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第128話 「ダブルデート」

 4月の下旬、GW前の日曜だ。

 英二は約束通りにダブルデートでテーマパークへと遊びに行った。


 デートだと張り切るサンレイに急かされて少し早く来て待ち合わせ場所の駅前で待っていると美鈴がやってきた。


「おう、美鈴、今日は決まってるぞ」

「マジで可愛いぜ、何処から見ても女だ。わかってても英二が羨ましいぜ」


 アイスを食べながら褒めるサンレイの横で秀輝も嬉しそうに相好を崩す。

 一人ムスッとしている英二の顔を美鈴が覗き込む、


「ごめん、遅かったかな? 」


 可愛い顔で見つめられて英二がドギマギしてこたえる。


「いや……別に……美鈴ちゃんが謝る事無いから…… 」


 モナカアイスを食べ終わったサンレイがパンパン手を払いながら口を開く、


「時間通りだぞ、アイス食べる時間入れておらは少し早く来ただけだぞ」

「俺たちもさっき来たばかりだ。サンレイちゃんがアイス食う時間が出来て丁度よかったぜ、電車の中で食ったら迷惑だからな」


 楽しそうなサンレイと秀輝を英二が睨み付ける。


「20分も前に来ただろが、アイス食うのに俺を巻き込むな」

「何言ってんだ。アイス一つで我慢してやったぞ、デートだぞ、ほんとなら待ってる間にアイス10個は食ってるぞ」


 言い返すサンレイに英二がムッとして続ける。


「デートの待ち合わせで彼女が行き成りアイスを10個も食べるの見たら俺はそのまま帰るからな」


 秀輝が英二の肩をポンポン叩く、


「そう怒るなよ、アイス食べて楽しい気分でデートした方がいいだろ、サンレイちゃんが幸せだと俺も幸せだぜ」


 英二が秀輝の手を払い除ける。


「まったく、普段は遅刻ギリギリに学校来る癖にこんな時だけ早いんだからな…… 」


 不満顔の英二の手を美鈴が握り締める。


「よかった。私が遅れたから英二先輩機嫌が悪いのかと思ったよ」


 英二の頬が一瞬で赤く染まっていく、男とわかっていても美鈴は可愛いのだ。


「そんなんじゃないから……美鈴ちゃんは時間通り来たから…………私服姿も可愛いね」


 ドギマギしながら英二が話題を逸らそうと美鈴を褒めた。


「ほんと? 嬉しい! どの服にしようか迷ったんだ。英二先輩に可愛いって言われて凄く嬉しいよ」


 パッと顔を明るくしてニコニコ笑う姿は何処から見ても女にしか見えない。


「うん、美鈴ちゃんは美人だから何でも似合うと思うけど今日の服は似合ってて凄く可愛いよ、俺なんかお洒落じゃないからさ…… 」


 基本オタクの英二は流行の服装などは余り知らない、今日はオタっぽくならないように選んだつもりだがリア充から見れば直ぐにオタだとわかるような服装だ。

 美鈴がじっと英二を見つめる。


「服なんてどうでもいいです。私は英二先輩の中身に惚れたんです。優しくて強くて、そこらのチャラい奴らとは違います」

「ありがとう美鈴ちゃん」


 照れるように微笑む英二に美鈴が抱き付く、


「あぁ~ん、英二先輩可愛いぃ~~ 」

「ちょっ、美鈴ちゃん、みんなが見てるからさ」


 英二が慌てて引き離す。駅前だ。英二たちの他にも沢山の人が行き交っている。大勢の中でも可愛いサンレイと美人の美鈴は目立つのだ。


 引き離そうとして背中に回した手がスッと服の中へと入っていく、


「うわっ! 」


 驚く英二を見て美鈴が悪戯っぽくニィーッと笑う、


「英二先輩のエッチィ~~ 」

「ちっ、違うから……それより背中……服破けてるよ」


 慌てて手を引っ込めた英二に美鈴が迫る。


「違いませんよ、だって私の背中に手を入れたじゃないですか」

「ちっ、違うから、態とじゃないから…… 」


 美鈴はシャツに短いスカートといった軽装だ。

 そのシャツに結構大きな切れ目が入っていた。背中に手を回したときに切れ目に入って美鈴の肌に直に触れたのだ。

 焦る英二の正面で美鈴がくるっと回って背を見せる。


「破けてるんじゃなくてスリットが入ってるんですよ」

「スリット? 何だ吃驚した。俺が破いたのかと思った」


 ほっと安心する英二の前で美鈴がニヤッと悪い顔をして続ける。


「何のためのスリットかわかりますか? 」

「何って風通しをよくして涼しくするためじゃないのか? 」

「違いますよ」


 大きな声でこたえた後で美鈴が英二の耳元に口を近付ける。


「英二先輩が直に私の肌を触れるように付いているスリットですよ、背中に腕を回すようにして何時でも触っていいですよ、腕を回せば胸も触れますよ、先輩なら何をされても平気ですから好きなときに触ってくださいね」


