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第118話

 暫くして美鈴が目を覚ます。


「くぅ……くそっ! 」


 悔しげに吐き捨てる美鈴の上半身をバチバチと雷光をあげる雷のロープがグルグル巻にしていた。


「にひひっ、おらの電気のロープだぞ、雑魚妖怪が逃げることなんて無理だぞ」


 意地悪顔で笑うサンレイの隣からハチマルが覗き込む、


「目が覚めたようじゃな、では話をしようか? 」

「話し? 何のこと」


 とぼける美鈴の頬をサンレイが引っ叩く、


「あうっ! 」

「知ってることは全部話せ、言ったら命だけは助けてやるぞ」


 凄むサンレイを手で制するとハチマルが優しい声を出す。


「お主の後ろにおる奴らのことを全て話せ、HQとか言う坊主やあの方と呼んでおる妖怪の正体じゃ、話せばお主を解放しよう」


 グルグル巻のまま上半身を起こすと美鈴が愉しげに笑う、


「うふふっ、話すと思って? 」


 反対側で聞いていたガルルンが爪に炎を灯して美鈴の顔に近付ける。


「死にたいがおか? 話さないとマジで殺すがお」

「殺せばいいじゃない、死ぬのが怖くてこんな事するわけないでしょ」

「なんじゃと…… 」


 怯えの無い目で見つめる美鈴にハチマルが言葉を失う、


「殺しなさいよ! 死んだって何も話さないわよ、さっさと殺しなさい! 」

「がひひっ、言われなくても英二を狙うヤツは殺すがお」


 炎の爪で引っ掻こうとしたガルルンの手をサンレイが掴んで止める。


「どうすんだ? このまま放り出すわけには行かないぞ」

「そうじゃな、英二を狙う狙わん以前にHQどもの手先を放って置くわけには行かんな」


 思案するハチマルの前でサンレイは掴んでいたガルルンの手を離した。


「妖力を消して普通の蜂に戻すぞ、ガルルン叩き切っていいぞ」

「武士の情けがお、苦しまないように一瞬で殺してやるがお」


 ガルルンが腕を振り上げる。

 近くで聞いていた英二が走り寄る。


「待ってくれ、殺す事ないよ、俺も無事なんだし…… 」


 美鈴に背を向けるとガルルンの手を押さえながら頼んだ。


「お人好しが!! 」


 美鈴が雷のロープの間から細い腕を出して英二の首を掴む、


「ぐぅぅ…… 」

「動くな! 変な真似をすると英二の首をへし折るわよ」


 呻きを上げる英二を抱き寄せると美鈴がサンレイたちを牽制する。


「英二! 」

「英二を離すがお」

「止すんじゃ、英二に万一があればどうする」


 飛び掛かろうとするサンレイとガルルンを止めるとハチマルが美鈴を見据えた。


「美鈴、お主もバカな真似は止せ、英二を離せば命は助けてやろう」


 直ぐ傍に居るが英二を人質に取られては迂闊なことは出来ない。


「うふふっ、命なんて初めから捨ててるわよ」


 形勢逆転したと思ったのか余裕に笑う美鈴の目にバチバチと雷光を纏うサンレイが映る。


「動くなサンレイ! 私の毒なら即死するわよ」


 美鈴が蜂の大きな毒針を英二の腹の辺りに押し当てる。


「おらの雷のロープをどうやって外した」


 瞬間移動しようとしたのを見破られてサンレイが悔しげに訊いた。

 美鈴が蜂の大きな顎をバカッと左右に開けて笑い出す。


「あははははっ、外したんじゃなくて外れてたのよ、私は腕が多いからね、腕1本と毒針だけ自由に動けるわよ、でも人間を殺すならこれで充分よ」


 ガルルンがジロッとサンレイを睨む、


「サンレイのミスがお」

「お主は詰めが甘いのじゃ」


 ハチマルに叱られてサンレイがプクッと頬を膨らます。


「おら悪くないぞ、手が4本もあるほうがズルいんだぞ」


 サンレイがバチバチと雷光を纏う、


