01 ロリ精霊の水浴び
精霊の裸を見てしまった。
それは街外れにある森、その奥にある人気の無い小さな泉での事だった。薬草を取りに来ていた俺は、一糸纏わぬ姿になり、水浴びをしている少女の姿を見た。
身長百四十センチに満たないであろう背丈に、腰まである綺麗な金色の髪。ぱっちりと開く大きな瞳は、透けるようなエメラルドグリーン色をしている。色素の薄い真っ白な肌は、まるで等身大の陶人形を見ているかのようだ。
優雅に水浴びをする彼女の姿に、俺は目を奪われていた。
「……」
森の中に差し込む陽光が、彼女の濡れた髪や泉にきらきらと反射する。
(綺麗だ……)
と俺は見惚れてしまう。
少女が精霊であるのはすぐにわかった。
水の上に浮かび、手も使わずに水を自在に操る。そんな芸当、いくら魔力があった所で人間に出来る物ではない。
加えて、彼女の体はうっすらと透けていた。霊体なのだ。
……しかし彼女が本当に精霊なら、どうして、という疑問が浮かんでくる。精霊は普通の人間には見えないはずの存在だ。精霊遣いや高位の魔道師ならいざ知らず、平均的な冒険者に過ぎない俺が、一体どうして彼女を見ることが出来ているのか。
「……え?」
そしてそれは彼女にしても同じことのようだった。
俺にはその姿が見えるはずがないと思っていたのだろう。だからこそ、無防備な姿を晒し続けていた彼女は、俺がはっきりとその姿を捉えているのに気付くと、頬を紅潮させて目を丸くし、そしてそれから……にやりと笑ったのだった。
◇◆◇◆◇
サザラント王国、その都市の1つダラムは冒険者の街として有名だった。
元々は、巨大地下迷宮制圧の為に立てられたキャンプ場だったらしい。そこに人が集まりそのまま街になったという過去があると聞いた。だからか、街の至る所には地下迷宮への入り口があり、街の周囲には魔物の住む森や洞窟が多く存在する。この街に住む冒険者達は、今日もダンジョンへと様々な目的で潜っていく。
俺、リュシアン・フェントンも、そんな冒険者の1人だ。
この街に住むようになって、今年で11年目の24歳。
クラスは剣士、レベルは18。
そしてランクはD。
Fから始まりA、Sと続いていく冒険者ランク。その中でも一番人口が多く平均的なDランク。この街に来て冒険者を始めた時は、Sランクを夢に見て活動していた。皆に注目され、依頼報酬や宝で金持ちになり、女達にモテる。
……しかし11年目にもなると、そんな夢も夢でしかない。今では地下迷宮に進んで降りる事はなく、日銭程度にしかならないような『薬草収集』と言った依頼をこなして日々を過ごしている。
3年程前までは俺も、いっぱしの冒険者として活動していた。
たとえそれが夢物語であっても、それを追い求める日々が楽しかった。クランに所属し、仲間達とパーティーを組み、迷宮の深みを目指す。そこで宝を見つけたり、その宝が外れだったりした事に笑いあった。
だけど今では、出来れば、迷宮に潜らないで済ませてしまいたい。
そんな風に思っている俺がいる。
そりゃ『薬草収集』だけでは家賃も払えないので、たまには迷宮に潜って『討伐依頼』をこなす。だけど積極的に迷宮には入る事は少なくなってしまった。3年前、依頼中に大怪我をし、仲間達を失ってから、なんとなく現実を見てしまった気がして、足が遠のいている。
時々、冒険しないなら何の為に生きているのかと思う時があるが、それでも迷宮には入りづらくなっている。
別に恐怖症だとかそういうのでは無い。
自分の力量は知っているつもりだ。
だからこそ今は、もう背伸びはしない。いや、出来ないだけ。
無理をして死んでしまえば、元も子もない。なにしろこの街に来た頃に出来た知り合いは、もうほとんどこの世にはいないのだから。
「あー……あらら……」
だから、今日だってそうだ。
街の外にある森の中。
『薬草収集』のクエスト中、俺はそこで、冒険者の死体を見つけてしまった。
(うわぁ……この杖とか、結構高そうなのに……。そこそこレベルの高い冒険者だな、これ。……勿体無い)
男の死体。
その様子だと、おそらく単騎で狩りに来ていたのだろう。まだ死んで間もないであろう男の荷物は、ほとんど手付かずで残っていた。
近くに魔物の姿がないことを確認してから、俺は死体の荷物を物色する。高価なアイテムが多い。その荷物を見た感じだと、そこそこのランクの冒険者だったハズだ。おそらくは……Aランクか、それ以上。そんな冒険者がなぜ、こんな弱い魔物の多い森に来ていたのだろうか。
装備を見るに、本来は後衛職。
大方1人で狩りをするとなって、森の中にいる程度の魔物であれば後衛職でもいけると思ったが、想像以上の多くの魔物に囲まれてしまって死んでしまった、という感じだろうか。それでも低級モンスターしか出ないような森で、Aランク冒険者が死ぬのかという不審な点もあるが……まぁ、余程慢心していたとか、そんな所だろう。
結局のところ、どんなにランクが高くても、どんなに良い道具を持っていても、死んでしまえば意味が無いのだ。
「……ん」
男のアイテムを物色してると、ふと何か、光る物が転がった。
指輪だ。
綺麗な指輪だった。『呪い鑑定』のスキルを使う。具体的な効果はわからないが、呪いがかけられている様子も無い。見た所、冒険者用の装備品、という感じには見えない。
となると、結婚指輪だろうか。
「……結婚、か」
指輪を手に取り、そうぼそりと呟く。
結婚など、俺には縁の無い物だ。万年Dランクで、その日暮らしで、日銭にもならない依頼をこなし、生計を立てているような男だ。そんな男に、十分な貯蓄がある訳もなく、女を養っていけるだけの金も無い。
……でも、出来るのであればしてみたい。結婚。それくらいの願望は持っている。いや、持っていた。今ではもう諦めかけているが、本来であればそんな夢を抱いて、この街へとやって来ていたのだから。
だからこそ、その声は虚しく響いてしまった。
「……」
その時の俺は感傷に浸っていたのだろう。
あるいは、その指輪の持つ魔力に惹かれていたのかもしれない。俺はその指輪を、自分の左手の薬指にはめていた。別に盗むつもりなど無い。死亡を証明する為の物として、ギルドに持って行くつもりだった。
しかしその前に少しだけ、『そういう気分』に浸ってみたかったのだ。
指輪は俺の指にぴたりとはまった。しっくりと来てしまったそれを、俺はぼんやりと眺めた。
(……うん。街に戻るまではつけておこう。きっと、どこかに持っているよりも、この方が落とさずに済むはずだから)
そんな風な言い訳をする。
だからこそ、その手にはめた最上位級アイテム『精霊の指輪』のせいで、その後、精霊彼女の姿が見えてしまったのだ。
ハーレムものが書きたいなと思って書きました。
最初だけちょっと多めに投稿して、落ち着いたらマイペースに更新できればと思います。