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中央ギルド協会

 少女がその看板を見つけたのは、十分くらい後の事だった。"中央ギルド協会"と書かれた看板が目に止まり、探していたギルドだと理解するのに数瞬を要した。


「はぁ……はっ、ふぅ……」


  乱れた息を整え、大きな建物を見上げる。ギルドというだけあってかなり大きな造りで、三階建てとなっていた。


「ふぅ……」


  息を吐いて扉に手をかける。ガランガランと音がなり扉が開かれる。少女の目に最初についたのは、三つの丸テーブルにイスが三つずつ左右にあった事だ。そして少女の目線の先には受付所だろうか、大きめのカウンターがあり中央に立っている男と目が合ってしまった。


「おや、見ない顔だね? 依頼……って訳でも無さそうだ。見た所怪我もしてるようだし、手当するから入っておいで」


「……! はい!」


  目が会うなり声をかけた男に少女は目を丸くしながらも男の言う通りに中へ入った。丸テーブルにも人が座っており、そのほとんどが埋まっていた。少女を物珍しそうに見ているのか、ジロジロと視線を感じ少女は顔を逸らしながら歩を進めた。


「さ、ここに入って」


 男に促され二階へと上がり一番手前の部屋まで来た少女。少女が先に入り、男が後から入る。バタン、と扉が閉まる音がこだまする。部屋は割とシンプルで、シングルベッドとクローゼットと少々の小物があるだけだった。

 少女はベッドに座り、男がしゃがみ込んで少女に手をかざした。優しい光が少女の全身を包み込み、みるみる内に傷が治っていった。


「はい、治ったよ。どうだい?」


「はい……バッチリです。ありがとうございます」


 男にお礼を言うと笑顔で返された。少女はそれが何故だか照れ臭かった。


「それなら良かった。あー、俺の名前教えてなかったね。俺の名前はラスク。ラスク・デーナント。よろしく」


「あ、私は……」


  少女が言いかけて言葉に詰まる。


(名前が……思い出せない!?どうして……)


  少女は名前が思い出せなかった。いや、それどころか、幼い頃の記憶や父母の顔すらも思い出す事は出来なかった。覚えている事はクロエから逃げている時からの事だけだった。

 そこから前の記憶は思い出せなかった。


 ───────マシロ


「……え?」


  声が聞こえた。耳からではなく、頭の中に直接聞こえてきたのだ。


 ───────マシロ、あなたの名前はマシロよ


  女性の声で、とても優しさに満ちた声だった。少女はこの声をどこかで聞いた事があったがやはり思い出せなかった。


「マシロ。私の名前はマシロです」


  そして頭の中で聞こえた名前をラスクに伝えた。


「マシロちゃんか。いい名前だ。……で、どうしてマシロちゃんはこのギルドへ来たんだい?」


  その言葉を聞いたマシロは少し表情を曇らせた。


「えっと、それは……」


  言うのを躊躇い、口ごもってしまう。しかし、意を決したようにマシロが口を開いた。


「実は……」


  マシロは今までの事を説明した。最初こそたどたどしかったがきちんと説明出来た。何故かわからないけどクロエに追われていた事、追い詰められたが、クロエの悲しそうな顔が目に焼き付いてしまった事、男の人が間に割って入り、クロエと戦闘を始めた事。その男の人がこのギルドに迎えと言い残した事をラスクに話した。


「そうか……。話してくれてありがとう。君の言う男の人は多分このギルドの一員だろう。この男については大体分かってるよ。三十分くらい前からゴーストタウンの見廻りに行ってるからおそらくそいつだね」


「ゴーストタウン?」


  マシロは聞きなれなかったのかラスクに聞き返した。ラスクは少し驚いた顔をしたがすぐにマシロに説明した。


「あーゴーストタウンって言うのは、人が住まなくなった街って意味だよ。ここでは魔物っていうモンスターが襲ってきて、結構な被害が出たんだけど何とか退治したんだよ。かなり荒れちゃってたから……それ以来ね……」


