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第104話

 水胆の効果で妖力を増した化けイソギンチャクとガルルンが対峙する。


「ガルも少し本気を出すがお」


 ガルルンの姿が変わっていく、頬に毛が生え、鼻と口元が前に突き出てくる。

 普段は人間80%狼20%だが今は人間60%狼40%と言った半獣人姿だ。


「ギチャチャチャチャ、今の俺様は最強だ。誰にも負けん」


 大声で笑いながら化けイソギンチャクが頭の上に生えている触手を伸ばす。


刺胞鞭しほうべん! 」

「そんなもの当たるかがお」


 先程よりも速い攻撃をガルルンが余裕で避けていく、


「わふん! 」


 ガルルンがその場に蹲る。


「体が痺れるがお…… 」


 ヨロヨロと起き上がるガルルンを見て化けイソギンチャクが勝ち誇ったように笑い出す。


「バカめ、俺様の触手は叩くだけではない、振り回すことによって毒針を飛ばすのだ。どうだ。痺れて動けまい、ギチャチャチャチャ」

「毒がお……痺れてるだけがお、こんなもの焼けばいいがお」


 ガルルンの体を赤い炎が覆った。


「貴様、火が使えるのか」


 たじろぐ化けイソギンチャクの前でガルルンが全身をパンパン叩く、


「毒針は全部焼いたがお、この程度の毒はガルでも無効にできるがお」


 体を覆っていた炎が消えるとガルルンが余裕でニヤッと笑った。


「ならば溶かしてやる」


 化けイソギンチャクが頭にある口から溶解液を連続で飛ばしてくる。


「そんなの余裕で避けれるがお、この姿なら楽勝がお」


 溶解液を避けながらガルルンが近付いていく、


「刺胞鞭を喰らえ」


 化けイソギンチャクが長い触手を何本も振り回して鞭のようにして攻撃してくる。


「針毛団子! 」


 ガルルンが針のように毛を立てると丸まって跳ねるように飛んでいく、


「バカな、俺様の刺胞便が効いていないのか? 」


 触手を鞭のように何度も叩き付けても丸まったガルルンは止まらない、ポンポンとボールが跳ねるように飛んでくる。


「溶かしてやるわ! 」


 目の前に迫るガルルンに化けイソギンチャクがお辞儀をするように頭の天辺にある大きな丸い口を向ける。


「咆哮火! 」


 丸まっていた体を直前で広げるとガルルンが口から火を吐いた。


「ギソソォ~~ 」


 飛ばした溶解液ごと焼かれて化けイソギンチャクが悲鳴を上げる。


「火はダメだ。燃える、焼ける」


 後ろに逃げながら化けイソギンチャクが頭の上の口から泡を吹きだして炎を消していく、


「お前本物の妖怪じゃないがお、本物なら水胆を使えばもっと強くなってるがう、妖気も薄いし匂いも変だったがお」


 ガルルンが化けイソギンチャクを指差した。


「何を言う、俺様は本物だ。本物の妖怪だ」


 化けイソギンチャクが大声で言い返す。

 顔が無いので表情はわからないが声から動揺しているのがわかる。


「中途半端な妖怪の紛い物がお、溶解液も溶かすだけ、触手の毒も普通の毒で妖気など入ってないがお、だからガルには効かないがお」


 ガルルンが化けイソギンチャクを見据えた。



 少し離れた所で英二がサザエ鬼と戦っている。


「サザザザザ、お前を捕まえて俺も力を貰うとしよう」


 愉しげに笑いながらサザエ鬼が足も無いのにカタツムリやナメクジのように体を伸縮させて走ってくる。


「爆突、6寸玉! 」


 英二が爆発する気を放つ、向かって来ている最中なら殻に入ることも出来ない、殻に入れば移動できずに攻撃が止まる。どちらにしても英二に有利だ。


「サザザザ、同じ攻撃ばかりだ」


 サザエ鬼が右手に付けていた大きなサザエの蓋を盾にして爆発する気を防いだ。


「ヤバい、爆跳! 」


 英二が足下を爆発させて大きくジャンプして目の前に迫るサザエ鬼から逃れた。


「飛んだだと? 」


 驚いて動きを止めたサザエ鬼から8メートル程離れたところへ英二が降りた。


「うわっとっとっと………… 」


