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第103話

 小乃子たちを連れて走り出す秀輝と宗哉を見てHQがサンレイとハチマルを閉じ込めている大きな岩の上にポンッと飛び乗る。


「お話しは終わりましたか? 何やら相談されていた様子ですが……私としては英二くんが抵抗などせずに黙って着いてきてくれれば一番なんですがね」


 ガルルンが英二の前に出る。


「寝言は寝て言うがお、クソ坊主などガルだけで充分がお」


 伸ばした爪に炎を灯すガルルンの後ろで英二が両手に霊気を溜める。


「私たちも戦いますデス」

「英二さんを御守りします」


 サーシャとララミが英二の左右で構えた。


「俺が援護する。サーシャとララミは隙を見てガルちゃんと協力して攻撃してくれ」


 攻撃を仕掛けようとした時、後ろから秀輝の怒鳴り声と晴美の悲鳴が聞こえてきた。


「てめぇは!? 」

「きゃぁ~~ 」


 ガルルンがサッと振り返る。


「ハマグリ女房がお」


 英二も振り返るがとっくに砂浜から出ていった秀輝たちの姿は見えない、ガルルンは匂いで分かったのだろう。


「くそぅ…… 」


 焦る2人を見てHQが楽しそうに口を開く、


「予定通りですね」


 英二が前に向き直る。


「ガルちゃんはハマグリ女房を頼む、俺はこいつをどうにかする。ララミとサーシャも居るから大丈夫だ」

「でも英二1人じゃ……わかったがお、ハマグリなんて直ぐに倒してくるがう、それまで持ち堪えるがお」


 ガルルンが秀輝たちの元へと駆けていく、


「フフフッ、お前如きが1人で私の相手になるわけないでしょう」


 大きな岩の上でHQがバカにするように笑った。


「身の程を知れ! 」


 楽しそうな笑い声から一転、怒鳴りながらHQの振った錫杖が英二を吹っ飛ばす。


「ぐぅぅ…… 」


 3メートルほど吹っ飛んで砂浜に転がる英二を一瞥するとHQが大きな岩からトンッと飛び上がる。

 ガルルンよりも先にHQがハマグリ女房の横へと降り立った。


「HQ様、首尾は? 」

「神は2人とも結界の中です」


 にこやかにこたえるHQを見てハマグリ女房がにんまりとほくそ笑む、


「うふふっ、残りは山犬だけ、私の勝ちは決まったようなものです」

「後は任せましたよ、私は戦いは嫌いなんですよ」

「お任せ下さい、神が居なければどうとでもなります。御助力ありがとうございました」


 頭を下げるハマグリ女房に微笑むとHQが錫杖をアスファルトに打ち付ける。


「なんの、美しい貴女の助けならこのくらい軽いものですよ、では失礼します」


 煤けた法衣をバサッと翻すとHQがスッと姿を消した。


「がる? クソ坊主が消えたがお、気配も匂いも無くなったがお」


 首を傾げるガルルンの元へ後ろから英二が全力で走ってきた。


「秀輝無事か? そっちに坊主が行っただろ」


 ハマグリ女房を睨み付けながら慌てて訊く英二にガルルンが説明する。


「クソ坊主は消えたがお、近くには居ないがう、ガルは一度覚えた匂いは直ぐにわかるがお、また来ても直ぐに見つけるがお」


 ガルルンの隣りに英二が並ぶ、


「ハマグリ女房だけって事か、俺たちで倒そうガルちゃん、あいつが全ての元凶だ」

「この前の仕返しをしてやるがお、花粉症で酷い目に遭わされたがう、ぶん殴って倍返ししてやるがお」


 いきり立つガルルンの後ろから宗哉が声を掛ける。


「待ってくれ、たぶん罠だよ、ハマグリ女房が一人なんておかしいよ、それにあの狐面の坊主は何処へ行った? 僕たちの隙を突いて襲ってくるかも知れない、戦うにしても慎重に動いた方がいい」


