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40 脱出と二度目のチュートリアル② 





 リザードマン達は俺の姿を確認するなり、すぐさま武器を構えて襲い掛かって来る。


 相手が防具を着けていない人間1人であれば、作戦や隊列も関係なく、数の暴力でかかるのが早いと判断したのであろう。


「……ッ!」


 しかし、それならむしろ好都合だった。


 時々彼らは自分たちが遣えない魔法の事をあまり考慮しない事がある。ならばしめたものだと思い、俺は急いで白色の剣(ノーレさん)を抜き、魔力を込める。


 先程『ヌシ』を仕留めたのと同じように、風の刃を彼らに向けて飛ばすつもりだった。まだMP(魔力量)が回復しきっていない為、『ヌシ』を倒した時程の威力は出せないだろうが、それでも蜥蜴戦士(リザードマン)達を薙ぎ払うには十分な威力の物は出せると思ったのだ。


「――風よ!」


『っ! この魔力は……主様、駄目です!』


 剣を振り下ろし、魔法が発動するその直前。ノーレさんが何かに気付いたように慌てて声を上げた。


 しかし、その時にはもう既に遅かった。


 白色の剣の先より空気の刃が放たれる。しかし、その刃は俺が想定していたよりも()()()勢いのある物だった。下手をすれば、先程『ヌシ』に向けて放った物よりも強い物かもしれない。


 だからその風が生じると共に――俺の身体が勢い良く後方へと吹き飛ばされた。


「なっ……!」


 思えば先程、空中で水面に向けてその魔法を放った際、俺の身体は上空へと押し戻されたのだ。勢いのある風を生み出せば、当然、その反作用が返ってくる。


「主様!」


 剣を振り下ろした直後、白色の剣は急いでその姿をヒトへと変え、ノーレさんは掴んだ俺の手を必死で引っ張ろうとする。背後へと飛ばされる俺を、彼女の魔法で引き止めようとしてくれたのだろう。しかし彼女が単体で放つ事の出来る魔法の威力にはどうしても限度があった。


 反作用の勢いを殺しきることが出来ず、俺は彼女の手を掴んだままに、壁に叩きつけられる。


「がっ……!」


「うっ」


 背中を壁に感じ、そしてノーレさんを正面から受け止める。


 ノーレさんが実体化したままだったのは、おそらく最後の最後まで俺を止めようとしてくれたせいだろう。結局壁には打ちつけられてしまったものの、そのお陰で、反作用の勢いは随分と減ってくれた。


 だからこそ、俺は意識を失う事もなく、結果的に大事にも至らなかったのだ。


「う、ぅ……主様、大丈夫ですか?」


 彼女が止めてくれなければ、今頃一体どうなっていた事だろうか。まず間違いなく今のように咳き込むだけでは済まなかったであろう。骨が折れているどころか、命を落としている可能性も大いに有り得た。


「はい、なんとか。……すみませんノーレさん、助かりました」


「いえ、悪いのは私の方です。主様の魔力を完全に見誤っていました。まさか先程以上の魔力を出るなどとは、思ってもいませんでした。……わかっていたら、最初から止めていたのですが」


(……先程()()の魔力? やっぱり今のは、そうだよな)


 背中をさすりながら、痛みを堪えて立ち上がる。


 魔物達は全滅していた。


 皆身体を切り刻まれ、そして壁に打ち付けられて死んでいた。もう微塵も動く気配はない。魔法を発動させた俺ですらあれだけの反動が来たのだ、ましてや正面からあの風の刃を受けて生き残れる蜥蜴戦士(リザードマン)など存在しないだろう。


「これでもさっきよりは、魔力を抑えたつもりなんですが」


 俺は立ち上がろうとするノーレさんの手を引きながら、そう返した。言い訳などではなく、本当に抑えて魔法を放ったはずなのだ。


 あの巨大魚を相手に全力の魔法を放ってから、そう時間が経っている訳ではない。


 少し休んだとはいえ、MP(魔力量)もまだ十分に回復しきっていない状態だった。そのような状態でまた同じように全力の魔法を放とうとしよう物ならば、精神に過負荷がかかり、魔力酔いや、ともすれば意識を喪失してしまう危険性もある。


 しかし確かにノーレさんに言われたように、今感じた風の勢いはかなりの物だった。迷宮という狭い空間で放った魔法だという事を考えたとしても、『ヌシ』を相手に放った時よりも強い物だったように思える。


「俺の魔力制御が上手くいかずに、魔力を暴走させてしまったのでしょうか。……自分で言うのもなんですが、魔力は安定していたようには思えますが」


「……そうですね。主様の言う通り、魔力は安定していました。暴走したようにも思えません」


 ノーレさんはドレスについた土埃を軽く手で振り払う素振りを見せる。


 すると彼女の身体が光の粒子に包まれ、すぐさま汚れの無い真新しいドレスに変わる。先程から少しばかりデザインが変わっているようにも思えた。少し便利だと思った。


「ですが、そうだとしても、やはり先程の威力はおかしいです。先程の魔法が全力でないのだとすると、それはもう主様の魔力が高くなっているとしか考えられません」


「魔力が高く? そんな事……」


 と口にしかけたところで、ふと思い当たる節がある事に気付く。


「……さっきの巨大魚の経験値」


「……私も今、その可能性について考えていました」


 そうノーレさんは言う。


「ですが確かに、そう考えれば納得が行きます。あの巨大魚は、もう何百年も生き続けていた魔物になります。特にこの400年は、『精霊の指輪』をその身体の中に持ち続けてきましたから、『指輪』の強い魔力をその身に浴び、力を蓄えていたとしても不思議ではありません。先程絶命の折に流れ出た魔力の量も相当の物でしたし、経験値もかなりの物になっていた可能性があります」


「そして、その魔物を倒した俺のレベルが上がって、INT(魔威力)が先程より上がってしまったと」


「はい。それも先程までの主様の全力の魔力を、余力を残したつもりで放っても超えてしまう程に……」


「……」


 ごくり、と思わず喉が鳴る。


 力を抑えて放ったつもりの魔法が、先程までの全力を超える。


 ……なら、一体どれ程のレベルが上がってしまったというのだろうか。


 確かめようにも、今は確認の仕様が無い。


 しかしもしそれが本当だとすれば、大変な事になる。余力を残したつもりで使用した魔法ですら、使用者(じぶん)の身を危険に晒したのだ。ましてやこの状態で全力の魔法を遣うなど、もっての他だろう。


「……主様、少なくとも能力が把握できるまでは、私の力を遣って魔法を放つのは控えた方が良いと思います」


「……そうですよね。俺もそう思います」


 まさか自分の、いや正確には自分の力ではないのだけど、自分の放った魔法で命を落としかける日が来るとは思いもしなかった。非常時でもない限り、安易に精霊の魔法に頼るのはしばらく止めておいた方が良いだろう。




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