決着
リコ視点。
開始してからまずは一周。ゆっくりと校舎を回る。そのあと、昇降口まで戻ってきて、あたしは本気で逃げ始めた。
屋台の前に置いてある看板を踏み台にして、屋台自体を飛び越える。回りから歓声と驚きの声が響く。
リュートはそれを予測していたようで、最初から屋台を避ける方向に走っていた。……最初の一周で、現在の状況とか人の流れとか、分析できてたからかな。
あたしがアクロバットなことをしながら逃げるのにたいして、リュートはあたしの動く先を予測しつつ堅実におってくる。前とちがってリュート自身もあたしの思考とか読めるようになっているようだね。まあ一緒にいる時間も大分増えたからねー。
ふふふふ。ずいぶんと楽しくなってきたよ!
そうやって逃げることしばらく、ふとするとリュートの気配が後ろからなくなった。どうやらなにかたくらんでるのかな。あたしは今のうちっと校舎の二階の窓から飛び降りる!ーー良い子はまねをしないように。思いっきり危険だからねーー下にはさっきのイベントで使われていた、トランポリンがあったりするのだ。というわけで、そこに飛び降りて反動で飛び上がって空中回転。スチャっと見事に足から着地! その瞬間だった。
「……捕まえたよ」
後ろから抱き締められて、思わず硬直する。
「……いつの間に?」
「階段を上がったときかな。たぶんこう来ると思って」
そうですか。しっかりと読まれてましたか。
「はあ、しょーがないな。あたしの負けだ」
その瞬間、ワーっと歓声があがる。
「やりました! 生徒会長がメイドさんを無事捕獲です! 皆様、暖かい拍手を!!!!」
拍手があがるなか、リュートがあたしを離して隣にたつ。そしてふたり揃って観客に一礼をする。
これで、このイベントは正式に終了した。
このあと、あたしとリュートは閉会まで仕事はない。まあ、さすがにあそこまで走りまくったら、余裕がないと思うのも無理ないけどね。……実はあたしもリュートもまだまだ体力的な余裕はあったり……。このイベントが決まってから、ふたりして毎日一時間マラソンしてたからね。ある程度の速度を保ちつつ走るのは体力がいる。ましてや今回のはentertainmentだからね。
というわけで、今はふたりして人気もない生徒会室でのんびりと休憩中。
「やっと、捕まえられた」
「ん。捕まっちゃったよ」
「うん。だから、はっきりといっていいかな?」
「何を?」
「僕がリコのことを好きだって」
「へ⁉」
あ、いや知ってはいたけど、そういえばはっきり言われたのは初めて⁉
「返事、聞いてもいいかな?」
「えっと……」
うん、リュートのことは嫌いではない。大事なのもたしか。だけど……。
「……ごめん。正直わからないんだ。リュートのことは好きだけど、この『好き』がリュートの『好き』と同じかわからない。だから、返事といっても……」
あたしの戸惑いがわかったみたいで、リュートはクスクスと笑う。
「大丈夫。今はその『好き』でいいよ。その代わり、僕と付き合ってほしい。リコが僕に対する感情をはっきりと決めるまで。……できれば好きになって、本当の恋人になってほしいけどね」
「……わかった。捕まっちゃった訳だしね。だけど、あたしがほしいなら、本気で頑張るように。……あたしがリュートのことをちゃんと好きになるように」
「もちろんだよ」
そういってリュートはあたしを抱き寄せた。あたしは逆らわずにされるままでいる。
外からはまだ、祭りの騒ぎが聞こえてきていた。
一応、決着はつきました。
次回でラストです。




