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第11話 「神様」

 サンレイとハチマルを先頭に英二たちが後に続いて歩いていく、祟り神が取り憑いた制御コンピューターと戦いに行くのだ。


 制御コンピューターがある実験区画の前の生産区画で足止めをくらった。

 腕の無いものや人工皮膚の付いていないものなど未完成のメイロイドたちが行く手を塞ぐ。


「あんな物まで動かせるのか…… 」


 未完成のメイロイドが動くのを見て宗哉が絶句した。


「そこらの低級霊ではなく神じゃからな、ネジ1本でも操れるじゃろう、人の形をしたメイロイドなど容易いものじゃ」

「けど心配無いぞ、未完成は未完成だ。上手く動けないから英二でも倒せるぞ」


 言いながらサンレイは近くに落ちていた鉄の棒を英二に渡す。

 ハチマルがニッと笑って英二を見た。


「そういう事じゃ、あ奴らは任せたぞ英二、儂とサンレイは本体の相手じゃ」

「わかった。気をつけるんだよハチマル、サンレイ」


 鉄の棒を握り締めて英二が頷いた。


「うむ、お主らも無理はするなよ」

「メイロイドの足を砕いてやるんだぞ、そうすると動けないからな」


 ハチマルとサンレイは言い残すと先へと走っていく、走りながらサンレイが電撃閃光竜火で、ハチマルが風撃俊風カマイタチでメイロイドの半分を倒してくれた。


「サーシャ、ララミ、お前たちも行け! サンレイとハチマルを守るんだ」

「了解デス、ご主人様」

「しかしご主人様が……了解しましたです」


 不服そうにこたえるララミの目に宗哉が鉄の棒を握って上下に振っているのが映る。

 自ら喧嘩などしたことの無い宗哉が戦おうとしているのがララミにも分かったのかもしれない、サーシャとララミがメイロイドを蹴散らして部屋を出ていった。

 その後で英二と秀輝と宗哉がメイロイドと戦いながらサンレイとハチマルを追って行く、



 サンレイが疲れたように愚痴を言いながら未完成のメイロイドを倒す。


「こいつらどっから湧いてくるんだ。きりが無いぞ、雷パァ~ンチ! 」


 周りには未完成のメイロイドが100体以上倒れていた。

 全てサンレイが倒したのである、疲れて当然だ。

 おまけに火災も起きていた。


 サンレイの電撃が何かに引火したのだろう、自動消火装置が働いて消火剤が撒かれるが消火装置の故障か区画の入り口付近の火は消えたが奥はまだあちこちで燃えていた。

 煙が立ち込め視界が悪い、作業用大型アームがサンレイを狙って突っ込んでくる。

 多数いたメイロイドは沈黙したが制御コンピューターはまだ健在なのだ。


「くそっ、火も煙も嫌いだぞ、こんな所で戦いたくないぞ」


 作業用アームを避けながらサンレイが顔を顰めた。

 アームの動きが止まった。

 何事かとサンレイが顔を上げる。


「サンレイ様ご無事ですか? こいつらは私が押さえますから」


 ララミが作業アームを抱えて根本から引き千切った。


「おおララミか助かったぞ、おらは煙とか嫌いなんだ」


 疲れていたサンレイの顔が明るくなる。


「私には高性能センサーが付いています。こんな煙なんともないです、私についてきてくださいサンレイ様」


 ララミの目が赤く光っている。

 要人警護用メイロイドであるララミやサーシャには高性能の各種センサーも備えられている。


 濛々と立ち上がる煙の中をララミの道案内でサンレイが進んでいく、

 区画の出口が見えた時に小さな爆発が起きた。