 振り返りもしないで英二がぐっと拳に力を込める。


「そうだな、油断はしない、でもハマグリ女房はここで倒す。学校のみんなを巻き込んであいつだけは許せない」

「英二くん……ダメだよ落ち着いてくれ」


 止めようとした宗哉にガルルンが振り返る。


「大丈夫がお、他の匂いはしないがう、ハマグリと海の匂いだけがお、坊主の匂いも完全に消えてるがお、今のうちに倒してやるがお」


 宗哉の肩を秀輝がグイッと掴んだ。


「ガルちゃんの言う通りならチャンスだぜ、一人のうちにハマグリ女房をやっつけようぜ」

「秀輝まで……わかった。僕も戦おう」


 宗哉が覚悟を決めた表情で前を見つめる。ハマグリ女房ではない、その後ろを宗哉は見ていた。


「サーシャ、ララミ、英二くんと協力してハマグリ女房を倒せ」

「了解しましたデス、御主人様」

「御主人様、了解です。ハマグリ女をぶん殴ればいいのですね」


 いつの間に来たのかハマグリ女房を囲むようにサーシャとララミが立っていた。



 ハマグリ女房が引っ詰め髪を振り解いた。


「うふふっ、残念でした。私だけじゃないわよ」


 妖艶に微笑みながら大きな胸の谷間からサザエとイソギンチャクを取り出すと足下に放り投げた。


「妖怪がお、英二気を付けるがお」

「妖怪? サザエとイソギンチャクが? 」


 構えるガルルンと睨み付ける英二の前、アスファルトに転がったサザエとイソギンチャクがムクムクと大きくなっていく、


「サザザザザ」

「イソソソソ」


 サザエ鬼と化けイソギンチャクが奇妙な声を上げて英二たちの前に立った。


「サザザザザ、あの人間だな、あの霊力の高い人間を捕まえればいいのだな」

「イソソソソ、犬の妖怪を倒せばいいのだな、俺様に任せろ、俺様が喰らって犬の妖力を取り込んでやる」


 奇妙な声で笑う2匹にハマグリ女房が命令する。


「英二くん……霊力の高い人間は殺すな、生きたまま捕まえろ、山犬と残りの人間は好きにしていい、殺すなり食うなりお前たちの好きにしろ」

「サザザザ、わかった。あの人間を捕まえればいいのだな」


 サザエの化け物が英二を指差す。指差すと言っても人のような指は無い、触手のような長い腕だ。

 背丈は1メートル半、ヌメヌメとしたナメクジのような軟体で足は無いが触手のような腕が複数生えている。1つ眼に大きな口が胴体に直接付いていた。

 1メートルはある大きな貝殻を背負い、触手の1本にサザエの蓋を持っていた。


「イソソソ、俺様は山犬を喰らってやる。小魚や小エビは食い飽きた。これからは人間どもを食いまくってやる」


 イソギンチャクの化け物が奇妙な声を上げて笑う、笑っているが口は見えない、それもそのはず胴体の何処にも顔らしきものは無い、イソギンチャクをそのまま2メートルほどの大きさにしたような姿をしている。

 切り株のような身体の天辺に細い触手が無数に生えていてその中央に大きな丸い口があった。目鼻は見当たらない、目が無くとも英二たちの動きはわかるらしい。


 ハマグリ女房がサッと手を振った。


「行けサザエ鬼、化けイソギンチャクは山犬を殺せ」

「サザザザザ」

「イソソソソ」


 サザエ鬼が英二の前に立ち、化けイソギンチャクがガルルンと向き合った。



 後ろで見ていた委員長が呟いた。


「あれがサザエ鬼か…… 」


 横から小乃子が腕を引っ張る。


「知ってるのか菜子」


 頷いてから委員長が説明を始める。


「妖怪図鑑に載ってたわ、中国の諺に『雀海中に入りて蛤となり、田鼠化して鶉となる験しもあれば、造化の為す所、栄螺も鬼になる』って言うのがあるの、つまり雀もハマグリになるらしいし、ネズミもウズラになるらしい、ならサザエだって鬼ぐらいになるだろうって意味よ、それで30年以上生きたサザエが霊力を付けるとサザエ鬼になるらしいの、和歌山の海によく現われた妖怪らしいわ、美女に化けて漁師を襲ったり渦を作って船を沈めたりしたらしいわよ」