 言い終わると美鈴がチュッと英二の耳にキスをした。


「そそそっ、そんなために……って言うか触らないから」


 焦りまくる英二から満足げな顔をした美鈴が離れる。


「美鈴ちゃん、冗談きついよ…… 」


 顔どころか全身真っ赤にしている英二をサンレイと秀輝がじとーっと見ていた。


「英二が遠くに行っちゃうぞ、大人じゃなくてオカマの階段登っていくぞ」

「美鈴ちゃん可愛いからな、男でも構わんって英二が思うのも仕方無いぜ」


 バッと英二が振り返る。


「違うからな、何処にも行かないから、勝手に俺をあっちの世界に行かせないでくれ」


 後ろから美鈴が抱き付く、


「私は英二先輩となら何処へでも行きますよ、あっちの世界でも向こうの世界でも男だけのパラダイスでも、何処でも行きます。英二先輩でイキきます」

「美鈴ちゃんが言ってるのは全部ヤバい世界でしょ? 俺はそっちの気は無いからね」


 背中から美鈴を引き離すと英二が続ける。


「早く駅に入ろう、そろそろ電車も来るよ」


 誤魔化すように言う英二をサンレイが見上げる。


「デートは初めてだぞ、おらワクワクするぞ」

「サンレイちゃん、俺でいいのか? 英二じゃなくて俺でいいのか? 初めてのデートだろ? 俺も初めてだけど」


 自身を指す秀輝をサンレイがニッと可愛い笑顔で見上げる。


「いいぞ、秀輝がいいんだぞ、英二とはいつも一緒だからな毎日デートしてるようなもんだぞ、秀輝とデートする方が新鮮でいいぞ」

「サンレイちゃん……今日はいっぱい遊ぼうぜ」


 感極まったようにぐっと涙を耐える秀輝の腕にサンレイが手を回す。


「今日はたっぷり甘えるぞ、アイスもいっぱい食うぞ」

「おぅ、任せてくれ、宗哉みたいに食い放題は出来ないがアイスの十や二十は奢れるぜ」


 サンレイと腕組みをして秀輝は顔が緩みっぱなしだ。


「サンレイはいつも甘えてるだろ」


 アイス目的だ……、何とも言えない顔でサンレイを見つめる。英二は怒るに怒れない、デートをぶち壊すような事になると大変だ。


「じゃあ、私は英二先輩と」


 美鈴が英二の腕に手を絡める。


「おわっ! 」


 美鈴の結構大きなおっぱいが当たって英二が変な声を上げた。


「みっ、美鈴ちゃん…… 」

「ダメよ、デートだからね」


 腕を抜こうとする英二に美鈴がしがみつく、柔からなおっぱいが英二の腕を挟んだ。


「あっ……うん………… 」


 気持ち良くて英二が黙り込む、本当は男とわかっているが妖怪の美鈴は作りものではなく本物のおっぱいがあるのだ。


「じゃあ、初デート、しっぱつ進行だぞ」


 元気に言うと秀輝を引っ張るようにサンレイが駅に入っていく、1時間ほど電車に乗れば映画やアニメを題材にしたアトラクションがあるテーマパークに着く。


「サンレイちゃんに負けてられないわ、英二せんぱぁ~い、初デート行きますよ」


 甘え声を出してしがみつくと美鈴が英二と歩き出す。


「初デート…… 」


 初めてのデートが男かよ、でも美鈴ちゃんマジで可愛いし、本物の女の子だったら文句ないのに……、英二だけが複雑な表情だ。



 電車の中でもはしゃぎっぱなしのサンレイを叱りつけたり宥めたりしながらテーマパーク近くの駅に着いた。

 秀輝と並んで先を歩くサンレイの元気な声が聞こえてくる。


「先ずはジェットコースター乗るぞ、そんでゾンビのヤツ行ってキャァ~って秀輝に抱き付くぞ、それからジェットコースター乗るぞ、そんで高い所から落ちるヤツやって、それからジェットコースター乗るぞ」


