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第10話

 翌日、学校へ行くと宗哉がいつもの爽やかスマイルで話し掛けてきた。


「工場の制御をしている人工知能は止めたよ、前に使っていたのに戻したよ」


 宗哉の後ろにサーシャとララミが立っている。

 手足を破壊されたサーシャとララミはサービスセンターへ行ってその場で修理させた。

 サンレイとハチマルが手加減したので手足の交換だけで済んだのだ。


「そうかよかった。サーシャ、ララミすまなんだの」

「悪いと思うがあの場合ああするしかなかったんだぞ」


 ハチマルとサンレイがサーシャとララミにペコッと頭を下げた。


「大丈夫デスから、私たちはロボットですから心配無いデス」

「私達の方こそご迷惑をお掛けして申し訳ないです」


 サーシャとララミも頭を下げる。

 顔を上げるとお互いを見て4人が笑う、心の無いメイロイドのサーシャとララミも自然な笑みを見せていた。


「そうじゃの、もう二度と低級モノノケなどに操られんようにおまじないをしてやろう」


 ハチマルがサーシャとララミの頭の上に手を置いた。

 口の中でなにやら呪文を唱えるとその手がボウッと白く光った。


「これで大丈夫じゃ、結界を張ってやったからの、二度と操られたりはせんじゃろう」

「ハチマルさん、ありがとうございますデス」

「ありがとうです、これでご主人様にも皆様にも迷惑かけなくてすむです」


 手を離したハチマルにサーシャとララミがまた頭を下げた。

 優しい目で2人を見ていたサンレイが宗哉に振り向く、


「制御コンピューターはいいとして残りのロボットはどうなったんだ? 」

「うん、メイロイドは隔離施設に入れて様子を見るって言ってたよ、メイロイドの腕力では内側からは破壊されないから大丈夫だと思うよ」

「不充分じゃの、機能停止させて人工知能からモノノケを引き離した方がいいのう」


 ハチマルが不服そうに宗哉を見つめた。


「わかったすぐに連絡して機能停止させるよ」


 宗哉がスマホを取り出して工場へと電話をかける。

 余程昨日の一件がこたえたのだろうハチマルやサンレイの意見には素直に従う。


「うん、なに! 父さんが、そうか分かった。制御コンピューターは絶対に動かすなよ、メイロイドは仕方が無い、制御コンピューターは整備中だと言って誤魔化してください、僕が直接そちらへ行くからそれまで隔離施設からは出さないようにお願いします」


 電話を切ると宗哉が険しい表情でハチマルとサンレイに向き直った。


「新型人工知能をなぜ止めたと父さんが怒っているらしい、僕が勝手にしたからね、制御コンピューターは整備中だと言って誤魔化しているがメイロイドは無理だ。隔離施設に入れて各種実験中だと誤魔化すので精一杯だよ、とても機能停止できる状態じゃない、制御コンピューターもいつまで誤魔化せるか………… 」

