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第1話 「パソコンの神様」

 ピポ! 


 如何にもな電子音を立てて古いパソコンが起ち上がった。


「おっ、やった。動いた」


 ディスプレイの前で高野英二が思わずガッツポーズだ。

 20年以上は経つ古いパソコンが簡単な整備だけで動くとは思わなかった。


「やったぞ、これで昔のゲームが実機で遊べる」


 喜ぶ英二の前でディスプレイがブツンと音を立てて光を落とす。


「あっあれ!? パソコンは動いてるみたいだけどディスプレイが壊れたか」


 慌ててディスプレイの電源を入れたり切ったりするが何の反応も無い。

 もう殆ど見なくなったブラウン管を使ったCRTディスプレイである。


「PC―98で使えるCRTディスプレイなんて中古でも見なくなったしな、俺の使ってる液晶ディスプレイは対応してないし、どうするかな…… 」



 その時、パーっと画面が光り輝いた。


「うんしょっと! 」

「うわぁーーーっ、なっ、なに? なにが……お前なんだ? 」


 目の前のパソコンディスプレイから幼女がぬっと出てきた。

 ディスプレイのガラスは割れていない、まるで生えるようにブラウン管から体を出している。

 腰まである長い黒髪の可愛らしい幼女だ。


「なあなあ、Vとジャジャ~ンとどっちがいい? 」


 興味深げに目をクリクリさせながら幼女が聞いた。


「うわっ! うわっ! パソコンから、お前なんだ、お化けか? 」

「よいしょっと」


 幼女がディスプレイから這い出てきて目の前に立つ、


 ベシャッ!! 


 幼女が英二の頭を叩いた。


「だからVとジャ~ンのどっちがいいかって聞いてんだぞ、どっちか選べ」


 ムッと怒り顔の幼女に臆するように英二が口を開く、


「えっなに!? じゃあVで…… 」

「今までの事は忘れてちょっと待ってろ、うんしょっと」


 背を向けたまま言うと幼女はディスプレイの中に入って消えた。

 まるで中身の入っていないダンボール箱にでも入っていくように消えたのである。


 英二が唖然としてディスプレイを見つめていると幼女がひょこっと顔を出した。


「V・V・V、ビクトリ~、サンレイちゃん登場で~す」


 叫ぶように歌いながら満面の笑みで幼女がまた飛び出してきた。


 名前はサンレイと言うらしい、腰まである長い黒髪にクリクリとした大きな目の可愛らしい女の子だ。

 体型は幼児体型、というか小学校低学年くらいの年齢にしか見えない、薄い水色の着物を着ていて長い髪と相まって時代劇に出てくる幼女のようにも見える。


「やり直したのか? 」

「だって初めが肝心なんだぞ」

「Vがビクトリーならジャーンは何なんだ」

「よばれて飛び出てジャジャジャ、ジャ~ンだぞ」


 怪訝な表情の英二にサンレイが満面の笑みを見せた。

 突然出てきたのだが、かわいい幼女の姿と昼間ということもあってか怖くは無い、というよりも混乱して状況判断ができていない。


「パソコンから出てきたよな、手品か? 」

「手品? 何を言う!! パソコンだけじゃなく鉛以外なら何でも通り抜けられるぞ、鉛だけはどういうわけかダメなんだ。ブラウン管くらいなら通れるんだけどな」


 こたえるとサンレイは床に潜るように下半身を沈めた。

 パソコンのディスプレイから出てきた時といい普通の人間ではないのは一目で分かる。


 床から上半身だけを出しているサンレイを見てやっと状況を理解した。


「おっおっお化けだ~、幽霊だ。モニターから出てきた――貞子だぁ~~ 」

「お化け? きゃ~、お化けこわ~い、貞子こわぁぁ~~いぃ」


 英二よりも大きな声で叫びながらサンレイが飛びついてきた。

 押された英二はサンレイを抱くようにしてその場に倒れ込む。


「おばっ、おばっ、お化けーっ、幽霊がぁ~~ 」


 必死で引き離そうとする英二を見てサンレイの目つきが変わる。


「ひょっとして、お化けっておらのことか? 」

「助けて、俺は何もできませんので消えてください」

「誰がお化けか!! おらは幽霊じゃないぞ」


 拝むような仕草をする英二の頭をサンレイがポカッと殴りつけた。


「だってモニターから……幽霊じゃなかったら何なんだよ」


 また頭をポカッと殴りつけてからサンレイが話しを始めた。


「誰が幽霊か、おらはパソコンから生まれたパソコンの神様だ。田舎に祠があっただろ、そこで寝とったんだが道路工事で潰されて新しい寝床を探しておったらお前の家の蔵に丁度いい寝床を見つけたんで眠っておった。それがこのパソコンだぞ」


