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幕間 剣精霊ノーレ④ 





「くっ! はっ、や……ちょっ! わっ!?」


『……』


 相変わらず、彼女は私を上手く使いこなせない。時間を見つけては迷宮に潜り、私を振るおうと努力はするものの、相変わらず子鬼(ゴブリン)1匹をも倒せないまま、時間ばかりが過ぎていく。


 結局、今回も彼女が息切れを起こしたところで、限界だと判断した『小精霊』達がゴブリンを追い払った。


「はぁー……はぁー……ごめんね、みんな、ありがと……」


「……」


 これではきっと、私が直接ヒトの姿となって戦った方がまだ早いだろう。ゴブリン程度であれば、ニンゲンの力を借りずとも私だけでも十分倒せるであろうから。勿論、そんな風に魔物を倒したところで、彼女に経験値が入る訳でもない。彼女が私を『使って』倒さなければ意味がないのだ。


「ごめんね、ノーレ。せっかく力を貸してくれてるのに」


「……どうしてそこまで私を振るえないのですか?」


 肩を上下させながら苦笑いする彼女に、私はヒトの姿になり、溜息をつきながら聞く。


「どうにも、重く感じちゃってね……」


「重いって……ほとんど重量も無くしているハズですよ。重いわけないじゃないですか」


 そう私は返した。


 そう、彼女のような非力なニンゲンでも私を振るえるようにする為、私は自分の重量を極限まで軽くして()()()()()


 本来こう言った調整は、契約者(彼女)自身が魔力を消費して行う事だ。


 だが彼女は魔力の制御が出来ない為に、代わりに私が魔力を消費して調整している。切れ味だって常に最高の状態を保っている。ずっと彼女に言い続けているように、一撃さえ与える事が出来れば、子鬼(ゴブリン)程度の魔物は……いやきっと(ドラゴン)ですら、斬り落としてしまえるハズなのだ。


 ――もう少しでいいから、ちゃんと主様の事を考えてあげて。


 『小精霊』に言われた言葉を思い出す。


 別に私は、考えていない訳ではないはずなのだ。


「まぁ、確かにそうだよね。()()には、軽いし」


 彼女はそう苦笑いする。最高の状態を用意しているハズなのに、だったら何故上手く振るう事が出来ないのだろうか。思わず罵倒したくなったけれども、私は彼女のその言い方に少しばかり引っかかりを覚えた。


「……実際? 何か他に問題があるのですか?」


「いや、ノーレには問題無いよ。多分、私が駄目なだけだと思うから」


 彼女に問題があるのであれば、聞いたところで意味が無い。彼女自身で解決する物だ。いつもであればそう切り捨てる所ではある。しかし『小精霊』にあんな事を言われたせいか、私は少しばかり、気になってしまった。


「……それ、話してくれませんか?」


「んー、なんて言えばいいのかな……軽いハズなんだけど、どうしても見た目のイメージに引っ張られて、振りづらくなっちゃうんだよね」


「見た目?」


「ほら、ノーレって人間の姿の時は小さいのに、剣になると結構大きいじゃん。だから、どうしても私の頭の中で混乱しちゃって……」


「大きい? ……私がですか? その辺りにある剣と、大して変わらないとは思うのですが……」


 そんな事を言われるとは思わなかった。


 確かに他の剣よりは、少しばかり大きいかもしれないが、それでも大型の魔物を相手にする事を考えると仕方がない上に、誤差の範囲と言った所だろう。


「確かにそうかもしれないんだけど……私からすると、普通の剣ですら、大きく感じちゃうんだよね。あまり力がないから、持つだけでも精一杯っていうのが頭の中に先行しちゃってて。ノーレが軽くなってくれてるのは、よくわかっているハズなんだけど……それでもいざ振るうとなると、そういう事を考えちゃうんだよ。先に攻撃されるかもって思うと、上手くいかなくって。多分、ノーレがナイフ精霊とかだったらそんな事を考えずに済むと思うんだけど……」


「……ナイフの精霊、ですか」


 勿論そんな精霊聞いた事は無い。


 もし居たとしてもそんなサイズだと『小精霊』になってしまうだろう。まるで私よりも『小精霊』の方が良いと言われたみたいで、私の矜持が傷ついてしまう。


「ああ、ごめん。そういう『精霊』と契約したいって訳じゃないよ。でもね、もう少しノーレが小さかったら、私ももっと上手く扱えたんじゃないかなぁって思って。……ごめんね、私、ノーレの契約者のはずなのに、全然上手に使ってあげられなくて」