「敏重か……仕方のない奴じゃのう、直接会って話すしかあるまい」


 ハチマルが溜息交じりに言うと宗哉の顔が明るくなる。


「そうしてくれるとありがたい、車は手配するから今日にでも一緒に来てもらえるかい」

「仕方ないぞ、そんかわりアイス食べ放題だからな」


 口を尖らせて不服そうにサンレイが言った。

 話しを聞いていた秀輝が身を乗り出して口を挟む、


「俺も行くぜ、今度は仲間外れは無しだ。英二とハチマルちゃんとサンレイちゃんが行くなら当然だぜ」

「もちろんだよ、いいよね宗哉」

「了解だ。英二くんは来てもらわないと僕が困る。サンレイちゃんもハチマルさんも僕の言う事なんかきいてくれないからね」


 秀輝と英二の申し出を宗哉が声を大きくして了承する。

 サンレイとハチマルに英二と秀輝は学校が終わるとすぐに宗哉の用意した車で和歌山へと向かった。



 夜の8時前に和歌山県の山中にある佐伯重工の日本最大の工場へと着いた。


 工場の前で宗哉はもちろん英二や秀輝が愕然とする。

 火事らしい、規模は大きくないが広い敷地内のあちらこちらから黒い煙が立ち昇っていた。

 原因はすぐに分かった。

 2体の新型メイロイドが暴走したのである。


 工場の入口付近で50名ほどの社員が集まって騒いでいた。


「社長気を確かに! 落ち着いてください! 」


 英二たちが近付くと3人の男が他の男たちに取り押さえられていた。

 3人の内の1人に見覚えがある。

 宗哉の父親で佐伯重工の最高経営責任者の佐伯敏重である。

 他の2名も重役らしい、高級スーツを着ているが今は所々破れてボロボロだ。


 3人とも四つん這いになって這いずり回り奇妙な唸り声を上げている。

 表情に知性の欠片も無い、歯を剥き出して涎を垂らす姿は一目で正常でないのが分かった。


「父さん! 」


 吃驚して叫んだ宗哉が大声で続ける。


「お前たち何をしている!! 」

「宗哉さん社長を止めてください」


 宗哉を見つけると後藤が大声で頼む、後藤は研究開発の責任者だ。


「父さんしっかりしてください、何があった後藤」


 後藤の顔を見て少し落ち着いた様子で宗哉が訊いた。

 吃驚して見つめている英二と秀輝を押し退けてサンレイとハチマルが前に出る。


「狐憑きじゃな、モノノケに操られておる」

「自業自得だぞ、今まで無事だったんが不思議なくらいだぞ」

「霊が取り憑いているのか? どうにかならないのか? お願いだよ助けてくれサンレイちゃん、ハチマルさん」


 蔑むような目で敏重を見ているハチマルとサンレイに宗哉が必死で頼んだ。

 サンレイとハチマルに気付いて敏重が歯を剥き出してウーウー唸りを上げて威嚇する。

 数名の社員に押さえ込まれている敏重は唸るだけで何もできない。


 敏重を見つめながら後藤が話し出す。


「これが狐憑きか……急に暴れだしたんです。制御コンピューターを動かせと凄い剣幕で怒ってきたので仕方なく指示に従ったんです。新型の大型人工知能が起動したと思ったら急に暴れだしてそこらの物を滅茶苦茶に壊し始めたんですよ、それから制御コンピューターが暴走して……メイロイドが暴れて工場内は滅茶苦茶です。社長をどうにか連れて逃げるだけで精一杯でした。申し訳ありません」


 経緯を説明したあと後藤が改まって頭を下げた。


「新型制御コンピューターを動かしたのか、僕が行くまで止めろと言ったはずだよ」

「すみません、しかし社長が――我社では社長の命令は絶対ですから」


 声を荒げる宗哉に恐縮しながらも後藤が弁解する。


「だから整備中だと誤魔化せと言っただろうが! 」


 怒鳴る宗哉をその場にいた社員たちが全員萎縮して見ている。


「止めろよ宗哉、今ここでそんな事してる暇ないよ」


 英二が肩を掴んで止めると怒り収まらぬ顔で宗哉が振り返る。

 宗哉の肩を掴んだまま英二がサンレイに視線を移す。


「サンレイ、ハチマル、宗哉の父さんに憑いたモノノケを祓ってやってくれないか? 」

「よかろう、そのために来たんじゃからな」

「仕方ないな、英二の頼みだからな」


 英二に頼まれてハチマルとサンレイが敏重の前に立つ、


「俺は正直言って反対だぜ、こいつが張本人なんだろ? 力を使うとまた消えそうになるんじゃないのか? こんな奴のためにハチマルちゃんやサンレイちゃんが無理をする事はないぜ」


 怖い顔で宗哉と敏重を睨みながら秀輝が言った。


「そう言うな、儂らは大丈夫じゃ、力は少ししか使わん敏重自身の力を使うからな」

「敏重自身の力って? 」


 仕方ない奴だという感じで優しく微笑むハチマルに秀輝が訊いた。


「敏重自身の気力を使って霊を祓うんじゃ、簡単に言えば敏重自身のエネルギーを使い儂らは術を掛けるだけじゃ、じゃから儂らはほとんど力を使わん、その代わりに敏重はしばらく寝込むことになる。敏重にはいい薬になるじゃろう」