 サンレイが偉そうにペッタンコの胸を張りながら古いパソコンを指差した。


「神様って……そういや祖父じいちゃん家の裏山が道路になる前に祠が3つほどあったって聞いたことがある」


 高野英二は高校1年の16歳だ。

 道路ができたのは英二が生まれる前の事だ。

 今から20年以上前の話である。


「そうだぞ、その祠に住んどったんだぞ、祠を潰したやつらを祟って不幸にしたあと寝床を探してこのパソコンを見つけたんだぞ」


 サンレイがうんうん頷いた。

 英二の顔がみるみる青くなっていく、


「祖父ちゃんに聞いたことがある。道路工事のあと関係者が次々と亡くなったって…… 」

「にひひひひっ、当然の報いだぞ」


 サンレイがニタっと悪意のある顔で笑った。

 英二がまた手を合わせて拝みだす。


「ひいぃーっ、助けて、俺は関係ないから、呪わないでくれ」

「わかってんぞ、英二を呪うつもりなど無い、お前の家は昔から祠を大事にしてくれてたからな、英二の先祖は大昔に山にあった神社で神職をしてたんだぞ」

「今は無くなったけど大昔に神社があったのは祖父ちゃんから聞いて知っています。先祖が神主をしてたって言っていました。その神様がなんで? 何しにここにいるんですか? 祟りを恐れて道路の近くに社を建てて関係者全員で供養したって聞きましたけど」


