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第126話

 深夜1時過ぎ、サンレイとハチマルの部屋にガルルンが入っていく、普段ならまだ起きている事も多い英二だが濡れ男騒動で疲れたのかこの日はぐっすりと寝入っていた。


「何の話しがお? 態々メールで呼ぶながお」


 怪訝な表情のガルルンを笑顔のハチマルが手招く、


「ちと内緒話じゃ、英二に気付かれたくないからの」

「内緒話がお? なまざらしの事がお」

「そういう事だぞ」


 二段ベッドの上からサンレイが音も立てずに跳んできた。

 ハチマルの向かい、テーブルの脇に置いてある座布団の上にガルルンがポンッと座る。


「なまざらしが犯人ならさっさとやっつけるといいがお、ハチマルなら簡単がお」

「そうしたいのじゃが簡単にはいかん」


 ハチマルがペットボトルのジュースをコップに注いでガルルンに渡す。


「HQがお、HQがいるから困ってるがお」

「そういう事だぞ」


 サンレイが2人の横に座るとペットボトルのジュースを自分でコップに注いだ。

 ジュースの入ったコップをじっと見つめてガルルンが口を開く、


「英二の兄ちゃんがお、ガルの部屋は英二の兄ちゃんが使ってた部屋がう、それと同じ匂いがHQからしたがお、霊気も似てるがう、間違いないがお」

「お主の鼻がそう言うなら間違いなかろう」


 自分のジュースを注ぐとハチマルがチョコクッキーをテーブルの上に置いた。

 さっそくサンレイがチョコクッキーに手を伸ばす。


「霊気の質も似てるからな、あのクソ坊主」


 炭酸ジュースの泡をじっと見ていたガルルンが顔を上げる。


「でもなんで英二を襲うがお? 兄ちゃんがお、話しを聞いた事があるがう、バカ兄貴って言ってたけど兄ちゃんの事を話す時の英二は楽しそうだったがお、仲良しがお、それが何で……英二が死ぬかも知れないのに、なんで襲うがお」


 悲しそうなガルルンをハチマルが見つめる。


「それじゃ、それがわからん、じゃから単純になまざらしを倒せば済むという話しでもないのじゃ」


 チョコクッキーをポリポリ食べながらサンレイが話し出す。


「なまちゃんが英二の霊力を狙うってのも変だぞ、バカで弱っちいけど妖力だけは有り余るほど持ってるぞ、水晶玉に妖力詰めて雑魚妖怪に渡すくらいに有り余ってるぞ、英二の霊力など狙う必要無いぞ」