「どっちでもいいぞ、おらがさっさと片付けてやるからな」

「動くなって言ってるの? 英二がどうなってもいいの? 」


 英二を連れて美鈴が少しずつ後ろへ下がっていく、


「ぐぐ……美鈴ちゃん……美味しかったよ、美鈴ちゃんの作ったチーズケーキとシュークリーム」

「なっ何を……何を言っている」


 英二の首を掴む美鈴の手が緩んだ。


「がはっ、本当に美味しかったんだ。美鈴ちゃんの手作りのお菓子、人間が、人の世界が本当に嫌いならあんなに美味しいお菓子なんて作れないよね、昔からお菓子作りが好きだって言うのは本当だよね、男子たちを操ったって言っても殺したりしてないし、美鈴ちゃんは悪い妖怪じゃ無いと思うんだ」

「英二先輩…… 」


 美鈴が英二の首に掛けていた手を外す。

 その隙をついてサンレイが殴り掛かった。


「雷パァ~ンチ! 」

「きゃあぁあぁ~~ 」


 美鈴が吹っ飛んで転がった。


「英二、大丈夫がお」


 ガルルンが駆け付けて英二を抱きかかえる。


「クソ蜂がおらの英二に……ぶっ殺してやるぞ」

「止めんか! 」


 止めを刺そうとしたサンレイをハチマルが止める。


「なんで止めんだ! 」


 怒鳴るサンレイにガルルンに支えられた英二が声を掛ける。


「サンレイ、俺からも頼むよ」

「 ……わかったぞ」


 プクッと頬を膨らませるとサンレイがバチッと消えて英二の傍に現われるとそのまま抱き付いた。


「英二の頼みだから利いてやるぞ」

「ありがとうサンレイ」


 拗ねたサンレイの頭を英二が優しく撫でてやる。


「痛てて……電気なんてズルいわよ」


 上半身を起こした美鈴をハチマルが霊気の縄で捕まえる。


「何故毒を使わんかった。サンレイに殴られる瞬間でも刺せたはずじゃ」


 ハチマルを見上げて美鈴が笑った。


「さぁね、お人好しの英二先輩を見てたらバカらしくなっただけよ」

「お主、本気で英二に惚れたのじゃな」


 感情の見えない美鈴の蜂の顔が赤く染まる。


「なっ! バカ言ってんじゃないわよ、私が人間に惚れるわけ無いでしょ、人間なんて私たちの敵でしかないわよ」


 赤い顔をした美鈴が力が抜けたようにその場に座り込む、


「殺しなさい、何も喋らないわよ、あの方は死ぬしかなかった雄蜂の私に力を与えてくれたのよ、妖怪にしてくれた恩人なのよ、私は殺されても何も話さないわよ」

「仕方あるまい」


 ハチマルが腕をさっと振った。

 霊気の縄が切れて美鈴が自由になる。


「どういうつもりなの? 」


 怪訝に見つめる美鈴にハチマルが微笑みかける。


「お主を殺すと英二も悲しむからの」


 美鈴が立ち上がる。


「後悔するわよ」

「別に構わん、お主程度が儂に敵わんのはわかったじゃろう」


 蜂の羽を広げて美鈴が宙に浮く、


「私の負けね……貴女にも英二先輩にも………… 」


 呟くように言うと美鈴は飛んでいった。

 ガルルンがハチマルの腕を引っ張る。


「逃がしてやるがお」


 ハチマルがガルルンの頭を撫でる。


「英二を殺さなんだからの」

「ハチマルは甘いぞ、また襲ってきたら今度は殺すからな」


 プクッと膨れたままのサンレイを英二が抱きかかえる。


「美鈴ちゃんはそんな事しないよ、人間の世界で暮らしていたかっただけだと思うよ」


 マジ顔のハチマルが英二を見つめる。


「儂もそう思う、HQとか言う坊主に命令でもされたのじゃろう、恩がある美鈴は断れんかったのじゃろう」


 嬉しそうに微笑みながら英二が頷く、


「うん、俺もそう思う、本気で俺の霊力や命を狙ってるなら幾らでもチャンスは合ったからな、初めて会ったバイトの帰りにでも俺を攫えば済むことだ。それをしなかった。美鈴ちゃんは悪い人……じゃなかった悪い妖怪じゃないよ」


