プロローグ 始まりは白い短冊
この物語は高校時代に体験した出来事である。
高校2年の7月7日七夕、ふと立ち寄った神社から物語は始まる。
笹葉神社、七夕に願い事をすると叶うとうわさの神社だ。
「今年こそ彼女が出来ますように!」
願い事を終え、振り返ると老婆が立っていた。
夏場にフードを被った姿に、普通ではない何かを感じた。
「願い事かい?」
老婆が声を掛けてきた。
「ええ、まぁ……。」
人見知りの僕が、どうして問いに答えたのかは定かではないが、思わず答えてしまった。
「これをあげよう。」
1枚の真っ白な短冊を貰う。
「えっ? 短冊?」
老婆曰く、願いが1つだけなんでも叶うとのこと。
ただし……。
老婆が続けて何かを言いかけたとき、足音が聞こえ振り返った。
境内の掃除に神主が出て来たらしい。
続きを聞こうと老婆の方を向くと、そこの老婆の姿はなかった。
「あれ? どこに行ったんだ?」
不思議に思いつつも、短冊をカバンにしまい、家に帰った。
遅くなったが自己紹介をしよう。
僕の名前は、春川秋 秋と書いてしゅうだ。
学校では春秋と呼ばれる。
人見知りで、友達が多い方ではない。
当然、彼女もいない。
「はぁ……彼女欲しいな。」
ひとまず自己紹介はこれくらいにして、続きを話そう。
「そういえば……。」
カバンから短冊を出して眺める。
「あの老婆なんだったんだろう……?」
「願い事が叶う……? まさか……。」
冗談だと思いつつも、願い事を書いてことにした。
「んー、いざ書くとなると何を書こうか……。」
色々と悩んだ結果、やっぱり彼女が欲しいという結論。
「やっぱり、あの子が良いな。」
僕には片思いの相手がいる。
1年のときに同じクラスで隣の席。
2年でも同じクラスになった、笹浪遥だ。
マドンナ的な存在! というわけでもないが、明るくて人当たりも良かった。
1年のときに重い病気になったり、1つ上の姉が亡くなったりしたせいか、今は少し暗い感じ。
そんな彼女の時々見せる、影がある感じがまた……なんというか。
「同じクラスの笹波遥と付き合えますように。」
願い事を書き終えた僕は、部屋の小窓にあるカーテンレールに吊るす。
本当は笹に吊るすべきだろうが、この際そこは触れないでおこう。
「本当に叶うと良いな。」
ふと、時計を見ると17時。
僕は夕飯まで少し横になった。