第102話
楽しい時間はあっと言う間に過ぎて4日目となる。本日の夕方に帰る予定だ。
午前中、英二たちは砂浜で遊んでいた。
ネットを挟んでサンレイとハチマルが睨み合う、
「今日は絶対に勝つぞ」
「そう旨く行くかのぅ、今日も儂らが勝ってゲームソフト2個目ゲットじゃ」
初日のビーチバレーではハチマルと小乃子のチームが優勝して賞品としてゲームソフトを買ってもらう事になった。
最終日の今日、夕方には帰るので遠出はしないで近くの海で遊ぶこととなりサンレイがビーチバレーの再試合を提案したのだ。
サンレイはどうしても欲しいゲームソフトがあるらしい。
「では試合開始! 」
審判である委員長の掛け声でサンレイと宗哉のチームとハチマルと小乃子のチームの勝負が始まる。
英二たちと並んで見ていたガルルンがぽつりと呟く、
「もっと居たいがお、春休みの間ずっとここで遊びたいがお」
「そうだね、動物園だけでも一日中遊べたもんね」
寂しそうに言うガルルンの背に手を伸ばして晴美が抱き寄せた。
「でも夏も招待してくれるって宗哉くん言ってたから、夏は一緒に泳ごうね」
「早く夏になるといいがお、晴美と一緒にいっぱい遊ぶがお」
2人の話を並んで聞いていた英二が声を掛ける。
「夏はもっと楽しいよ、海で泳ぐのはもちろん、花火も出来るし、楽しいこといっぱいあるよ、去年は3日だったけど今年は5日ほど予定取ってくれるって宗哉言ってたし」
「だな、やっぱ海の中で遊ぶのが一番楽しいからな、それに浜で花火するのも楽しいぜ」
秀輝も思い出したかのように満面の笑みだ。
ガルルンがひょいっと首を伸ばして英二たちを見る。
「楽しそうがお、ガルは泳ぐのも得意がう、山の池や川で泳いでたがお、夏は晴美といっぱい泳ぐがお」
「うん、一緒に泳ごうね、私は泳ぐのあまり上手じゃないからガルちゃんに教えて貰おうかな」
背を抱きながら晴美が言うとガルルンが得意気に鼻を鳴らす。
「がふふん、教えてあげるがお、水泳ならガルはサンレイより旨いがお」
「そうなんだぁ~、サンレイちゃんより旨いなんて凄いよね」
大袈裟に驚く晴美を見てガルルンが得意満面の笑顔になった。
英二が思い付いたように口を開く、
「夏前にみんなで水着を買いに行こうよ、ガルちゃんやサンレイたちの水着を買わないとダメだし、篠崎さんたちにもプレゼントするよ、委員長や篠崎さんはいつもサンレイたちの面倒見てくれてるからな」
「だな、俺も協力するぜ、サンレイちゃんたちへのプレゼントなら文句無しだ」
秀輝が直ぐに賛成する。もちろんハチマルや委員長たちの水着姿に期待しているのは言うまでもない。
「やったがお~~、可愛いのを買って貰うがお、晴美と一緒に選ぶがお」
大喜びするガルルンの横で晴美が遠慮がちに口を開く、
「そんな悪いよ……水着って結構高いよ」
2人を見て英二が優しい顔で続ける。
「遠慮しなくていいよ、俺たちバイトしてるからさ、ガルちゃんに選んでやってよ、俺は女の子の水着とかわからないからさ、篠崎さんがガルちゃんと仲良くしてくれて本当に助かってるんだよ、だからプレゼントさせてよ」
首を伸ばすと秀輝がニヤッと企むような顔で話し始める。
「そうだぜ遠慮無しだ。篠崎の分は宗哉がプレゼントしてくれるぜ、俺がサンレイちゃんと委員長で英二がハチマルちゃんと小乃子で宗哉がガルちゃんと篠崎って事にしようぜ」
「勝手に決めるなよ、俺と秀輝はいいとして毎回宗哉に甘えるのはな…… 」
叱る英二の元へ宗哉がやって来る。
「女の子に水着をプレゼントするなら是非僕も加えてくれ、晴美さんとガルちゃんなら喜んでプレゼントするよ」
試合は少し前に終わってスポーツドリンクを飲みながら話しを来ていた様子だ。
「宗哉…… 」
何か言おうとした英二を秀輝が押し退ける。
「じゃあ決まりだ。篠崎は宗哉に選んで貰え、宗哉はセンス良いから安心だぜ」
「うん……ありがとう宗哉くん」
頬を赤く染めて晴美が頷いた。
「お前なぁ~ 」