 抱えていたサンレイが英二を睨む、


「オカマの蜂に惚れたんじゃないだろうな」

「がわわ~~ん、英二があっちの世界に行ったがお」


 大きく口を開けて驚くガルルンの横で晴美が意地悪顔で口を開く、


「高野くん、そっちの気があったんだぁ~、久地木さんと委員長に報告しなくちゃ」

「ちょっ、違うから、そっちの趣味はないからな」


 大慌てする英二にサンレイがしがみつく、


「暴れるな落ちるだろ……でも英二が無事で良かったぞ」


 英二がギュッとサンレイを抱き締めた。


「ありがとうサンレイ、ガルちゃんもハチマルもありがとうな」

「そだぞ、感謝してアイス奢るんだぞ」

「そうじゃな、疲れたから儂もアイスが食いたいの」


 珍しくハチマルにもせがまれて英二が嬉しそうに続ける。


「アイスでもケーキでも何でも奢るよ、ガルちゃんにはチーカマでもケンタでもいいよ、本当に助かったからな」

「がふふん、ガルはできる女がお」


 得意気に鼻を鳴らすとガルルンが続ける。


「でも今回は危なかったがお、図書室からガルが見つけなかったら英二は今頃あっちの世界に行ってたがお」

「まったくじゃ、お手柄じゃぞガルルン」


 ガルルンを褒めるハチマルを見てサンレイがニヤッと笑う、


「そだぞ、英二が心とケツに深い傷を負うところだったぞ」

「女の子がケツとか言うな! 」


 サンレイを叱った後で英二がガルルンを見つめる。


「でも助かったよガルちゃん、ガルちゃんが見つけてくれなかったら……考えただけでゾッとするよ、ありがとうな」

「わふふ~~ん、英二に褒められたがお」


 尻尾をパタパタ振りながら喜んでいたガルルンがふと思い付いたように首を傾げる。


「でもハマグリ女房は倒したがお、なんで英二が狙われるがお」


 ハチマルがガルルンの頭をポンポン叩く、


「黒幕が動き出したという事じゃ」

「黒幕がお? HQとかいう坊主がう? 」


 不思議そうなガルルンにサンレイがバカにするように口を開く、


「ほんとにボケ犬だな、クソ坊主だけじゃないぞ、海属性の大妖怪がいるってハマグリ女が言ってたぞ」

「そういう事じゃ、黒幕を倒すまでは気を緩めるでないぞ、それと他にも妖怪どもが新入生や転入生に混じっておるやもしれん、英二は元より秀輝たちにも気を付けるように注意せんといかんの」


