エピローグ 真実と結末 その1
皆さん初めまして、わたしの名前は笹浪遥です。
最後に皆さんに、この物語の結末をお伝えしたいと思います。
わたしは今、笹葉神社にいます。
死んだはずでは? とお思いでしょうが、理由は最後にお伝えすることになると思います。
何からお話ししましょうか……少し長くなりますが、彼との出会いからお話ししましょう。
わたしのお父さんは転勤が多く、この街へやって来たのは中学へ入学する直前の頃でした。
引っ越ししてきたばかりで友達がいないわたしは、毎日のように公園のベンチで本を読んでいました。
中学に入学してしばらく経った頃のことです。
いつものようにベンチで本を読んでいたわたしはある少年と出会いました。
公園でバスケの練習をしていた少年こそ、春川秋くんでした。
始めたてで下手くそだった彼の必死な姿に、わたしはだんだん惹かれていきました。
そして、いつのまにか恋をしていました……これがわたしの初恋です。
バスケットボールがわたしにぶつかって、彼の声を初めて聞いたとき……ドキドキしたことを覚えています。
月日は流れ……高校1年の入学式、教室で見かけた少し大人になった彼の姿。
彼との偶然の再会は本当に嬉しかった。
席替えで彼の隣になったとき、良く彼の横顔を見つめていました。
でも、彼はわたしのことを覚えていなかったみたいです。
少し残念だったけど、毎日彼の隣にいられることはとても幸せでした。
でも、6月初めにわたしは急性の疾患で入院することになります。
学校の帰りに倒れたわたしは、通りがかった人に助けられ病院に運ばれました。
病院についた頃にはとても深刻な状態だったようです。
入院中、お母さんの笑顔が痛々しくて……もうダメなんだって思いました。
そんなわたしをずっと励ましてくれたのがお姉ちゃんでした。
7月10日頃だったでしょうか、お姉ちゃんはわたしの顔を見るたびに言っていました。
「安心してね、絶対に治るからね。」
そんなお姉ちゃんの言葉の通り、快方に向かい8月の中頃には嘘のように元気になりました。
退院の日、お姉ちゃんが良かったねと言って泣いていたのを覚えています。
9月5日の夕方、そんなお姉ちゃんが突然亡くなりました……。
学校から帰ってきたお姉ちゃんは、部屋で突然倒れ……そのまま眠むるように息を引き取りました。
前日まで元気だったお姉ちゃんの突然の死は……とても耐えがたいものでした。
お姉ちゃんがなくなって数日後、わたしはお姉ちゃんの部屋で白い短冊を見つけました。
妹の病気が治りますように、と書かれたその短冊を見て、わたしは涙が止まりませんでした。
そして、短冊の裏側に0と数字が入っていたことを覚えています。
そんなお姉ちゃんには、とても仲の良い親友が1人いました。
親友の名前は瀧川翠、お姉ちゃんと同い年で、いつもわたしを妹のように可愛がってくれました。
だけど……お姉ちゃんが亡くなったあと、翠先輩はわたしを避けるようになりました。
それからのわたしは、ずっと孤独の中にいました。
お姉ちゃんと翠先輩……2人の姉を失ったわたしの心の闇は、どんどん深まるばかりでした。
そんなわたしの壊れかけた心を、支えてくれたのが彼の存在でした。
彼が何かをしてくれたわけではなく、授業中隣に座っている彼の存在自体が心の支えでした。
学校で彼の元気な姿を見るだけで……少しだけ元気を分けて貰える気がしたから。
だけど、そんな彼にも不幸な出来事が起こりました。
10月のこと、彼が初めて出場したバスケの試合を、わたしは隠れて見ていました。
そして……その試合で大怪我をして、苦痛の表情を浮かべる彼の姿は、今でも目に焼き付いています。
彼が入院したことを聞いたときは、絶望感で……わたしはまた壊れそうになっていました。
少しでも彼の顔が見たい、支えが欲しい……そんな身勝手な想いが、わたしを病院へと向かわせました。
病院で見たリハビリをする彼の姿は……とても一生懸命で力強く、弱いわたしに勇気を与えてくれました。
この日からわたしは、少しでも前向きに生きようと心に誓いました。
彼が帰ってきたとき、少しでも元気な姿でいようと。
だけど、わたしはそんなに簡単には変われなかった。
退院して彼が学校へ来たら、「ありがとう。」って言いたかったのに……言えなかった。
だから……1年生の最後の日、わたしは不安と寂しさで一杯でした。
彼が別のクラスになってしまったら……わたしはどうなってしまうんだろうって。
そんなわたしに神様が救いの手を差し伸べてくれたのでしょうか?
2年生の始業式の日、クラス分けの張り紙を見たわたしは、彼の名前を見つけて……涙がこぼれ落ちました。
このときは本当に嬉しかった……このときにはもう、彼の存在がわたしにとって特別だったから。
だから彼と付き合いたいとか、思っていたわけではありません。
このときのわたしは、彼と同じ空間にいられるだけで幸せを感じていたから。
それに、きっとわたしの片思いで、彼はわたしのことなんて興味がないと思っていました。
2年生になってからは、彼と席が離れていて……いつも見ていた横顔がない教室は少し寂しかった。
朝も昼も夜も、ずっとずっと……わたしの心は彼のことで一杯でした。
きっとこの気持ちが……わたしの闇を少しずつ照らしてくれたのだと思います。
そして……彼とわたしの距離が急接近する、あの日がやってくるのです。
7月8日の朝、わたしは学校へ行く途中、公園に立ち寄っていました。
この日は、彼が昔バスケの練習をしていた姿が懐かしくて、フェンス越しにコートを眺めていました。
そんなとき、突然わたしの名前を呼ぶ声が聞こえて、振り返ると彼が笑顔で立っていました。
高校に入学してから、通学のときに彼と1度も会ったことがなかったわたしは、本当に驚きました。
ずっと想いを募らせていた彼が目の前にいる……わたしは緊張のあまり、その場を去ろうとしてしまいました。
そんなわたしに、彼が「一緒に行かない?」と言ってくれたときは、更に驚きました。
何を話したか覚えてないけれど、彼と歩いた学校までの道のりは……いつもより短く感じました。
そしてその日の帰りも、彼はわたしに「一緒に帰ろう」と言ってくれました。
今までよりも長い時間、彼と一緒にいられることが嬉しくて、わたしは彼と出会ったときの話をしました。
わたしだと気付いてはいなかったけど、公園での出来事を彼は覚えてくれていました。
この日から、毎朝わたしと彼は一緒に学校へ通うことになったのです。
そして7月11日の帰り道、公園でわたしは思わず……彼に昔話をしてしまいました。
公園で初めて出会ったときのこと、偶然の再会、そして彼のおかげで元気になれたことを。
「声を掛けてくれれば」という彼の言葉に「タイミングがなくて」と答えたわたし。
でも、本当は……話し掛ける勇気がなかっただけでした。
そのあと彼と神社へ向かう途中、薄暗い林道で突然物音がして……わたしは思わず彼の腕にしがみつきました。
そんなわたしの手を取って、「離さないでね」と言った彼の姿がとても男らしかった。
神社から帰るとき、そっと差し伸べられた彼の手を取ったとき……わたしは彼のことが好きなのだと、改めて実感しました。
わたしにとって彼が特別であるように、彼にとっても特別な存在になりたい。
そして、ずっとずっと彼と一緒にいたい……わたしの彼に対する想いはより一層強くなりました。
だけどあの日……そんなわたしの想いは、無情にも打ち砕かれてしましました。