文句の一つも言おうとした英二の背をバシッと叩くと秀輝が立ち上がる。
「勝負しようぜ、俺に勝てば英二の話しを聞いてやる。負ければこれで決まりだ」
「ったく、わかったよ、いつまでも俺より強いと思うなよ」
ムッと怒りながら英二が立ち上がった。
次の試合は英二とサーシャのチームと秀輝とララミのチームの勝負だ。
「寝言は寝て言え、俺がスポーツで英二に負けるかよ」
体を捻って準備運動しながら秀輝がニヤッと笑った。
英二がサーシャに向き直る。
「サーシャ、一緒にあのゴリラを倒すぞ」
「了解しましたデス、ですがゴリラは何処に居るのデスか? 」
辺りを探すサーシャを見て秀輝が怒鳴る。
「誰がゴリラだ! 」
サーシャの横に立つララミが驚きの表情を作る。
「秀輝さんはゴリラだったのですか? データーを変更するので暫くお待ちください」
「違うからな、俺は人間だ」
慌てて言う秀輝を見てガルルンと晴美と宗哉が楽しそうに笑った。
サンレイとハチマルと小乃子がクーラーボックスから取り出したアイスクリームを食べながら歩いてくる。
「おらの勝ちだぞ、今日は優勝するぞ」
一試合目は3ポイント先取でサンレイチームの勝ちだ。
「負けた負けた。フェイントを掛けて宗哉が打ってくるとはな、儂も小乃子もちょこまか動くサンレイに気を取られておったわ」
「まぁ勝ちは勝ちだからな、ゲームソフト貰ったら英二の部屋でみんなで遊ぼうぜ」
ハチマルの口振りから態と負けてやったのが何となく分かったのか小乃子が歯切れ悪く言った。
睨み合いながら歩いてくる英二と秀輝をサンレイが指差す。
「次は英二と秀輝の勝負だぞ」
「何か知らんけど2人ともやる気になってるよ」
「これは見物じゃな、前は秀輝の勝ちじゃったからの」
何かあったのかと怪訝な顔の小乃子の横でハチマルが楽しそうに口元を歪めた。
英二と秀輝がネットを挟んで立つ、
「マジの勝負は久し振りだな」
「ああ、小坊の時はよく喧嘩してたけどな」
睨み合う2人の間、コートの外で委員長が笛を吹く、
「試合始め! 」
英二とサーシャのチームと秀輝とララミのチーム、親友同志の勝負が始まった。
ララミがボールを投げる。
「サーシャ頼む」
英二がトスしてサーシャがボールを叩き付けた。
「させるか! 」
秀輝がボールを弾く、その向かいでサーシャがジャンプする。
「おわっ!! 」
秀輝が返したボールをサーシャが鋭い角度で叩き返す。
「くっ! 」
ララミが転びながら受ける。
高く上がったボールを秀輝が英二の足下に叩き付けた。
委員長が笛を鳴らす。
「秀輝チーム1ポイント」
アイスを食べながら見ていたサンレイが呟く、
「まだまだ秀輝には勝てないぞ」
「運動神経は秀輝の方が上だからな、でも英二も中々やるよ、昔だったらあっと言う間に勝負着いているよ」
嬉しそうに言う小乃子を見てハチマルがニヤッと口を歪める。
「益々惚れたじゃろ、英二はやれば出来る子じゃからな」
小乃子がバッと振り向いた。
「なっ、何言ってんだよ、あたしは別に……英二なんか何とも思ってないからな」
慌てて言うと持っていたアイスクリームに齧り付いた。
「にひひひひっ、英二はおらの夫だからな、小乃子は愛人枠しか空いてないぞ」
「愛人って何だよ、あたしはそんなんじゃないからな、変な事言うな」
ニタリと笑うサンレイの横で小乃子が真っ赤な顔で怒り出す。
「がふふん、何言ってるがお、サンレイも愛人がう、英二はガルと結婚するがお」
割り込んできたガルルンにサンレイが口を尖らせる。
「ボケ犬は四国のゴンと結婚して子犬をポコポコ産んでろ、でないと保健所連れて行くぞ」
ゴンとは英二の祖父が飼っている雑種犬だ。
ニヤッと笑ってガルルンが言い返す。
「がひひひっ、ペッタンコのサンレイなんて英二は相手しないがお、英二はおっぱいが好きがお、ガルの犬耳と尻尾も可愛いって言ってたがお」
「うう……おっぱいだって負けてないぞ、ほんとのおらはナイスバディだぞ」
悔しげなサンレイを見てガルルンが勝ち誇るように笑う、
