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回想 クロエとの戦闘

「どうせゴーストタウンだ。少しくらい力を出しても良いでしょ。知ってる?女の子を怒らすと怖いんだよ」


  そう言ったクロエの身体に雷の放電が一瞬だけ見えた気がした。男───ライズはそんなクロエを見て身構える。


「なら俺も本気を出させてもらうぞ!!

 "炎竜の爆炎"」


  ライズの身体に先程とは比にならない程の熱量を持った炎が纏われた。炎を纏うと同時にクロエに攻撃を仕掛ける。地を蹴ると地面が爆発を起こしライズの速度が底上げされた。

 右拳に炎を集約させた全霊のパンチをクロエの顔面に放った。クロエは反応出来ずにまともに喰らって地面に叩きつけられる。ライズは剣をおさめると地面を蹴って跳躍し、クロエに向かって飛び蹴りをした。


「……っ!」


  クロエは後ろに飛び退いてこれを回避する。熱気と衝撃波が全方位に拡散する。


「良く躱したな! 俺の一撃は重いぞ。傷が治りきってないのがその証拠だなぁ……!」


  ライズがクロエに向かって叫ぶ。ライズが言った通りクロエの傷の治りが遅かった。そのため、クロエの顔半分は腫れあがっていた。しかしクロエはさほど気にしてないのか無言だった。ライズは爆炎を吐くと一気にクロエの懐まで潜り込むと腹を思い切り蹴り上げた。


「ぐっ!!」


  小さなくぐもった声を上げ、クロエは顔を歪ませながら空高くまで飛ばされる。炎の軌跡を描きながら先回りされていたライズに背中を殴られ地面まで落とされる。凄まじい衝撃と共にクレーターが形成された。


「最後はこれで終いだ! 貴様の再生能力、恐るるに足らず!!」


  ライズは人一人分ならゆうに焼き尽くせる熱量を誇る火球を未だ身動きの取れないクロエに向かって落とした。火球は着弾すると、瞬く間に燃え広がり、辺り一帯を飲み込んだ。

 眼前に広がる火の海を一瞥しながらライズは勝ちを確信していた。この状態で生きているはずがない、と。ここを後にしようと思い足を動かそうとした瞬間だった。


「喰らえ……"インフェルノ"」


  炎の中から聞こえるはずのない声が聞こえた。最初、ライズは空耳だと思い気にせずにいた。が、信じられない事が眼下で起こった。

 炎が何かに吸い込まれるように小さな渦を巻きながら吸収されていったのだ。


「なっ……!?」


  ライズは目を疑った。何が起こっているのか分からなかった。炎が渦を巻きながら吸収される等普通ならあり得ない事が起こっていた。


「くっ……一体何が起こっているんだ!?」


  思わず、未だ吸収され続けている眼下の炎を見ながら歯軋りをする。吸収されているとはいえ未だ燃え盛っている炎の海の中で生きているとは考えられなかった。皮膚や傷口を焼かれたら普通は再生出来るはずがない。

 超高温で焼かれたら細胞が死ぬからだ。しかしライズは悪い予感しかしなかった。本能が危険信号を発している。


  逃げろ、勝てる相手じゃない、と。


  あの化け物染みた少女が生きている、そう思わずにいられなかった。もう炎は粗方吸収されていたがまだあのクロエの姿は見えない。ライズは覚悟を決めた。奴は、奴は本当の─────


「全く、不味い炎使ってるわね」


  ライズの思考を遮るようにクロエの威圧に満ちた声が殺気と共に飛んできた。


「なっ……その姿は!?」


  ライズが顔を戦慄に染めながら慄く。

 クロエの姿は、左腕が炎と完全に同化しており、炎の鎧を纏っていた。さらに行き場を無くした炎はクロエの身体の周囲を絡みつくように浮遊していた。瞳も刃のように研ぎ澄まされており今までのクロエとは完全に違っていた。


「"炎装"と"インフェルノ"、運が良いね。普段ならこの二つを同時に使う事はしないけど、特別にこれで相手をしてあげるよ」


  口角を愉悦に歪ませながらライズを見上げるその姿は新しい玩具を見つけた子供のようだった。


「あなたの炎、返すね?」


  左腕をスッと上げると勢い良くライズ目掛けて振り下ろす。同化していたと思っていたそれは高密度に圧縮された炎の高エネルギー体だった。それが槍のように凄まじい速さでライズの身体を貫かんとする。ライズは瀬戸際で瞬間移動を使い、何とか死ぬ事だけは避けた。空から地上に移動したライズはクロエの姿に冷や汗を流す。


「まさか、魔法が使えるとはな……」


「使えないなんて言ってないけど? ま、死にたくなけりゃ全力で掛かって来れば?」


  唖然としたライズを挑発するかのようにクロエが言葉を吐く。それを聞いたライズは挑発と分かっていながらも炎を全身に纏わせる。


「後悔するなよ小娘!! 死んでも知らんぞ!」


  叫ぶ。それに呼応するかの様に炎も激しさを増す。両手足に炎を集約させ地を蹴る。爆発的な加速でクロエとの距離を詰め、先程と同じ様に全霊の拳をクロエに放った。


「何っ!?」


  ライズの全身全霊の拳はクロエに片手だけで止められた。二人を中心に爆風が荒れ狂い、衝撃の余波で地面にヒビが入る。


「……これが全力? 残念ね。もうちょっと骨のある奴かと思ったんだけどなぁ」


  嘆息しながら呆れ口調で話す。そしてクロエがニッと口角を吊り上げるとクロエより身体の大きなライズに右フックを顔面にめり込ませる。フックが当たる寸前で片手を離していたので面白いように飛んでいき、ビルを貫通し、住宅を破壊して地面を抉りながらライズの動きは止まった。


「ぐおっ……っ、 がっ……」


  地面に伏した状態で苦悶の声をあげるライズ。そんなライズを前に、クロエが姿を現した。冷徹な殺気を顕著に出しながらクロエはただただライズを見下ろしていた。


「ぐっ、お前、何者……」


「……いずれ忘れ去るというのに。まぁ良いわ。教えてあげる」


  その声は今までとはどこか違っていた。

 冷徹で、底冷えするほどの冷めた声だった、


「あなたはこれから言う事をギルドの連中に伝えなさい。今頃、あなたが逃したマシロという女の子もギルドに着いているはずだから。 まず、私は再生能力をもっている。そして、不老不死の呪いを持っているのよ」


「……っ!? 不老……不死だと!?」


  ライズは驚愕に目を染め、戦慄に満ちた声をあげる。


  不老不死。老いる事もなければ死ぬ事もない身体。見る人から見れば憧れの肉体であり究極の生命とも言えた。逆に言えば死にたくても死ねない身体だ。好きな人が出来ようが生涯を誓い合った人が居ようが死ねないのだ。


  再生能力だけでも厄介なのにその上不老不死となるとどうやっても倒せるはずがなかった。内臓を吹き飛ばそうが頭を吹き飛ばそうが死ぬ事なく再生し、何事も無いようにそこに存在する。こんな馬鹿げた話は聞いた事もなかった。


「あと」


  クロエが口を開く。言い忘れていたかのような口調だった。


「私とマシロは繋がってる。私はあの子に用があるし、あの子も私に用がある。止めようとしても無駄。惹かれ合う運命なの。

 ま、今言った言葉も忘れ去る時が必ず来る。

 精々短い余生を楽しんでね」


  クロエはライズにそう言い残すと姿を消した。ライズの頭にはクロエの言葉をが妙に反響していた。


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