マジなんだ!
8月12日 午前中の出来事。
お盆前のこの日は、朝から部屋で学校の課題をしていた。
意外と真面目な僕は、既に8割近くを終えてラストスパートに入っていた。
「もうひと踏ん張りだな。」
そう言って僕は課題に集中し、あっというまに2時間が経過した。
「あー、少し休憩するか。」
僕は立ち上がり背伸びをしながら大きく息を吐き、ベッドへ横たわった。
携帯を手にしメール画面の更新ボタンを押す。
「新着メールはなしか。」
この日の午前中は、朝におはようと挨拶をした以外、特に彼女とメールのやりとりをしていなかった。
「遥どうしてるかな。」
そんなことを考えていた僕は、課題の疲れからか少しウトウトしていた。
ブルブルブル。
「うわー。」
枕元に置いてあった携帯が突然鳴り、僕は驚いて飛び起きた。
「春秋! 相談があるんだけど……。」
僕を起こしたメールの送り主は親友の大地だった。
「相談? どうかしたの?」
僕は少し面倒くさそうに大地にメールを返した。
ブルブルブル。
「とりあえず……家行って良いか?」
家に来るほどの相談とはどんな内容なんだろうか? と思いながらメールを返す。
「了解!」
メールを返した僕は部屋を少し掃除し、大地が来るまでテレビを見ていた。
12時前頃、玄関のチャイムが鳴り、しばらくして階段をのぼる足音が聞こえた。
ガチャ! バタン!
「うぃーす! 春秋ー!」
「うっす! てかもう少し静かに入れよ。」
「わりぃわりぃ。」
そんなやりとりのあと、椅子に座った大地が大きなため息をついた。
「相談って?」
僕はテレビを消して、ため息をついている大地に聞いた。
「あのさ、俺……好きな人が出来たんだ。」
「マジで? 誰?」
「部活のマネージャー。」
「マネージャーって1年の?」
「そうそう!」
因みに大地はサッカー部で2年にして副キャプテンを任されている。
背番号は7番、ボランチで活躍する彼のミドルシュートは豪快だった。
サッカー部でスタメンで副キャプテン……普通はモテるはずなのだが。
見た目も少し派手でチャラく見られるせいか、中学のときは悉く玉砕していた。
そんな大地が恋をしている相手というのが、サッカー部のマネージャーの美空なつみだ。
1年の美空のことはあまり知らないが、アイドル以外で珍しくツインテールが似合う子という感じだろうか。
「入部してきたときからずっと好きなんだよな……。」
そう言って大地は天井を見上げた。
「一目惚れかよ、似合わねー。」
「そうだよ、わりぃかよ!」
「あはは、ごめんごめん。」
「マジなんだ……茶化すなよ。」
大地の表情からは、初めて本気で人を好きになった……という感じが伝わった。
「それで大地の気持ちはわかったけど、相談って?」
真剣な表情で僕を見ている大地に、改めて相談の内容を聞いた。
「夏休み中に告白しようと思う!」
「マジで?」
「マジだ。 それで……協力して欲しい。」
「えっ? 協力って?」
好きな子に告白するのに協力って……何をだろうか?
「で、俺はどうしたら良い?」
「はい? えっと……大地さん?」
いきなり突拍子もないことを言う大地を思わずさん付けで呼んでしまった。
「俺はまず何をすれば良い!!」
「まてまて、ノープランかよ!!」
全く……無計画にもほどがあると僕は思った。
こんなやりとりをしてしばらく経ったときのこと、突然大地が僕に聞いた。
「春秋って彼女いんの?」
あまりに突然の問いに僕は動揺したのか挙動不審気味にこう返した。
「え、なんだよ突然。」
「ははん……さては彼女出来たな?」
その鋭さはこのタイミングで発揮しないで欲しいものだ。
「まぁ……一応。」
「で、誰よ?」
「同じクラスの子だよ。」
ぶつぶつ言いながらしばらく考えていた大地が言った。
「あぁ、もしかして笹浪か?」
「どうしてわかった!」
思わず心の声がダダ漏れになってしまった。
「だって春秋のどストライクじゃん。」
過去に大地と恋愛話をした記憶は特にないのだが、そんなにも僕はわかりやすいのだろうか?
「そ、それより大地の話だろう。」
「おっと……そうだった。」
再び我に返った大地が大きくため息をついた。
「そもそも脈はありそうなのか?」
「どうだろう……部活のときは真っ先にドリンク持って来たりするけど。」
どうやら脈はありそうな気配だ。
「会話とかは?」
「そこそこ?」
「連絡先とかは?」
「あー、夏休み前にメアド交換したな。」
「メールのやりとりはしてるのか?」
「毎日してるけど?」
それって告白したらOKだろう! と僕は心の中でツッコんだ。
「大地、それは……あと告白するだけじゃないのか?」
「そうなのか?」
「おいおい……。」
僕は大地に美空がまんざらでもないというか、脈ありの可能性が高いことを説明した。
「マジかっ!」
「マジだよ……夏休みに嫌いな相手と毎日メールするか?」
「まあ……そうだけどさ。」
「あとはどうやって告白するかだな。」
僕はどうすべきか考えながら、部屋にあるカレンダーを見ていた。
「今日は12日か……もうすぐ夏祭りだな。」
「それだよ春秋!」
「えっ?」
「だから、夏祭り!」
「あっ。」
笹葉神社で行われる夏祭り、祭りの最後には花火があがり神社の境内には良く見えるスポットもある。
確かに告白のシチュエーションとしては申し分ないイベントである。
どうせなら彼女と一緒に行きたいと思った僕はこう提案した。
「だったら4人で行かないか?」
「なるほど! ダブルデートか!」
こうして散々悩み抜いた結果、ダブルデートにたどり着いた僕達だった。
「まずは誘ってみよう。」
僕は彼女に、大地は美空にメールで夏祭りに4人で行かないかと誘った。
ブルブルブル。
「うん、行く! 楽しみだな♪」
僕の携帯が鳴り、彼女からの返事は問題なくOKだった。
ピロピロピロリン。
大地の携帯が鳴り、僕達は少し緊張気味にメールを見た。
「えっ? わたしで良いんですか? 行きたいです!」
美空からの返事を見た僕達は、一瞬顔を見合わせ力強くハイタッチをした。
「とりあえず、第一関門はクリアだな。」
「おう! サンキューな、春秋。」
「気にすんなよ。」
正直、彼女をデートに誘うとき未だに緊張する僕にとって、自然に誘えたことがありがたかった。
大地が帰ったあと、「僕も楽しみだよ!」と彼女にメールを送った。
17日の夏祭り……この日は僕にとっても忘れられない1日になるが、それはまた次回にしよう。
そして……止まらないカウントダウン。
短冊の裏の数字が24だったことを僕は知らない。