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14 ゴブリンチュートリアル①





 子鬼、と呼ばれるだけあって、ゴブリンは基本的に背丈が小さい。ホブ(大きい)ゴブリンになると話が変わってくるが、基本的には彼らの身長は、アルカさんがヒトの姿をした時よりも更に小さいものだ。ただ、アルカさんのような可愛らしさは、欠片も存在しないのだが。


 痩せ気味で、肌は泥を被ったように汚く、皮も余っている。たまに人間から剥ぎ取った鎧や兜を装備しているが、基本的には布一枚で秘部などを隠しているだけ。細い腕は、見た目の通りそこそこ非力。彼らは人間に比べれば大した戦闘能力も無い上に、頭もよく無い。


 なら何故冒険者達はゴブリンに負けるのか。


 小柄が故に素早く、また人間と同じように、手で物を扱えるという事。また、群れで行動している事が大きい。常に2、3匹以上で行動する習性を持つ。ソロで迷宮に潜る人間からすれば厄介な相手だといえる。


 そして今、目の前に現れたゴブリン達も2匹だった。


 その2匹は、それぞれに剣や、盾、鎧という物をつけている。俺の姿に気付くなり、剣を構えてじりじりと近づいてくるその様は、さながら人間の2人組(コンビ)であるかのようだ。


 ゴブリンの片一方が装着している、少しサイズがあわずにぶかぶかになった鎧の色には見覚えがある。今しがた見つけた死体が身につけていた肘あてと同じシリーズの物のように思える。おそらくは、彼らが先程の冒険者を()ったのであろう。


「……」


 久々に、ある程度の強さを持った魔物と対峙する。一角獣(ユニコーン)を除けば、危険性のある魔物と戦うのはいつぶりの事だろうか。確か3ヶ月程前に、家賃を払う為に仕方なく、38地区の3階層に潜って灰色狼を叩いた時以来だろう。


(大丈夫、だよな……2匹だけど、ゴブリンなら……)


 黒赤の剣(アルカさん)を構えながらそう思う。


 以前の自分であれば、ゴブリン3匹程度までであれば、時間さえかかるが1人でもなんとか対応する事が出来た。


 その時と比べればブランクはあるものの、レベルが倍以上になっている為に、HP(体力)は格段にあがっている。以前より危険は少なくなっているハズだ。頭部などを護りながら、気絶に気をつけ、落ち着きながら戦えば勝機は見えてくるはず。そう自分に言い聞かせる。


『怖いのか?』


 アルカさんが軽い口調で問う。


「正直怖いです」と俺は言う。


『ご主人なら大丈夫だ』とアルカさんが言った。『一角獣(ユニコーン)を倒したのだ。自信を持てば良いさ』


「……そう、ですね」


 やるしかない。とにかくこうして対峙した以上、殺すか殺されるかの関係になったのだ。


 俺はまず踏み込み、片一方のゴブリンに対して黒赤(こくせき)の剣を軽く横振りした。牽制のつもりだった。


「……え?」


 一瞬にして、ゴブリンの首が宙に舞う。


 本当に牽制のつもりだったのだ。


 力もそう入れずに振るったその剣を、ゴブリンは自身の持っていた剣で受け止めようとした。


 決まった手順にしたがって技を掛け合う『約束組手』のような、お互いに小手調べ的な流れ。きっとゴブリンもそれを理解していたのだろう。しかしゴブリンの剣は、黒赤の剣が触れた瞬間、まるで大根でも切るかのようにすぱんと簡単に切れ目が入り、容易く折れてしまった。


 受け止められる事を想定していたハズの俺の攻撃は、そのまま勢いを殺す事なく、ゴブリンの身体へと、首へと入った。そのまま黒赤の剣は、ゴブリンの首を綺麗に刎ねていた。


 肉や骨を断っている筈なのに、まるで(くう)を斬るかのような感触の無さだった。


 思考主を失った残りの身体は、軽く痙攣した後にその場に崩れ落ちる。


「……」


 そのあまりの光景に、俺はその場で固まる。残ったもう1匹のゴブリンも、その光景に言葉を失い絶句する。


 ころころと、ゴブリンの生首が転がるのを見る。視線を上げると、同じく生首に目をやっていた、生きている方のゴブリンと眼が合う。


 ……今の、俺がやったの?


 そう言葉には出さずにゴブリンに問うように俺は視線で聞く。


 ウン。


 同じく言葉には出さないものの、ゴブリンはそれを理解したのか、こくりと頷く。


 あまりの光景を前に、奇妙な意思疎通が起きた。異種間といえども、お互いにある程度の知性を持った生き物だ。だからこそ、そんな共感の瞬間が産まれたのだろう。


「……!」


「ッ!」


 しかし、それもわずか一瞬の事、俺達は現状を理解するなり、慌ててお互いに距離を取り合い、剣を構えなおす。お互いがお互いに、先程の光景に混乱しているのはわかっていた。


(……なんだ、今の威力)


 一角獣(ユニコーン)で経験はしていたとは言え、あまりにの切れ味に驚嘆してしまう。ゴブリンの持っている剣は、人間から奪った物で、間違いなく金属製。それを黒赤の剣は、いとも簡単に切り落とし、あまつさえ勢いを殺さずに首まで簡単に刎ねのけてしまったのだ。


 これが剣精霊(アルカさん)の力というものなのか、と改めて驚愕してしまう。




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