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32 白髪の精霊(ロリ)





 それは、薄い緑と白の交じり合った珍しいドレスを着た少女だった。


「……」


 彼女の体格はアルカさんに似ていた。身長はおそらく百四十センチにも満たず、彼女と同じくらいしかない。だから一瞬、どうしてレドリーと共に行ったはずのアルカさんが、ここまで降りてきたのかと勘違いしかけたくらいだ。


 しかしよく見れば、彼女の顔つきや纏った雰囲気は、アルカさんとはまったく違う。


 少女もアルカさんも共に『美少女』と形容して良いのだろうが、その方向性が異なる。


 初めて会った場所や、着ている服のせいもあるのだろうが、アルカさんの美しさがその明るさや力強さや自信の表れから来る物ならば、彼女のそれは、落ち着き方や、どことなく漂う儚げな印象から生まれる物のように思えた。


 目尻の下がった紫色の瞳に、左目の下にある泣き黒子が、そう感じさせているのかもしれない。肩まで伸びた真っ白い髪に、陰りがあるように見える表情。それらが彼女を神秘的に魅せている。


 そして何より、彼女の体は透けていた。


 つまり、霊体なのだ。


「……どうやらその様子ですと、私の事が見えているようですね」


 彼女はそう言った。


 非常に平坦で抑揚の無い声だった。


「精霊、ですか?」


「はい。その通りです」


 少女の姿をした精霊はそれから、何かに気付いたように俺の左手へと視線を向けた。俺も自分の左手へと目をやる。その薬指には、ずっと外れないままでいる()()があった。


「……なるほど。『精霊の指輪』ですね。私の知っている『精霊遣い』達とは少し雰囲気が違うので、どうして貴方には私の事が見えているのか少し疑問でしたが……それなら納得です。私の以前の契約者も、それを身に着けていましたから」


(以前の……?)


 その言葉に、俺は少し引っかかりを覚えてしまう。


 それから彼女は、水面から身を乗り出すようにして、俺の指にはめられた『精霊の指輪』に顔を近づけようとした。しかし彼女は何故かこちらの石床まであがってくる事はなく、あくまでその場から指輪を確認しようとする。


 だから俺との間にはどうしても距離が出来てしまい、彼女は目をこらして、少し難しい顔をする。


「む。……もう少し、近くで見せて下さい」


 結局彼女はそれでは満足できなかったのか、そう口にした。


「……」


 彼女はどうにも俺に危害を加えるようには見えないが、精霊である以上、人間など簡単に殺すだけの力は十分に持っているはずだ。


 ここは素直に従った方が良いと判断する。俺は水面に映る巨大魚の影を意識して、あまり水面に近づきすぎないようにしながら、彼女に左手だけを差し出すように腕を伸ばした。


 子供の姿をした彼女は無表情なまま、指輪に顔をじっと近づけたり、かと思うと急に離れてみたり、しゃがんで見上げたり、背伸びをして上から見下ろしたりした後、何かを納得したようにうんうんと頷いた。


 それはまるで、見た目通りの幼い少女のような仕草にも見える。


 しかし彼女は精霊だ。外見はアテにならない。


「……なるほど。同じ力は感じますが、やはり私が契約していたニンゲンの物とは別の物のようですね。ありがとうございます。本当はそちらに行きたいのですが……私はどうにも、この水から離れる事は出来ないみたいです」


「……」


 それを聞いて、もしかして、と思う。


(……彼女も、アルカさんと同じ?)


 ――この泉は少しばかり霊力が高くてな。こうして魔力によって、水の上に姿を投影する事しか出来ないのだ。だからこれは確かに自分ではあるのだが、余の本体では無い。


 森の泉で、アルカさんと初めて会った時の事を思い出す。


 あの時の彼女も、こうして水面の上に浮いていて、水面の外に出て来る事は出来なかったハズだ。


 ここの水には、その泉と同じ精霊の力を減退させる力がある。それも先程、アルカさんに聞いたばかりの事だった。


「……どうしました?」


「ああいえ、……もしかして、あなたも水上に姿を投影している状態なのではないかと思いまして」


 無表情に首を傾げる彼女に対して、俺がそう尋ねると、彼女がぴくりと反応したのがわかった。


「はい、その通りです」


 それから彼女はこくりと頷き、言葉を続ける。


「この姿は私であって、私本体ではありません。しかしその様子ですと、ここの水の力も含め、その事は知っているようですね。……『も』という事は、貴方は以前にも同じような経験した事がある、そういう事でしょうか」


「はい、実は――」



◇◆◇◆◇



「――なるほど、そういうことでしたか」


 この水と同じ効力を持つ泉の事。そこで出会った剣精霊(アルカさん)の事。そして、俺がどうしてこの場所にいるのかという事についてを説明した後、彼女はそう答えた。


「リュシアン、貴方の言う通り、私の本体はこの水底に落ちています。……私は剣の精霊。ノーレ、というのが私の名前になります」


「剣精霊……」


 そう俺は呟く。


 という事は、今目の前にいる精霊、ノーレさんは、俺の契約精霊(アルカさん)と同種の精霊という事になる。


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