 作業用のオイルか何かに引火して爆発したのだろう、爆発と同時に作業用の大型アームがサンレイを狙う。


 咄嗟にララミがサンレイの背中を押した。

 サンレイがよろけて転ぶ、その上を作業アームがかすめていく、


「うわっなんだ? くそっ、ララミ無事か? 」


 床に転げながらサンレイが叫ぶように聞いた。

 顔を上げたサンレイの前に火柱が立っている。


「サンレイ様、私は大丈夫です、それより今のうちに…… 」


 全身火達磨になりながらララミが作業用の大型アームを押さえていた。


「サンレイ様今のうちです、はやく…… 」

「ララミ! お前、お前……わかった。ありがとなララミ」


 礼を言って工場を抜けて行くサンレイの頬を涙が流れた。

 サンレイが部屋を抜けるのを見送ってララミが燃え崩れていく。



 サンレイより先に進んでいたハチマルが立ち止まる。

 前にメイロイドが3人立っていた。


「お主ら操られておるんじゃないのう、集まって来た低級霊が憑依したんじゃな」


 雰囲気の違う3人のメイロイドを見てハチマルが顔を顰めた。


「ギヘヘヘッ、そうだ。良い体だろう、人間と違ってなんの抵抗もなく入り込めたわ」


 真中にいた背の高い金髪のメイロイドがこたえた。

 左右にいる背の低いロリタイプのメイロイドは言葉を話せない様子だ。


 真中の金髪が少しレベルの高いモノノケで左右の2人が獣か何かの霊だろう。


「もとから魂が無いからのう、ただの人形と同じじゃから憑依するのは簡単じゃ、じゃが厄介なことにメイロイドは動ける人形じゃからのう、じゃが儂の敵ではないぞ」


 言うが早いかハチマルがフッと消えた。


「ギシャシャーッ 」


 右にいたロリタイプのメイロイドが奇妙な叫びを上げて倒れた。

 金髪ともう1人のメイロイドがさっと飛び退いて逃げる。


「まずは1つじゃ」


 楽しそうに口元を歪ませるハチマルの目が笑っていない、こんな所で低級霊など構っていられないという顔つきである。


「くっくそっ、行け! 」


 金髪の命令でロリタイプのメイロイドがハチマルに飛び掛る。

 その間に金髪が逃げたようにハチマルには見えた。


「仲間を犠牲に逃げるとはなんて奴じゃ」


 ロリタイプのメイロイドを倒したハチマルが吐き捨てる。


「ハチマルさん危ないデス! 」


 ハチマルの左にサーシャが飛び出てきた。

 その背中を金髪メイロイドの手が貫く、


「グギギッ、なんだこいつは邪魔しおって」


 サーシャの背中越しに金髪メイロイドの悔しげな声が聞こえた。

 金髪メイロイドが逃げると見せかけて隙を突いて攻撃したのをサーシャが止めたのだ。


「離せ、離さんか! なんだこいつは…… 」

「ハチマルさん今デスから…… 」


 サーシャが自分の胸に突き刺さるメイロイドの腕を押さえて離さない。

 驚いた表情のハチマルが寂しげに口を開く、


「お主……命令じゃからか、じゃが友として助けてくれたと儂は思うぞ」

「ギヒィーッ、たっ助けて……、ギギャギャガ~~ 」


 恐怖に顔を引き攣らせたメイロイドが助けを請うが聞く耳も持たずに倒した。


「友達……ハチマルさんもみんなも友達デスから…… 」


 嬉しげに微笑むとサーシャがガクッと項垂れた。

 機能停止だ。


「もちろんじゃ、心が、魂が無くともお主は友達じゃぞ」


 ハチマルが優しくサーシャを横たわらせる。

 サーシャを一瞥して先を急ぐハチマルがぐっと涙を拭った。

 今は泣いている時ではない戦いの真っ只中だ。



