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LAST60  作者: 秋雨冬至
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エピローグ 真実と結末 その2

7月12日の夜、仕事から帰ってきたお父さんの言葉に……わたしは言葉を失いました。


「転勤することになった。」


お父さんの会社は元々転勤が多くて、この街に来たのもお父さんの転勤が理由でした。


だから、こんな日がくる可能性はゼロじゃなかったけど、わたしにとっては最悪のタイミングでした。


彼との距離が縮まって、これからもっと……もっと深く繋がりたいと思っていたから。


この日からわたしの苦悩と葛藤の日々が始まるのです。



7月14日の放課後、わたしは担任の先生に呼ばれて職員室へ行きました。


呼ばれた理由は、わたしが転校することをお母さんが学校に伝えたからでした。


夏休みを週末に控えたこのとき、担任の先生に言われたことはクラスの皆にこのことを話すかどうか。


こんな形で彼に知られたくないと思ったわたしは、転校したあとに話すようにお願いしました。


その日の夜、わたしは両親と初めてケンカをしました。


親の事情だからなんて納得出来ない……なんでわたしが彼と離れないといけないの?


そう思っていたわたしは、お父さんが単身赴任すれば良いとか、この街で1人暮らしするとか……。


勝手に決めて学校に伝えないで……とか、やり場のない気持ちを両親にぶつけてしまいました。


そんな身勝手な自分が嫌になって、思い悩んだわたしは体調が悪くなり、2日間寝込みました。



7月17日の朝、体調が良なりわたしがリビングへ行くと、お母さんがわたしを抱きしめてこう言いました。


「辛い思いさせてごめんね……。」


そんなお母さんの優しさがあったから、わたしも素直に謝ることが出来たのだと思います。


そして通学路で彼の姿を見たとき、残りわずかな時間を悔いのないように過ごそうと思いました。


夏休みが終わるともう彼とは会えない……だからせめて彼との思い出が欲しかった。


そんな想いがあったから、わたしは彼に対して積極的になれたのでしょう。


そして7月18日の放課後、帰り道のいつもの公園でわたしは彼と連絡先を交換した。


本当はドキドキしていたけど……今日聞かないと2度と会えないと思ったから。


その日の夜、彼からの初めてのメールは本当に嬉しかった。


何よりも……彼がわたしに、好意を持っていてくれたことが本当に嬉しかった。


だけど、幸せのあとには不幸が待っている、わたし人生はその繰り返しでした。



7月19日の朝、わたしは夏休みの課題をするために隣町の図書館へ行きました。


お母さんが転校先の学校に確認して、前の学校の課題を提出するように言われたからです。


少しでも早く課題を終わらせて、彼と過ごす時間を作りたいというのが本音でした。


そして……持参した課題を終えたわたしは、帰り道の公園で翠先輩と再会したのです。


お姉ちゃんが生きていた頃は、いつも遊んでくれた翠先輩。


だけど、この日もわたしを見て……翠先輩は顔を背け立ち去ろうとした。


そんな翠先輩の反応が辛くて……苦しくて……「どうして避けるの?」って聞きました。


でも、そんなこと聞かなければ良かった……翠先輩の言葉はわたしには残酷だったから。


「なんで朱音あかねが死んであんたが生きてんのよ!! 全部……あんたのせいよ……。」


ずっと思っていたことだったから……なんでわたしが元気になってお姉ちゃんがって……。


わたしは近くのベンチに崩れるように座り……ただ泣くことしか出来なかった。


そして、その姿を彼に見られてしまったことが恥ずかしかった。


彼の前では元気で……笑顔でいようと思っていたから。


心配して話し掛けてくれる彼の優しさが……このときのわたしには少し辛かった。


「相談に乗るからなんでも言ってね。」という彼の言葉を素直に受け止めることが出来ませんでした。


だけど、彼の存在が……再び壊れかけたわたしの心を支えてくれたのも事実です。


だからわたしは、翠先輩とのことを彼に打ち明ける決心をしたのです。



7月25日の昼に、公園で彼と待ち合わせをしたわたしは、不安で一杯でした。


こんな話をして……彼に嫌われてしまったらどうしようと。


でもきっと、彼はとても優しい人だから大丈夫だと……自分に言い聞かせて、わたしは公園へ向かいました。


そして……わたしは彼に、お姉ちゃんと翠先輩のことを全て話しました。


泣きながら話しているわたしの肩をそっと抱き寄せて、「大丈夫だから」って言ってくれた彼。


そんな彼の優しさが、わたしの心を癒してくれて……もっともっと好きになりました。


きっとこの頃から、わたしに欲が出たのだと思います……彼とずっと一緒にいたいって。


だから7月31日、彼と初めてデートをした日……わたしは転校することを彼に話そうと思っていました。


本当のことを話して、それでも彼が受け止めてくれたら……わたしは彼に告白するつもりでした。


きっと彼となら……遠距離恋愛だとしても大丈夫、きっと大丈夫、そう思ったから。


だけど……わたしはデート中もずっと、彼に話を切り出すことが出来ませんでした。


大丈夫だと思う気持ちと同時に、彼が離れていってしまう不安も大きくて……勇気が出ませんでした。


でも、観覧車の前に来たとき……わたしはこの中で、勇気を出して話そうと決意するのです。


ゆっくりとまわる観覧車の中はとても静かで、何故か彼も少しそわそわしていました。


そして……勇気を出して話そうとした瞬間、わたしと彼は同時に言葉を発した。


このとき、わたしが先に言えばどうなっていたのか……それは永遠にわかりません。


彼が言ってくれた「好き」という言葉があまりに突然過ぎて……。


彼が行ってくれた「付き合って下さい」という言葉があまりに嬉し過ぎて……。


今まで抑えていた、わたしの彼への想いが一気に溢れだしました。


そして、彼に転校する事実を伝えられないまま……わたしは彼と付き合うことになった。


それと同時に……彼への想いが強くなればなるほど、わたしはこの先苦しむことになるのです。


この夏の出来事は、わたしにとってとても大切な思い出です。


彼が初めて家に遊びに来たとき、緊張している彼の姿は少し可愛かった。


わたしの誕生日に彼がプレゼントしてくれたブレスは、お風呂のとき以外外すことはなかった。


彼と過ごす日々は本当に幸せだったけれど、その幸せの分だけ……わたしは後ろめたさを募らせました。


1日が過ぎ、また1日……どんどん彼との残り時間が減っていく……。


彼が大好き……だから本当のことを言わないと……だけど言えない……離れたくない。


そんな複雑な心境が……わたしから笑顔を奪ってしまう。


夏祭りで花火を見ていたときも、彼ともっと一緒にいたいって思ったら涙が出ました。


彼と図書館へ一緒に行ったときも……お母さんからのこんなメールで彼を心配させてしまった。


「彼に引っ越しのこと伝えてないんでしょ……辛いけど言わないとね。」


心配してメールしてくれたお母さんの言葉が、わたしを夢から現実へと容赦なく引き戻しました。


「明日家に行ってもいいかな?」と彼に言われたとき、わたしの部屋はもうほとんど片付いていました。


そんな部屋を見せられるわけがなかったわたしは、強引にでも断るしかなかったのです。


きっと彼に嫌な思いをさせてしまった……ずっと言えなかったことを後悔しました。


でも、そんなわたしでも彼は優しく受け止めてくれる……だから今度こそ本当のことを話そうと思いました。


だけど、あの日……彼の部屋で起きた一瞬の出来事が、わたしを真の闇へと突き落としたのでした。



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