 2人の前に居た秀輝が振り返る。


「それでもう1匹のイソギンチャクの妖怪は知らないのか? 」

「イソギンチャクの妖怪は載ってなかったわね、キモいから載ってたら絶対覚えてるわよ」


 首を傾げる委員長の横で小乃子が心配そうに秀輝を見つめる。


「それでどうするんだよ、ハマグリとサザエとイソギンチャクの3匹だよ」

「ガルちゃんと高野くんだけじゃ危ないよ」


 小乃子の後ろで晴美が心配そうに言った。


「俺も戦うぜ、サーシャとララミに手を貸して貰えれば俺だって戦えるぜ」


 武器になるものは無いかと辺りを探す秀輝を委員長が止める。


「戦うって足手纏いになったらそれこそガルちゃんと高野が危なくなるわよ」


 黙って何かを考えていた宗哉が口を開く、


「大丈夫だ。ハマグリ女房はそれ程強くはない、だから他の妖怪を使うんだ。武器を取ってこよう、ハマグリ女房は僕と秀輝で戦う、倒せないとしても英二くんたちの邪魔はさせないように押さえることくらい出来るはずだ。サザエ鬼と化けイソギンチャクはガルちゃんと英二くんに任せよう、サンレイちゃんたちが出てくるまでどうにか持ち堪えるんだ」