 ハチマルは説明を終えるとすぐに敏重に憑いたモノノケを祓い始めた。

 サンレイが残りの2人を祓う、ハチマルもサンレイもこんな所で時間を食っている場合ではないという感じで御祓いはすぐに終わった。


 暴れていた敏重がバタッと倒れると体から黒い霧のようなモノノケが抜け出て消えた。

 四つん這いで這い回っていた他の2人も気絶したのか倒れて動かない。


「父さん……よかった気絶しているだけだ。これでモノノケは祓えたんだね、ありがとうサンレイちゃんハチマルさん」


 敏重が無事なのを確認すると宗哉が振り返って安心した様子で礼を言った。


「しばらく、そうじゃな3日ほど気を失って目覚めんじゃろう」

「目が覚めても1ヶ月は寝たきりだぞ、その間に自分がしたことを反省させろよ、おらたちはこれから戦うからな、余計な力は使ってられないからな」


 意地悪顔をしてハチマルとサンレイがこたえる。


「父さんには僕からもよく言ってきかせるよ」


 宗哉はすまなさそうな顔で言うと英二と秀輝に向かって頭を下げた。


「英二くんも秀輝もありがとうな」


 宗哉が頭を下げる後ろで後藤が英二を見て安心した表情をしたあと頭を下げた。

 後藤はサンレイとハチマルの知識をコピーする時にいた英二を覚えていたのだろう、敏重を後藤に任せて英二たちは工場の敷地内へと入っていく、


「この気配はかなりやばいのう、英二たちはここで待っておれ」

「おらとハチマルでちゃっちゃと倒してくるからな、英二は留守番だぞ、なあなあ英二、これが終わったらいっぱい遊ぼうな」


 低級霊などすぐに止めてやると言ってサンレイとハチマルが工場の中へと駆けていく、


「俺は行くぜ、止めるなよ英二、いくらダメって言ってもこればっかりはきけないぜ、2人が心配だからな、いくら神様だからって女の子だけに危険な目にあわせられないぜ」

「止めないよ俺も行くからさ、サンレイとハチマルだけに危ない事させられないよ、何も出来ないかもしれないけどサンレイの盾くらいにはなってやるつもりだよ」


 真剣な表情の秀輝にこたえる英二の顔も覚悟を決めたようなマジ顔だ。

 英二と秀輝がお互いの顔を見てニヤッと笑う、同じ考えで嬉しい笑みだ。


「僕も行くよ、僕の責任だからね、サーシャ、ララミ、行くぞ! 」


 宗哉の言葉に英二と秀輝が振り返る。

 3人顔を見合わせてニッと笑った。


 サーシャとララミに守られるようにして英二と秀輝と宗哉が工場へと入っていく、

 工場の中はいつもと同じである。

 破壊されている区画や煙が上がっている区画もあるが大きな火災は無い、いや火災が起きる前に自動消火装置が働いて最小限の火災で押さえたといった方がいい、普段と同じように見えるが人影が無かった。

 作業員たちの大半は既に逃げ出していた。


 宗哉に案内されて新型メイロイドがいた隔離施設へと向かう、サンレイとハチマルもそちらへ向かっているはずだ。

 隔離施設は実験区画にある。

 その前にメイロイドの生産工場区画があった。

 メイロイドは試験的に量産段階に入ったばかりだ。


 メイロイド工場施設に入った英二たちの前にサーシャとララミが立つ、


「ご主人様気をつけてくださいデス」

「英二さんも秀輝さんも私達の後ろにつくです、メイロイドが狙ってます」


 サーシャとララミが拳を構える、戦闘態勢だ。

 生産設備の機械の間からメイロイドが15体ほど出てきた。

 生産途中のためか裸であるが一応完成はしている様子だ。


「バカな!? ここにあるのはまだ動くはずが無い、体は出来ているがプログラムがまだ入ってないんだ。どうして…… 」


 フラフラとぎこちなく動いているメイロイドを見て宗哉が驚きの声を上げた。


「操られてるんだよ、この前のサーシャとララミと同じだよ」

「そうらしいな、ああ無表情だと裸でも少しも嬉しくないぜ」


 英二と秀輝が言う通りメイロイドは一切の感情が無い無表情だ。


「操られているのか……そうか、サーシャ、ララミ、戦闘を許可する。こいつらを倒せ」


 宗哉の命令でサーシャとララミが飛び出す。

 15体ほどのメイロイドをサーシャとララミが薙ぎ倒していく、ここにあるメイロイドは通常の家事手伝いタイプだ。

 プログラムも入っていない未完成品である。

 スムースな動きは出来ない、要人警護のサーシャとララミとは基本的に違う、全てが強化されている2人の相手ではない、5分掛からずに全てを倒すとサーシャとララミが戻ってきた。