 ハチマルのもとにサンレイが駆けつける。


「サーシャもか……ララミもだぞ」

「少し力を使いすぎたのう、ここで少し休憩じゃ」


 項垂れるサンレイにハチマルが優しい、工場の隅で休んでいる2人のもとに英二たちが追いついた。

 ハチマルがサーシャとララミの事を宗哉に話す。


「サーシャとララミが……そうか……2人とも役に立って、そうか………… 」


 話しを聞いて宗哉が言葉を詰まらせる。

 メイロイドとはいえずっと一緒にいたのである。

 友達の少ない宗哉にとって大切なものだったのだろう。


「悲しむのはあとじゃ、友の犠牲を無駄にせんためにもヤツをここで封じるんじゃ」


 ハチマルが宗哉の肩をポンと叩く、その顔が仇は討つと言っていた。

 顔を上げた宗哉にハチマルが続ける。


「ヤツは強力じゃ、今のままでは戦い辛いのう、一瞬でも動きを止められたら人工知能から祟り神だけを引き離す事ができるんじゃが」


 険しい表情で考え込むハチマルに宗哉が思いついたように口を開く、


「一瞬なら止められるかもしれない、管理に使っているコンピューターはメインとサブがある。人工知能はメインでサブは普通の制御コンピューターだ。設備の操作はサブを通して動かすんだ。サブをオーバーフローさせれば再起動が掛かるはずだよ、その間30秒くらいは全設備が止まるはずだ。30秒でどうにかなるかい? 」

「30秒もあれば上等だぞ、おらとハチマルなら10秒止まってれば引き離してやんぞ」

「オーバーフローか面白いアイデアじゃ、まさかこんな方法で止められるとはヤツも思っておらんじゃろう」


 サンレイとハチマルの顔から険しさが消えた。

 ニヤりと意地悪な笑みである。


「わかった。隣の区画に制御室がある。そこでデーターを流してオーバーフローさせられるはずだよ、僕が行くよ」


 宗哉の覚悟を決めた顔にハチマルが頷いた。


「任せたぞ宗哉、英二と秀輝は宗哉の護衛について行け、儂らは敵に悟られんようにヤツの注意を引いておく、陽動作戦じゃ」


 英二と秀輝と宗哉は操られているメイロイドたちと戦いながら隣の区画に向かった。

 ハチマルとサンレイはまた制御コンピューターの前に立つ、しばらく戦っていると制御コンピューターの反応が止まった。


 オーバーフロー作戦が旨くいったらしい、再起動が掛かった様子である。


「今じゃ、行くぞサンレイ」

「おうハチマル、おらの電撃でショックを与えるぞ」


 ハチマルとサンレイが制御コンピューター本体へと飛び掛かった。

 サンレイの電撃で制御コンピューターの本体が白く光る。

 ハチマルが腕を差し込んで呪文を唱えた。


「ググゥ、ギヒヒーッ、貴様らよくも、よくも…… 」


 制御コンピューター本体から真っ黒な墨のような霧状の物が噴出した。

 霧でも煙でもない真っ黒い影に吊り上がった大きな目と裂けた口が付いている。

 5メートルほどもある大きな黒い影のようなバケモノだ。

 山神が変化した祟り神だ。

 サンレイとハチマルが制御コンピューターの人工知能から祟り神を引き剥がしたのである。


 ハチマルがハァハァと息を切らせながらサンレイを見る。


「あと少しじゃ、儂の力をぶつけて奴の力を相殺する」

「そんな事したら、力使ったらハチマル消えるぞ、おらと2人なら大丈夫だぞ」

「ダメじゃ、やつも同じ神じゃ、そうチャンスがあるわけではない、チャンスは一度じゃ、お主が奴の気を惹いているうちに儂が突っ込んで奴の力を消す。そのあとでサンレイが奴を封じるんじゃ」