 よろけながら英二が足を踏ん張った。

 以前は3度に1度しか旨く着地できなかったのだが訓練の成果もあって半分は旨く降りられるようになっていた。

 そこへ武器を取りに行っていた秀輝と宗哉が戻ってきた。


「英二大丈夫か? 俺も戦うぜ」


 警棒型スタンガンを構えて秀輝がニッと歯を見せて笑った。


「ガルちゃんは一人でどうにかなりそうだね」


 ガルルンを見ている宗哉の手にも60センチ程の警棒型スタンガンが握り締められている。

 以前、豆腐小僧たちと一緒に化けイチョウと戦った時に使ったものと同じスタンガンだ。化けガエルを倒すことが出来たのを見て宗哉が車の中に常備させているのだ。

 マジ顔の英二が2人を見つめる。


「サザエ鬼は俺がどうにかする。秀輝と宗哉はハマグリ女房を頼む」

「了解した。ララミとサーシャと僕たちでハマグリ女房の相手をするよ」

「任せろ、ハマグリ女房は近付けさせねぇぜ」


 爽やかにこたえる宗哉の隣で秀輝が笑顔で頷いた。


「サザザ、人間など何人来ようと同じだ」


 サザエ鬼が蓋を盾にして向かってくる。


「クソサザエ、こっちで相手してやる」


 英二は道路から外れて土が剥き出しの空き地へと向かう、


「クソサザエだと……ザザザザザ、俺を怒らせたな、手足の1本ほど引っこ抜いてやる。殺さなければ構わんだろう」


 挑発に乗ってサザエ鬼が怒鳴りながら英二を追って行く、


「爆練、2寸玉! 」


 英二が小さな爆発する気を連続で地面に叩き付けた。


「ぐおぅ、なんだ? 煙幕か」


 土煙が上がりサザエ鬼の視界が遮られる。

 右横に回って英二が近付いていく、


「爆刀、薙刀! 」


 土煙の向こう、サザエ鬼がいた辺りを目掛けて英二が手刀を振った。


「ザヘェェ~~ 」


 サザエ鬼の悲鳴が聞こえて英二がダダッと走って距離を置く、


「ザゲゲェ~~、よくも俺の腕を…… 」


 土煙が収まった先に何本か生えていた腕の2本を押さえて呻くサザエ鬼がいた。

 その足下に触手のような手が2本落ちている。

 英二の爆発する手刀の1つ、3メートル程先の相手を攻撃できる薙刀で切り落としたのだ。


 当てずっぽうじゃこんなもんか……、英二が舌打ちをした。土煙でサザエ鬼が攻撃を避けられなかったように英二も正確な攻撃は出来ていない。



 少し離れた道路の上では秀輝と宗哉がララミとサーシャを援護するようにハマグリ女房と戦っていた。

 華麗なステップを取りながらサーシャがハマグリ女房に殴り掛かる。


「うふふっ、戦いが苦手と言っても機械人形や只の人間には負けませんよ」


 サーシャの右ストレートを避けたハマグリ女房の背にララミが正拳突きを放つ、


「くっ!! 」


 呻きをあげながらハマグリ女房がララミの腕を掴んだ。


「軟体とは言えバカ力で殴られれば痛いのよ」


 ハマグリ女房が80キロ以上あるララミを片手で放り投げる。


「くそったれが! 」


 ララミを持ち上げ大きく腕を振るハマグリ女房の脇へ秀輝が警棒型スタンガンを叩き込んだ。


「キヒィ~~ 」


 ハマグリ女房がビクッと体を仰け反らせて悲鳴を上げた。


「ひっ、ひぃぃ…… 」


 ハマグリ女房がジャンプして秀輝たちと距離を取る。


「スタンガンは効くようだね」


 観察するように見ていた宗哉に秀輝が振り返る。


「ああ、化けガエルと同じだ。1度じゃ無理だが何度も喰らわせれば倒せるぜ」


 スタンガンを握り直す秀輝を見て頷くと宗哉は視線をララミに移す。


「ララミ大丈夫かい」

「御主人様、大丈夫です。服が破れて人工皮膚に傷が付いただけです」


 汚れを払いながらララミが起き上がった。

 ハマグリ女房がマジ顔で秀輝たちを睨み付ける。


「スタンガンとか言うヤツね……長引けばチビの神も出てくるわね」


 宗哉が前に出てきた。


「降参しろ、僕たちの勝ちだ。もう直ぐサンレイちゃんとハチマルさんが出てくる。お前たちに勝ちなど無い、今すぐサザエ鬼と化けイソギンチャクを止めろ、降参すれば命は助けてやる」


