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42 合流① 






 迷宮の形が変わり地図が意味を為さない状態になってしまった為に、次の階層へ向かう階段を見つけるのには苦労した。何度も行き止まりにあたり、元来た道を戻らねばならず歯痒い思いをする事になった。


 救いは、まだ5層、4層と言った浅い階層だった為に、かかれば致命的になる罠もほとんど存在しないという事、また出てくる魔物もゴブリン達ばかりだという事だろうか。そのお陰で、急ぐ事も出来た。


 レベルの上がった今の俺にとって、ゴブリンはもう敵ではなくなっていた。


 魔法こそ安易に遣う事は出来ないものの、だからと言って戦えない訳ではない。


 俺は元々剣士職。むしろ接近戦の方が得意とする分野だ。


 昨日ですら遅く見えていた彼らの動きは、今では輪をかけて遅く見え、ゆっくりとした動きにすら感じるようになっていた。きっとこれも、レベルが上がった事によってAGI(素早さ)のステータスが上昇したせいだろう。


 加えて『脚力強化:中』や『跳躍』の技能(スキル)を取得した事も大いに役立つ。フットワークが軽くなり、間合いを詰める事、取る事が今まで以上に楽になる。彼らの攻撃を避ける事は容易となっていた。


 勿論、棍棒や刃物を手にしている為に、気絶や即死などの状態異常は怖い。特に刃物は刺さり所が悪ければ、どれだけ体力があったとしても一瞬で死に至る危険があるのだから気をつけねばならない。


 決して慢心や油断こそ出来ないものの、これだけの力量差であれば、奇襲や数の暴力に気をつけていれば、そうそう遅れを取るという事も無さそうだった。


 剣精霊達の間に、能力差という物があるのかどうかはわからない。恐らく存在はするのだろう。


 しかし白色の剣(ノーレさん)は、昨日の赤黒の剣(アルカさん)同様、ゴブリンの首などであればいとも簡単に刎ね飛ばす事が出来た。


 どちらの方が使いやすい、という差は今のところ感じない。


 ふた(振)り共、少しづつ癖は違うものの、そのどちらもが驚く程手に馴染んでくれる。まるで俺の意図を読み取ってくれているみたいに。


「――兄貴!」


 4層に上がり、幾度目かのゴブリンとの戦闘を終えた後の事だった。


 そう声を掛けられた。


 レドリーだ。


 彼女はアルカさんの肩を抱きながらやってきていて、俺の姿を見るなりほっと息をついた。


 どうやら俺はいつの間にか、アルカさんとの契約の範囲に入っていたらしい。それに気付いたアルカさんが、無理を推してレドリーを連れ俺の元へとやって来たのだと、後でレドリーから聞いた。


「良かったっス兄貴、ほんとに良かった」


「レドリー、すまない、心配をかけて……アルカさんも、」


 大丈夫ですか?


 そう尋ねようとしたが、彼女の様子が大丈夫でない事は明らかだった。


 アルカさんはレドリーに肩を借りながら歩いてはいたものの、俯いて大きく肩で息をしていた。おそらく2度の契約違反によってかなりの体力を消費してしまったのだろう。2度目に彼女と離れていた時間は、1度目と同様、それなりの時間となっていたからだ。


「ああ、ご主人……すまぬ、もう回線(パス)を繋ぐことも、難しくての」


 声が震えていた。アルカさんは俺が近づくなり、苦しそうな表情で顔を上げる。額からは大量の汗が流れていた。本来体温調節を自身で出来るはずの精霊が汗をかいている。それが異常な光景だというのは俺にもわかった。


「だが、良かったぞご主人。これでもう、大丈夫そ……う……」


 アルカさんは俺に顔を向け一瞬だけ安堵の表情を見せたが、そのまま表情がふっと消え、身体全体から力が抜けるように崩れ落ちる。レドリーが肩を抱いていたものの、それでも膝をつきそうになり、俺は慌てて彼女の身体を支えた。


「アルカさん!」


「ご主人……」


 聞いた事の無いようなか細い声でそう呟くなり、彼女の首がだらりとなる。支えた身体は本人の力がすべて抜けてしまったせいか、ずしりと体重がかかった。


「アルカさん? ……アルカさん!」


『……大丈夫です、彼女は生きています』


 一瞬ひやりとした俺を安心させるように、頭の中に声が響いた。


 周囲に他の人間の姿が見えない中、俺に腰に収まっていた白色の剣(ノーレさん)が光の粒子となり、ヒトの姿をとる。アルカさんとほとんど背丈の変わらない小さな少女が、俺の隣にふわりと降り立った。


「わ、凄い美人っス」

 

 レドリーが突如現れたノーレさんの姿を見て、目を丸くした。


 剣がヒトになっただとか、精霊が実体化しているとか、驚く事は他にあるような気もするのだが……今はそれに突っ込む余裕は無い。もしかするともうアルカさんで既に驚いている可能性もあるが。


 ノーレさんは俺の腕に抱かれたアルカさんの顔を覗き込んで、口を開いた。


「……あまりの疲労の為に、一時的に意識を手放しただけのようです。眠っているだけです。魔力は減っていますが、消滅する心配はまったく無いと思います」


 彼女の説明を聞いた事で、俺はあまり慌てずに済んだ。


「大丈夫、なんですね」


「はい。おそらくは数時間も休めば目も覚めるかと思います。……しかし、ヒトの姿のままで意識を手放してしまいましたか。本来精霊はそう言った折には、物へと姿を変えるか実体化を解くものなのですが……どうやらそれらもままならない程に、限界が来ていたようですね。今まで気力だけで持っていた為に、主様の顔を見て、緊張の糸が切れてしまったのだと思います」


「……」


 きっと、俺の事を心配してくれていた上に、レドリーを護らなければならないと思っていたのだろう。合流出来た事で、それがもう必要ないとわかり、ふっと力が抜けたという事か。


「……しかしこうなってしまうと、目が覚めるまでは剣に姿を変える事も、霊体化する事も出来ないと思います」


「つまり、目が覚めるまでの数時間はこの姿のままという事ですか」


「そうなります」とノーレさんは返した。


「……」


 少し考える。アルカさんの目が覚めるまでの数時間の間、彼女を休ませ、この迷宮で待ち続けるという選択肢もあった。彼女の為にはそれが一番かもしれない。しかしその数時間が具体的にどれ程の時間になるのかわからない。それに俺は朝からもう何も食べていないままで、食料も水に濡れたせいでなくなっていた。


 レドリーに目を向ける。


 それは彼女も同じ事のようで、腹を押さえながら苦笑いを返された。おそらく考えている事は同じだろう。


「……やっぱり、背負ってでも連れて帰るしかないよな」


「そうですか。では、私が前衛を勤めます。この先の魔物であれば、私の魔力でもなんとかなるとは思いますので」


 そうノーレさんは言った。





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