「ご主人様お怪我はありませんデスか? 」

「ありがとうサーシャ、ララミご苦労様、さあ先を急ごう」


 心配そうな表情を作るサーシャにこたえると宗哉が歩き出す。

 目を丸くして驚いて戦いを見ていた英二と秀輝が慌てて後に続いた。

 サーシャとララミが強いとは聞いていたが実際に見て驚いた。

 この前教室で暴れた時とは比べ物にならない鋭い動きをしていた。操られていた時と実際の動きの差である。


 奥に進んでいくと先で何かが戦っている音が聞こえる。

 こんな所で戦っているのはサンレイとハチマルしかいない、英二と秀輝が駆け出していく、慌てて宗哉とサーシャとララミが続いた。


 突然、英二たちの前にメイロイドが立ち塞がる。

 1人だが服を着ていた。

 完成品のメイロイドである。


「こいつは! 危ない英二くん下がるんだ。サーシャ、ララミ、行け! 」


 宗哉の命令でサーシャとララミがメイロイドに飛び掛る。

 慌てて戻ってきた英二と秀輝に驚いた表情で宗哉が口を開く、


「あれは新型メイロイドだよ、向こうで1人倒されている。だとしたら……サンレイちゃんとハチマルさんは何と戦っているんだ」


 宗哉が指差す方を見ると上半身と下半身に引き千切られたメイロイドが倒れていた。

 服を着ているので完成品のメイロイドだ。

 宗哉が言う通り低級モノノケを使った新型人工知能を搭載した試作メイロイドの1体である。


「1人はサンレイとハチマルが倒したんだな、でももう1人を残して先に行ったんだね」

「こいつらより倒さなきゃならない相手がこの先にいるってことだな」


 英二と秀輝の顔が険しくなる。


「そうらしい、こいつ1人ならサーシャとララミでどうにかできるみたいだからな」


 宗哉も険しい顔でこたえる。


 3人の前でサーシャとララミが新型メイロイドと戦っていた。

 新型といっても構造は家事手伝いの通常タイプのメイロイドである。

 先ほどサーシャとララミが15体を5分掛からずに倒したメイロイドと体は同じ物だ。


「それに完全じゃないみたいだぜ、一撃は与えていったんだな」


 秀輝がメイロイドを指差す。

 前からは分からなかったが背中に大きな穴が開いていた。

 サンレイかハチマルが攻撃した跡だ。


「こいつら操れん、貴様らもあのチビどもの仲間か! 」


 試作メイロイドが叫んだ。

 ダメージがきついのか足元がふらついている、これではサーシャとララミの敵ではない、それでも悪霊が憑いた新型メイロイドである。

 サーシャとララミが2人がかりで倒すのに10分ほど掛かった。


 新型メイロイドを倒して先を歩き出しながら英二が訊いた。


「この先でサンレイとハチマルが戦っている相手って? 」

「実験区画にある大型コンピューターだろうな、この工場を制御している人工知能だよ」


 険しい表情でこたえる宗哉に秀輝が噛み付く、


「お前のオヤジが動かした制御コンピューターだな、ハチマルちゃんとサンレイちゃんに何かあったら承知しないぜ」

「すまない……父さんは僕でも止められないから」

「やめろよ秀輝、相手は悪霊だよ、たぶんサンレイもハチマルもこうなるのが分かっていたんだ。だからあの日から少し態度が変わったんだ。俺に甘えるようになった。もしかしてサンレイは……俺が悪いんだ。どんな事をしても止めさせればよかった………… 」