 サンレイが祠の神様だと知って英二は思わず丁寧な口調だ。


「祠は4つあったんだが社は1つだろ、居心地が悪くてな、それにこのパソコンが気に入っておってな、そんでパソコンで眠っとったわけだぞ」


 サンレイと古いパソコンを見比べるようにして英二が続ける。


「この古いパソコンで眠っていた。それを俺が起こしたのか」

「そうだぞ、ピポッと起こされたんだぞ、起こしたからには責任を取ってもらうぞ」

「責任って…… 」


 顔を強張らせる英二の向かいでサンレイがニッと可愛い笑みを見せる。


「しばらく厄介になるぞ」

「厄介ってここに、俺ん家に住むって事か? 」

「そういう事だぞ」


 英二が顔の前で手をブンブンと振る。


「いやいや、神様が住むような所じゃないから、パソコンは田舎に戻すからまた蔵の中でゆっくり眠ってください」

「もう寝るのは飽きたぞ、今日からたっぷり遊ぶんだぞ、ここにおらを置かんと言うのなら分かった。起こした罰として祟ることにするぞ」


 サンレイがニターッと厭な笑みをして英二の顔を伺う、可愛らしい幼女の顔がまるで悪魔のようである。


「それが目的か! 俺の命を――呪い殺すつもりなんだな」


 座っている腰を上げて逃げ出そうとした英二の前にサンレイがぬっと身を乗り出す。


「目的? お前の命なんか貰ってもしょうがないだろ、おらの目的かぁ~、そうだなかれこれ20年以上も眠ってたからな、う~ん決めたぞ目的!! 」


 及び腰の英二の前でサンレイがニパッと顔を上げた。


「目的は遊ぶ事だぞ、英二と一緒にいっぱい遊ぶんだぞ」

「俺は遠慮しときます。遊ぶんなら1人で遊んでください、田舎へ帰ってください」


 サンレイの顔からフッと笑みが消えた。


「遊んでくれんのか? じゃあ祟るしかないな………… 」

「わあぁ祟らないでください呪わないでください、いいです。ここに住んでいいですから」

「そうか、そんなに住んで欲しいのなら仕方が無いしばらく厄介になってやるぞ」


 慌ててこたえる英二にサンレイがニコっと天使のような笑みを見せた。


 ベッド脇のテーブルの上に置いてあったチョコレート菓子を見つけるとサンレイは勝手に食べ始める。

 コーンのパフェにチョコがコーティングされているお菓子だ。

 美味しそうにモシャモシャ食べているが幼児と同じ食べ方で口の周りがチョコでべとべとになっている。


 英二の視線に気付いてサンレイがニッと笑う、


「パソコンから美少女が飛び出してきたんだぞ、もっと喜べ」

「美少女が口の周りをチョコでベチャベチャにするか、どう見ても幼女だろが」


 サンレイがチョコ菓子を食べる手を止めた。


「 ……じゃあ、美幼女だぞ」

「美幼女ってなんだ。聞いた事もないわ、それより口も手もチョコでベチャベチャだ」


 ウェットティッシュでサンレイの口と手を拭いてやる。


「お前優しいな、気に入ったぞ」


 気持ちよさそうに拭いて貰った後でニコニコ笑顔のままサンレイが続ける。


「じゃあ改めて自己紹介だぞ、おらはサンレイ、Vサンレイだ。ビクトリー・サンレイだぞ、20年ほどこのパソコンと一緒におったからパソコンの影響を受けておる。このパソコンにはV30というCPUが使われておってな、30はおらと同じサンレイだろだからVを付けてビクトリー・サンレイにしたんだぞ」

「V30だからビクトリー・サンレイか……安直な名前だな」


 古いパソコンにはNEC PC―9801VMと書かれている。

 その上にあるブラウン管で出来たディスプレイからサンレイが出てきたのだ。

 サンレイが可愛らしい幼女の姿でなければとっくに逃げ出していただろう。


「安直とはなんだ。日本を制覇した国民的パソコンだぞ」


 サンレイがムッとしてまた英二の頭を叩く、


「PC―98が売れてたのは知ってるけど日本を制覇したってエロゲームマシンとしてでしょ? 」


 痛そうに頭を擦りながら聞いた。


「誰がエロマシンか!! ワープロや簿記などオフィスから機械制御までビジネスに無くてはならないコンピューターがPC―98だぞ、PC―98と言えば泣く子も黙る国産パソコンの神様なんだぞ」

「へえーっ、そうなんだ。エロゲーだけだと思ってたよ」


 驚く英二の前でサンレイがペッタンコの胸を張る。


「エロはおまけだ。疲れたビジネスマンを癒すために作られたのがエロゲーだ。本来はビジネスマシンとして作られたんだからな、時代の最先端を行くパソコンがPC―98だ。もちろん今も最先端を突っ走ってるよな」

「いや、もうPC-98なんて使ってないから…… 」

「98様を使ってないだと? はっはぁ~ん、お前パソコン音痴だな」

「パソコンなら三台持ってますよ、マックが一つにウインドウズが二つ」


 英二が薄く小さいタブレットパソコンを机から持ってくる。

 机の上にはノートパソコンも置いてあった。


「マック……アップルだな、お前アップル派なのか? ウインドウズって何だ? その小さいのがパソコンってどういう事だ」


 サンレイが怪訝な表情で訊いた。


「うん、タブレットって言ってパソコンの仲間だよ、これでほとんどの事ができるんだけど、大きな画面とキーボード使うときはノートパソコン使ってるんだよ」

「こんな小さな物がパソコン……おら知ってるぞ、ポケコンだぞ」


 サンレイの目の前で英二がタブレットを操作する。

 タブレットパソコンの小さな画面が次々に変わり映像や音楽が流れてくる。


「ポケコンじゃない、こっこれは魔法だ!! 魔法か……おらが眠っている間に人間はついに魔法を習得したんだな」


 サンレイが愕然とした顔で英二を見つめる。


「違うからな魔法じゃないからな、今のパソコンはみんなこんなのだよ、もっと小さくて薄いのもあるけど使い難いから俺はこれ使ってるんだよ」


 困り顔で言う英二はいつの間にかいつもの口調に戻っている。

 神様といってもサンレイは幼女にしか見えない、姿だけでなく態度も幼女そのもので安心したのだ。


「みんなこんなに小さくなってるのか凄いな、でもキーボードが無いぞ、どうやって使うんだ? テレビみたいに見るだけか? 」


 横から食い入るように見つめるサンレイに英二が微笑みながらこたえる。


「これはキーボードは無いよタッチパッドだから、机の上のノートパソコンにはキーボードもマウスも繋いであるよ、俺はタッチパッドよりマウス派だからね」


 サンレイがバッと顔を上げる。


「タッチパッド? マウスは知ってんぞ、コロコロ動かす奴だろタッチパッドってなんだ? 」

「サンレイはパソコンの神様って言ったよね、パソコンの神様なのにタッチパッドも知らないのか? コロコロ動かすマウスって一昔前のボール式マウスのことだよね? それももう無いよ」