「……そんな事ががあったんですね」


  マシロはその言葉を聞いて心が痛くなった。上手く説明出来ないが、胸の奥が痛んだ。

 そんなマシロを見てラスクは微笑みながら口を開いた。


「マシロちゃんは優しいね。ありがとう。

 それで話を戻すけど、クロエっていう少女は君の事を知っているんだね?」


  ラスクの言葉にマシロは力無く頷く。そして弱々しく喋り始めた。


「クロエちゃんは私の知らない所まで知っているんです。私は名前だけしか知らないのに、クロエちゃんは何でも知ってるようでした」


「……」


  ラスクはマシロの言葉に相槌を打つ事なく、何やら考えているようだった。マシロはそれを気にせずに話を続けた。


「クロエちゃんは私に力があるって言ってました。けど、私にはその力が何なのか分からないです。だからクロエちゃんに会って話がしたいです」


「力……か。興味深いな」


「え?」


  マシロはラスクの言葉に首を傾げる。それに気付いたラスクは首を横に振った。


「ん……ああ、こっちの話だよ。しかし、あの『炎竜の竜騎士』相手に生きてるかどうか、だね」


  ラスクが真剣な面持ちで言ってくる。『炎竜の竜騎士』とはクロエと戦っている男の事だろう。それはマシロでも分かった。が、ラスクの口ぶりを見るにこのギルドの中でも屈指の実力者だろうと予測出来る。

 マシロの顔が不安に染まっていった。


(クロエちゃん……)


  両手を握りしめ、目を固く閉じる。マシロの事や力に関してのほとんどの事を知ってるであろう少女、マシロにだけ見せたあの悲しみに満ちた表情が頭から離れなかった。


「ごめんごめん。なんか暗くさせちゃったかな?でも女の子相手なら分からないかな。兎に角、あいつの帰りを待つしかないな」


  そんな不安そうな顔しないでよ、と付け加えてラスクが立とうとした時だった。下の階がざわめき出した。


「……何かあったな。マシロちゃんはどうする?付いてくる?」


  すぐに異常を察知したラスクはスッと立ち上がり、扉に手をかけた所でマシロに声を掛けた。


「はい!」


  マシロもそれに即答し、二人一緒に部屋を後にした。下に降りると血の匂いが鼻を突いた。マシロはそれに耐えられず服で口元を覆った。


「ま、マスター!!早く来てください……!もう粗方治療は済ませましたがあの『炎竜の竜騎士』が血塗れになって帰って来ました!!」


  ラスクの姿を見るとすぐに飛んできた男が戦慄した様子で慌てふためいてラスクに説明した。


「何だとっ!?」


  ラスクも驚きを隠せなかったのか目を丸くした。その場所まで男が案内すると言い、ラスクとマシロもそれに続いた。すぐに人が集まってる所が目に入り、ラスクが人を退かしながらその中心までたどり着くと、一人の男が身体中に包帯を巻きながら座っていた。


「お前ともあろう者が何があった?」


「ラスクか……。すまねーな。ちょっとした化け物を相手にしてな。このザマだ」


  ラスクが声を掛けると男は自嘲気味に言葉を放った。それを聞くとラスクは息を飲む。


「お前がそこまでボロボロになった姿を見るのは初めてだ」


「はっ、しゃーねーだろ。あんなん化け物以外の何者でもねー。あれは……ん? 君は……」


  男が途中でマシロに気付き、マシロの事を見てきた。


「あ、マシロと言います。よろしくお願いします。……ここまで辿り着けたのはあなたのおかげです」


  マシロは自分の名前を言うと頭を下げた。そんなマシロを見て男は意味深な発言をした。


「いや、よしてくれ。しかし、まさかあの女が言っていたマシロというのが君だったとは……」


「え……?」


  マシロは男の言ってる意味が分からなかった。が、ラスクが口を開いた。


「その前に何があったか説明してくれないか?ライズ……」


  ラスクが包帯だらけの男、ライズに言葉をかける。ライズはしばらく口を閉じていたがゆっくりと語り始めた。


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