 美鈴と一緒に後ろを歩く英二が思わず突っ込む、


「何回ジェットコースター乗る気だ? それにゾンビとか怖くないだろ」


 秀輝がバッと振り返る。


「バカ! 余計な事言うな、せっかくサンレイちゃんが抱き付いてくれるって言ってんだ。黙って従ってればいいんだぜ」

「お前マジでヤバいぞ、ロリは病気だからな」

「病気でも構わん! 俺はロリじゃなくてサンレイちゃんが好きなだけだ」


 胸を張って言い切る秀輝を見て英二は呆れ顔で黙り込む、


「それにテーマパークのゾンビものは結構面白いぜ、どうやって脅かすか計算され尽くした感じだからな」


 英二の隣で美鈴が同意するように頷く、


「お化け屋敷って怖いとか関係無しに雰囲気の問題よね」

「そだぞ、お化け屋敷は恥ずかしがり屋の女の子が好きな男に堂々と抱き付ける素敵なアトラクションだぞ、作ってる方もそれがわかってる所のは面白いぞ」

「そうよね、中にはガチで怖がらせる所もあるけど、デートスポットとしては今一よね」


 何処かで聞きかじった蘊蓄を垂れるサンレイに美鈴が同意する。

 何故か二人は気が合うらしい。


「わかった。お化け屋敷は俺が間違ってた。でもジェットコースターは乗り過ぎだ」


 味方不在で英二が言い直す。

 実はジェットコースターが苦手だ。一度なら我慢して乗れるが二度も三度も御免である。


 サンレイがニカッと笑顔で口を開く、


「串カツを食べるときは合間合間にキャベツを食べると胸焼けしないんだぞ、それと同じだぞ、テーマパークに行ったときは合間合間にジェットコースターを入れると楽しさが倍になるぞ」


 英二が顔の前でブンブンと手を振る。


「いやいやいや、串カツと一緒にするな、ジェットコースターなんて何度も乗ったら気持悪くなるからな、一回にしとけ、遊ぶ所は他にも沢山あるんだからな」


 美鈴が艶のある目で英二を見つめる。


「そうねぇ……私もジェットコースターは2回くらいでいいかな、それよりも観覧車に乗りましょう、英二先輩と二人っきりで」

「ふっ、二人っきりって…… 」


 英二が声を震わせる。期待ではない、その逆だ。

 観覧車の中では逃げ場が無い、カップルがイチャイチャする場所である事くらいオタの英二も知っている。


 サンレイがパッと顔を上げる。


「おおぅ、観覧車は乗るぞ、高い所から見下ろすと偉くなった気分になるぞ」

「サンレイちゃんは神様だからマジで偉いぜ、俺は神様の御付きってとこだぜ」


 デート出来たのが余程嬉しいらしく秀輝はサンレイの言うがままだ。

 2人を見て英二が溜息をつく、


「まったく、御付きなんて上品な言い方じゃなくて我儘姫の従者って感じだ」


 サンレイと秀輝のバカな会話で美鈴と二人っきりで観覧車に乗る約束など英二の頭の中からすっかりと消えていた。



 一日フリーパスを買ってテーマパークへと入っていく、秀輝がサンレイに奢って、英二は美鈴の分を払った。

 デート云々は置いておいても美鈴に奢るのは苦にならない、あっちの世界へ行くのは御免だが友達としてなら美鈴は悪くないどころか味方として頼もしい、もし本物の女性だったら英二の心は奪われていたかも知れないくらいに魅力があった。