 ジュースを一口飲むとハチマルが頷いた。


「サンレイの言う通りじゃ、彼奴は術は下手じゃが妖力の大きさや質はトップクラスじゃ、じゃから大妖怪としてそれなりに名も通っておる。其れ故、敵になると厄介じゃぞ」


 口の中のクッキーをジュースで流し込むとサンレイが続ける。


「エロくてヘンタイだけどな、でも強いのは確かだぞ」


 ジュースをゴクゴク飲んでいたガルルンがコップから口を離した。


「知ってるがお、ガルも何度か戦った事があるがう、ガルの本気でボコボコにしても死なないがお、タフさではそこらの大妖怪よりも遙かに上がお」

「うむ、有り余る妖力を使って再生しおるからの、タフさでは儂も敵わん程じゃ」


 サンレイがチョコクッキーに手を伸ばす。


「でもバカだから簡単に騙せるぞ、おら負けた事ないぞ、でもなまちゃんタフで死なないからな、んで結局引き分けになったりするぞ」


 ポリポリと食べるサンレイを見てガルルンもチョコクッキーを食べ始める。


「そうがお、エロいからおっぱい見せたら攻撃も止まるがう、そこを突けば余裕で勝てるがお、ガルは其れで何度も火達磨にしてやったがお、でも暫くしたら復活するがお」


 ハチマルがテッシュを一枚取る。


「確かになまざらしだけなら簡単じゃ、じゃがHQがおる。彼奴は狡猾じゃぞ」


 言いながらチョコで汚れたサンレイの口周りを拭いてやる。

 ガルルンがチョコクッキーに描いてある動物の絵をじっと見つめる。


「ガルは英二の兄ちゃんとは戦いたくないがお、妖怪じゃ無いがう人間がお、死んだら復活なんて出来ないがお、英二の悲しむ顔は見たくないがお」


 サンレイの口から手を離すとハチマルが優しい顔でガルルンを見つめる。


「おらも英二が泣くのは厭だぞ、でも英二が死ぬのはもっと厭だぞ、だから相手が兄ちゃんでもおらは戦うぞ」


 サンレイがゴクゴクとジュースを飲み干した。


「そう急くな、何か事情があるやも知れん、何故英二を襲うのか訳を聞いてからでも遅くはあるまい」


 ガルルンがパッと顔を上げる。


「そうがお、何か訳があるがう、英二優しいがお、その英二の兄ちゃんが悪いはずが無いがお、きっと理由があるがお」


 サンレイがムッとした顔をガルルンに向ける。


「話してダメなら戦うぞ、だってだって、おらは英二の守り神だからな」


 ハチマルが頷く、


「うむ、儂もじゃ」

「ガルは……ガルも戦うがお、英二のためならガルは何とだって戦ってやるがお」


 ガルルンが悲しそうに言った。

 ハチマルがガルルンの頭を撫でる。


「そうじゃな、そういう訳じゃから儂は今からなまざらしを探しに行って来る。2~3日学校を休むからの、その間、英二の事は頼んだぞ」

「任せるがお、ガルはできる女がお」


 笑顔で頷くガルルンの横でサンレイがニッと笑う、


「いざとなったらおらが電光石火で英二連れてバチッと逃げるぞ」

「うむ、任せたぞ」


 窓を開けるとハチマルが風と共に消えていった。



 翌日、サンレイとガルルンが妖怪なまざらしの事を秀輝や委員長たちに話す。

 サンレイとガルルンを英二たちが囲む、


「なまちゃんはエロくてバカだけど妖力だけは凄いぞ」

「なまざらしはパワー系の妖怪がお、妖力だけならガルも敵わないがお」


 2人が説明を終える。


 妖怪なまざらしは水棲妖怪だ。

 青黒い肌、大きな丸い目に小さな鼻と横に大きな口、小太りで短い手足が付いている。

 喩えるならナマズとアザラシが混じったような姿だ。


 ナマズとアザラシから『なまざらし』とついたわけでは無い、生皮晒しが訛って『なまざらし』と呼ぶようになったらしい、昔は人や獣を襲って生皮を剥いで日干しにして食べていた。

 日干すことを晒すと言う、生皮を晒す妖怪で生皮晒し、それが訛って『なまざらし』となったのだ。

 見掛け通り間抜けでバカでおまけにエロい、だが妖力だけは物凄く、ガルルンは元よりサンレイの霊力よりも大きいらしい、その有り余る妖力を使って力押しでの戦いが得意のパワータイプの大妖怪である。

