を操作する。


『じゃあ撮るよ、さん、にぃ、いち! 』プリクラマシンが陽気な声を出す。


 次の瞬間、小乃子が英二の腕に縋り付く、


「なっ何すんだよ、豆腐小娘と同じポーズで撮るんだろ」

「気にすんな、ここで撮ったのは間違いないんだからさ」

「何で分かるんだよ」

「豆腐女のプリクラ見てみろよ、後ろのスクリーンの汚れと一緒じゃん」


 小乃子が指差す先にマジックで書いた落書きがあった。

 小さくて分かり辛いが豆腐小娘のプリクラにも同じようなものが見える。

 暫くして驚き顔の英二とそれに抱き付く満面笑顔の小乃子の写真が出てきた。


「捨てたりしたら絶交だからな」


 出てきた写真を半分英二に渡すと小乃子が鞄に仕舞う、


「別に絶交しても…… 」

「サンレイとハチマルに言いつけるからな」

「捨てないから止めてくれ、そんな事したらボコられる」


 慌てて財布の中に仕舞う英二を見て小乃子が満足そうな笑みをした。


「英二いいなぁ~、小乃子は結構イケてるから恋人だって言ったら自慢できるぜ」

「なっ、何言ってんだ」


 からかう秀輝に英二が慌てる。

 それを見る小乃子は満更でもない顔だ。


「遊びはこれくらいにしてさっさと妹探そうぜ」


 上機嫌の小乃子が英二の腕を引っ張って歩き出す。


「遊びってお前がやったんだろ………… 」


 弱り顔の英二、その後ろからニヤつき顔の秀輝と困惑顔の豆腐小僧が続いた。



 スーパーやホームセンターで聞き込みをすると豆腐小娘を見たという人が何人かいた。

 その中の数名が家に豆腐を売りに来たと話すのを聞いて豆腐小僧の顔が曇る。


「やっぱり妹で間違いないっす」

「そうみたいだな、でも男も居たっていうしさ騙されてるんだよ」


 小乃子が豆腐小僧の背中に優しく手を当てた。


「ここら辺にいるのは間違いないよ、もっと聞いて回ろう」

「そうっすね」


 落ち込む豆腐小僧を連れて聞き込みを再開する。

 妹を探していると話すとたいていの人は親切にこたえてくれた。


「あのすいません」


 買い物帰りの主婦を小乃子が呼び止める。

 事情を話すと主婦がこたえてくれた。


「あなたの妹さんが? 大変ねぇ、そう言えば最近行方不明が増えてるって回覧が回ってきたのよ、お隣の山田さんも居ないみたいだし……夫婦揃って旅行なんて聞いてないし、行方不明になったのかしら」

「豆腐っす。山田さん豆腐を買わなかったっすか? 」


 身を乗り出して聞く豆腐小僧を見て主婦が首を傾げる。


「豆腐? そう言えばこの前可愛い女の子が豆腐を売りに来てたわね、確か銀杏豆腐って……珍しいから覚えてたわよ、そう言えば私は買わなかったけどお隣の山田さんは買っていたわね」

「それっす。銀杏豆腐っす。この前って何時っすか? 」

「豆腐を売りに来たのは4日前だったかしら、豆腐がどうかしたの? 」

「その豆腐が…… 」

「いえ何でもありません、ありがとうございました」


 頭を下げると英二が豆腐小僧の腕を引っ張って歩いて行く、離れていく英二たちを怪訝な顔をして主婦が見ていた。


「何すんすか!! 」

「行方不明になったのが豆腐が原因だってバレたら大騒ぎになるだろ」


 怒る豆腐小僧を英二が宥める。


「そうっす。でもどうしたらいいんすか? 」

「豆腐小娘を探すしかないな、4日前に来たんだ。まだその辺にいるよ」


 焦りを顔に浮かべる豆腐小僧に小乃子も優しい。

 その時、英二のスマホが着信を知らせて流行の曲と共にブルブルと震えた。


「宗哉からだ」


 全員が英二に注目する。


「見つかった? 」


 スマホを耳に当てながら英二が豆腐小僧に振り向く、


「今妹さんが居るって、豆腐を売ってるのを宗哉たちが後をつけてるって」

「ほんとすっか? 直ぐに行くっす」


 宗哉からメールで位置を聞いて場所は直ぐに分かった。

 スマホに映る地図を見ながら英二たちが駆けだした。


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