「う~、だってだって、パソコンの神様って言っても30年近く前のパソコンだぞ、昔のパソコンなら全部知ってんぞ」


 プクッと頬を膨らませて拗ねたようなサンレイの可愛い怒り顔に英二の頬が緩む、


「タッチパッドっていうのは画面を直接指やペンで操作するポインティングディバイスだよ、マウスを動かす代わりに指で直接画面を操作するようなものだよ」


 英二が小さなタブレットパソコンの画面を操作しながら説明する。

 見ているサンレイの目が興味深げに大きくなる。


「おお凄いな、指でグリグリするんだな」

「そうだよ、キーボードもこうしてソフトウェア上で使えるんだよ」

「おお画面にキーボードが出てきたぞ、小さくてちょっと使い難そうだな」

「うん使い難い、けどちょっとした事をするためのキーボードだからね、本格的に使いたかったら外付けのキーボードも繋げることができるよ」

「なあなあ英二、おらにも触らせてくれ、ちっこいのに凄いな」


 興味深げに眼をキラキラさせているサンレイに英二がタブレットパソコンを渡す。


「タッチパッドか凄いなどうやって動いてるんだ? 押すと反応するのは何となくわかんぞ、でも指動かすだけで付いてくるぞ、押してないのにどうなってるんだ? 」

「タッチパッドには押す力に反応する感圧式と電気に反応する静電式があるんだよ、これは静電式を使ってるんだ。指から出る微弱な電気に反応して動くんだよだから力を入れて押さなくても反応するんだよ」