 ハチマル曰く、あれで術に長けていたらそこらの大妖怪が束になっても敵わないトップクラスの妖怪になっていたとの事だ。


 サンレイやハチマルとは古くからの知り合いだ。

 お馬鹿な話題が合うのかサンレイとは仲が良く友達として互いを認めている。

 エロい事をするから嫌いと言いながらガルルンも本心から嫌っている様子ではない。

 妖怪なまざらしはサンレイたちが実力を認めた妖怪だという事である。


「妖怪なまざらしか……妖怪図鑑には載っていなかったわね」

「図鑑に載ってないマイナー妖怪なんだろ」


 記憶を探る委員長の向かいで秀輝が戯けるように言った。

 宗哉がマジ顔で口を開く、


見縊みくびらない方がいい、サンレイちゃんやガルちゃんと何度も戦っている妖怪だよ、今までの妖怪とは違うってことだよ」


 サンレイが何とも言えない表情で話し出す。


「戦いって言っても喧嘩みたいなもんだぞ、なまちゃんとは友達だからな」


 隣でガルルンが厭そうな顔で続ける。


「エロい事しようとしたからガルは何度か殺してやろうとして本気で戦ったがお、でも死ななかったがう、丸焼きにしてやったけど再生したがお」

「マジかよ、そんなに強いのか」


 驚く秀輝の横で英二が顔を顰める。


「本気のガルちゃんでも倒せないってことか…… 」


 登校時に貰ったお菓子を食べながらサンレイが英二の腕を引っ張る。


「倒すのは簡単だぞ、でも再生するから殺すのは大変なんだぞ、なまちゃんはトドみたいなデブの癖に逃げ足速いんだぞ」

「ガルが丸焼きにしたときは皮だけ残していつの間にか消えてたがお、何処かに逃げて再生したがお」


 思い出すように話すガルルンの隣でサンレイがチョコを食べながら続ける。


「なまちゃんは生皮晒しって妖怪だぞ、昔は動物や人間襲って皮を剥いで日干しにして食ってたぞ、そんで他の皮だけじゃなくて自分の皮もするっと剥げるんだぞ、おらも何度も騙されて逃げられたぞ」