 はったりだ。サンレイとハチマルが何時出てくるかなど宗哉にわかるわけがない。

 マジ顔から一転、ハマグリ女房がにんまりと笑った。


「仕方ない、さっさとケリを付けましょう」


 ハマグリ女房がスゥーッと溶けるように姿を消した。


「なに? 消えやがった。逃げたのか? 」


 驚く秀輝の前で宗哉がララミとサーシャに命じる。


「ララミ、サーシャ、ハマグリ女房を攻撃しろ」

「了解しましたデス」

「現在のカメラでは追跡不可です。センサーを切り替えます」


 サーシャとララミの目が赤く光った。要人警護用のメイロイドである2人には超スローカメラや赤外線など各種センサーが備え付けられている。

 秀輝の後ろへ駆けてくるとサーシャとララミが何もいない空間を攻撃する。


「うふふっ、機械人形の癖にやるじゃない」


 後ろから声が聞こえて秀輝が驚いて走って距離を取った。


「そんなところにいるのかよ? 見えないぜ」


 ララミとサーシャがハマグリ女房と戦っているのはわかったが秀輝には目を凝らしても何も見えない。


「蜃気楼だよ、前にハチマルさんが言ってた。ハマグリ女房は蜃気楼を使って姿を消すんだ。消えたのじゃなくて見えなくなっただけだ。僕らには見えないがララミとサーシャのセンサーなら探すことが出来る」


 宗哉の説明で納得したのか秀輝が頷く、


「成る程な、でもこれじゃ俺たちは攻撃できないぜ」


 スタンガンを構えて躊躇う秀輝の前でララミとサーシャが動きを止めた。


「どうした? 」

「消えましたデス」

「御主人様、ハマグリ女房を感知できません」

「バカな、消えたっていうのか」


 驚く宗哉の元にララミとサーシャがやってくる。


「はい、全てのセンサーに反応ありませんデス」

「私の方も同じです。センサーの故障とは思われません」


 宗哉を護衛するように左右に付きながらサーシャとララミが言った。


「逃げやがったのか? 」


 顔を顰める秀輝の向かいで宗哉が続ける。


「サンレイちゃんとハチマルさんが居なければ勝てると思ったんだろうがガルちゃんは元より英二くんだけでなく僕たちが予想以上に戦えるのがわかって逃げたのかも知れないね、僕たちは英二くんと合流してサザエ鬼を倒そう、ハマグリ女房に効くならサザエ鬼にも効くはずだよ」

