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27 南西角迷宮6層②




 地下迷宮の地図は組合(ギルド)や道具屋で売っている。


 冒険者の必需品故に、足元を見られているのかそこそこ値が張る。本当は買った一枚を長く遣いまわしたいのだけど、消耗品として考えた方が良いとレドリーと相談し金を出し合って買った。


 時々迷宮の形が変わる事があるので、定期的に買い換えないといけない。ここぞという時に地図に嘘を吐かれて致命傷になる可能性があるからだ。


 まるで生きているかのように形を変える地下迷宮は、一体誰が作ったのか。


 いるのかいないのかわからない創造主(どこぞの神)が戯れの為に作ったという話があり、最下層にいると噂される魔王がこれまたあると噂される宝を護る為に作ったという話もある。迷宮の底は異界に繋がっていると主張する者がいて、はたまた『地下迷宮』それ自身が一匹の魔物だと考える者もいる。


 どれも噂でしかなく、そしてどれも嘘のようにも聞こえる。


 結局のところ、誰も最下層まで確認しに行った者はいないし、そもそも最下層が何層なのかという事すら知っている者もいないのだ。


 過去には50層程度まで潜った冒険者がいる、という話を聞いた事があるが……それも噂で聞いた話でしかない。この街に来てからの11年で聞いた確かな最高記録は、10人組(デクテット)を組んだSランク冒険者達が多数の死傷者を出しながら34層で引き返してきたという話だ。


「……」


 元来た道へ戻ろうとしていた矢先、レドリーが曲がり角の先に顔を覗かせながら、俺の方へ向けて手を上げる。そこで俺は地図とペンを腰へと仕舞う。


 敵がいる、という合図だ。


「1匹っス。こっちきてまス」


 どうやらまだ小声で喋れる程度にはまだ距離はあるらしい。


「リザードマン?」


「はい」


「はぐれか、珍しい」


「そうっスね。さっきの食事会と合流するつもりなんスかね。自分も参加できないっスかね」


「アイツらの飯多分くっそ不味いぞ。9年ほど昔、空腹のあまりアレを食べた馬鹿を1人知ってるけど、3日程寝込んでた。……もう2度と食べたくない」


「……なら、やめとくっス」


 群れる習性のあるリザードマンが、1匹でいるのは珍しい。2対1程度であれば、俺とレドリーなら難なく倒す事が出来るだろう。


 しかし――


「さすがに大きな音出せば、さっきの群れも気付くよな」


「食事中みたいですし、そう大きい音を出さなければとは思いますが……でも叫ばれでもすれば、ヤバいっスよね」


「……だよな」と返す。


 もし先程のリザードマン達が気付く事になれば、それはかなり厄介な事になるだろう。リザードマンは人間より振動に敏感な魔物だ。駆けつけられて2対9にもなれば、不利どころの話ではない。


 かといって、こちらに向かってきている以上、その1匹を避けることも出来ない。


 だとするならば。


「……アルカさん」


 そう俺は口に手を当てながら小声を出す。


『どうした、ご主人?』


「リザードマン、鱗ありますけど、一撃でいけますかね」


『愚問だな。その程度の魔物なら余裕だろう。余はそこらにある駄剣達とは違うでの』


 少しつんとした声で返答が返ってきた。


 どうやら先程の事をまだ彼女は怒っているらしい。


 しかし、その言葉で少し安心した。


 俺はレドリーに軽く説明をして場所を変わり、黒赤(こくせき)の剣を振り上げたままの姿勢で構えて、息を殺して待つ。狭い通路だからこそ出来る待ち伏せ。それを汲み取ってか、振り上げた途端に剣の重量が軽くなる。


(重量(おもさ)まで自由に変えられるのか、この剣は……)


 どうやら変わるのは切れ味だけではないらしい。なんとも無茶苦茶な剣だと思う。確かにそのあたりにある剣とは一線を画している。振り上げた腕がまったく苦にならない。


 蜥蜴戦士(リザードマン)は知性こそあるものの、あまり思慮深い魔物では無い。よほど音を立てない限り、曲がり角の先に誰かが待ち受けているなどと言った事を考えないだろう。


「……」


 息を殺して、近づいてくる足音に耳を傾ける。


 じっと、その瞬間を待つ。


 気を張り続け、危うく集中力が切れかけてしまいそうになる直前、二足歩行で鎧を着た大蜥蜴(トカゲ)の姿が視界に入る。


 その瞬間、俺は踏み出して、首に向けて剣を振り下ろす。振り下ろす直前に、リザードマンと目が合った。しかし、そこで気付いてももう遅い。黒赤(こくせき)の剣は蜥蜴の首をすぱんと切り落としていた。


 トカゲと同じで、リザードマンも尾は生命活動に必要の無い器官なので斬られた所で問題ないだろうが、首を斬られれば生きてはいられない。即死したリザードマンの身体がふらふらともたつき、その場に崩れ落ちる。リザードマンが着ていた鎧が地面に打ち付けられる直前、さっと飛び出したレドリーがその大きな身体を支えた。


 彼女はそのまま、自分より大きなトカゲの身体を、ゆっくりとその場に倒していく。


 レドリーから既に聞いていたものの、リザードマンが兜をかぶっていなくて本当に良かった。


「やりましたっスね、兄貴」


 ぐ、と親指を突き立ててレドリーが大きな笑みを浮かべる。


「助かったよ」と俺は言う。


 それから俺は、先程の角まで戻り、リザードマン達がこちらに気付いていない事を確認する。レドリーほど眼が良い訳では無いが、彼らに動きが無い事は確認できた。どうやら気付かれていないらしい。レドリーは早速リザードマンの屍骸から荷物や部位を剥ぎ取っていた。


 レドリーが剥ぎ取っている間は、俺が見張りをやる。


 一応、ドロップアイテムはレアが出ない限りは換金して山分け、というルールを迷宮に入る前に決めていた。レアな物が出たら要相談。


『の? 余がおれば他の()など必要なかろうに?』


 見張っている間に、アルカさんが思念を飛ばしてくる。


「だから悪かったですって」


 そう俺は返した。

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