「皮を剥いで食べてたのか……怖いよね」


 厭そうな顔で呟く晴美にサンレイが振り向く、


「今は食ってないから大丈夫だぞ、皮なんかよりも人間が作る料理の方が旨いからな」


 晴美の横で宗哉がサンレイを見つめる。


「サンレイちゃんの友達なら話し合いでどうにかならないのかな? 」

「それな、俺も昨日訊いたよ」


 英二の顔付きからどうにもなりそうにない雰囲気が伝わってくる。


「話し合うも何もなまちゃんを見つけないとダメだぞ、そんでハチマルが探しに行ってるぞ、だから2~3日学校休むぞ」


 チョコで汚れたサンレイの口周りを拭きながら英二が口を開く、


「ああ、言うの忘れてた。今日だけじゃなくて明日もハチマル休むからさ」

「2日もハチマルちゃんの顔見れないのかよ」


 秀輝の声が聞こえたのか浅井がやってくる。


「マジか? ハチマルさん休みなのか? 風邪でも引いたのか? 」


 一緒に登校してきた中川が浅井の後ろで嘆く、


「ハチマルさん休みってマジか? それじゃあ手作り弁当食えないって事かよ、それだけが楽しみで学校に来てるってのによ」

「そうだ! お見舞いにアイス持って行こうか? 」


 浅井がパッと顔を上げて英二を見つめた。


「おお、アイスか、おらの分も持ってくるならお見舞い来てもいいぞ」


 嬉しそうに言うサンレイの後ろから英二が頬を摘まんで引っ張った。


「見舞いって何だ? ハチマルは病気じゃないからな、サンレイは事ある毎にアイス食おうとするよね」

「にゅひゅひゅひゅひゅ、止めろよ、ほっぺ伸びるぞ、浅井がアイスくれるって言ったぞ」


 嬉しそうに体を捻るサンレイの後ろで英二が浅井を見つめる。


「ハチマルは用事で出掛けてるんだ。病気じゃないから見舞いはいい、2日ほど休むだけだ。心配してくれてありがとう、浅井と中川が心配してたってハチマルには言っとくよ」


 英二の手を払うとサンレイが続ける。


「そだぞ、ハチマル休むからおらとガルルンが暴れたら止められないぞ」

「なんで暴れる前提なんだ。おとなしくしてないとハチマルに報告するからな」


 ジロッと睨む英二をサンレイが見上げる。


「んじゃ、アイスだぞ、昼休みにアイス食わせてくれたらおとなしくしてるぞ」


 ニッと可愛い笑顔で言うが英二は表情を緩めない、横で見ていた秀輝が口を挟む、


「よしっ、俺がアイス奢るぜ」

「やったぁ~、アイス得したぞ」

「また甘やかす…… 」


 両手を上げて喜ぶサンレイの後ろで英二が弱り顔で呟いた。


「ハチマルさん病気じゃ無くてよかったけど2日も会えないのか」


 惜しそうに言う浅井の向かいでガルルンが口を開く、


「ハチマル居ないから今日はガルが早起きしてお弁当手伝ったがお、玉子焼きとウインナー切ってカニさんウインナー作ったがお」


 浅井の横にいた中川が英二の手を握り締めた。


「マジ? 今日はガルちゃんの手料理が食べられるんだな、昼休みが楽しみだぜ」

「お前らなぁ~ 」


 乱暴に中川の手を振り払った英二の肩を浅井がポンポン叩く、


「怒るなよ、おかずトレードだろ、毎日手料理食えるお前と違って俺たちは昼休みだけが楽しみなんだからな、それにしてもハチマルさん病気じゃ無くてよかったよ」

「ああ……でも、怒られるかもしれないけどお見舞いに行きたかったぜ」


 安心する浅井と違い中川は残念そうだ。見舞いを口実にハチマルの部屋にでも入りたかったのだろう。

 英二が苦笑いしながら口を開く、


「今度遊びに来いよ、浅井と中川なら家に来てもいいよ」

「マジか! 行く行く、絶対行くぜ」


 同時にこたえる2人を見て英二が呆れ顔で続ける。


「じゃあGW明けにでも遊びに来いよ、サンレイとガルちゃんのゲームの相手でもしてやってくれ」

「おう、マジで行くからな」


 嬉しそうな浅井の手をサンレイが引っ張る。


「アイス忘れるなよ、アイス持ってきたらおらとハチマルの部屋も見せてやるぞ」


 それを聞いて中川が身を乗り出す。


「ハチマルさんの部屋……持っていく、アイスいっぱい持っていくから」


 ハイテンションな中川の隣で浅井がガルルンに向き直る。


「ガルちゃんにはチーカマとサラミかチキン買っていくからね」

「わふふ~~ん、楽しみがお、一緒にゲームするがう、英二と秀輝も入れて勝ち抜きトーナメントするがお」


 大喜びするガルルンを尻目に宗哉が英二に耳打ちする、


「続きは昼休みにでも話そう」

「わかった。邪魔が入ったからな」


 浅井と中川をちらっと見ると英二が頷いた。



 昼休み、食事を終えて妖怪なまざらしの事を話しているところへ美鈴がやってきた。


「英二せんぱぁ~い」

「抱き付くのは勘弁してくれ」


 秀輝の後ろに隠れる英二をガルルンがひょいっと掴んで美鈴の前に連れてくる。


「マンゴーの匂いがするがお」