「了解だ。俺たちでサザエ鬼を倒してやろうぜ」


 警棒型スタンガンを握り直すと秀輝を先頭に宗哉とララミとサーシャが道路の向こうで戦っている英二の元へと向かった。



 英二の爆発する気を受けてサザエ鬼が吹っ飛んで転がった。


「くそっ、また殻に潜りやがった。殻をどうにかしないとダメだな」


 肩で息をつきながら英二が愚痴る。

 サザエ鬼は術が使えないらしく肉弾戦しか仕掛けてこない、スピードも人間と同じくらいなので英二は避けたり爆破させて防ぐことができた。

 サザエ鬼の攻撃を防ぐことはできるが此方の攻撃もサザエの大きな殻には通用しない、防御と攻撃で爆発する霊気を使い過ぎて英二は疲れが溜まっていた。


「情けない! 立ちなさいサザエ鬼」


 土が剥き出しの地面に転がるサザエ鬼の横にハマグリ女房がスッと現われた。


「お前!? 」


 英二が慌てて道路の向こうを見る。


「よかった。秀輝たちは無事だ」


 此方へ走ってくる秀輝と宗哉を見て安堵すると直ぐに向き直る。

 ハマグリ女房の横でサザエ鬼が殻から身を出して立ち上がる。


「サザザ……生きたまま捕らえろと言うから手加減している。殺していいなら直ぐに始末を付けてやる」

「殺してはダメよ、英二くんは大妖怪なま様に捧げる大切な人間なのよ」

「なま様? 誰だ」


 大きな一つ目で怪訝に見つめるサザエ鬼の前でハマグリ女房が妖艶に微笑んだ。


「いずれ妖怪も人間も全てを支配する大妖怪です。貴方に与えた妖力の詰まった水晶玉もなま様から頂いたものですよ」


 サザエ鬼が大きな目を愉しそうに輝かせた。


「妖怪も人間も支配すると言うのか? 面白い、それ程の大妖怪なら手下に付こう」

「その為にも英二くん……あの人間が必要なのです」


 英二を指差しながらハマグリ女房が胸元から水胆を取り出す。


「これが欲しかったのでしょう? 貴方に力を授けますから英二くんを絶対に捕まえなさい、殺さなければ手足を切っても構いません」

「おお、俺も化けイソギンチャクのように強くなれるのだな」


 歓喜しながらサザエ鬼が水胆を飲み込む、


「サザザザザ、力が湧いてくる」


 サザエ鬼の体がムクムクと膨れていく、背中に背負っていた丸みを帯びた殻に無数の棘が生えてきた。


「サザザザザ、凄いぞ、この力は……俺は本物の妖怪だ。サザザザザ」


 二回りも大きくなったサザエ鬼が英二をギロッと睨む、


「手足を切り落として捕まえてやる」

「殺してはダメよ、旨く行けば大妖怪なま様に取り立てて貰えるわよ」

「サザザザザ、わかっている。これ程の力をくれる大妖怪だ。手下になって損は無い」


 大笑いするサザエ鬼からハマグリ女房がすっと離れていった。



 英二の元へ秀輝と宗哉が駆け付ける。


「あれは……さっきと全然違うぜ」

「水胆だ。水胆で強化しやがった」


 驚く秀輝に英二が説明した。


「ごめん英二くん、僕たちがハマグリ女房をどうにかしていれば…… 」


 申し訳なさそうに顔を窺う宗哉に英二がニッと笑みを向ける。


「謝らなくていい、それよりも手を貸してくれ、殻に入られたら俺の爆発じゃどうにもならない、隙を突いてナメクジみたいな本体に爆突か爆刀を当てなきゃ無理だ」

「俺に任せろ、爆発は無理でもスタンガンなら効くんじゃないか? 」


 警棒型スタンガンを構えながら秀輝が言った。


「水属性の妖怪だから電気は有効かも知れない、ハマグリ女房にも効果あったからね」


 宗哉が腰に付けていた予備の警棒型スタンガン2本をララミとサーシャに持たせた。


「僕や秀輝が不用意に近付くのはヤバい、ララミとサーシャにやらせてみるよ」


 右手に霊力を溜めながら英二が頷く、


「わかった。俺が爆発させて土煙を作る。その後で突撃させてくれ、隙が出来たら俺が爆刀で叩き切ってやる」


 作戦が決まった。


「サザザザザ、サザザザザ、人間が何人来ようと同じだ。サザザザザ」


 水胆でパワーアップしたサザエ鬼は余裕に構えている。


「爆練、2寸玉! 」


 英二が左手から爆発する気を連続で放ちサザエ鬼の周りに土煙を作る。


「ララミ、サーシャ、行け! 」


 宗哉が命じると目を赤く光らせたララミとサーシャが土煙の中へ向かって行った。


「大薙刀で叩き切ってやる」


 土煙の前まで進むと英二が右手を構える。


「ザヒェ~、電気か? 貴様ら…… 」


 サザエ鬼の悲鳴が聞こえてきた。

 英二の右手から霊気の白い靄が立つ、何時でも攻撃できる状態だ。


「嘗めるなよ、殻車! 」


