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第122話 「汗かき」

 翌日の昼休み、弁当を食べ終わったサンレイたちが絵里香の1年3組へと向かう、絵里香の親友の奈美と一緒に1組へ遊びに行き妖怪濡れ男、濡嶺の様子を探るのだ。

 英二や小乃子たちは付いていかない、ハチマルの報告待ちだ。


 3組の女子たちと少し遊んだ後でサンレイたちは1組へと向かった。


「亜弥喜ぶよ、サンレイちゃんを紹介してくれってしつこく言ってたから」


 笑顔の奈美を先頭に1組へと入っていく、奈美の友人の亜弥に会いに行くという口実で1組へと行くのだ。


「亜弥ぁ~、サンレイちゃん連れてきたぞ~~ 」


 奈美が自慢気に言うと女子たちが集まってきてサンレイたちを囲んだ。


「サンレイちゃんだ。可愛いぃ~~ 」

「ガルルン先輩も犬っぽくて可愛いよね」

「ハチマル先輩、格好良いよねぇ、お姉様って感じだよね」


 女子たちが口々に褒めそやしながらサンレイやガルルンに手を伸ばしてくる。

 撫でられたり抱き付かれたりしてサンレイがムッと怒る。


「おら先輩なんだぞ、偉いんだぞ」

「気安く触るながお、ガルは2年生がう、1年より上がお」


 女子たちには見えていないが犬耳を触られてガルルンも不機嫌だ。


「サンレイちゃん可愛い~、自分のことおらって言うの本当なんだぁ~~ 」

「ガルルン先輩、子犬の匂いがするよ、シャンプーした後の犬の匂いだ」


 逆効果だ。女子たちはサンレイとガルルンを触るのを止めない。


「仕方無いのぅ」


 呟くハチマルには女子たちは手を出さない、少し離れて憧れるように見ている。


「ほら、亜弥こっち来て」


 奈美が友人の亜弥を連れてくる。


「ハチマル先輩、友達の亜弥です」


 気軽に話し掛ける奈美に1組の女子たちの視線が集まる。

 学校中の女子たち憧れの先輩であるハチマルと自分は親しいと主張できて奈美はドヤ顔だ。


鳴瀬亜弥なるせあやです。よろしくお願いします」


 緊張気味に頭を下げる亜弥を見てハチマルが優しい顔で微笑んだ。


「ハチマルじゃ、こちらこそよろしく頼むの、奈美の友人なら儂の友人じゃ、何か困ったことがあれば相談に乗るから何時でも2年1組に訪ねてくるのじゃぞ」


 亜弥が嬉しそうに頭を上げる。


「はい、ハチマル先輩、私も何でもするので用事があれば何時でも言ってください」

「早速じゃが1つ頼みがある」


 ハチマルが亜弥に耳打ちする。


「雑巾の事ですか? 」


 亜弥が厭そうな顔で聞き返す。

 雑巾とは濡嶺の渾名だ。男女関係なく濡れ雑巾とか雑巾とか呼んでいる。


「うむ、変なヤツがいると奈美から聞いてのぅ、サンレイが興味を持って困っておるのじゃ、それで少し教えて欲しいのじゃ」


 ハチマルは話をしながら濡嶺を観察する。

 濡嶺雄一は教室の隅で2人の男子とオタ話で盛り上がっていた。


 濡嶺は身長167センチ程、短いボサボサ頭に顎の無い丸い顔、小太りにしては顎に肉が付きすぎている。

 一件何処にでもいる太ったオタクに見えるが絵里香から聞いていた通りシャツが張り付くように濡れていた。短い髪もべたっとしている。

 4月も半分過ぎて暖かい日が続いているが全身濡れるような汗をかくのは異常だ。


 亜弥が二つ返事で引き受ける。


「サンレイちゃんが興味持ったのなら仕方無いですね、雑巾に変な事されないように私が知ってることは全部話しますよ」

「ありがたい、ここではなんじゃから場所を変えるとしよう」

「一寸待ってください、私より詳しいのがいるから連れてきますね」


 亜弥が男子を2人連れてきた。オタクで濡嶺と何度か話をしたことがある男子だ。


「話しを聞かせてくれるのか? 助かるのぅ」


 ハチマルが微笑みかけると男子たちが真っ赤になっていく、


「俺たちでよければ何でもします」

「うっ、うん、なんでも聞いてください」


 亜弥と2人の男子と奈美を連れてハチマルが教室を出て行った。

 サンレイとガルルンは女子たちに囲まれて教室にいる。

 あくまで遊びに来たという事なので濡嶺に気付かれないように囮になっているのだ。


 廊下の窓から外を見ながら亜弥と男子2人から話しを聞いた。

 濡嶺は体操服に着替える姿を見せないらしい、何処で着替えてくるのかいつの間にか体操服に着替えている。

 しかも体育を始める前だというのに服が濡れたように張り付いていた。

 4月の初め、オタとからかった喧嘩の強そうな男子が次の日から濡嶺を怯えて避け始め、そのうちに学校へ来なくなったという、それから男子も女子も濡嶺を面と向かってからかったりバカにしたりしなくなったのだ。