「……」


 悲しそうな表情を見せる彼女に、私は少しだけ考えてから答える。


「……ナイフは流石に難しいかもしれませんが、小太刀程度になら、私も形を変える事も可能かもしれません」


「え?」


 そう声を上げて、彼女は目を丸くする。


「本当? そんな事が出来るの?」


「ええ、おそらくは。実際にやった事はありませんが……私は精霊ですし、本来の姿から形を変える事も出来ると思います。慣れない姿の上に、小さくなるが故、今よりずっと力は劣ってしまうかもしれませんが……それでもゴブリン程度なら、斬れるのではないかと」


 勿論、そんな姿になれば、龍を斬る事など到底出来ないだろう。屈辱的な姿になる事だ。


 だがしかし、そうは言っても、今はゴブリン1匹すら斬る事も出来ていない状態である。背に腹は変えられない状態だろう。


「だとしたら、凄く嬉しいかも……」


 と彼女は言った。


「一度その姿になって貰ってもいい?」


「……わかりました」


 私は不服ながらそう言って、彼女の手を握り、小太刀へと姿を変えてみる。いつもよりも遥かに小さく、細い姿に。


 まさか『剣精霊』の私が、このような姿になる日が来るとは思わなかった。少しばかり情けなくなってくる。


 しかし一方の彼女は、目を輝かせていた。


「……おお、凄い。本当にノーレが小さくなった」


 彼女はそう驚きながら、軽く私をその場で振るう。


 まだ質量などを調整していない為に、本来はいつもより重いはずなのだ。なのに、彼女は先程までよりずっとスムーズに小太刀(わたし)を振るっている。それが彼女の言う、見た目のイメージという物のせいなのだろうか。


『……』


「ノーレ、これなら私、いけるかも!」


 彼女は嬉しそうにそう言った。




◆◇◆◇◆




 結果から言うと、彼女の言葉通り、『()()()』しまった。


 その後出会ったゴブリンを、彼女はあっさりと倒してしまったのだ。


 小太刀故に、間合いに入るのには少しばかり苦労したが、他の『小精霊』達がゴブリンの動きを止めてくれた為に、なんとか頚動脈に傷を入れる事が出来た。ゴブリンは慌てて首に手をやり傷を抑えようとするものの、それで傷がどうにかなるはずもない。ぴくぴくと体を痙攣させると、壁に体をもたれかけさせ、崩れるようにして倒れた。そうしてそのまま動かなくなる。


「……」


 私は驚きのあまりヒトの姿に戻り、倒れたゴブリンを確認する。間違いなく死んでいる。


 私達がやったのだ。


「ノーレ!」


 その言葉と共に、体を衝撃が襲う。彼女が抱きついてきたのだというのは、いつもの『薬草』の匂いと『指輪』の魔力で見なくてもわかった。


「凄いすごい! まさか本当にゴブリンを倒せるなんて!」


『やったね主様!』


『凄い!』


『やるじゃん!』


『マスター大好き!』


『感動した!』


『た!』


「……」


 『小精霊』達や彼女が声を上げる一方で、私は声が出なかった。先程まで、どんなにやっても倒せなかったというのに、こうして小太刀なんかに姿を変えた途端、簡単に子鬼(ゴブリン)を屠れてしまったのだ。


 私は別に、魔力をそこまで発揮していたつもりなど無いと言うのに。


『ありがとね』


 呆然としている私の肩を、『小精霊』の小さな手が叩く。まとめ役の彼女だった。


「……何故、貴女に感謝をされるのでしょう?」


『主様の力になってくれて嬉しいんだよ。素直に受け取ってよ』


 彼女は満足そうな表情を見せた後、他の『小精霊』達と戯れている、彼女の『契約者』に嬉しそうに抱きついて行った。


『凄い! 凄いよ主様! やったね!』


「ありがとう! 皆が足止めしてくれたお陰だよ! それに、ノーレも凄いね! ほんとにすぱっと切れちゃった! ノーレって本当は凄かったんだね!」


 そう言って、彼女は私を更に強く抱きしめた。


「……本当はって、今まで何だと思ってたんですか?」


 私は少しばかり、むっとなりながら返す。


 しかし内心、不安になっていたのも確かだった為に、今は心の底から安堵していた。


 これでやっと子鬼(ゴブリン)を倒す事が出来た。


 まさか『龍殺し』を求める私が、『子鬼殺し(この程度)』の事で、安心してしまうだなんて。


(……契約者の事を考える、か)


 私はぼんやりと思いながら、『小精霊』に目をやる。彼女も私の視線に気付くと、満足そうに笑い返してくれた。不服ではあるが、どうやら彼女の言っている事は正しいらしい。





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