「流石ガルルン先輩です。今日はマンゴーババロアを作ってきましたよ」


 美鈴が英二と交換するようにババロアの入った袋をガルルンに差し出した。


「ババロアってプリンみたいなヤツだな、おら好きだぞ」


 ガルルンと一緒に袋を覗き込むサンレイの前で英二に抱き付きながら美鈴が頷く、


「プリンと違ってゼラチンで固めますけど口当たりなどは似たようなものですね」


 袋の中のババロアをガルルンが指を折って数えていく、


「11個あるがお、浅井と中川入れて一人一個ずつがお」


 サンレイが数えるように英二たちを見回す。


「んじゃハチマルの分はおらが食うぞ」

「そうがお、ハチマル休みがお、ハチマルの分余るがう、サンレイがズルするがお」


 ガルルンが腕を引っ張って頼むと美鈴のおっぱいの間から英二が情けない顔を見せる。


「ズルとか以前に俺を助けてくれ」

「何言ってんだ。英二はババロアと交換だぞ、休みの間は美鈴のものだぞ」


 サンレイが悪い顔で言うと美鈴がパッと顔を明るくする。


「サンレイちゃんの許可が出たわ、昼休み終わるまで英二先輩は私のものよ」


 嬉しそうに頬を擦り付ける美鈴の胸元で英二が泣きそうな顔でサンレイたちを睨む、


「ババロアで俺は売られたのかよ」


 秀輝がババロアを受け取りながらニヤッと笑う、


「美鈴ちゃんの手作りお菓子は旨いからな、昼休みの間だけ我慢してくれ」


 秀輝の隣で小乃子が意地悪顔で口を開く、


「英二の犠牲は忘れないよ、安らかに眠ってくれ」

「勝手に殺すな! お前ら覚えてろよ」


 怒鳴る英二をおっぱいで挟むように美鈴が抱き締める。


「ああん、忘れないわよ、しっかり覚えておくわね、英二先輩が私のものになった記念の日だからね」

「ちっ、違う……そっちは忘れてくれ」


 もがく英二の小さな声は美鈴とサンレイとガルルンにしか聞こえない。


「ガルルン、浅井と中川に渡してこい、ハチマルのは半分こするぞ」

「わかったがお、いいんちゅに半分こして貰うがお」

「いいんちゅじゃなくて委員長だからね」


 諦め口調で注意する委員長に構わずガルルンは浅井と中川にババロアを渡しに行った。

 ババロアを受け取ると宗哉が口を開く、


「じゃあ食べながら話しをしようか」

「何の話し? 」


 興味を持った美鈴を見て宗哉の目がキラッと光る。


「妖怪なまざらしの事さ、美鈴さんも知ってるだろ、あの方の話さ」


 美鈴の顔が一瞬で変わる。宗哉が鎌を掛けたのだ。


「 ……そう、なまさんの事を知っているのね」

「濡れ男が話したぞ、そんでなまちゃんはおらの友達だぞ」


 サンレイが妖怪なまざらしの事を話すと美鈴がフッと微笑んだ。


「そこまで知っているなら私が隠してても無駄ね、協力するわよ、その代わり英二先輩とはマジでデートして貰うからね」

「了解だぞ、秀輝とおらと英二と美鈴でダブルデートだぞ、次の日曜に行くぞ、テーマパークで遊ぶぞ」


 英二が美鈴の胸からバッと顔を離す。


「勝手に決める…… 」


 英二の言葉が終わらぬ内にサンレイがガシッと頭を掴む、


「約束したぞ、破ったらおらだけじゃなくてハチマルも怒るぞ」


 バチバチと雷光をあげるサンレイを見て英二がガクッと項垂れる。


「わかりました。何処へでも行きます」

「きゃあぁ~~、嬉しい、英二先輩とデートなんて夢のようだわ」


 仰け反るように話した英二の頭を美鈴が抱き締めておっぱいに当てる。

 諦めたのか英二はもがく事も止めておとなしい。


 ババロアを一口食べて委員長が小乃子の脇を突っついた。


「デートだってさ、先越されちゃったわね」

「なっ、何言ってんだ。あたしは別に英二が誰とデートしようが構わないわよ」


 慌ててこたえる小乃子を見て委員長が楽しそうに声を出して笑う、


「あはははっ、無理しちゃって……まぁ相手が美鈴ちゃんなら安心よ、高野も嫌がってるしね、仮に何かあっても男同士だし、そのてん本当に安心よね、まあ高野があっちの世界に行ったら別だけど」

「だからそんなんじゃ無いって言ってるだろ、英二なんてあっちの世界でも何処でも好きに行けばいいよ、でも英二にその気が無いからね」


 美人だが美鈴は男だ。それを知っているので小乃子も一安心といった様子だ。


 浅井と中川にババロアを渡して戻ってきたガルルンが恨めしそうに英二を睨む、


「サンレイだけズルいがお、ガルも遊園地で遊びたいがお」


 美鈴の胸の中で英二がハッと顔を上げる。


「そうだよね、サンレイだけズルいよね、それじゃあガルちゃんも…… 」


 ガルルンも連れて行こうとした英二の顔を美鈴が両手で挟むように掴んだ。


「ダメよ、それじゃあデートにならないでしょ? グループで遊びに行くだけになるでしょ、本当は二人っきりで行きたいのを英二先輩が妖怪に襲われると困るからってハチマル先輩が頼むからサンレイちゃんとのダブルデートになったのよ」