 サザエ鬼の怒鳴り声が聞こえ、次の瞬間、ララミとサーシャの電子音が響く、


「ビビーッ、ピッ、ピガガッ、ビピーーーッ 」

「どうしたサーシャ、状況を説明しろララミ」


 宗哉の大声に返事はない。

 土煙が消えてく、


「ララミ! サーシャ!! 」


 宗哉と英二が同時に叫んだ。

 サザエ鬼の背中の大きな殻から伸びた棘にララミとサーシャが刺さって動きを止めていた。機能停止だ。


「サザザザザ、機械人形など敵ではないな」


 サザエ鬼が笑いながらララミをサーシャを振り落とす。


「てめぇ! 」


 警棒型スタンガンを構えて秀輝が突っ込む、


「死にたいか! 螺旋突き! 」


 サザエ鬼が大きな口から水を螺旋のように飛ばす。


「爆突、5寸玉! 」


 英二の爆発する気がサザエ鬼の水攻撃を防いだ。

 その隙に秀輝がサザエ鬼の脇腹に警棒型スタンガンを叩き付けた。


「ザヒヒィ~~ 」


 叫びを上げてサザエ鬼が背中の殻に入っていく、


「この野郎! 」


 殻に入ったサザエ鬼を秀輝が警棒型スタンガンで殴りつけるがびくともしない。


「くそっ、殻には効果無しかよ」


 吐き捨てて秀輝が戻ってくる。

 その後ろでサザエ鬼の殻が動いた。


「殻車! 」


 グルグル回って殻が宙に浮く、


「秀輝危ない!! 」


 駆け寄った英二が右手を殻に向ける。


「爆刀、薙刀! 」


 英二の右手から白い霊気が伸びていく、グルグル回るからに当たると爆発した。


「助かったぜ英二」


 安堵した秀輝の目に腹を真っ赤に染めた英二が映った。


「英二くん! 」


 後ろから宗哉が形振り構わず駆けてきた。


「ぐぅ……へへっ、やられた」


 気丈に笑う英二の腹にサザエ鬼の殻から生えた棘が2本刺さっていた。



 離れた所で見ていたハマグリ女房がやってくる。


「何をやっている! 殺したら意味がないでしょうが」


 怒鳴りつけられてサザエ鬼が萎縮する。


「すっ、済まん、向こうの人間を殺そうとしたんだ。英二が飛び出してくるとは思わなかった。態とじゃない」

「わかったわ、さっさと英二くんを連れてきなさい、応急処置をしてなま様の元へ連れて行きます」


 謝るサザエ鬼にハマグリ女房が命じた。

 返事も返さずにサザエ鬼が英二たちの前に立つ、


「お前らは見逃してやる。英二を置いて消えろ」


 大きな一つ目で秀輝と宗哉を睨み付けた。


「英二くんは渡さない」


 宗哉が警棒型スタンガンを構える。


「英二ごめんな、今度は俺が守るからよ」


 英二を抱えていた秀輝も立ち上がった。


「死にたいのか貴様ら! 」


 怒鳴って触手を振ったサザエ鬼が吹っ飛んで転がった。


「英二はガルが守るがお」


 ガルルンがトンッと秀輝たちの前に降り立った。


「山犬か…… 」


 サザエ鬼がくるっと立ち上がる。

 水胆で強化しているのでガルルンの蹴りを受けても平然としていた。


「ガルちゃん、あいつを頼む、僕は英二くんを病院に連れて行くから」

「わかったがお、早く連れて行くがお」


 振り向きもせずにこたえるガルルンの後ろで血塗れの英二を秀輝が背負う、


「そうはいかないわよ、英二くんは私が貰うわ」

「サザザザザ、山犬は俺が殺す」


 秀輝と宗哉の前をハマグリ女房が塞ぎ、ガルルンの前にサザエ鬼が立った。


「ガルが道を作るがお、英二を頼むがお」


 ニッと笑みを見せるとガルルンが物凄い速さでハマグリ女房の首根っこを掴んでサザエ鬼の前に叩き落とした。


「ガルちゃん済まねぇ! 」


 大声で言うと英二を背負った秀輝が走り出す。

 その後ろ、サザエ鬼と対峙するガルルンに化けイソギンチャクが襲い掛かる。


「イソソソソ、お前の相手は俺様だ」

「がっ、しまったがお」


 ガルルンの手足に化けイソギンチャクの頭から生えた触手が無数に絡まる。


「いいぞ、イソギンチャク、そのまま押さえていろ」


 前からサザエ鬼が殴り掛かる。


「こんなもの焼き切ってやるがお」

「火は使わせないぞ、サザザザザ」


 体から炎を噴き出すガルルンにサザエ鬼が口から水を出して浴びせた。


「イソソソソ、このまま丸呑みしてやる」


 触手を絡めたガルルンを持ち上げると化けイソギンチャクは頭の上にある丸い大きな口元へと持っていく、


「がっ……がふっ…… 」


 苦しげに呻きながらガルルンが化けイソギンチャクに飲み込まれていった。

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