「ハチマル……了解だぞ、また一緒に眠ろうな」

「任せておけ、なんたって儂はおねーさんじゃからの」

「いくぞサンレイ! 」

「いいぞハチマル! 」


 サンレイとハチマルが祟り神に向かって走り出す。

 ハチマルがフッと消えた。

 同時にサンレイが右腕を突き出した。


「今使える最大の電撃だぞ、雷狼電牙らいろうでんが!! 」


 サンレイの右腕から雷が祟り神に向かって伸びる。


「グゲゲーッ、グヒィ 」


 電撃が当たって祟り神が苦しげに呻く、


「もう一度だぞ」


 ふぅふぅと息をついて電撃を繰り出すサンレイの体が陽炎のように揺らめいて向こう側が透けて見える。

 大きな力を使うと今の人間の姿を維持できなくなるのだ。


「ゲヒィ、ゲゲヒィ、舐めるなよ、この程度の雷でオレが倒せると思うなよ」


 呻きよろめいた祟り神が足を踏ん張って態勢を立て直す。

 その前にハチマルが現れた。


「倒せるとは思っておらん、じゃがお主の力は儂が消し去ってやる」


 ハチマルが祟り神の正面からその腹部に両腕を突き刺した。


「儂の風でお主の力を包み閉じ込める。吹け清風!! 」

「ゲヒィ、ゲヒヒヒィーッ 」


 叫びながら祟り神がハチマルを叩き落す。

 ハチマルが吹っ飛び、祟り神も後ろに倒れた。



 英二たちが走ってやってきた。

 祟り神の力をハチマルが消して操られていたメイロイドが動きを止めたのですぐに来る事が出来た。


「ハチマル! 」


 床に転がるハチマルを見て英二が叫んで駆け寄る。

 英二に抱きかかえられたハチマルがやつれた顔で笑う、


「フフッ、なんじゃ泣いとるのか? 」

「だってお前、ハチマル消えそうじゃないか」


 ハチマルの身体は半透明になり陽炎のように揺らいでいた。


「そうじゃ、もうじき消える。力を使い過ぎたからのう、もう体を維持できんようになっておる。楽しかったのう英二、お主と一緒にいたことは忘れんぞ、ずっと守れんですまんのう、ひとまずお別れじゃ」

「厭だ。厭だよハチマル、いかないでくれ、ずっと一緒だって言ったじゃないか、俺の力を使ってくれ、ハチマルが助かるなら全部あげるから…… 」

「ダメじゃ、少し貰うのとは訳が違う、急激な変化は英二の体が耐えられん、それに眠っていたお主の力が暴走すれば大変じゃ、それこそお主だけでなく秀輝や宗哉や近くにいる他の者を巻き込む事になる」

「俺はどうなってもいい、ハチマルが助かるなら…… 」

「バカを言うな、儂は死ぬのではない眠るだけじゃ、じゃがお主が死んだら二度と会えんようになる。そんな事は儂は厭じゃ、じゃから今はこれでいいんじゃ」

「ハチマル…… 」


 ハチマルを抱き締めて英二は泣いた。

 秀輝と宗哉は何も掛ける言葉も無く2人を見守るだけだ。


「ずっと一緒じゃ、今消えても心はお主とずっと一緒じゃぞ、秀輝、宗哉、英二を頼んだぞ、ずっと友達でいてやってくれ、いつかまたみんなでアイスを食べような」


 英二に抱きかかえられたハチマルが秀輝と宗哉を見てフッと笑う、


「英二が今のままの優しさを持っておったらいつかきっとまた会える。じゃからしばらくお別れじゃ」


 抱かれたままハチマルがニッコリと優しく微笑んだ。

 笑顔のままハチマルは陽炎のように揺らいで消えていった。


「厭だハチマル、行かないでくれ、消えるな」


 床に伏せたまま英二が叫ぶ、その背が小刻みに揺れていた。

 幼馴染で親友の秀輝もこんなに泣いている英二を見るのは初めてだ。

 いつの間にかサンレイが傍に立っていた。


「ハチマル……先に眠ってろ、次はおらの番だぞ」

「ダメだよサンレイ、もう止めてよ」


 ガバッと顔を上げた英二がサンレイの腕を掴んで止める。


「ハチマルがあいつの力を消したんだぞ、だから操られてたロボット止まって英二や秀輝もここに来れたんだ。あとはあいつを封じれば終りだぞ、おらがその役だ」

「力を消したんならもういいじゃないか、サンレイまでいなくなるのは厭だよ」

「放っておくとまた力を付けるんだ。だから封じないとダメだぞ、それにあいつを救いたいんだ。封じるってのはもとの神に戻すって事だぞ、元の山神に戻してやるんだ。そんでまた眠らせるんだぞ、おらもハチマルもあいつも死ぬんじゃない、消えて無くなるんじゃない、力を失って眠るだけなんだぞ、同じ神として救ってやりたいんだ」