 ハチマルが英二たちを見回す。


「では教室へ戻るとしようかの」

「5時間目サボっちゃったね」


 苦笑いする晴美に英二がバッと頭を下げる。


「篠崎さんまで巻き込んでごめんな」


 晴美が『いいよ、いいよ』と言うように胸の前で両手を振った。


「仕方無いよ、早く戻って宗哉くんたちに説明しよう」

「そだな、小乃子にカマ蜂の話し聞かせるぞ」

「美鈴が男って知ったら秀輝も吃驚するがお」


 サンレイとガルルンが並んで歩き出す。


「英二のお尻が奪われたって言うぞ」

「英二はあっちの世界に旅立ったがお」


 歩きながら話す2人を英二が追う、


「奪われてないからな、変な嘘言うなよ、ガルちゃんもダメだからな、頼むからな」


 焦る英二を見て笑いながらハチマルと晴美が続いた。




 3日経った。

 島名絵里香の修業は続いている。絵里香によると美鈴は学校には来ていない様子だ。

 正体がバレて戦いも負けて何処かへ行ったのだろうとサンレイもハチマルも気にした様子はない。

 事件のあった放課後に秀輝や小乃子たちに美鈴のことは全て話した。

 美鈴が男だったと聞いて秀輝はもちろん小乃子たちもマジで驚いていた。


 翌日の昼休み、弁当を食べ終わって秀輝たちとバカ話をしていた英二に1人の女子が駆け寄っていく、


「英二せんぱぁ~い」


 甘え声を出して女子が英二の右から抱き付いた。


「おわっ! みっ、美鈴ちゃん」


 行き成り抱き付かれて驚く英二の目に美鈴が映った。

 直ぐにサンレイが飛んでくる。


「お前! なんで居んだ? 消えたんじゃなかったのか? 」


 英二に抱き付いていた美鈴が振り返る。


「何のこと? 消えるも何も私はこの学校の生徒だよ、ねぇ~英二先輩」

「そうだけど…… 」


 とぼける美鈴に英二はどうしていいのかわからない。

 ガルルンがやって来るとジロッと睨み付ける。


「まだ英二を狙ってるがお、やっぱり始末した方がいいがお」


 直ぐ左で物騒なことを言い出すガルルンを見て英二が慌てて口を開く、


「美鈴ちゃん、俺のことは諦めたんじゃなかったのか? 」


 英二に抱き付く美鈴の右横でサンレイが凄む、


「そだぞ、まだ英二の霊力を狙うならおらがボコボコにしてやるぞ」

「勘違いしないでよね、霊力なんて狙ってないわよ」


 とぼけ顔でこたえる美鈴の左でガルルンが怪訝な顔で訊く、


「じゃあ、何しに来たがお」

「私が欲しいのは英二先輩の愛よ」


 美鈴が抱き付いたまま正面に回る。


「英二先輩、私の愛を受け止めてください」

「愛って……ちょっ、ちょっと、俺はそっちの趣味はないから…… 」


 ビビる英二の背をサンレイがドンッと叩く、


「よっしゃ付き合え、おらが認めてやるぞ」


 後ろでお茶を飲んでいたハチマルが微笑みながら口を挟む、


「そうじゃの、英二の命を狙わんのなら儂も構わんぞ、中々似合いのカップルじゃ」

「何言ってんだよサンレイだけじゃなくてハチマルまで冗談は止めてくれ」


 バッと振り返った英二の頬に正面から抱き付いていた美鈴がキスをする。


「きゃ~~、嬉しい、サンレイちゃんとハチマル先輩の公認カップルだよ」

「ちっ、違うから、そっちの趣味はないからな」


 焦りまくる英二の肩にガルルンがポンッと手を置いた。


「霊力は諦めてもお尻は諦めてなかったがお、英二のお尻は狙われてるがう、お尻に目覚めてあっちの世界に行ってしまうがお」


 サンレイがゲス顔で続ける。


「ケチケチすんな……いや、ケツだからケツケツだぞ、ケツケツすんなケツの1つや2つ貸したれ英二」

「ケツとか言うな! サンレイってマジでゲス思考だよね、あれだけ浮気だ何だ言ってボコボコにした癖に何だよ」


 怒鳴る英二の周りに小乃子たちがやって来る。


「凄いよな、何処から見ても女にしか見えないよな」


 小乃子の隣で晴美が何とも言えない表情だ。


「うん、悔しいくらいに美人だよね」

「ありがとうございます。久地木先輩も篠崎先輩も美人ですよ、私なんていくら頑張っても英二先輩の子供は産めないんだから本物の女が羨ましいですよ」


 美鈴がペコッと頭を下げた。頬を赤く染め、はにかむ姿からは男だとはとても思えない。

 男と聞いて引き気味な秀輝の隣りに委員長が立つ、


「本当に可愛いわね、もう付き合っちゃいなよ高野」


 意地悪顔で言いながら肘で秀輝を突っつく、


「おお、そうだぜ、俺も応援するぜ」


 とばっちりは御免だというようにサンレイたちに付いた秀輝を英二が睨む、


「秀輝……裏切り者が…… 」

「にゅひひひひっ、付き合うってか? 男同士だから互いのケツを突き合えるぞ」


 サンレイがゲス顔で言うと美鈴が英二に抱き付いたまま恥ずかしそうに体をくねらせる。


「いやぁ~~ん、サンレイちゃんったらぁ~~、私は何時でもオッケーですよ」

「勘弁してくれ~~ 」


 英二の嘆きが教室中に響いた。

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