表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
LAST60  作者: 秋雨冬至
15/20

さよなら

8月22日 午前中のこと。


前日の彼女の態度が気になって、あまり眠れなかった僕は朝早くから起きていた。


初めて見る彼女の不自然な姿に、僕の不安は募り苛立ちを隠せなかった。


「はぁ……。」


ベッドに横たわり天井を見ながら大きくため息をついた。


正直、僕はこのとき迷っていた……次に彼女とやりとりするときに、昨日のことを聞くべきかどうかを。


自分のことばかり考えていたこのときの僕には、彼女を心配する余裕もなかったのだろう。


結局この日はずっとモヤモヤしていただけで、彼女にメールをすることが出来なかった。


そして……彼女からのメールもなかった。



8月23日 午前中 公園にて。


少しでも気分転換しようと、この日は朝から散歩に出ていた。


町内をブラブラと散歩したあと、僕は公園のベンチで休憩していた。


夏も終わりに近いとはいえ、まだまだ日差しが僕の肌を容赦なく焦がした。


近くの自動販売機でスポーツドリンクを買い、飲みながらバスケのコートを見ていた。


「懐かしいな……。」


以前、彼女がここから僕を見ていたという話を思い出し、同じようにコートを眺める。


色々な偶然が重なり、彼女と出会った僕は少し期待していた。


公園に来れば彼女にばったり会えるのではないかと……。


「そう都合良く会えるわけないよな。」


そうつぶやいた僕は、うつむきポケットから携帯を取り出した。


ブルブルブル。


「うわっ!」


驚いて思わず落としてしまった携帯を拾い見てみると、彼女からのメールだった。


「秋くん、この前はごめんね。 怒ってないかな……。」


彼女からのメールでほっとした僕は、すぐにメールを返す。


「全然大丈夫! メールくれて安心したよ。」


ブルブルブル。


「良かった……。」


彼女もずっと気にしていたのだと思うと、もっと早くに僕からメールすれば良かったと思った。


想像とは少し違っていたが、僕達に起こる偶然は……もはや必然なのだろう。


僕は思いのたけを彼女にメールでぶつけた。


「どんなことがあっても大好きだよ!」


ブルブルブル。


「ありがとう、わたしも秋くんが大好き!」


メールを見ながら……彼女とならずっと、ずっと一緒にいられると思っていた。


このときの僕は、何の不安も感じないまま彼女にこんなメールを送った。


「そうだ! 良かったら明日家に来ない?」


ブルブルブル。


「え? 良いの? 行きたい!」


すぐさま僕は「もちろん!」とメールを返し、明日の午後に彼女が家に来ることになった。


そのあと急いで家に帰った僕が、部屋の掃除を入念に行ったことは想像出来るだろう。


当然……思春期のこの時期に男子高校生の部屋に、やましいものがないわけがない。


僕はそういう類のものを押入れに押し込み、日が暮れるまでずっと掃除をしていた。


「これなら大丈夫だな。」


掃除も終わり落ち着いた僕はそうつぶやいて、明日のことを考えていた。


キスの続き……彼女と2人きりの部屋で未知の領域へ、そんな妄想も当然していた。


だけど、明日起こる偶然……いや必然は、僕が想像するものとは全く違った。


そして……僕達は運命の日を迎える。



8月24日 運命の日の朝。


不思議なくらい良く眠れた僕は、朝早くに目が覚めた。


「ふぁー、良く寝たな。」


ここ数日、心配なことばかりでろくに眠れかったせいもあっただろう。


起き上がった僕は、カーテンを開けて外を見た。


いつもは暑くて鬱陶しい太陽の日差しも……少しだけ心地良く感じた。


「遥と何しようかな。」


そのあと僕は、彼女と過ごす時間が待ち遠しくて……何度も時計を見ていた。


彼女が家に来たのは13時頃のこと、恐らく初めて男子の家に来るであろう彼女は少し緊張していた。


「こんにちは! なんかドキドキするね。」


そう言って少し落ち着かない彼女を、僕は笑顔で招きいれた。


「こんにちは! あがって!」

「あっうん、おじゃまします。」


僕は靴を脱いだ彼女の手を取り、2階にある部屋へと歩き出した。


「やっぱりドキドキするね……。」


部屋の前で立ち止まって彼女が言った。


「大丈夫だよ!」


そう言いながら僕は部屋のドアを開けた。


「男の子の部屋だね!」


部屋に入ったとき、彼女が嬉しそうな表情でそう言った。


「そうなのかな?」

「うんうん!」


そのあと、彼女は前日僕が用意したテーブルを前に座り、僕は飲み物を用意しにリビングへ向かった。


「オレンジジュースで良いかな?」

「うん!」


僕はオレンジジュースをテーブルに置き、彼女の横に座った。


「何しようか?」

「そうだねー、何しようか?」


特に何も考えていなかった僕が彼女に聞くと、彼女も笑顔で聞き返した。