「がふふっ、ちっこいままでしか居られないがお、ほんとも嘘も無いがお」
「そういう事なら儂が一番じゃぞ、儂が英二を貰うとしようかの」
下から両手で爆乳を抱えるようにポーズを取るハチマルに2人が振り向く、
「ズルいぞハチマル、おらもナイスバディで居られるようになりたいぞ」
「反則がお、そのおっぱいは反則がう、反則おっぱいがお」
サンレイとガルルンが手を伸ばしてハチマルの爆乳を突っついた。
「お姉さんじゃからの、お主らとは違うんじゃ」
ハチマルが爆乳をブルンブルン揺らして自慢気に胸を張った。
争う3人を横目に話が逸れた小乃子がほっと安堵していた。
サンレイたちが話をしている間にも英二と秀輝の試合は続いていた。
秀輝が2ポイント取って英二が1ポイントだ。
3ポイント制なのであと1ポイント秀輝が取れば勝ちである。
「この気配は! 」
ハチマルが立ち上がる。
辺りを窺うハチマルの前で英二がトスしてサーシャがボールを叩き付ける。
「くそっ! 」
秀輝とララミの間を抜けてボールが砂浜に突き刺さる。
ボールが砂浜に落ちた瞬間、ボワッと砂煙が舞い上がった。
「敵じゃぞ!! 」
ハチマルが叫ぶ、同時にサンレイとガルルンがバッと動いた。
「おやおや、気付かれましたか? 流石神様ですね」
秀輝の直ぐ後ろ、砂煙が消えたあとに狐面を被った坊主が立っていた。
坊主の後ろにガルルンがトンッと降り立つ、
「この匂い……英二のにい…… 」
「ガルルン、止さんか! 」
坊主の前にスッと現われたハチマルが大声でガルルンを止めた。
「わかったがお」
何か言おうとしたのを止めるとガルルンが秀輝を抱えてジャンプした。
「うぉう、ガルちゃん」
「危ないから向こうへ行ってるがお」
英二の傍に降り立つとガルルンが秀輝を下ろして2人に言った。
「ガルルン、上出来じゃ、英二たちは下がっておれ、此奴只者ではないぞ」
ハチマルが英二と秀輝を庇うように前に出る。
狐面を被った坊主がハチマルと正対する。
「只者ではないですか? そうですよハイクオリティーですからね」
ガルルンが英二の腕を引っ張った。
「ハイクオリティーって何がお? 」
「ハイクオリティーってのは品質が高いって事だ。優れているって事だよ」
狐面の坊主が英二を見つめる。
「皆さんには自己紹介していませんでしたね、私はハイクオリティーの坊主、略してHQさんと呼んでください、エッチなキューちゃんじゃないですよ」
面を被っているせいかくぐもった声だが英二にはどこか聞き覚えのあるイントネーションを感じた。
「ハイクオリティーだかHQだか知らんが何の用だ」
英二の横で秀輝が大声で訊いた。
「秀輝くん……でしたね、私の用ですか? もちろん英二くんの霊力ですよ、英二を攫いに来たのですよ」
狐面の細い目の隙間からHQがギラッと目を光らせた。
「そんな事させるかよ! 」
英二を庇うように前に出る秀輝を見て狐面の奥の目がフッと緩んだ。
バチッと雷光をあげてサンレイがHQの右に現われる。
「閃光キィ~ック! 」
「言葉も無しですか? 」
バチバチと雷光をあげるサンレイの蹴りをHQが紙一重で避けた。
「お前ハマグリ女の仲間だぞ、英二を狙ってるヤツなんか容赦しないぞ」
サンレイが地に足を着くと直ぐに殴り掛かる。
「雷パァ~ンチ! 」
「なんの」
身を捻って避けるHQにハチマルがサッと手を振った。
「風撃! カマイタチ」
「方陣、屏風岩! 」
HQが錫杖を砂に突き立てると砂が壁のように迫り上がってハチマルの真空で切り裂く攻撃を防いでいく、
「ガルルン、英二と秀輝を連れて逃げるんじゃ」
「わかったがお」
ハチマルの攻撃を簡単に避けたHQを只者でないと判断したのかガルルンは直ぐに従って英二と秀輝を脇に抱えて宗哉たちの更に後ろに逃げていった。
「フフッ、あとは機械人形が邪魔ですね」
HQが錫杖を振り回す。
細く短い錫杖が伸びてサーシャに当たって吹っ飛ばす。
「がっ、ピッ、ピピィー 」
「サーシャ! 」
