05 冒険者組合②
「なんでしょう?」
とタバサさんが目を丸くしながら聞く。
「これなんですけど……あっと、ソレ、あんまり人から見えない所で空けて貰えると助かります」
そう俺は言って、俺はマントに包んでいた『ソレ』をタバサさんに渡した。小さめの剣くらいの大きさをした『ソレ』を、タバサさんは包みを解いていく。『ソレ』が何なのか理解するなり、彼女はくりくりとした目を更に大きく見開いた。
「えっ……こ、これって!」
「しーっ、しーっ!」
俺は人差し指を立てて、タバサさんの声を止める。
出来る限り、他の冒険者に見られたくなかった。
「……でもこれ、どうしたんですか?」
そう小声で聞いてくるタバサさんに、俺も小声で返す為に彼女に顔を近づけて返す。彼女の頬が何故か心なしか赤くなった。
「実はですね、さっきガケから転んでちょっと落ちたって言ったじゃないですか。そこに同じように落ちてたんですよ。一角獣の死体」
予め用意していた嘘を俺はついた。
タバサさんに渡した物、それは『一角獣』の角だった。本当なら他の部位も売れるのかもしれないが、怪我をした俺が持ち運べる物にも限度があった。生憎そのような上級クラスの魔物を解体した経験も無かったので、その中でも一番高く売れそうで、有名な角だけ持って帰ってきたのである。
「一角獣が……森にいたんですか……?」
少し目を丸くしながら彼女は聞いた。確かに俺も信じられない話ではある。だけど残念ながら、そこは嘘では無いのだ。
「そうなんですよ。本当に驚いてます」と俺は返す。
「でも、そうだとしても……ほんとラッキーでしたね。色んな意味で」
「ほんと、ラッキーでしたよ」と俺も返す。「見つけた時は死ぬかと思いましたから」
「……ん? 死体を、見つけたんですよね?」
「ああ、はい。既に死んでました」と俺は慌てる。「一角獣がもし『生きてたら』、怖かったなぁと」
「確かに。……でもこれ、きっと凄い値段になりますよ……?」
そう言いながら、彼女は角を持って、組合 の奥へとそれを運んでいく。レートと重量を確認しに行ったのだ。
ユニコーンは聖獣だ。
その身体には、聖なる魔力が宿る。
角は、磨り潰せば、漢方や、解毒、解呪と様々な薬になる。アクセサリーにもなるだろうし、ともすれば武器にすらなり得る。非常に希少価値のあるもので、本当なら安い値段で買い取られてしまう組合で売りたくはないのだが……噂が立たないようにする為には、タバサさん経由で組合に売るのが一番良かった。彼女なら口の硬さには信頼が出来る。
しばらく窓口に立ったまま待っていた。
やがてタバサさんが戻ってくると、諸々の精算が始まった。
「今日は、全部でこんな感じですね」
「……お、おお?」
俺は精算書に書かれた数字を見て驚いてしまった。
150万ガルド。
見た事もない数値だった。勿論、そのほとんどが一角獣の角による物だ。これくらいあれば、少し倹約さえすれば、1年くらいは依頼をこなさなくても生きていけるだろう。唐突に小金持ちになってしまった事に、俺は正直、心臓が妙な感じに高鳴っていた。そんな大金、今まで手に入れた事が無い。
「どうしましょう。お金、全部持って帰られますか? こちらで銀行に預けておく事も出来ますが……? 手数料は、本来の銀行の手数料に加えて、全体の1割程度かかってしまうんですけど……」
「あー、はい。一部だけ貰って、後はお願いしてもいいですか?」
緊張しながら俺は答えた。正直大金を銀行まで持ち歩かずに済むという事には助かったが、そんなシステムが組合に存在する事すら、今の今まで知らなかった。
「……ところでリュシアンさん?」
すべての手続きが終わった後、ふとタバサさんはそう不思議そうに言う。
「はい、なんでしょうか」と俺は聞く。
「先程からずっと、リュシアンさんの後ろにいる小さな子は、どなたなんですか?」
「えっ……?」
俺は慌てて振り返る。
そこには、アルカさんが立っていた。