「そうだ! これ一緒に観ない?」


そう言って僕は、棚からDVDを取り出しテーブルに置いた。


「あっ! わたしこれ好き!」


彼女は僕が置いたお笑いライブのDVDのパッケージを見て笑顔でそう答えた。


そのあと僕達は、DVDを観たりトランプをしたりして楽しい時間を過ごしていた。


3時間くらい経った頃だろうか、彼女が突然こう聞いた。


「秋くんって子供の頃どんな感じだったの?」

「どんな子……うーん普通の子?」

「普通じゃわかんないよー。」


そんなやりとりの中、彼女が更にこう聞いた。


「そうだ! 子供の頃の写真とかないの?」

「子供の頃の写真か……あっ、そうだ!」


僕は机の引き出しの奥にアルバムをしまっていたのを思い出した。


「ちょっと待ってね!」


そう言って僕が引き出しを開けた瞬間……白い小さな紙が宙に舞った。


それは、ずっと引き出しに入れたまま忘れていた、あの真っ白な短冊だった。


ひらひらと宙に舞い……ゆっくりと床に落ちる短冊を見て……僕は焦った。


「あっ!」


そう、短冊には彼女と付き合いたいという僕の願い事が書かれている。


そんなものを彼女に見られてしまったら、どう思われるかわからない。


僕は慌てて床に落ちた短冊を拾い、アルバムの場所とは違う引き出しに隠した。


「急にどうしたの?」

「あっいや……何でもないよ。」


そう言って僕は、アルバムを取り出し彼女に渡した。


「これ秋くん? 可愛いー。」


楽しそうにアルバムを眺めている彼女を見て、僕は少し落ち着きを取り戻した。


「あっ飲み物ないね、何か持ってくる!」


彼女のコップが空になっているのに気付いた僕は、そう言って部屋を出た。


「ふぅ……焦ったー。」


僕はリビングでお茶を用意しながら、何度も深呼吸をした。


「大丈夫だよな……。」


幸い……短冊の裏側が表になって落ちたため、彼女は何も見ていないはずだ。


そう自分に言い聞かせ、僕は気にしないことにした。


だけど……僕が部屋に戻ったとき、彼女の様子が少し変だった。


今までとは違う……いや、今まで見せたことがないような、思いつめた表情だった。


「麦茶しかなかったけどいいかな?」


そう言ってテーブルに麦茶を置いた僕の声は、彼女に届いていなかった。


「どうかした?」


僕が彼女の肩を軽くたたき、そう聞いたときにやっと彼女が気付いた。


「え? あっありがとう!」


彼女は麦茶を手に取り、ひと口のみ……コップを持ったまま、また思いつめた表情をした。


そのあと夕方まで一緒に過ごしたが……彼女はずっと上の空だった。


「わたし、そろそろ帰るね。」


彼女がそう言ったのが18時頃、僕は彼女を公園まで送った。


別れ際、どうしても気になった僕は彼女に聞いた。


「何があったの?」


だけど……彼女は何も答えなかった。


「なんで何も言ってくれないのさ!」


何も言わない彼女に、僕は思わず大きな声を出してしまった。


「ごめん……。」


そう言って彼女は、その場を走り去ってしまった。



このとき彼女が何を考えていたのか、僕には全くわからなかった。


ただ、このとき既に……僕達の運命は物凄い勢いで終わりへと進んでいたんだ。



8月27日 公園にて。


あのあと、何度か彼女にメールを送ったが、彼女からの返事はなかった。


何度も何度も理由を考えたが、結局……僕には彼女の気持ちがわからなかった。


そんな苛立ちをどうにかしたい僕は、気分転換に散歩に出て公園に立ち寄っていた。


「はぁ……。」


いつもより深いため息をつき、僕はずっと流れる雲を見続けた。


「あーっもう、なんなんだよ!」


そう言って立ち上がった僕は、彼女の家に行くことにした。


お互いの顔を見て、話し合えばきっと大丈夫……そんな淡い期待もあった。


でも、彼女の家の前で……昼間なのにカーテンを閉め切った彼女の部屋を見たとき、僕はチャイムを鳴らせなかった。


時間が解決してくれるという言葉があるように、閉じこもった彼女には時間が必要だと思った。



8月31日 夜 自分の部屋。


夏休み最後の日の夜、僕はベッドに横たわり天井を見ていた。


彼女からの返事はあれからずっとなかった。


「明日話そう……。」


そんなことを考えていた23時頃、彼女からメールが届いた。


「ごめんなさい……さよなら。」


正直……このときのことはあまり覚えていない。


メールを見てパニックになった僕は、彼女に何度もメールを送った。


だけど……返ってくるのは[MAILER-DAEMON]の文字だけだった。


もちろん、電話も掛けてみた。


でも、僕が初めて掛けた彼女への電話は……着信拒否だったんだ。



「ごめんなさい……さよなら。」それが大好きな彼女からの最後のメールだった。



短冊の裏の数字は5……そして、もうすぐ僕は真実を知る。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