 サンレイが優しく英二の腕を解く、ニコっと笑顔を見せるサンレイに英二は何も言えなくなる。

 言葉は何も出さないが英二の気持ちは爆発寸前だ。


 倒れていた祟り神がヨロヨロと起き上がった。

 ハチマルに力を取られて5メートルほどあった体が2メートルほどに縮んでいる。


「オレの力を……オレと同じ神だな、今のオレではかなわん…… 」


 祟り神が後退る。

 黒い影のような顔が怯えているのが分かった。


 英二の前からサンレイの姿がふっと消えた。


「逃がさないぞ、これだけ暴れたんだもう充分だろ、元の山神に戻れよ、そんで眠るといい、人間は悪い奴ばかりじゃないぞ、優しい奴もいっぱい居るんだぞ、おらはそんな人間が大好きだ」


 瞬間移動で後ろに現れたサンレイが祟り神の背中に両腕を付き立てる。


「ギヒィ、嫌だオレは消えたくない、人間どもに…… 」

「おらの力の全てでお前に付いた悪い気を祓ってやるからな、絞雷鬼灯こうらいほおずき!! 」

「ギヒィヒヒィーッ 」


 サンレイの両腕から光が出て祟り神の体全体を包み込んでいく、

 光が工場の部屋全体を照らす、温かい優しい光だ。


「サンレイ! サンレイ、サンレイちゃん」


 英二と秀輝と宗哉が叫ぶ、

 しばらく光っていたが急に眩しく光るとフッと消えた。


 英二と秀輝と宗哉が眩しさに目を瞬いて顔を背ける。

 直に振り向いてサンレイを見た。

 光が消えたあとには祟り神はもう居ない、体を半透明にさせたサンレイだけが立っていた。


「終わったぞ、あいつは山神に戻って眠ったぞ、ここら辺りにいた低級霊やモノノケもすぐに無くなんぞ、これで全部お終いだぞ」

「サンレイ! 」


 疲れた顔で微笑むサンレイを英二が駆け寄って抱き締めた。

 秀輝と宗哉も走り寄って英二とサンレイを囲む、


「おらやハチマルは神といっても何でもできる力の大きな神じゃない、小さな山を守る小さい神なんだ。神って言うよりも、モノノケと同じようなもんだぞ、力のあるモノノケだな妖怪だぞ、だからこれが精一杯だ。なあなあ英二、お前と一緒にいて今まで楽しかったぞ、またいつか会おうな英二」

「厭だ!! 別れるなんて厭だ。サンレイは神様だよ、だって俺たちを守ってくれたじゃないか……だから、だから今度は俺がサンレイを守るんだ。俺が…… 」


 半透明のサンレイを抱く英二の額が光りだす。

 サンレイと別れたくない、このまま一緒に死んでもいい……、ハチマルのときはどうにか堪えたがサンレイまで消えそうになって気持ちの爆発が抑えきれない。


「なっ、何やってんだ。ダメだ英二、力を使うな、落ち着け、暴走するぞ、おらのために力を暴走させるな」


 慌てたサンレイが英二の光る額に手を当てる。

 止めようとするが光は更に輝きを増して額だけでなく英二の体はもちろん抱いているサンレイをも包み込んで白く光り出した。


「体が熱い、これが俺の力か……サンレイ、力を貰ってくれ、消えないでくれ、俺は暴走してもいい、死んでもいい、サンレイが助かるなら俺はどうなってもいいんだ。サンレイが好きだから、だから俺の力を使って元気になってくれ」

「止めろ! 落ち着け! 心を静めろ、力なんていらない、おらは眠るだけだ。また会える日も来る。英二が死んだら会えなくなるぞ、そんなのおらは嫌だからな、おらも英二が大好きなんだからな、だから、だから……死なすものか」