 秀輝が大きく頷いた。


「了解だ。そうと決まれば早く武器を取りに行こうぜ」

「あたしも戦うよ、スタンガンがあるんだろ? スタンガンならあたしでも戦える。援護くらい出来るよ」

「わかった。けど無茶はするなよ、援護だけしてろ」


 別荘に向かって走り出す秀輝に小乃子たちも慌てて付いていく、


「20分か……ハチマルさん早く出てきてくれ」


 厳しい表情で呟くと宗哉が最後に続いて走り出した。



 サザエ鬼に英二が腕を突き出す。


「爆突、5寸玉! 」


 一点集中型の爆発である爆突がサザエ鬼にぶち当たる。


「なん!? 殻に入ったのか? 」


 爆発が収まった場所に1メートルほどのサザエの殻があった。


「サザザザザ」


 大きなサザエからヌルッとサザエ鬼が出てくる。


「サザザ、この程度なんともないわ、サザザザザ」

「5寸玉じゃ傷1つ付かないってのかよ」


 不敵に笑うサザエ鬼の前で英二が顔を顰めた。

 爆突の5寸玉は軽自動車を吹き飛ばすほどの威力がある。


「英二、今行くがお」


 心配顔のガルルンに化けイソギンチャクが襲い掛かる。


「お前の相手は俺様だ。イソソソソッ」


 頭の上に生える触手でガルルンを絡め捕ろうとした。


「焔爪! 」

「ギソソソォ~~ 」


 触手を切られて化けイソギンチャクが悲鳴を上げる。


「焼きイソギンチャクにされたいがお」


 伸ばした爪に炎を灯してガルルンが牙を見せて威嚇する。


「イソソソッ、溶解液を喰らえ! 」


 化けイソギンチャクが頭の上にある大きな口から液体を飛ばす。


「がふふん、そんなもの当たらないがお」


 余裕で避けるガルルンの足下に落ちた液体がアスファルトを溶かしていく、


「わふん? 道路が溶けてるがお、溶かす液の攻撃がお」


 首を傾げるガルルンの前で化けイソギンチャクが大笑いする。


「イソソソソ、そうだ。俺様の胃液だ。岩でも鉄でも溶かすのだ。貴様も溶かしてやる」


 化けイソギンチャクが溶解液を連続で飛ばす。


「当たらなければどうという事はないがお」


 避けながらガルルンが化けイソギンチャクに近付いていく、


「がうがうパ~ンチ! 」

「ギソソォ~~ 」


 ガルルンのパンチを受けて化けイソギンチャクが吹っ飛んで転がった。

 隣では英二がサザエ鬼に爆発する気を続けて飛ばしている。


「爆練、4寸玉! 」

「サザザザザ、そんな攻撃など効かん」


 殻の中からサザエ鬼が嘲る。


「これでどうだ!! 爆突、6寸玉! 」


 英二が中型トラックを吹き飛ばす威力のある爆突を放った。

 大きなサザエが5メートルほど吹っ飛んでいく、


「サザザザザ、効かん効かん」


 吹き飛んだ先でサザエ鬼が貝殻からヌルッと身を出して大笑いだ。

 その後ろからガルルンが飛び掛かる。


「ガルガルキィ~ック! 」

「サヒヒィ~~ 」


 ヌメヌメとした軟体の身体に蹴りを諸に受けてサザエ鬼が苦しげに悲鳴を上げた。


「雑魚妖怪がお、2匹ともガルが焼き殺してやるがお」


 英二の前で構えるガルルン、その向かいでサザエ鬼の横に化けイソギンチャクが並んだ。



 少し離れた所で見ていたハマグリ女房が動く、


「逃がしませんデス」

「貴女の相手は私たちですよ」


 ハマグリ女房を見張っていたサーシャとララミが向かって行く、


「KOしてやりますデス」


 ボクシングの動きをプログラミングされているサーシャが鋭いジャブをぶちかます。


「機械人形が…… 」


 一流プロボクサーの数倍の威力があるパンチを受けてもハマグリ女房は平然としている。

 ララミが胸倉を掴み、足払いを掛けてハマグリ女房を投げ飛ばす。背負い投げだ。


「英二さんとガルルンさんの邪魔はさせません」


 ハマグリ女房がくるっと身体を捻って着地した。


「無駄ですよ、人の姿をしていますが私も元は軟体動物です。霊気や妖気の籠もっていない貴女たちのパンチなどいくら受けて効きません」


 ニヤリと笑うとハマグリ女房が大きくジャンプをした。


「即席の妖怪じゃ山犬の相手は無理ね」


 化けイソギンチャクの後ろに降り立ったハマグリ女房が胸の谷間から水胆を取り出す。


「これを使いなさい」


 化けイソギンチャクの頭の上にある大きな口に水胆を放り込んだ。


「イソソ…… 」


 化けイソギンチャクがブルッと震えた。


「水胆を使ったがお、妖気が吹き出してるがお」


 驚くガルルンの前で化けイソギンチャクがムクムクと膨らんでいく、


「ギチャチャチャチャァ~~ 」


 雄叫びを上げると化けイソギンチャクが倍以上に伸びた触手を振り回す。


「ギチャチャチャ、力が漲る。俺様は不死身だぁ~~ 」


 水胆の効果で力を増した化けイソギンチャクが溶解液を連続で飛ばす。


「危ないがお」


 ガルルンが英二を抱えてジャンプした。


「なっ、何だあれは…… 」


 着地した英二が驚く、先程まで居た道路に50センチ程の穴が空いていた。


「溶解液がお、何でも溶かすがう、さっきよりもパワーアップしてるがお、まともに浴びたら人間なんて即死がお」


 ガルルンの顔から余裕が消えた。


「水胆か、厄介だな、でも15分ほどしか持続しないはずだったよな」

「そうがお、15分でも厄介がお、イソギンチャクはガルがやるがお、英二はサザエを頼むがお」

「了解した」


 拳を構える英二の元へサーシャとララミがやって来る。


「英二くん大丈夫デスか? 」

「見張るように命令されていたのですが申し訳ありません」


 頭を下げるララミを見て英二が微笑む、


「ありがとう、大丈夫だ。サーシャとララミはまたハマグリ女房を頼む、何かしようとしたら止めてくれ」


 ララミとサーシャを嗾けたりはしない、相手を倒すのではなくサンレイとハチマルが結界から出てくるまでの時間を稼ぐのが最優先だ。

 化けイソギンチャクの変化を見てサザエ鬼がハマグリ女房の傍にやって来る。


「凄いぞ、俺にもくれ、あの力があれば直ぐにでも倒してやる」

「貴方の役目は英二くんを捕らえることですよ、水胆の効果は短い、貴方には必要ありません、加減できずに英二くんを死なせては困ります」


 微笑みながらこたえるハマグリ女房にサザエ鬼が詰め寄る。


「化けイソギンチャクだけとはズルい、俺も貰う権利がある筈だ。くれないならお前には従わん、サザエに戻すというなら戻せばいい、あの人間を捕まえたいのだろう? 」

「うふふ……どうしても欲しいのなら英二くんを捕まえなさい、そうすればあげますよ」


 バカにするように笑いながらハマグリ女房が言った。


「サザザザザ、あの人間を捕まえればくれるんだな、直ぐにでも捕まえてやる」


 バカにされているのも構わずにサザエ鬼は喜び勇んで英二の前に戻ってきた。


「サザエ鬼くらい俺一人で持ち堪えてみせる。ガルちゃんは俺に構わずイソギンチャクを倒してくれ、ララミとサーシャはハマグリ女房を頼む」


 英二の指示でガルルンとララミとサーシャが動いた。

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