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15 ゴブリンチュートリアル②





 生き残ったゴブリンは、相方がありえない死に方をした事にしばらく動揺をしていたが、それでも腰を屈めた後、突進するかの如く俺に向かってきた。


 今度はゴブリンがなぎ払うように剣を振るう。俺は咄嗟に黒赤(こくせき)の剣で受け止める。刃と刃がぶつかり合い、先程のように相手の剣を折ってしまうのではとも思ったが、今度はそうはならずしっかりと受け止める事が出来た。そうしてそのまま押し合いになる。


『余は魔力の剣よ。切れ味を変える事など造作も無い』


 どうして今度は相手の剣が折れなかったのか。


 そんな俺の疑問に答えるかのように、アルカさんの声が俺の頭に流れてくる。


『使用者の思うがまま、余は自身の鋭さや硬さを変えられるでの。この程度のモノであれば、ご主人が望みさえすれば、今のように攻撃を受け止める事も、先程のように切り落とす事も簡単よの』


「それって、斬りたい物であれば斬り、斬りたくない物は斬らないでいられるという事ですか?」


 と俺はつばぜり合い状態のまま、声を出す。


 ゴブリンからすれば、自分に話しかけられているように見えるだろう。不思議そうな顔をした。


『勿論限度はあるがな。だが、今受け止めている剣くらいなら簡単に切れるさ……押し切れッ!』


 アルカさんの掛け声と共に、俺は今一度前のめりに体重をかける。つばぜり合いになっていた相手の剣が、黒赤の剣によって真っ二つに落とされる。体重をかけていた物がなくなったゴブリンは前のめりになりかける。俺はそこに、足をかけて転ばせた。


(切れ味を自在に変えられるって、無茶苦茶な剣だな……)


 そう思いながら、転んだゴブリンの脳天めがけて剣を突き刺そうとした時、アルカさんが俺を止めた。


『まぁ待つのだご主人。折角の機会だ、一度魔法を試してみてはいかがだろうか』


「……どうすれば良いんですか?」


 その手を止めて、俺は聞いた。


 それから足を上げ、立ち上がろうとじていたゴブリンの股間めがけて思い切り踏み降ろす。柔らかな感触と共に、ゴブリンが声にならない声をあげて悶絶する。多分これでしばらく動かれる事はないだろう。悪いとは思うものの、命の奪い合いをしている相手に情けをかけられる程の余裕はあまり無い。


『他の魔法を使うときと同じだよ。魔力を放出するイメージを持ち、私を振るえば良い。それだけで良い。余の属性は火と闇。それ以外の魔法は使えん。ご主人は魔法が使えるか?』


「はい、火なら、簡易的にですが」


 火、水、風、闇、光。


 その五大属性のうち、『火、水、風』の三属性は『簡易魔法』のみではあるがスキル習得していた。単騎(ソロ)で活動をする冒険者にとって、簡易攻撃魔法と簡易治癒魔法は、どのクラスをやっていても覚えていて損は無いスキルである。


 特に剣士にとっては、単騎(ソロ)で物理攻撃の効かない魔物に出会った時など、覚えていないと致命的となる。


「……グギ、グ、ギゲ……」


 転んでいたゴブリンが、下腹部の痛みに苦しみつつも、這いずりながら逃げようとする。


 俺はその姿に向かって、簡易魔法を打ち出す要領で、黒赤(こくせき)の剣へと魔力を混めた。


「――火よ!」


 そして、剣を振り下ろす。


 途端、剣より灼熱の炎の柱が現われ、ゴブリンの身体を包んだ。一瞬で絶命したのだろう。炎の中で動かなくなったゴブリンの身体は、すぐに燃え尽き、炎が消えた後に残ったのは、溶けかけた鎧や剣だけだった。


「……」


 とてつもない魔力炎だった。


 俺が打ち出せる簡易火魔法『火の玉(ファイヤーボール)』とは比べ物にならない。スキルを魔術に極振りし鍛錬を積んだ『魔法使い』のクラスでも、そうそうあのような魔法は使えるようにはなるまい。


 剣の威力にしても、魔法の威力にしても、ニンゲンの物を軽く凌駕している。


 ……黒赤の剣(アルカさん)は凄い。そして、俺はそんな剣精霊の彼女と契約をしてしまったのだ。


『……ほう。いきなり上手く遣えるとはな。何度かは失敗すると思っていたのだが、やはりご主人は筋があるみたいだな。以前の所有者達は皆、使いこなすまで時間がかかっていたぞ?』


 満足そうに言うアルカさんを前に、俺はただ呆然とするだけだった。


「……」


『どうしたご主人、そう黙ってしまって。あまりの威力に声が出ないか?』


「そんな感じかもしれません。正直、驚いてます」


『そうかそうか。まぁ、精霊の力を目の当たりにしたのだ。それが正常な反応だな。……して、その力を得た感想はどうだ?』


「感想、ですか……。やはり精霊の力は凄いなと、圧倒されてる感じですかね」


『何を他人事のように言っておるのだ。それはもうご主人の力なのだぞ?』


「俺の?」と俺は聞いた。


『そうだ。余の力ではない。余だけではこの力は引き出せないのだよ。そしてご主人以外の者も引き出す事も出来ない。余と契約したご主人のみが、余を振るう事で初めて使える力なのだからの』


 そうアルカさんは言った。


 俺はゴブリンの死体達を見る。もっとも、炎で燃えたゴブリンの死体は、跡形もなくなっているのではあるのだが。


(これを、俺がやった? これが俺の力……?)


 本当に圧倒的な力だった。切れ味にしろ、魔力にしろ、今まで見た事の無いような力だ。それは勿論、黒赤の剣(アルカさん)の力だ。しかし、彼女と契約したのは俺で、彼女は俺の力となったのだ。


 彼女の言う通り、契約が俺の命尽きるまでだとして、死ぬまでこれが俺の力だと言うのであれば……。


「……」


 自然と俺は、自分の頬がにやけている事に気付いた。慌ててあいている方の手で自分の口元を隠した。しかし頬の緩みはおさまらず、アルカさんにも既に気付かれてしまっていたらしい。


『どうやらご主人は余を気に入ってくれたようだな。とても嬉しいぞ。さぁ、どんどん狩って、金を稼ぎ、食事を食べに行こうではないか!』







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