 遠くに見えるジェットコースターの線路を見てサンレイが楽しげに口を開く、


「先ずはジェットコースターだぞ、人気あるから早く並ぶぞ」

「了解だ。開園してまだ時間経ってないから今のうちに並ぼうぜ」


 腕を引っ張られて秀輝が歩き出す。

 園内のマップが描かれたパンフレットを広げながら英二が2人を止める。


「一寸待て、そっちの道じゃなくてこっちだ」


 二股に分かれた道の反対側を英二が指差した。

 英二が持つマップを美鈴が覗き見る。


「そうね、そっちの道だと遠回りになるわよ」

「おお、助かったぞ、見えてるからあっちだと思ったぞ」


 ジェットコースターの方向へ歩き出すサンレイと秀輝の背に英二が呆れ声を掛ける。


「マップくらい見ろよな」


 サンレイがくるっと振り返る。


「敷かれたレールを通るような人生つまんないぞ」

「サンレイちゃん良い事言うぜ、人生一本道より探検だぜ」


 秀輝も格好をつけるとサンレイと一緒に歩いて行く、


「レールじゃなくてマップだからな、道に迷いっぱなしの人生は御免だからな」


 呆れ顔で続く英二の横で美鈴がクスッと笑う、


「あははっ、秀輝先輩って子供みたいだね」

「サンレイと同じレベルだ」


 呆れる英二の腕を美鈴が引っ張る。


「実は私、ジェットコースター苦手なんだよ」

「へぇ意外だね、美鈴ちゃんは空飛べるよね、結構速く飛べるから平気だと思ってた」


 英二と美鈴が自然と腕組みして歩き出す。


「自分で飛ぶのとは訳が違うわよ、自分で制御できるならどれだけ高くても速くても怖くはないわ、でも他人任せのジェットコースターは怖いわよ」

「確かに自転車とかバイクも自分で運転するのと他人の後ろに乗るのとじゃ後ろに乗る方が怖いな」


 可愛い目をくりっとさせて美鈴が微笑む、


「でしょ? 信頼してる友人の後ろなら怖くないけど知らない人の後ろに乗るなんてかなり怖いよ、それと同じよ、いくら安全だと言われてもジェットコースターは怖いわよ」


 同意する意思を見せるように英二が大きく頷く、


「うん、そうだね、実は俺もジェットコースター苦手なんだ。サンレイが何度も乗りたいって言ったときはゾッとしたよ」

「あはははっ、だから必死で止めてたんだ。英二先輩って可愛いぃ~~ 」


 腕組みする英二がよろけるくらいに体を揺らせて美鈴が大笑いだ。

 英二が慌てて口元に人差し指を当てて秘密だとジェスチャーする。


「サンレイには内緒だからな、苦手って知ったら何度も乗るに決まってるからな」

「あははははっ、サンレイちゃん悪戯大好きだもんね」


 大笑いする美鈴と並んで英二も声を出して笑った。



 開園一番に並んだので15分ほど待つだけでジェットコースターに乗る事が出来た。


「もう一回乗るぞ、今なら待たなくても済むぞ」


 サンレイが秀輝の腕を引っ張って催促だ。


「だな、今なら20分くらい並ぶだけで済むぜ、ジェットコースターは人気あるから乗れるときに乗っておこうぜ」


 運動神経の良い秀輝も平然としている。

 きゃあきゃあ楽しそうに乗っていた2人と違い英二はぐったりだ。


「マジかよ、まあ1時間とか並ぶよりマシか…… 」


 疲れ顔の英二が美鈴の顔色を窺う、


「大丈夫よ、思ったほど怖くなかったわ、英二先輩と一緒だからかな」


 ニコッと可愛い笑みを見せる美鈴の前で英二の頬が赤く染まっていく、


「じゃあ乗るか! でももう一回だけだぞ、連続3回はダメだからな」


 ヘタレてる所を美鈴に見せたくないのか英二が気持ちを奮い立たす。


「わかってんぞ、次はゾンビのヤツ行くぞ」

「だな、ジェットコースターは他を見て回って空いてたらもう一回くらい乗ろうぜ」


 サンレイと秀輝がジェットコースターの列に並ぶために小走りで駆けていく、


「ほんとに元気だな、彼奴ら」


 愚痴る英二の手を美鈴が握り締める。


「ダブルデートで正解ね、英二先輩だけだったらぎくしゃくしてたかも知れないから」

「美鈴ちゃん…… 」


 何とも言えない複雑な表情の英二を引っ張って美鈴が走り出す。


「早く行こ! サンレイちゃんたちの後ろの席取れなくなるよ」


 確かに美鈴は可愛い、ハッキリ言ってそこらの女よりも美人だ。結構大きなおっぱいも付いている。だが男だ。可愛いと思うが恋愛感情はどうしても湧かない、男という事実が英二の気持ちにブレーキを掛ける。

