初めての買い物
「マシロちゃん、準備出来た?そろそろ行くよ〜」
マシロの耳にラスクの声が聞こえてきた。マシロはその声に少し肩を震わせ、お尻の汚れを払いながら立ち上がる。
「はーい。今行きま〜す!」
声を発すると同時に扉の取っ手に手を掛けて開ける。少々急ぎ足で階段を降りて前を向くと目の前にラスクが立っていた。 ラスクは動きやすい軽装で手ブラだった。マシロに気付くと笑みを見せた。
「お、来た来た。じゃあ行こうか」
ギルドの出入り口から二人は並んで出る。
マシロは少しドキドキしながらラスクの隣を歩いていた。異性と二人きりで買い物というのは少し恥ずかしいのだろう。ちょっとうつむいていた。
「ラスクさん、どちらで買い物するんですか?」
「まずはマシロちゃんの服と日用品の調達かな。マシロちゃんは女の子だから清潔にしとかないと」
「ありがとうございます。ラスクさんって優しいですね。どうしてそこまで出来るんですか?」
マシロの問いにラスクの眉間に皺が出来る。唸るように考えており、マシロには少し可笑しく思えた。
「優しいとは良く言われるんだけど、僕のやりたい事をそのままやってるだけだからなぁ。あはは、答えになってるかな?」
「大丈夫です。分かりました!」
そうこう話している内に商店街が見えてきた。服屋もポツポツ見える事からここで買い物をするのだろう。
「さ、見えてきたよ。中央都市の外れにあるこじんまりとした所だけど中々良い物が揃ってるからマシロちゃんも気にいると思うよ」
「本当ですか!? あの、こんな事言うのも無粋なんですけど、早く連れて行って欲しいです……ダメですか?」
上目遣いで見上げながらラスクに嘆願する。
小動物のような可愛さにラスクは思わず顔を赤くして目を泳がす。それを隠すようにして咳払いを一つするとマシロの方に視線を向けた。
「分かったよ……じゃあ僕に捕まっててくれる? 瞬間移動使って移動するから」
マシロは言われた通りにラスクの腕をちょこんと持った。ラスクはそれを確認すると前を向く。フワッと浮く感覚が一瞬したマシロは目を瞑ってしまう。
「マシロちゃん? 目、開けても良いよ」
「え?……あっ!!」
マシロが声を上げる。マシロの眼前には服屋があった。少し小さ目だがガラスのショーケースには煌びやかなドレスが入っていた。それに目を奪われたマシロは少しの間恍惚とした表情でそれを見つめていた。
「あ、すみません……」
ようやくラスクに気付いたのか、マシロはシュンとなりながら謝る。ラスクは楽しそうに笑いながら、良いよと受け流した。
「中に入って見てみよう。 気に入ったものがあれば言ってね。買ってあげるから」
ラスクに釣られて店内へ足を踏み入れる。
木の香りが鼻に抜けていった。 外装はコンクリートなのだが内装は木を使っているのをマシロは不思議と思ったが口には出さなかった。 周りには可愛らしい服が沢山並んでおりマシロの目をことごとく奪っていった。
(わぁ……凄く沢山の服があるなぁ。どれにしようか迷っちゃうな。でも、あんまり時間掛けちゃうと迷惑かけちゃうから出来るだけ早く選ぼう)
様々な衣服に目移りをしていたマシロだったがラスクのいる手前、長居は出来ないと判断したため、自分に似合い、尚且つ可愛いらしさを感じる服を選ぶ事にした。マシロは近くにあったフード付きのロングTシャツとスカートを手に取りラスクに駆け寄った。
「あの、ラスクさん。この服を試着したいんですけど、試着室とかはありますか?」
「ん……試着室ならこの店の左端の所にあるよ。行ってきていいよ」
「分かりました!」
言い終わるや否や物凄い速度で駆けていき、マシロはあっという間に着替えると鏡に映る自分を見る。 黒のロングTシャツに、白を基調とした赤のラインが入ったスカートといった何ともシンプルだったがマシロはこれを満足気な表情で見つめていた。
やがて着替えたマシロは試着室から出て、Tシャツとスカートを手で持ちながら移動した。
(んー、もうちょっと買った方が良いよね?
それにしても楽しいなぁ!)
そう思ったマシロはこれの他に三着ほど服やズボンなどを手に取り、一度ラスクにそれを預けて下着を買う事にした。しかし、
(……私、自分の大きさ知らないんだった!!)
下着を買う以前の問題だったが自分の胸に手を当てて憶測で測って、これにハマる大きさの下着を六着程買う事にした。これに関してはラスクからお金を貰ってるので単位とかは意味不明だったが数字は分かったので予算以内で収める事が出来た。
「これくらい買えばもう充分かな。ラスクさんとこに戻ろう」
「あ、マシロちゃん! 服、会計済ませておいたからね。お金足りた?」
ラスクと合流して、ラスクがそんな事を言ってきた。マシロは笑顔で首肯して感謝を述べつつラスクと店を後にした。服屋で買い物を済ませた二人はたわいもない雑談をしながら商店街を歩いていた。時刻は昼を回った頃、マシロの腹の虫が可愛らしい音を響かせた。
「あっ……うぅ、は、恥ずかしい!」
顔を赤らめ咄嗟に腹を覆うも時既に遅し。ラスクが可笑しそうに笑う。それを聞いたマシロはさらに恥ずかしくなった。口をへの字に曲げて少し不機嫌になったフリをする。
「ははは、もうこんな時間だからしょうがないか。お昼にしようか」
そんなラスクの言葉に甘えてマシロは行った先の食事処でかなりの量の食べ物を食べた。
「うー……お腹一杯……」
「マシロちゃんって結構な食べるんだ。小ちゃいから少食かな〜とは思ってたけど違ったみたいだね」
「それ、ちょっと失礼じゃないですか?」
「ははは、ごめんごめん。でも良かったでしょ?」
「はい。 今日は本当にありがとうございました!」
マシロはラスクに頭を下げてお礼を言って、また二人一緒に帰路に着いた。マシロは終始ご機嫌状態だった。