足下に飛んできたサーシャを宗哉が抱き起こす。
「機能停止しているだけだ……よかった。直ぐに再起動させるからな」
宗哉に抱えられたサーシャを見てララミがHQに向かって行く、
「よくもサーシャを……ぐっ、ぐがっ! 」
錫杖でララミを足払いして倒すとそのままHQが蹴り飛ばした。
「機械人形も仲間をやられると怒るんですね、勉強になりましたよ」
感心するように頷くHQの後ろからサンレイが殴り掛かる。
「雷パァ~ンチ! 」
「おおっと」
よろけるように避けたHQにハチマルが腕を突き出す。
「風撃! スズメバチ」
真空の槍が体勢を崩したHQに迫る。
「硬気、穿山甲! 」
真空の槍に突かれてHQが仰向けに倒れる。
「やったぞハチマル、止めはおらが…… 」
「下がれサンレイ」
近付こうとしたサンレイをハチマルが止めた。
HQがムクリと起き上がる。
「参ったな、ボロですが気に入ってたんですよ」
HQの左の脇腹、煤けた法衣が大きく破れていた。
「何だあれ? 」
大声を出すサンレイの横でハチマルが顔を顰める。
破れた穴から見えるHQの脇腹が大きな鱗のようなもので覆われていた。
「お主、本当に人間か? 」
「穿山甲ですよ、身を守るために全身を鱗で覆っている小動物です。それと似ているので名を付けました。気功術の一種です」
険しい顔で訊くハチマルにHQが愉しげな声でこたえた。
ガルルンがギュッと英二の手を握り締めた。
「人間がお……人間の匂いがお、でも……ハチマルの攻撃を防ぐ人間なんてガルは見たことがないがお、それにあれは英二の…… 」
何か言いかけてガルルンは慌てて口を閉じた。
「人間……妖怪じゃなくて人間なのか…… 」
英二だけでなく秀輝や宗哉たちも信じられないといった顔でHQを見つめた。
HQが両手を広げる。
「いやだなぁ~、私は普通の人間ですよ、只、少しばかり修業はしましたけどね」
広げた両手を体の正面で交差するように振った。
「方陣、天岩戸! 」
「サーシャとララミの仇を討ってやるぞ」
殴り掛かろうとしたサンレイをハチマルが止める。
「下がれサンレイ」
「何だ? 凄い霊気だぞ」
足下から地鳴りのような音が聞こえてくる。
「何か術を使いおった。ここは引くんじゃ」
「了解だぞ」
ハチマルがクルクル回る風を纏い、サンレイがバチバチと雷光をあげる電気を纏った。
「逃がしませんよ、絡め熊手! 」
HQの持つ錫杖が大きな熊手のような形となり更に二つに枝分かれしてサンレイとハチマルを絡め捕る。
「んだ? こんなものおらがバチッと切ってやるぞ」
「これだけの霊術を使いおるとは貴様何者じゃ」
サンレイとハチマルが身に絡む錫杖を叩き切っていく、
「私ですか? ハイクオリティー坊主、HQさんですよ」
熊手に捕らわれたサンレイとハチマルを地面から立ち上がってきた大きな岩が囲み込んでいく、
「結界だぞ、おらたちを捕まえる気だぞ」
叫ぶサンレイの横でハチマルが腕を空に向ける。
「飛べ伝風! 頼んだぞ」
サンレイとハチマルが大きな岩に飲み込まれていった。
天岩戸は地面から大きな岩が出てきて相手を閉じ込める結界だ。
「ん!? 何か飛んでいったような……気のせいですか」
HQが空を見回すが風が吹いているだけだ。
ガルルンの後ろで見ていた英二が震えた声を上げる。
「サンレイとハチマルが…… 」
「大丈夫がお、生きてるがう、岩の結界に閉じ込められただけがお」
HQを警戒して振り返りもせずに前を向いたままでガルルンが教えてくれた。
「あの野郎…… 」
秀輝が悔しげに唸りながら隣の英二に向き直る。
「戦おうぜ英二! サンレイちゃんとハチマルちゃんを助けるんだ。相手が人間なら俺でも戦えるはずだぜ」
「ああ、やってやる。サンレイとハチマルに酷い事しやがって……ガルちゃん戦おう、秀輝は援護してくれ」
秀輝も英二もキレる寸前だ。
ガルルンが振り返って八重歯のような牙を見せた。
「了解がお、でも英二も援護がお、後ろから爆発させて援護するがう、クソ坊主はガルが焼き殺してやるがお」