 自分の事を愛していると言ってくれた美鈴に申し訳ないような気がして英二の心は晴れない。


「英二先輩、大丈夫? 」

「うん、大丈夫だよ、もう一回は我慢して乗るよ」


 心配そうに見つめる美鈴に英二が苦笑いでこたえた。

 ジェットコースターでよかった。浮かない顔をしていても気分が悪いのだと勘違いしてくれる。英二は心の中でほっと安堵した。



 ジェットコースターを続けて2回乗った後でゾンビが出てくるお化け屋敷のような室内アトラクションへと向かった。

 小さな子供たちには今一人気が無いのか並んでいるのはカップルや高校生から大学生くらいのグループだけだ。其れ故待たずに入る事が出来た。


「おおぅ、特殊メイクだぞ、本物混じっててもわからないぞ」

「へぇバカに出来ないな結構本格的だ」


 ゾンビを見て喜ぶサンレイの後ろで英二も感心の声を上げる。

 正直子供騙しだと思っていたがアトラクションでなく町中で出会うと逃げ出すくらいにリアルで不気味だ。


「うおぅっ! 」


 秀輝が驚く、サンレイの横を歩いていたら突然ゾンビが現われた。


「ちょっとビビった。これじゃあ子供は怖がって入らないわけだぜ」


 ゾンビに向かって秀輝が手を振った。不気味な姿をした妖怪やヘンタイ妖怪など本物の妖怪と何度も戦っているのだ。リアルとはいえ作り物のゾンビなど後ろから驚かされても一瞬ビビるだけで直ぐに冷静になる。

 驚かそうとゾンビがしゃがむと特殊メイクに興味があるのかサンレイがペタペタとゾンビの顔を触り出す。


「まぁな、怖いと言うよりキモいからな、そんで弱いから数匹じゃビビらないぞ」

「だな、数で迫る化け物だよな」

「そだぞ、ゾンビは化け物の量産型だぞ、戦いは数だよ兄貴って感じだぞ」


 ゾンビがスッと立ち上がると秀輝とサンレイにペコッと頭を下げて逃げるように暗闇に消えた。

 その様子を見ていた英二が呆れ顔で口を開く、


「怖がるんじゃなかったのか? 」


 ハッと思い出すような顔をしてサンレイが立ち止まる。


「 …………きゃぁ~~、ゾンビ怖ぁ~~いぃ~~ 」


 白々しく大声で悲鳴を上げると秀輝に抱き付いた。


「おおぅ! サンレイちゃん」


 嬉しそうにサンレイの背に腕を回すと秀輝が続ける。


「俺が付いてるから安心だぜ、ゾンビの十や二十なんともないぜ」

「秀輝ぃ~、かっこいいぃ~~ 」


 抱き付くサンレイを見て秀輝は満足気だ。

 小芝居をする2人を見て英二が頭を抱える。


「お前らなぁ…… 」


 愚痴の一つでも言おうとした英二に美鈴が抱き付く、


「じゃあ私も~、英二先輩こわぁ~~い 」


 英二がおっぱい星人なのを知っているので美鈴は抱き付く度に胸を押し当ててくる。


「おわっ! 」


 柔らかなおっぱいの感触に英二が思わず声に出す。


「みっ、美鈴ちゃん…… 」

「ダメですよ、怖いんだから抱いていてください」


 引き離そうとした英二に美鈴が強く抱き付いた。


「怖いって…… 」


 美鈴を引き離すのを英二が諦めた。単純におっぱいが気持ち良かったからである。

 秀輝に抱き付きながらサンレイが振り返る。


「そんじゃぁ、おらも」


 ニヤッと悪い顔をしてサンレイが大声を出す。


「英二先輩はこわぁぁ~~い、いつも叱ってばっかで怖ぁぁ~~い、おっぱい星人の爆発魔で怖いぃ~~ 」


 美鈴が抱き付く反対側の手で英二が髪をクシャクシャ掻きながら怒る。


「英二先輩は怖いってなんだ? 俺をゾンビと同じにするな、先輩じゃないだろ同じ2年だろ、叱るのもサンレイがバカばかりするからだろ」

「きゃ~~、ゾンビより怖い英二が怒ったぞ~~ 」

「おぅ、サンレイちゃん逃げるぞ」


 サンレイと秀輝がキャーキャー言いながら逃げ出した。


「まったく…… 」


 ムスッと呟く英二に抱き付いていた美鈴がくるっと正面に回って行き成り唇を重ねた。


「 ???? 」


 突然の事に英二が身を固くする。


「なっ、何を…… 」


 慌てて美鈴を引き離す。


「落ち着いた? デートなんだから怒っちゃダメですよ」

「えっ? あっ……ごめん」


 美鈴の可愛い笑みを間近で見て英二が真っ赤な顔で謝った。

 辺りが薄暗い所為か、サンレイたちは先に進んで知っている人が近くに居ない所為か、突然キスされた事を怒る気持ちなど湧いてこない。

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