 額に当てていた手を肩に回して抱きつくとサンレイが英二にキスをする。

 暴走した力を吸い取って英二を助けるつもりだ。

 英二もサンレイをしっかりと抱きしめて2人は唇を重ねあう。


「あっ、ああぁ……サンレイが…… 」


 秀輝が思わず唸るような声を出す。

 宗哉も驚き顔だ。


「サンレイ大丈夫か! 」


 唇を離すと英二が叫ぶように訊いた。


「あっ、んあぁっ、くぅ、何だ? 体が熱いぞ、あっ、ああぁん」


 いつもとは全く違う色っぽい声だ。

 英二はもちろん秀輝と宗哉も何事かと見つめる。

 3人が見つめる中、サンレイの体が大きくなっていった。


「サンレイ……体が…… 」

「元に戻っていく……けど……あっ、あぁあん、くうぅ、体が熱い…… 」


 色っぽい声を上げながらサンレイの腕や足が伸びて胸も大きくなっていく、成長していた。

 まるで成長過程を早送りで見ているようである。


「あっ、あぁっ、あぁぁああん」


 悩ましげな嬌声をあげると光が消えて同時に大きくなるのも止まった。


「元の姿……これがサンレイの本当の姿なのか」

「そうだぞ、言っただろナイスバディだって、おっぱいはハチマルより小さいけど委員長くらいの巨乳だぞ、この姿でいられたら今頃英二を悩殺できたのにな、残念だぞ」


 サンレイは長い黒髪は同じだが幼女の時とは違う成長した少女の顔だ。

 大きな目をした可愛い顔に大きな胸をした高校生くらいの姿になっている。


 まだ白く光っている英二の額にサンレイが手を当てる。


「暴走はまだ止まってないぞ、力を制御しろ英二、お前ならできるぞ」

「力を制御するって…… 」

「落ち着くだけでいいんだぞ、おらはいつも一緒だぞ、だからいつもの英二に戻ればいいんだぞ」


 半透明に揺らぐ大人姿のサンレイが英二を抱き寄せた。


「消えないでくれサンレイ…… 」


 大きな胸に顔を埋めて英二が泣いた。


「ごめんな、おらが力のある神なら英二に心配掛けなくても済んだんだぞ、消えても死ぬわけじゃないんだぞ、だから安心するんだぞ」


 抱きながらポンポンと背中を叩いてくれるサンレイは温かで気持ちがいい。

 英二の光が消えていく、同時にサンレイがまた小さくなっていった。


「また小さくなったぞ、でも安心だぞ、これで英二の力も安定したって事だからな」

「俺の力……サンレイ…… 」


 半透明のサンレイがぐらっと大きく揺らいだ。


「おらたちは繋がってるんだぞ、だからまた会えるぞ、そん時はどんなアイスが出来てるか楽しみだぞ、秀輝も宗哉もありがとな」


 そう言ってニッコリ笑うとサンレイは消えていった。


「サンレイは神様だよ、立派な神様だよ、サンレイ…… 」


 サンレイを抱いていた腕で自身の体をギュッと抱き締めて英二が泣いた。

 隣でしゃがんでいた秀輝も歯を食い絞めながら泣いている。

 サンレイに悲しい顔を見せまいと我慢していたが涙が溢れ出てきて止まらない。


 二人の前で宗哉が土下座をした。


「すまん、全て僕のせいだ。僕が英二くんを巻き込んだんだ。僕がサンレイとハチマルを殺したんだ。ごめんなさい、ごめんなさい…… 」


 プライドの高い宗哉が地面に額をつけて涙を流している。


「ごめんですむかよ、てめえがバカな事しなけりゃ」


 秀輝が宗哉の髪を掴んで顔を上げさせて怒鳴りつけた。


「止めろよ秀輝! ハチマルの話しを聞いただろ」


 英二が大声で止める。


「だけどよ…… 」

「ハチマルやサンレイが悲しむよ、だから止めようよ秀輝」


 不服そうに振り向いた秀輝が英二の泣き腫らした顔を見て宗哉の髪から手を離す。


「くそっ! わあああ~~~っ」