 感情を表さない昆虫のような目でじっと見つめられて英二がブルッと震える。


「そっ、そうだね……あははっ」


 笑って誤魔化す英二の前で美鈴がこれでもかという可愛い笑みをする。


「あぁ~~ん、英二先輩怖がらせてごめんねぇ~ 」


 英二の顔を胸に押し当てて美鈴が抱き付いた。


「ズルいがお、ガルも遊びに行きたいがお」


 ガルルンが拗ねるように呟いた。


「ダメだぞ、ガルルンは留守番だぞ、おらも英二に頼まれて仕方無く行くんだぞ」


 仕方無くと言いながらサンレイは満面の笑みだ。


「ガルだけ仲間外れがお…… 」


 ふて腐れるガルルンの頭を晴美が撫でる。


「ガルちゃんは約束通り私たちと遊ぼうよ、日曜なら用事ないから朝から遊べるよ」


 委員長と小乃子も話に乗ってくる。


「そうね、ガルちゃん一人じゃかわいそうよね」

「女子会でもするか? 英二の悪口言いながらさ」

「女子会がう…… 」


 小声で呟くガルルンの前に宗哉が出てくる。


「確かに不公平だよね、ガルちゃんの気持ちはわかるよ、それで提案なんだけど」


 提案という言葉に英二が反応した。宗哉が助けてくれると思ったのだ。


「みんな宗哉の話しを聞け! 」


 期待顔で見つめる英二にフッと意味ありげな笑みを見せると宗哉が続ける。


「佐伯重工がスポンサーやってる番組でゲームを紹介するのがあるんだけど、その関係で新しいゲーム機をくれたんだ。広報課の人と会ったときに僕も一つ貰ってきたんだよ」

「新型ゲームがお? 」


 不思議そうに訊くガルルンを押し退けてサンレイが前に出る。


「ゾニーの最新型だぞ、新型って言ったらそれしかないぞ」


 宗哉が爽やかスマイルを二人に向ける。


「流石サンレイちゃん、よく知ってるね、そのゲーム機を日曜日に持っていってあげるよ、ガルちゃんが1番にゲームできるようにね」


 サンレイがバッとガルルンに振り向く、


「ズルいぞガルルン、おらもゲームしたいぞ」


 直ぐに宗哉に向き直ると笑顔で催促する。


「日曜じゃなくて明日持ってくるといいぞ」


 爽やかスマイルを崩さずに宗哉が続ける。


「いくらサンレイちゃんの頼みでもそれはダメだよ、サンレイちゃんはデートで遊ぶ、ガルちゃんは新型ゲームで遊ぶ、これで双方納得できるだろ」


 ガルルンの顔に笑みが戻る。


「遊園地も良いけどゲームも良いがお、ガルはゲームで我慢しとくがう、晴美と小乃子といいんちゅ誘って女子会ゲームするがお」

「成る程な、流石宗哉だぜ」

「俺はガン無視かよ…… 」


 感心する秀輝と違いデートしなくて済むと思った英二はがっかりだ。

 笑顔が戻ったガルルンに委員長が声を掛ける。


「ハチマルも帰ってきてるでしょうからみんなでお昼作って食べましょうよ」

「いいねぇ、材料買いに行っておばさんたちにも御馳走しようよ」

「うん、高野くんのお母さんは女子会するときプリンとか作ってくれるもんね」


 小乃子も晴美も賛成だ。


「面白そうがお、みんなで作って母ちゃんと父ちゃんを吃驚させるがお」


 すっかり機嫌の直ったガルルンもやる気満々だ。

 サンレイがじとーっと見つめる。


「何か楽しそうだぞ、旨そうだし、おらもそっちにするかな…… 」


 料理上手な委員長と晴美とハチマルが作るのだ不味くなるはずがない。

 サンレイの心変わりに秀輝が慌てて口を開く、


「サンレイちゃんにはアイス奢るぜ、ソフトクリームとか食いながらテーマパークで遊ぼうぜ、サンレイちゃんの好きな乗り物全部乗っていいぜ」

「おおぅ、秀輝は太っ腹だぞ、んじゃゲームは帰ってからでいいぞ」


 アイスという必殺技でどうにかサンレイの心を繋ぎ止めた秀輝がほっと息をつく、


「どうにか丸く収まったね」


 いつもの爽やかスマイルで宗哉が纏めた。

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