 何をするのかわからないキモいヤツというのが男女両方の認識である。


 男子の話を聞けたのが予想以上の収穫だ。


「着替えを見せんと言うことは完全に人間に化けておらんという事じゃな」


 ハチマルの呟きが聞こえたのか男子たちがおかしな顔で振り向いた。

 誤魔化すように微笑むとハチマルが男子の手を取る。


「礼を言うぞ、サンレイが興味を持って困っておった所じゃ」


 ハチマルが両手で包むように一人一人手を握って礼を言うと男子たちが真っ赤な顔で付け加えるように話し出す。


「サンレイちゃんを近付けないようにした方がいいよ、濡れ雑巾が何するかわからないからさ」

「俺たちがいるところならサンレイちゃんを守るけどさ、あの雑巾マジでヤバそうな感じだからな」

「うむ、サンレイには儂からよく言っておく、儂がおらん所で何かあった時はよろしく頼むの」


 ハチマルがこれでもかといった可愛い笑みで頼むと2人の男子は顔どころか全身真っ赤になってうんうん頷いた。


「そろそろ休みも終わりじゃの、教室へ戻るとしようか」


 ハチマルに着いて亜弥と奈美が戻っていく、その後を嬉しそうに顔を緩めた男子たちが続いた。



 1年1組の教室に戻ると騒ぎが起きていた。


「お前なんで濡れてんだ? ここだけ雨でも降ったのか? 」

「汗かきにも程があるがお、人間じゃ無くて化け物レベルがお」


 サンレイとガルルンが濡嶺の前に立ってバカにしている。


「 ……チビが……犬のくせに……これだから三次女は………… 」


 濡嶺は俯いてブツブツと何やら言っているが声が小さくてサンレイとガルルン以外の生徒には途切れ途切れにしか聞こえない。


「お前オタクなんだろ? おらが世話してる英二って言うヤツもオタクだけどお前ほどじゃないぞ」

「英二はゲームオタクがお、漫画やアニメも好きがお、でも基本はゲーオタがお、お前は何オタクがお? 」


 ガルルンの質問にも濡嶺は俯いてブツブツ言うだけでこたえない。

 後ろから誰かが声を掛ける。


「濡れ雑巾はキモオタだよ」

「あははははっ、そうだよね、キモいよね、漫画に出てくるオタみたいだよね」


 それを聞いて生徒たちが声を出して笑い出す。


「誰がキモオタだ!! 」


 濡嶺が怒鳴りながら机をバンッと叩いた。


「怒ったぞ」

「怒ったがお」


 サンレイとガルルンが数歩下がるのを見て後ろで見ていた大柄の男子が声を出す。


「何やってんだ! サンレイちゃんとガルルン先輩に何かしたら俺たちが許さんからな」


 一人の男子が言うと他の男子たちも次々とサンレイとガルルンの味方に回る。


「そうだ。せっかく来てくれたのに雑巾のせいで1組が嫌われたらどうする」

「お前、マジでキモいんだよ」


 男子たちが騒ぐのを見て女子たちも日頃言えなかった不満を爆発させた。


「そうよ、キモいって言われて悔しいならタオルくらい持ってきなさいよ、濡れたまま授業受けて私たちが迷惑なのわかってんの」

「汗かきは別にいいわよ、体質なら仕方無いよ、でも汗かくってわかってるなら着替えのシャツ持ってきたりデオドラント使ったり気を使いなさいよ」

「私たちはあんたの汗がキモいって言ってんじゃないの、周りに気を使わない態度がキモいって言ってんの、わかってるの」


 クラス全員が敵に回った。

 仲良くオタ話をしていた2人の男子もいつの間にかいなくなっている。


「お前らぁ~~ 」


 怒鳴りながら濡嶺が立ち上がった。


「お主ら止めんか!! 」


 一喝するとハチマルが濡嶺の前に出る。


「濡嶺とか言ったの、悪かった。サンレイとガルルンの言ったことについては謝る。此奴らは見掛け通りガキじゃから許してやってくれんか」


 ハチマルが頭を下げると濡嶺がおとなしく座った。


「 ……チビが……くそっ……クラスの連中も覚えてろ………… 」


 ブツブツ愚痴る濡嶺にハチマルが顔を近付ける。


「ここは穏便に済まさんか? 妖怪じゃとバレたらお主も困るじゃろ? 」


 濡嶺がハッと顔を上げる。


「俺のことを…… 」

「放課後、少し話すとしようかの、残って待っておれ濡れ男」


 濡嶺の耳元で言うとハチマルがくるっと身体ごと振り返る。


「サンレイ、ガルルン、用は済んだ。帰るぞ」


 濡嶺の恨むような視線を感じながらハチマルとガルルンとサンレイが帰って行った。


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