 英二の慚愧に歪む顔を見て秀輝はそれ以上宗哉を責めるのを止めた。

 こんな事をしている場合ではない、サーシャとララミを先頭に3人は先を急いだ。



 英二たちがメイロイドと戦っていた頃、サンレイとハチマルも戦っていた。


 相手は実験区画の奥に設置された大型コンピューターである。

 もとは実験区画だけを制御するコンピューターで工場全体を制御するメインコンピューターのサブとして使われていたものだ。

 従来の人工知能をモノノケを使った新型の人工知能と入れ替えてメインコンピューターとして使えるか実験をしていたものである。

 工場全体を制御するコンピューターだ。

 工場内にある作業用の大型アームや電気溶接機など全てがその制御下にある。


 作業用のロボット台車がサンレイに突っ込んでいく、


「んだ? あんなのまで操れるんか、きりが無いぞ」


 サンレイが作業台の上にピョンと飛び跳ねて避ける。

 その下をロボット台車が猛スピードで通り抜けて壁に激突すると煙を上げて止まった。

 ハチマルは操られているメイロイドと戦っていた。

 実験区画で作業していたメイロイドで完成品なので動きも滑らかである。

 操られているメイロイドにハチマルがパンチを浴びせながら霊気を送る。


「こ奴ら儂の霊撃が効かん、どういうことじゃ? 低級霊ではないという事かの」


 ハチマルの霊撃を受けてメイロイドは一瞬動作を停止するがまたすぐに動き出す。

 低級霊が操っているものならハチマルの霊気で術が解けて動かなくなるはずだ。


「試してみるか? サンレイこ奴らの気を引いておれ、儂は本体に一撃を与える」

「わかったぞ、でも気を付けてな、なんか嫌な気がすんだぞ」


 サンレイはこたえると作業台の上からトンッと飛び降りてメイロイドたちの前に出た。

 ハチマルに変わってサンレイがメイロイドと戦う、ロボット台車が走り回る中をハチマルが駆けていく、その先に制御コンピューターの本体があった。

 ハチマルの正面から作業用の大型アームが迫る。


「邪魔じゃ! 俊風カマイタチ! 」


 作業用の大型アームを切り倒し制御コンピューターのすぐ前に立つ、


「霊撃!! 」

「グギャギャ~、貴様―っ、なぜオレの邪魔をする」


 ハチマルが両腕を突き立てて霊気を送り込むと制御コンピューターが喚いた。


「なぜ人間どもに手を貸す。奴らは破壊しか生まん、オレも奴らに壊された」


 コンピューターが憎々しげに言うと共にハチマルの後ろから作業アームが襲い掛かる。


「こやつは……どうりで手強いはずじゃ」


 サッと飛び退いてアームを避けたハチマルが険しい表情で呟く、そこへ左右から作業アームとメイロイドが迫る。


「雷パ~ンチ! 閃光キ~ック! 」


 元気な声が聞こえて作業アームとメイロイドが倒れた。

 サンレイがピョンとハチマルの隣に立つ、


「きりが無いから足切ってやったぞ」


 サンレイがニッと笑う、戦っていたメイロイドは手足を潰されて動けなくなっていた。

 険しい表情のままハチマルがサンレイを見つめた。


「奴の正体が分かった。儂らと同じじゃ、もとは山神じゃ、ここでどうにかせんと大変な事になるな、じゃが……じゃが………… 」

「祟り神ってやつだな、ここで封じるぞ、でないと大勢犠牲者が出るからな、ハチマルと一緒でよかったぞ、おら1人じゃ無理だぞ」


 サンレイの顔からも笑顔が消えている。


「じゃがそんな事をしたら儂らは……そうじゃな、みんなを守ると決めたんじゃからな、儂もお主と一緒でよかったぞサンレイ、2人なら必ず封じる事ができるじゃろう」


 覚悟を決めたような表情のサンレイを見つめてハチマルも頷いた。

 見つめ合うサンレイがニッとまた笑顔になる。


「でもその前にもう一度だけ英二に会いたいぞ、会って抱っこしてもらって話すんだ。そんでありがとうって言うんだぞ」

「そうじゃな、儂も言っておきたい事がある。ここは一先ず退散じゃ、英二に元気を貰ってあやつを倒すとするかの」


 ハチマルも優しい笑顔に変わる。