 タブレットを英二に返しながらサンレイがニヤッと悪い笑みをする。


「静電式に感圧式か……よしっおらもタッチパッドにするぞ」

「タッチパッドにするってこのパソコンを? 無理だよこんな古い規格に対応してる物なんてないよ」


 サンレイが出てきた20年以上前の古いパソコンを英二が指差す。


「違うぞ、おらがタッチパッドになるんだぞ」


 不思議そうなの英二の前でサンレイが着物の胸元をバッと広げた。


「英二ほらタッチパッドだぞ、おらの体を英二がグリグリしていいんだぞ、なあなあ英二、グリグリしておらを操作していいんだぞ」


 サンレイの大きく広げた着物の胸元からペッタンコのおっぱいが見えている。


「わああーっ止めろ、女の子がそんな事しちゃダメです」


 英二が慌ててサンレイの着物の胸元を直す。


「感圧式じゃなくて官能式タッチパッドだぞ、触ればアンアン反応して動くんだぞ、英二のフィンガーテクニックでおらを操作するんだぞ」


 慌てる英二を見てサンレイがニヤりとしたり顔だ。


「しませんから、そんなテクニックなんて無いからな、お前本当に神様か」

「にゃひひひっ冗談だぞ、英二はお人好しのいいヤツだぞ」


 弱り顔の英二を見てサンレイが愉しげに笑う、どんな反応をするのか試したのだ。


「おらが眠っている間にずいぶん進歩したんだな、じゃあ98は? 98も進歩してちっちゃくなってるだろ」

「もう売ってないよ」


 サンレイの動きがピタッと止まる。


「 …………売ってない? 98が? 」

「うん、俺もレトロゲームに興味を持つまで知らなかったからね」


 サンレイの顔がみるみる青ざめていく、


「98が無い……じゃあ富士通のFM‐7か? シャープのX1か? 大穴でMSXか? まさか、まさかぴゅう太が…………どれが天下を取ってんだ。やっぱりアップルか」


 青い顔のサンレイの向かいで英二が首を傾げる。


「ぴゅう太? NECも富士通もパソコン作ってるよ、ウインドウズパソコンだけど、天下取ってるかどうか知らないけどウインドウズとアンドロイドとマッキントッシュだね」

「マックはわかるアップルだな、ウインドウズはさっきのだろアンドロドロって何だ?」

「ドロドロじゃなくてアンドロイドだ。OSだよ、オペレーティングシステムの事だよ」


 こたえる英二はいつもの表情に戻っている。

 むしろサンレイのほうが弱り顔だ。


「OS、MS―DOSの事だな、DOSならおらもできるぞ」

「ドス? そんなの今は使ってないよ、これにはアンドロイドが入ってる。ほらこれがアンドロイドだよ」


 英二がポケットからスマホを取り出した。


「DOSじゃなくて魔法のようなシステムを使っているのか……おらの98にもそのアンドロドロってのを入れるんだぞ」

「そんな20年前のパソコンに入るわけ無いでしょ」

「何を言う!! おらのPC―9801VM11に不可能なんか無いんだぞ、16ビットだぞ偉いんだぞ、10Mhzの高速なんだぞ」

「10M? この小さいのだって1Ghzだよ、他のはもっと凄いですから」

「1G……いつの間にそんな速く……、おらなんかとっくにお払い箱だな、湯飲みや茶碗は100年経っても使えるのに………… 」


 サンレイが床に両手を付いてガックリと落ち込む。


「サンレイはパソコンじゃないでしょ、神様なんだろ、使えるとかじゃないですから、神様ですからね」


 床に両手を付いたままサンレイが顔を上げて英二を見つめた。


「お前いいヤツだな、よしっ決めた。おらは今のこの世界の事を勉強する。勉強してもう一度98の天下に戻してやるんだぞ」

「勉強してどうこうなるものじゃないと思うけど…… 」


 泣き出しそうな顔から一転、ニヤッと笑いながらサンレイが立ち上がる。


「そうなのか? んじゃ英二の神様になってやんぞ、おらが守り神になったら将来安泰だぞ、邪魔者は全部おらが排除してやるからな」


 悪い笑みをするサンレイを見て英二が弱り顔で口を開く、


「守り神はともかく排除とか怖いことはしなくていいからな」

「英二は力持ってんだぞ、だから変なのに憑かれたりしやすいんだぞ、だからおらが守ってやんぞ」

「憑かれやすいって? 幽霊とかか? 」


 今まさにサンレイという変なのに憑かれてるよ……、思った言葉を飲み込んで英二が聞いた。


「そだぞ、言っただろ先祖が神職してたって、そんで英二も力を受け継いでるんだぞ、そんで…… 」


 途中で話しを止めたサンレイが鋭い目をしてドアを見つめた。


「どうしたんだ? 」


 釣られるように英二も後ろを振り向いてドアを見た。


「前の部屋から強い力を感じんぞ、誰の部屋だ? 」

「バカ兄貴の部屋だよ、でも今は居ないよ、修業とか言って中学卒業して直ぐに出て行ったからな、今は年に2回ほど戻ってくるだけだ」

「兄ちゃん居るのか? 年に2回しか帰ってこないのに凄い気だぞ」


 英二が向き直るとサンレイが険しいマジ顔をしていた。


「凄い気って? 兄貴のことか? 」

「そだぞ、残留思念って言うのか、持ち物や空間に気が充満してんだぞ」

「そんな力持ってるわけ無いだろ、只のバカ兄貴だよ、遊び回ってるだけだ。この前帰ってきた時も引き出しに入れてた俺の金盗んでいったんだよ」

「金盗んだのは置いといて良い兄ちゃんだぞ、英二も力持ってるって言っただろ、そんで変なのが寄って来やすいんだ。でも兄ちゃんの部屋から出る気で変なのは逃げていくぞ、間接的に英二を守ってるんだぞ」

「兄貴が……マジで何かの修業してるのか? 」


 疑うように訊く英二の前でサンレイが表情を緩める。


「気配だけでそこまでわからん、会うのが楽しみだぞ、いつ帰ってくるんだ? 英二みたいに優しいのか? 」

「いつ帰ってくるかなんてわからないよ、思い付いたようにふらっと帰ってくるんだ。去年は1回しか帰って来なかったし、今年は3ヶ月前に帰ってきたばかりだからな」

「んじゃ気長に待つぞ」

「気長にって本当にここに住むつもりかよ……まあいいか、よろしくなサンレイ」


 宜しくと手を差し出す英二にサンレイが抱き付いた。


「よろしくだぞ、なあなあ英二、これからずっと一緒だぞ、いっぱい遊ぼうな」


 英二の腕の中でサンレイがにぱっと可愛い顔を見せた。

 こうしてパソコンの神様サンレイは高野英二の家に居候することになった。


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