 立ち上がると上を向いて秀輝が大声で叫んだ。


「少しはスッキリするぜ、英二も叫べよ」

「秀輝……そうだな」

「わあああああーーーっ」


 英二も立ち上がって大声で叫んだ。

 体の中にあるもの全てを吐き出すように叫んだ。


「ははっ本当だ。少し楽になるよ、宗哉も叫べよ、みんなで叫ぼうよ」


 英二に言われて宗哉も立ち上がる。


「英二くん、秀輝、サンレイ、ハチマル、ごめんよ、ごめんよ、わあああ~~~~っ」


 宗哉が今まで聞いた事も無いような大声で叫ぶ。

 三人揃って大声で叫んだ。

 やり場の無い怒りをぶつけるような大声が大きな工場内に反響して響いていく。




 11月始めの土曜日、英二は秀輝と一緒に四国にある田舎に来ていた。


 サンレイとハチマルが眠っていた古いパソコンを持って蔵の中に入っていく。

 蔵の中は天上付近にある小窓と入ってきた入り口以外に明かりは無く暗い、目が暗さに慣れてくると置いてある物がぼんやりと見えてくる。


 英二が手に持っていた懐中電灯で蔵の奥の棚を照らす。

 高く積みあがった埃が二ヶ所だけ四角く空いていた。


 秀輝はサンレイの入っていたPC―9801とハチマルの入っていたPC―8801の二台を大事そうに抱くようにかかえている。


「ここに置いてあったのか? 」

「うん、高校の入学祝くれるって言うから5月の初めに祖父ちゃん家に来たんだ。それで何かないか蔵の中捜してたら見つけたんだよ」


 二人とも寂しげな声だ。


「ハチマルは下にあったんだね、気付かなかったよ」


 英二が棚の一番下を照らすとそこにも四角く跡が残っていた。

 上の二つがPC―9801の本体とディスプレイの跡で下がPC―8801の跡だ。


「隣同士仲良く置いてやろうぜ、サンレイとハチマルは姉妹だからな」

「うん、その方がいいね仲良しだもんね」


 言いながら秀輝がパソコンを置く、英二も一緒に手伝って2人で貴重品でも扱うように丁寧に優しく棚に置いた。

 パソコンの上にキーボードやケーブルなどを置いて棚の下にはディスプレイを置いた。

 PC―8801mkⅡSRをいとおしそうに撫でながら秀輝が礼を言う、


「ありがとうなハチマルちゃん、サンレイちゃん、また会えるよな、絶対会いに来てくれよ、約束だぜ」

「サンレイ、ハチマル、ここで少し眠ればまた元気になるよな、神様は死なないって言ってたよな、待ってるからな、いつまでも待ってるからね」


 隣で英二がPC―9801VMを同じように優しく撫でている。

 しばらく名残惜しそうにしていたが英二と秀輝は黙って蔵を出ていった。


 蔵を出ると大きく伸びをしながら英二が大声を出す。


「俺バイト始めるよ、サンレイとハチマルが帰ってきたら服やアイスをいっぱい買ってやるんだ」

「そりゃいいな、俺がバイトしてるコンビニに来いよ、いっぱい稼いでサンレイちゃんとハチマルちゃんにアイスクリーム食べ放題奢ろうぜ」

「いいねぇ、じゃあ一度見に行ってみるかな」


 2人とも蔵の中にいるサンレイとハチマルに聞かせるようにわざと大声だ。

 アイスクリームが大好きなサンレイとハチマルがすぐにでも飛び出してくるような気がして2人が振り返る。


 蔵は静まり返ったままだ。

 英二が黙って頭を下げる。

 隣で秀輝も頭を下げた。


 『ありがとうサンレイ、ハチマル』英二は心の中で礼を言った。


 一緒に暮らしたのは半年にも満たない期間だったが英二も秀輝も決してサンレイとハチマルの事は忘れないだろう、小さな神様との楽しかった日々を…………。

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