 サンレイとハチマルは制御コンピュータがある区画を抜けて走っていった。



 操られているメイロイドと戦いながら進んでいた英二たちの所へサンレイとハチマルが戻ってきた。

 前から駆けて来る2人を見て英二が安心して大声で呼ぶ、


「サンレイ、ハチマル、よかった2人とも無事だったんだね」

「当たり前だぞ、これくらいおらたち平気だぞ」


 サンレイが英二の胸に飛び付いた。

 ハチマルも英二の横から抱きついてその頬にキスをした。


「あ~っ、ずるいぞハチマル、おらもチューするからな」

「おねーさんじゃからな、英二とは大人の恋愛じゃ」

「少し上なだけだぞ、ハチマルがほっぺならおらは口だぞ」


 英二に抱きつきながらサンレイがキスをしようと口を伸ばす。


「ちょっ、サンレイ、ダメだってみんな見てるからさ…… 」


 英二が慌ててサンレイを引き離す。

 秀輝や宗哉が見ていたので照れたのだ。


 甘えるように英二の傍に居るサンレイとハチマルを見て秀輝も安心顔だ。


「2人とも良かった。心配したんだぜ、どこも怪我してないか? 」

「儂らは大丈夫じゃ、秀輝たちこそ無事でよかった」


 安心した様子でこたえるとハチマルが続ける。


「奴の正体が分かった。儂らと同じ神じゃ、道理で強いわけじゃ」

「神って……なんで神様が人工知能になってるんだよ」


 サンレイを抱っこしながら困惑顔の英二が宗哉を見つめる。


「神様なんて知らないよ、浮遊霊とモノノケしか使っていない、強力なモノノケは捕まえる事も出来ないんだよ、神様なんて捕まえられるわけないじゃないか」


 宗哉が驚き顔でこたえた。

 長い付き合いである顔を見れば嘘かどうかすぐに分かる。


 英二に抱っこされたままサンレイが口を開いた。


「捕まえたんじゃないぞ、向こうから憑いたんだぞ」

「宗哉、この工場ができる前はここは山じゃったじゃろう、その山に居た山神じゃ、山を崩された山神が祟り神となって取り憑いたのがあやつの正体じゃ」


 ハチマルの説明に宗哉の顔が強張っていく、


「山神……確かに工場を作るために小さな山を崩したけど地鎮祭はしたよ、工場の入口の近くに大きな社を建てて神様にはそこに移ってもらって毎年供養もしているよ、神主さんよんで盛大に行ってるよ、今まで何も問題が起きてなかったのになんで」


 サンレイとハチマルの顔色が変わる、2人とも寂しそうな表情だ。


「供養をしたから許すってもんじゃないぞ、我慢してやってるだけだぞ、おらたちだって自分のいた山に道路作られて祟って今は供養されておとなしくしてるけど道路工事した人間どもを許したわけじゃないぞ、謝って供養するから我慢してやってるだけだぞ、人間はそれをすぐに忘れるんだ」

「サンレイの言う通りじゃ、そんな場所で低級霊やモノノケの魂を弄ぶような事をしておるんじゃ、そうして悪い気が集まる、鎮まっておった神も起き出して当然じゃ」


 2人とも寂しげな表情と同じ悲しい声だ。

 英二がサンレイをギュッと抱き締めた。


「全部人間が悪いんだね……、相手が神様なら話し合いでどうにかならないのか、もちろん宗哉にはこんな事はもう止めさせるよ」

「もう無駄だぞ、もう山神じゃない、祟り神になってるんだぞ、おまけに人工知能と混じった低級霊も取り込んで理性も無い、おらたちの話も通じないぞ」


 抱かれたままサンレイが英二の顔を見上げた。

 真剣な表情をしたハチマルが英二を見つめる。


「今の儂らでは2人の力を全部使ってどうにか封じるので精一杯じゃ、じゃから、じゃから最後に会いに来たんじゃ、英二に力を貰ってヤツは必ず封じるから安心せい」

「最後にって……全部の力を使うって消えるんじゃないのかサンレイ」


 心配顔で見つめる英二にサンレイは悲しそうに俯いて顔を見せない。

 代わりにハチマルがこたえる。


「そうじゃ、全部の力を使うと儂らはこの身体を維持できんようになる。この姿では居られんから消える事になる。じゃがの、死んでしまうのではない、消えて無くなるのではない、儂らは神じゃからな、じゃからさよならは言わん、じゃから何も心配無いんじゃ」