「ガルちゃん、逃げようよ、あの狐面なんだか不気味だよ」
ガルルンの腕を握って晴美が止める。
「確かに、油断できない相手って感じよね」
言葉に出さないが委員長も戦いたくない様子だ。
小乃子が訴えるように英二を見つめる。
「逃げよう、あたしも篠崎に賛成だ。英二までやられたらどうするんだよ」
「ララミも大丈夫だ。直ぐに再起動させるよ」
サーシャとララミを見ていた宗哉が立ち上がる。
「僕も逃げた方がいいと思う、あいつの目的は英二くんだ。ここは逃げて時間を稼ごう、サンレイちゃんやハチマルさんなら自力で結界を解いて出てこれるはずだよ、それまで逃げるんだ」
英二が宗哉を睨み付ける。
「2人を置いて逃げられるかよ」
「見損なったぞ宗哉! 今度は俺たちがサンレイちゃんとハチマルちゃんを助ける番だろが! 逃げるなら1人で逃げろ」
隣りに立って秀輝が怒鳴りつけた。
委員長が間に入る。
「喧嘩はよして、あの岩に閉じ込められているのよね? ガルちゃんや高野の爆発で岩を崩して助けることは出来ないの? 」
秀輝が大きく頷く、
「そうだぜ、岩を割ればどうにかなるんじゃないのか? 」
2人を見てガルルンが首を振った。
「ダメがお、岩じゃなくて結界がう、岩の形をしているだけで普通の岩じゃないがお、ガルは結界とか余り知らないがお、下手に手を出して中にいるサンレイとハチマルに危害があるとダメがう、あの程度の霊力の結界ならハチマルだったら20分くらいで出てこれるがお、ハチマルが出てきたらサンレイもどうでもなるがお」
苦渋に顔を歪めて英二が口を開く、
「20分か……わかった。逃げるんじゃなくてそれまで時間稼ぎをしよう、頼むよ宗哉、何か作戦を考えてくれ」
「だな、ここで逃げて残ったサンレイちゃんとハチマルちゃんに何かあったら大変だからな、ここで戦おうぜ、20分くらいなら俺たちでも何とかなるぜ」
秀輝にも見つめられて宗哉が難しい顔で頷いた。
「 ……わかった。僕も戦うよ、サーシャとララミも3分程で復旧する」
「私たちは? 」
不安気に訊く晴美にガルルンが口を開く、
「晴美と小乃子といいんちゅは逃げるがお」
「そうだな、秀輝と宗哉は3人を安全な所まで連れて行ってくれ、俺とガルちゃんとララミとサーシャで20分ほど戦ってハチマルが出てくるまで持ち堪えてみせるよ」
「何言ってやがる。俺も戦うぜ」
大声で言う秀輝の肩を英二がガシッと掴んだ。
「小乃子を守ってくれ、小乃子や委員長や篠崎さんを頼む、俺は爆発能力で戦う」
「足手纏いって言いたいのかよ」
ギロッと睨む秀輝に英二がマジ顔で続ける。
「あいつは今までの妖怪じゃない、狡賢い相手だ。サンレイだけでなくハチマルも罠に掛かって捕まった。何の武器も無しに勝てる相手じゃない、俺だって爆発能力がなければガルちゃんの足手纏いになってる。俺を庇ってガルちゃんが傷付くなら俺は逃げるよ」
「そんなのわかってるだろが! それでも逃げれるかよ」
秀輝が肩に掛かる英二の手を払って怒鳴りつけた。
睨み合う2人を宗哉が止める。
「止めろ秀輝、別荘にはスタンガンや木刀など武器になるものを置いてある。それを取りに行こう、委員長たちを送って僕と秀輝は武器を持って戻ってくる。走れば往復6分程だ」
「スタンガンに木刀か……わかったぜ、流石宗哉だ。素手じゃ敵わないのはわかりきってるしな、文句言わせねぇぜ英二」
有無を言わせぬ秀輝に英二が渋い顔で頷いた。
「わかった。武器があるなら一緒に戦おう」
「そうと決まればさっさと行くぜ」
秀輝が急かす傍で小乃子が英二を見つめる。
「英二気を付けてな、ガルちゃん英二を頼むよ」
心配そうな小乃子にガルルンがニッと可愛い笑みを向ける。
「任せるがお、英二はガルが守るがお」
再起動したメイロイドに宗哉が命じる。
「ララミ、サーシャ、僕が戻るまで英二くんを守れ」
「了解しましたデス」
「御主人様もお気を付けて」
サーシャとララミが一礼した。