マシロの日常
マシロがギルドに住み着いてから二週間が経過した。この頃になるとマシロはギルドのメンバーの顔と名前が一致し、どんな性格をしているのか大体分かってきた。どのメンバーも優しいがダントツに優しいのはやはりギルドマスターのラスク。マシロも良く懐いていた。 少々荒っぽい所があるがマシロを可愛がってくれているのがライズだったりする。
マシロはもはや自室と化した部屋のベッドに寝転んでいた。スカートが若干捲れているためピンクの下着が見え隠れていた。しかしマシロは気付いてないのか気にしてない様子だった。
(……ギルドの人達と大分仲良くなれたし顔も大体覚えれたからいいかなー。皆優しいし)
マシロは微笑を浮かべながらそんな事を思っていた。機嫌が良いのか足を上下にブラブラさせており頬杖をついて寝転がっていた。
「ふふーん、ふーん、ふふーん」
しまいには鼻歌まで歌い出してしまった。しばらく鼻歌を歌っていたがそれに飽きたのか、ベッドからおもむろに起き上がる。
「もうそろそろかな?」
マシロが言い終わるのとほぼ同時のタイミングで扉のノックが響いた。
「マシロ〜。下の掃除頼む!」
そんな声が廊下から聞こえるとマシロは返事を返し立ち上がって下に降りていった。
「お、マシロちゃん。悪いね。掃除なんかさせちゃって」
下に降りるとラスクが申し訳なさそうに言ってきた。マシロはにっこり笑うとラスクに言葉を返す。
「もう!それ何回目ですか? 居候じゃ悪いから掃除をさせて欲しいって言ってるんですよ? それに私掃除好きですし。大丈夫ですから」
「あはは……ごめんごめん」
そうまで言われるとラスクも返せないのか笑うしかなかった。
「"ウィンド"」
そんな声が聞こえたかと思うと一陣の風が起こり、マシロのスカートを捲り上げた。
「え……っっ!? きゃあああああああ!!」
一瞬遅れてマシロの絶叫が響きスカートを押さえる。前を必死に押さえているが後ろはヒラヒラとスカートが浮いており、ピンクのレースのパンツが丸見えだった。さらにくの字に身体を曲げていたため自然にお尻が突き出てしまっており、見る人が見れば鼻血を出して昏倒する程のインパクトだろう。マシロは顔を真っ赤にしており、恥ずかしいのか下を向いていた。その頃には風はもう止んでいた。
「ははは! 今日もエロいパンツ履いてるじゃねぇかマシ……ブフォ!?」
風を起こした主、ライズが言葉の途中でマシロから強烈なビンタを貰っていた。
「ライズさんっ!! このバカァ!!」
涙目になりながら罵倒雑言をライズに浴びせる。さらにライズをボコボコにした。
「ふーっ、ふっー!」
息を荒げてはいるが気が済んだのか、マシロはくるりと踵を返すとラスクの方へ歩み寄った。
「ごめんマシロちゃん、僕からきつく言っておくから」
「……いえ、大丈夫ですよ? 結構ボコボコにしてストレスも解消出来ましたし。じゃ、掃除始めますね」
マシロは軽く会釈するとラスクの側を通り過ぎて雑巾を濡らして掃除を始めた。
「しかし、献身的だなマシロ」
顔を腫らしながらもライズがだれに言うでもなく呟く。
「ああ。 あの子の献身さを少しは見習えライズ。俺はお前が悩みの種だよ……」
その呟きにラスクが返す。ラスクの重い溜息を物ともせずにライズがケタケタと笑った。
「おいおい、俺にあんなのは出来ねーよ。その代わりと言ってはなんだが魔物倒したりしてるだろ?」
二人共せっせと掃除するマシロを見ながら会話する。可愛い妹を見るかのような態度だった。
マシロは一階を隅々まで掃除した後はカウンターでゆったりと過ごしていた。
「お疲れ様マシロちゃん」
コトッとコーヒーカップが置かれる。マシロが視線をやるとラスクがいた。ラスクはにこやかな微笑をたたえながらマシロの真正面に立っている。軽く会釈するとマシロは慣れた様子でそっと掴んでカフェオレを飲む。
「はぁ……」
ゆっくり息を吐くマシロ。美味しいという証だ。マシロはコーヒーカップを置くと伸びをする。
「ん〜……っ」
伸び終わると目尻にちょっと涙が滲み出たのでそれを指で拭う。そしてカフェオレを少しずつ飲んでいく。
「美味しいですねラスクさん」
ラスクが淹れてくれたカフェオレを素直に褒める。それを聞いたラスクはしばらくキョトンとしていたがすぐに笑顔になった。
「ははは。もう何回も聞いてるよ」
「だって美味しいんですもん」
頬を膨らませながら返答するマシロ。そこに一人のメンバーがやって来た。ラスクに用があるらしかった。
「マスター! ここから五キロ程離れた場所に魔物が現れたらしい。 すぐに行こう」
それを聞くや否やラスクが真剣な表情になり、マシロを一瞥するとすぐにカウンターを出て行った。
「また魔物? 最近増えてるなぁ……」
ボソッと呟く。 ラスクから聞いた話だが、魔物はこの中央都市近郊に三日に一度出るか出ないかくらいの頻度らしい。 だが最近は一日に二〜三件と出現頻度が異常に増えていると言っていた。何かの前触れか何かとラスクは言っていたがマシロは深く考え過ぎだとラスクの言うことにあまり関心を持たなかった。
「ふぅ……」
カフェオレを全部飲み干すとマシロは二階の自室へと向かう。ベッドに倒れこむように寝転ぶ。
「っ!!」
6不意に頭に痛みが走る。まただ、とマシロは顔を痛みで歪めながら思っていた。マシロは三〜四日前からこうした頭痛に悩まされていた。 不意にやってくるのだ。痛みはすぐに治るのだが、痛みが引く寸前に何か声のようなものが聞こえてくるというのが良くあった。
【……魂、……のは……シロだ】
頭の中に声が聞こえてくる。と、同時に頭にある風景がぼんやりと浮かんできた。何処だか分からないが、マシロが分かったのはその空間が白いと言う事だけだった。そこで痛みは完全に収まった。
(何なの、一体……)
マシロは考えるが、考えれば考える程訳が分からなくなっていった。考えるのは止めて、二階の窓から見える景色を眺めると同時にクロエの事も思い出していた。あの、寂しそうな笑顔が頭からこびり付いて離れなかった。
今はどうしてるだろうか、元気でやってるだろうか、とクロエの身を心配せずにはいられなかった。
「クロエちゃん……会って色々な話がしたい……」
クロエに会って聞きたい事が山程あった。しかし、マシロは何故か知らないがクロエとは近い内に会えるとそう感じていた。必ず会える……と。
一人の少女は会う事を強く望み、それに焦がれていた───
一人の少女は会う事を望んではいるが、気持ちを圧し殺していた────。