「ダメだ!! 」


 秀輝が一喝したあと大声で続ける。


「ハチマルやサンレイが消えるのなんか俺は嫌だぜ、せっかく友達になったのに……帰るぞ、こんな工場どうなったっていい、自業自得だ。佐伯重工が全部悪いんじゃないか、俺たちもサンレイちゃんもハチマルちゃんも関係無い」


 サンレイを抱っこしながら英二が口を開いた。


「サンレイやハチマルを脅して知識をコピーなんてするからこんな事になったんだね、宗哉だけじゃない俺にも責任があるんだ。でもサンレイと別れるなんて嫌だよ……バカな人間のためにサンレイとハチマルが犠牲になることなんてないよ」


 サンレイを抱き締めながら英二が泣いていた。


「おらも厭だけど仕方ないぞ、だってだって他に方法が無いからな、このままほっとくと大変な事になるんだぞ、悪い気がどんどん集まってここだけじゃなく下の町にも被害が出るぞ、今ならおらとハチマルでどうにかできるんだ。迷ってる暇は無いんだ。おらたちは神様だからな、英二と秀輝と小乃子と委員長と宗哉を、みんなを守るって決めたんだぞ、みんな友達だからな」


 英二の涙をサンレイが手でそっと拭いている、そのサンレイも泣いていた。

 宗哉が英二の前で頭を下げる。


「ごめんよ、全部僕の所為だ。でもここにはまだ沢山の人が居るんだ。虫がいいのは分かっている、でも他に方法が無いんだ頼む助けてくれ、ごめんよ」

「そんな事知るか! 他の奴らより俺はサンレイとハチマルのほうが大事なんだよ」


 秀輝が宗哉の胸倉を掴んで怒鳴りつけた。


「止めんか秀輝、サンレイの言った通り儂らは神としての役を果すだけじゃ、儂らを大事に思ってくれるお主の心は嬉しいぞ、じゃからこそ厭な人間にならんでくれ、儂の嫌いな自分勝手な人間じゃなく他人を思いやる優しい英二や秀輝のままでいてくれ、心配無い、儂らに人間のような死は無い、神じゃからな、少し眠るだけじゃ」


 宗哉の襟を掴む秀輝の腕にハチマルがそっと手をかけた。

 悲しげなハチマルの顔を見て秀輝が腕を離す。

 それを見てハチマルは頷くとニコッと笑顔になった。


「友達は時として間違った事もする。じゃがの、そこで別れてしまってはその友は間違いに気付かずにまた同じ事を繰り返すかもしれん、じゃから間違いを教えてやらねばならん、それが本当の友達じゃと儂は思う、許せるから友達なんじゃ、叱ってやるから友達なんじゃ、英二や秀輝にはそれができる大人になってほしいの」


 ハチマルの言葉を英二はもちろん秀輝や宗哉が目に涙をためて聞いていた。

 サンレイが英二の頬にチュっとキスをした。


「やっぱ口のキスはまた今度だぞ、だってだって本当にお別れするみたいだからな、おらたちは死ぬんじゃない、この世から消えるんじゃない、また少し眠るだけだぞ、だから何の心配もいらないんだぞ」


 サンレイがにっこりと笑った。

 心配をかけまいと精一杯の笑みを作っているように思えた。


「サンレイ、ハチマル、俺も大好きだよ、だから……だから消えないでくれ、ずっと一緒に居てくれ、ずっと…… 」


 泣きながら英二がサンレイを抱きしめた。


「ずっといるぞ、姿が消えても英二とずっといるからな、英二と一緒に居るためにも祟り神を鎮めないといけないんだぞ」


 英二の頭をポンポン叩いてサンレイがそっと離れた。


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